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サ.湖面に輝く澄んだ青

群馬県館林市。

羽を広げた鶴の形とも称される群馬県の南端付近、即ち細長い頭の部分に位置し、
栃木県と埼玉県とに挟まれた人口約8万人の、全国に数多ある地方の小都市。

県を跨ぎながらも僕の地元でもある栃木県足利市の隣り街として馴染みがある
ばかりでなく、僕が追いかけてきたカフェパンブロガーのCindyが密かに残した
もう一つの物語、Arnold日記の語り手のWilliamと名乗る人物の住所としても
僕にとって他の近隣の街とは一線を画する非常に印象深い街でもあった。


昨年末に訪れた華麗な花の模様に彩られたマイセンのカップやソーサーに
囲まれた喫茶店、“えんや”の紹介は記憶にも新しいところではあるが、
あのリストの店という事を差し引いても、この隣りの県の隣りの街は、
再び訪れてみたくなる非常に魅力に溢れた街なのだ・・・だって・・・


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ロウバイ(蝋梅)


館林市役所の向かい側に広がる一面の芝生は、嘗ての工場か何かの跡地であったが、
現在では気持ちの良い空間として市民のみならず訪れる方の憩いの場所となっていた。
広場と道路とを隔てるようにロウバイの木が植えてあり早くも黄色い花を咲かせていた。

近付くと辺り一面に広がってゆくロウバイの芳しい香り。思わずうっとりした気分になる。
更に、この蝋細工を溶かしたようなうっすら艶めく淡いレモンイエローの花弁といったら・・・

可憐な花弁と芳香に、暫くの間僕はその場に立ち尽くし魅せられていた事を付け加えておこう。
さて、この広場と女子高に挟まれた道路を進むと、宇宙飛行士の向井千秋さんの業績を称える
記念子ども科学館と館林出身の文豪、田山花袋の記念文学館が建っている三叉路にぶつかる。
その角を折れ、市の中心に大きく横たわる細長い城沼に沿って更に数分のドライブを続けていく。

そして、長芋にも似た城沼の、端から半分を過ぎただろうかという頃に、目的地が見えてくる。


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沼の畔に沿って遊歩道が走り、僕が訪れた時は朝の散歩やジョギングをする人が行き交っていた。

沼岸の枯れた芝生や葉を落とし切った木々を見ていると何処と無く冬の寂しさすら感じてしまうが、
並木道に植えられているのは桜の木、2ヶ月後には黄緑の芝生と淡いピンクで覆われる事だろう。


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桜の木に近付いてみると黒々とした幹から伸びた細い枝の先には沢山の蕾が付いており、
その小さな蕾たちは、みんな綻び出すのを今か今かと待ち詫びているようにも見えるのだった。

この日は冬晴れの非常に良い天気で、まるで吸い込まれそうな澄み切った空が印象的だった。
薄い雲を従えたその綺麗な空の青に全く引けを取らない澄んだ青が、目の前にも広がっていた。


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群馬県内で湖や沼と言えば、如何しても山間のダム湖やカルデラによる湖沼を連想してしまうが、
平野部の、しかも市の中心付近に於いてこんなに立派な水辺の風景に接する事が出来るなんて・・・


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1月の冷たい風に揺られてゆったりと漂う水面のさざ波は、遅い朝日に反射して
まるで照明に当てられた宝石のように白銀の眩い光をキラキラと輝かせていた。

更にその情景は日が昇るにつれて刻一刻と変化し、絶えず新鮮な輝きを見せていた。
向こう岸の黒々とした木々を境界線として、白から青への淡く微妙なグラデーションが
上下に広がってゆき、日差しの変化と共にその色合いも滲むように変わっていった。

まさに、モネの描く印象絵画を直に見ているような錯覚さえ覚えたのだが、
僕が今から訪れる場所こそ、この風景をコーヒーと共に楽しめる場所なのだ。


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Bakery & Cafe Niwa


湖畔にそって並んだ建物の中でもひと際目に付く一軒の白い家の前で僕は足を止めた。
城沼の畔の遊歩道を隔てて一段高くなった場所に、あたかも湖畔に迫り出したような
大きなウッドデッキを備えたグレーの切妻屋根と真っ白なサイディングの一軒家。

まるで富士五湖や中禅寺湖にでも訪れたような、とても印象的な湖畔のロッジが
直ぐ近くにあるなんて・・・それにしてもホワイトとブラウンのコントラストが美しい・・・


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見渡す限り真冬の風景だったけれど・・・まだまだ枯れる訳にはいかないんだ!

なぁ、そうだろう?・・・キミたちも・・・そして、僕自身も・・・


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ローズマリー

「ロ」のイニシャルの花として紹介してから彼是半年が過ぎ、新しい年も迎えた。
あの時はCindyに近付きたいという思い、唯それだけで闇雲に突っ走っていたっけ。
勿論、今こうして花を紹介し続けているのも、それ以外の何物でも無いのは事実だ。
だけど、この半年の間にElvis Cafeを通じて様々な事を経験してきたよなぁ・・・

心地良い冬晴れの下、時折り吹く肌寒い水辺の風に揺られる2番目のイニシャルとの
久しぶりの再会を、そしてあの時は見る事が出来なかった薄紫色の小さな花弁を
のんびりと愉しみながら、忘れる事の無いこの半年間を改めて思い出していた。


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湖畔に向けて大きくとられたウッドデッキの入口では、2台の自転車が寛いでいた。
自転車が趣味の店主の店ならではの光景だが、湖畔に沿って目の前に伸びる
この遊歩道で思いっ切りペダルを漕いだらどんなに爽快な気分だろうか。

そう言えば、Cindyも自身の日記でそのような試みをしていたっけ・・・


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外からも窺う事の出来る入口右手の焙煎室と、その手前の棚に並んだ珈琲豆の入った瓶。
とりわけ大きな看板は無くても、此方がコーヒーの専門店である事を十分に物語っていた。


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ホワイトウッドに囲まれた明るくて清潔な印象のカフェテラスは勿論、湖面に向かって
一面ガラス張りとなっていて、それに沿って細長いテーブルが括りつけられていた。
どの席に着いても目の前の城沼の風景を一望する事が出来る贅沢な間取りだ。
更に外から差し込んでくる陽光が店内を明るく、そして暖かく迎えてくれていた。

コーヒー専門店らしく数あるコーヒー豆と煎り方挽き方による味や香りの違いは、
一見迷ってしまいそうだったが、丁寧に書かれた分りやすいメニューは勿論の事、
親切な店主から直接好みを相談する事が出来、好みの一杯を選ぶ事ができるのだ。


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ブラジル(シティロースト)


艶やかで微かに赤味を帯びた深い琥珀色の表面から細かい粒子のような湯気が立ち上っていた。

世界一のコーヒーの産地ブラジルでも優良の豆が栽培される事で名高いセラード地区。
標高1000メートルを超えるという同地区のシーマ農園で昨年摘まれた新鮮なコーヒー豆を
深くなり過ぎない程度に焙煎し、店主自らドリップした一杯の拘りは、何と言ってもフレッシュ感。

さっぱりとした飲み口から広がってくるロースト感は確かにすっきりとして非常に飲み易い!
焙煎の具合だけでないマイルドな苦みながら酸味も控え目で、まろやかな甘みが心地良い。
後から仄かな苦味が広がってくるが、スルスルと飲めるのはやはり豆の新鮮さ所以だろうか?

一緒にオーダーしたトライフルのふんわりした甘さとまろやかさにも非常に良くマッチしていた。



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トライフル


苺のトゲトゲを背中に付けた、ハリネズミみたいな可愛い可愛い“お誕生日ケーキ”のトライフル。
来た瞬間から三角形のシャープなキミの体を覆った真っ赤なトゲトゲに僕の目は釘付けだよ!

ほんのり卵風味のスポンジは、仄かな甘さとふわふわの食感に優しい口溶け・・・全てが申し分無い。

そのスポンジにサンドされているのは、ぽってりとして滑らかな舌触りのふんわり甘いカスタード。
表面にたっぷりと塗られただけでなく、2段になったスポンジの間にもたっぷりと盛りつけられ、
更にそのカスタードクリームの中には例の“ハリネズミの苺ちゃん”がかくれんぼしていた。

見た目も可愛らしい爽やかな甘酸っぱい苺とカスタードの相性は・・・言うまでも無い、か・・・


ポカポカ陽気の窓際の席で、ひと口食べる毎に一足早い春の訪れを感じさせてくれるのだった。


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ベーグル


Niwaの魅力は目の前に広がる水辺の景色を眺めながら本格コーヒーを楽しむだけに非ず。
その証拠に控え目ながら店の入口に掲げられた看板には“Bakery & Cafe”と書かれていた。
先日僕が訪れていた時間内にも、入って直ぐのショーケースに並んだ焼き立てのパンを目当てに
お年寄りから若者たちまで入れ替わりでやって来た。で、僕も勿論その美味しそうなパンを購入した。

先ず選んだのがベーグルだった。見るからに張り裂けそうなつるんとした艶やかな焼き色。
ひと口噛んでみると、その薄い皮が香ばしい風味と共に口の中で吸い付いてくるのだ。

その薄皮がパリンと弾けたかと思うと、中にはもっちりとした生地がギュッと詰まっている。
ムギュムギュとした食感は、やがて小麦の仄かな甘さに変わって、溶けてゆくのだ・・・


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くるみパン


まるで地球に衝突した隕石のような、はたまた噴火した直後の火山のような、
張り裂けた表面の皮の、ゴツゴツでバリバリとした食感のほど良く焦げた香ばしさ。

真っ二つにカットすると断面からは胡桃のまろやかな薫りがふんわりと漂ってくる。
表面のゴツゴツ感が嘘のように、中の生地はふんわり柔らかで口溶けも最高だ。
しかも、万遍なく散りばめられた胡桃のムギュッとした食感と香ばしさは・・・

シンプルな胡桃の丸いパンなのに、何時までも忘れられない僕のスタンダード・・・


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「サイネリア」


カフェのテーブルで僕の目の前に広がった冬晴れの空の青と大きな湖面の澄み切った青。
二つの美しい青色にすっかり魅せられた僕は是非「サ」のイニシャルでも紹介したかったのだ。

そもそも青い花って、何とも不思議な、何処かミステリアスな魅力すら感じてしまう。

じっと眺めていると段々惹き込まれて、何処までも深く入ってしまいそうな気がして・・・
果てしなく広がる深遠な大空のブルーに、湖面に輝く澄み切った水のブルー・・・

そして、その深みに一度魅了されてしまったら後は先に進むしか・・・
そう、最後のイニシャルまでもう後戻りの出来ない今の僕みたいに・・・


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by mary-joanna | 2010-02-01 14:13 | 浅き夢見じ
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