ダヴィッドさんに元気を分けて貰った7月初旬から中旬にかけて、
ハンゲショウの他にもう一つ僕の心を大きくときめかせた花があった。 それは、僕が栃木県に住んでいる人間だから? それとも、この時期にしか会う事のできない花だから? そのどちらも当たっていると思うけど、視界を覆う様に広がる 一面の緑の傾斜に咲き誇る仄かに淡く黄色い花弁の可憐な花々。 本や写真で見たあの印象的な光景が忘れられなかったのかも知れない。 今回の“お花ツアー”の計画には、何と僕の家族も同行してくれる事になった。 計画していた12日がたまたま日曜日で、しかも僕の誕生日という事もあったが、 これまで行った数回のツアーでは“元祖Cindy”ばりの計画を打ち明けた段階で 却下される憂き目に会って来たのに対し、今回に関しては場所と目的の両方とも 家族(両親と4歳年上の姉の3人)の関心を引いてくれる結果になったのだった。 そしてツアー当日、普段車で移動している僕が選んだ交通手段は・・・ たまには車窓からの景色をぼんやりと眺め、家族と語らいながら 期待に胸を膨らませてのんびり旅をするのもいいんじゃないかなぁ? 自然と歴史の玄関口でもある東武日光駅の直ぐ隣りに目を向けると・・・ ・・・交通手段を問わず、日光を訪れた際に僕が常に立ち寄る店がある。 嘗てこの日光が西洋人の避暑地としてその名を馳せていた明治の頃に 建てられたアメリカ人貿易商の別荘を改築した有形文化財の建物をはじめ、 市内は勿論、栃木県内、いや、全国の数多くのファンをも唸らせるレストラン。 そのレストランで饗されるスイーツのテイクアウトショップ&カフェが、 東武日光駅の傍に店舗を構えているのだ。 和と洋の、更には歴史と文化の貴重な遺産でもあるメインダイニングを イメージしたその内外装には、同店のプライドや拘りが随所に感じられた。 結局彼の日記には登場しなかったけれど、本当は気になっていたんじゃない? 此方のお店でスイーツを購入したのは実は帰りの事であって、 駅に降り立った僕ら一行は目的の地に向かう為に更なる移動手段に・・・ そう、霧降高原行きのバスへと乗り換えたのだった。 バスに揺られる事、数十分。 辺りはすっかり山の景色へと様変わりしていた。 僕の今回の一番の目的は何と言っても此の地がその名の由来にも なっているあの花の群生をその目に焼き付けたいというものであったが、 その場所に近づくにつれて一抹の不安も無い訳では無かったのだ・・・ この日12日は、毎年開かれているこの花のキャンペーン最終日でもあり、 まさにお花畑と呼ぶに相応しいピーク日からは一週間以上過ぎているとの事。 更にこの日は下界の天気も思わしくなかった為、僕が期待していた あの光景を見る事ができなかったとしたら・・・それにこの花のイニシャルは・・・ どうやら到着したみたいだ。 バスの停留所から道路を挟んだ反対の場所にある第1リフトに乗り、 やや急にも感じられたスロープをゆっくりと上がった僕らの眼前に広がるのは・・・ 霧降高原キスゲ平 標高約1600mの小丸山の斜面に群生する黄色い花々。 その花たちを眼下に、優雅な空中散歩を楽しめる手段は・・・ こうしてみるとやはりピーク時の一面に広がる黄色の絨毯とまでは いかないながらも、此処までやって来た甲斐は十分にあった。 3つのリフトを乗り継ぎ一番上まで行ってみたが、一番てっぺんは 7月中旬とは思えない肌寒さで、長袖のシャツの上から両方の腕を さすりながらこの花の繊細さを自らの肌で感じる思いだった。 場所によっては黄色い印象絵画を連想させる風景もあり、 その幻想的な光景に思見惚れると言っても過言でなかった。 そして今回の主人公こそ、この黄色い花・・・ 「ニッコウキスゲ」 栃木県に住んでいる僕が今回の試みを始めるにあたって 必ず実現させてみたいと思っていた計画の一つでもある・・・ 地元栃木県の地名に因んだ植物の紹介。 そして、その願いは4回目にして早くも達成されたのだ! 花弁の表面のほんのり艶やかな肌にうっすらとのった淡いイエロー。 その一枚一枚が、まるで星の様に緩やかな弧を描きながら広がっていく。 星の中心に見える6つの葯が大きく開いた黄色い花弁の波の上で、 優雅に漂っている様にも、必死で彷徨っている様にも感じられた。 清楚な印象を保ちながらギリギリのラインで艶かしさすら感じる質感は、 これまで本や写真、パソコンの画面でしか見た事の無い僕にとって ちょっとした・・・いや、十分にカルチャーショックを覚えたものだ。 あっ、また君と出会えるなんて・・・ 少し前までは君の姿をちらっと見ただけで恐れを為して逃げ回っていたのにね。 場所の名称からニッコウキスゲばかりに目がいってしまいそうだが、 標高1000mを優に超える高原ではこの時期様々な草花が楽しめるのだ。 しかも、栃木の地名を冠する植物はニッコウキスゲだけでは無かった。 栃木県に多く生息する事からその旧名が与えられたらしいが、 花弁の中心にゆくにつれて徐々に濃い紅色に染まる非常に小さな花が 鋸歯状の葉をふんわりと覆い、やわらかに染め上げているのが印象的だった。 まるで雪の結晶を散りばめたミニ・クリスマスツリーを見ている様な、 可愛らしい小さな白い花は初夏の高原に更なる清涼感をもたらしてくれた。 その科名からも何処かロマンチックな“雪”の情景を連想してしまう・・・ ヨツバヒヨドリソウだろうか? 真っ直ぐに伸びた小豆色の茎のてっぺんに、四肢に広がる鋭い若葉に囲まれた この花特有の小さな筒状花の蕾がまるで宝石の台座に守られた薄ピンク色の ジュエリーの様であったが、同時に“チュッパチャップス”にも見えてしまうのは、 僕も彼のブログに影響され過ぎた証拠なのだろうか・・・ 両方とも同じくらい可愛らしい例えだと思ってしまうのだが・・・ で、存在感のある此方の花に至っては、同じ“花”でも・・・“カリフラワー”!! 閑話休題・・・ これだけの花なので恐らく辺り一帯に振り撒く芳香もまた格別だったのだろう。 この花のたっぷりの蜜を求めて虫たちが引っ切り無しに飛び回っていた。 ユリの花が一輪、草むらの中で凛とした佇まいを見せていた。 透き通る様なオレンジ色の非常にシャープなフォルムは、 まだ若さを感じさせながらも何処か風格すら漂わせていた。 燃える様な情熱的な外観と熟し切っていないフレッシュな感覚、 それでいて何となく冷静で冷めた様にも見える一輪のユリの花に、 僕はすっかり魅了され、家族に促されるまでその場を離れなかった。 小さな小さな白い花はお行儀良く列を成し、四方八方へと広がってゆく。 まるで、一瞬の流れ星の細い軌跡を時間を止めて見ているかの様に・・・ ウットリと眺めていると、これはヤマブキショウマだよって教えて頂いた。 高原の天気は変わり易い。しかも、霧降と名の付くこの地なら尚更の事。 ポツポツと降り出した雨を潮時に、僕ら一行は下山する事にした。 で、勿論先に紹介したお店に寄ったのは言うまでも無い。 「カボチャのプリン」 チーズケーキが有名な此方のスイーツだけど、僕のお気に入りはこれ。 大き目の真っ白な陶器の器にたっぷり入った綺麗な山吹色と 清涼感溢れる爽やかなシナモンの香りは・・・ 今日出会ったニッコウキスゲと高原の空気を思い出すよ! 丹念にカボチャを裏漉しして作り上げた様なぽってりとした舌触り、 そんなピュアな滑らかさの中から感じる自然なカボチャの甘み、香り。 そして素朴な風合いの、一番最後に漸く登場してくるクリーミーさは、 シンプルでノスタルジックな雰囲気に満ちていながらも、他の店では 決して味わう事のできないこの店ならではの個性も存分に感じられる。 重厚な歴史の中にオリジナリティーを忍ばせるなんて・・・ まるでこのレストランそのものが凝縮されているじゃあ無いかい? 更に「フィナンシェ」や「ヌガー」に・・・ コロコロっとした「スコーン」もお土産に購入して、 少しずつこの一日を思い出しながら頂く事にしようかな? そう、あの緑の中に可憐に揺れる黄色い花弁の事を・・・ まだ4話目ではあったのだが、最近めっきりと減ったコメント欄の数字が 一つ増えている事に気付いた僕は、特に何を期待する事無く開いてみた・・・ そして・・・言葉を失ってしまったのだった・・・ だって、そのコメントの主は・・・Edgerと名乗っていたのだから!!
by mary-joanna
| 2009-08-04 02:23
| 色は匂へど
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