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ツ.甘いリハビリ

共通のテーマのブログを綴る者たちにとって、恐らく“オフ会”という言葉は、
何処かワクワクした気持ちに誘われる魅力的な響きに聞こえそうだが・・・

先日パピヨンと過ごした夜の公園での数分間は凡そ“オフ会”とは
似ても似つかない、まるで鋭利な刃物を突きつけられた様な
ヒリヒリした極度の緊張感と暗闇に向かって突き進む様な
ビクビクした不安感を併せ持った緊迫した会合だった。


そんな緊張や不安で迷ったり後ろ向きになったりした時、決まって訪れる場所がある。
Elvis Cafe全編を通じて紹介していきたかった、僕にとってのヒーリングスポット。
様々なマイナスの感覚を優しく解き解し穏やかで大らかな気持ちにしてくれる。
視界いっぱいに広がる雄大な自然の光景を見ていると何だかとっても・・・


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先日訪れたばかりなのに、またこの地に癒しを求めてやって来たのだ。
この前、9月にに紹介した際には黄金色にたなびいていたヨシ原も、
秋の深まりと共にちらほらと白銀の毛並みへと変化してゆく。

此処から見える景色が真っ白に変わる頃、遊水地の植物たちは
長い冬の眠りを迎え、そして躍動する春を夢見て眠りに就く。


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第3調整池からこの川を渡った僕は、更に先に見える土手の方に向かった。

この季節になってもジャングルの様に茂る川沿いを歩きながら、
広大な遊水地が見せる様々な側面に改めて感嘆していた。


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遊水地のシンボルでもあるヨシやオギは、他の花々の様な華やかさは無いものの、
一年を通じて様々な表情を見せてくれ、今まで考えた事も無かった楽しみを与えてくれた。

だが、そんなヨシ原に年々忍び寄る黄色い一団があったのだ・・・


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セイタカアワダチソウ


土手や草むらばかりでなく、何と道路の端や中央分離帯などでも
その存在を強烈にアピールし続ける、戦後に広まったとされる帰化植物。

そう言えば少し前からブラックバスやカメなどの帰化が日本固有の生態系に
深刻で多大な影響を与えているというニュースはよく耳にしていたけれど・・・

このブログを始めるまでは綺麗な黄色い秋の花で済ませてしまったかも知れないね・・・
それにしても、空の水色と淡いイエローのコントラストは確かに綺麗なんだけどね・・・


第3調整池の土手に戻って来た僕は、お楽しみの植物探しを始める事にした。
全てのモヤモヤを忘れて心からピュアな気持ちでいられる貴重なひと時。
10月も終わり、流石に土手の植物も少なくなったかなと思う間も無く・・・


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早速見つけた!・・・毛むくじゃらのお星様に・・・


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ホトケノザ


あれっ・・・キミは確か春に咲く花じゃなかったっけ?・・・
そうか、来年の春が待ち切れなくてひょっこり咲き出したんだね。


流石に春や夏に比べれば控え目になったのかも知れないけれど、
四季を通じてこの場所では可愛らしい発見が僕を待っていてくれていた。

さて、場所を広場ゾーンに移してサイクリングロード付近を散歩してみよう。


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史跡保全ゾーン


ヨシ原とはまた違った開放感でいっぱいの気持ちの良い広場は、
この一帯が何時訪れてもゆったりと時が流れているようで・・・


この日は旧谷中村役場跡の周辺から明るく賑やかな声が聞こえた。
どうやら地元の小学生が植物や昆虫、野鳥などの観察に来ていたのだ。

この地の植物や昆虫もビックリしているんじゃないかな?
いやいや、きっと彼らも元気な訪問者たちを歓迎しているよ!!

だって、ほら!


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イヌタデ


第1回目の主人公のキミたちだって、さわさわと風に揺られながら
その細長い赤い手をみんなで一斉に振って歓迎していたしね。

あの時は寂しそうにぽつんと独りで立っていたけど、
やっぱり沢山の友達と一緒の方が楽しいよね。


そう、独りっきりは・・・寂しいよね・・・


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「ツメクサ(ムラサキツメクサ)」


 これは・・・Arnold日記に出てくる店のリストじゃないかっ!!

 あの話は・・・Cindyが考え出した全くのフィクションなんだろう・・・
 それなのに、この前の青年といい・・・そしてキミといい・・・
 キミたちは本当に何者だっていうんだよ・・・

 そして・・・僕にどうしろていうんだ・・・



彼等から貰った初めてのメール、夏の日の丸の内での青年と過ごした時間、
その後の2ヶ月に及ぶ沈黙、そしてこのタイミングでの呼び出しのメール・・・

あの紙を見せられた瞬間、それまで僕の心の内で燻っていたもやもやを
一気に吐き出そうと僕自身珍しく冷静さを失って全く初対面の女性に
(例のグループの一員だったとはいえ)食って掛かってしまった。

しかし、彼女はそんな僕の態度を予め想定していたかの様に冷静だった。
あくまで(核心は秘密のままでの)グループ側の主張と取引の手順を
まるでインストラクターが説明するかの様に淡々と伝えていた。

そんな中で唯一漏らしていたのが、あの青年に対する愚痴だったのだ。


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そう言えばこの「ツメクサ」、先のイヌタデと同様にElvis Cafeの記念すべき第1回目の、
しかも一番初めに紹介した花として載せていたなぁ・・・あの時はこんな展開になるなんて
夢にも思っていなかったから、とても無邪気に、そして希望に満ちた眼差しで見ていたっけ・・・

このふんわり丸く広がった淡い紫色のちっちゃな手鞠は、あの時と全く変わっていないのに・・・



センチメンタルな女々しい奴だと笑われてしまっても仕方の無い事だが、
この時の僕には、これからElvis Cafeを続ける為に・・・リハビリが必要だった。

そして、今の僕に必要なリハビリとは・・・甘くとろける様な・・・極上のスイーツだった!!


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そんな僕を和ませてくれるスイーツを求めてやって来たのは、
意外にも渡良瀬遊水地からほど近い、茨城県古河市の郊外だった。

市街地から外れ、辺りには田んぼや畑も多く見られる道路沿いに
ややもすると見逃してしまいそうな若干控えめな二つの看板。

その看板の脇に続く砂利道を進むと木立に囲まれた一軒家が姿を現す。
それにしても、真っ赤に咲き乱れたサルビアの綺麗な事といったら・・・


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Kuchen Backen


彼、Cindyの日記が突然の終焉を迎える直前にリリースされた、
眩いばかりのルージュとブルーの共演には本当に驚嘆させられたっけ・・・

どうしてもあの輝きを僕も体験したくなって此処にやって来たんだよ。


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サルビア・ミクロフィラ・ホットリップス


印象的な看板の側にある植え込みには、紅白2色のふんわりした花弁が、
まるで緑の水辺をひらひらと泳ぐ金魚の様に、可愛らしい姿で出迎えてくれた。

それにしても、此処はお花畑と見紛うばかりにカラフルな草花で覆われていた。
そして、草花の他にも秋の訪れを目で楽しませてくれるモノに出会った。


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ガマズミ


鮮やかな赤い実を枝先いっぱいに付けて、これまで目にした花にも
決して勝るとも劣らない、非常に色鮮やかな姿を披露していた。

僕が尊敬しているブログの先輩(彼では無い!)で、毎年この時期に
ガマズミの実を酒に漬けて楽しまれる方がいらっしゃるのだが・・・

もう今年もそんな時期になったんだよなぁ・・・


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花と緑のスローブを進むと直ぐに此方の白い扉の前に辿り着く。

建物のシンプルな外壁から浮き出した様なメルヘンチックな白いドア。
まるでホワイトの板チョコに金色の飴細工でデコレーションを施したみたい。


此処は夢のお菓子の工房・・・そんな魅惑の世界への入り口にぴったりじゃないか!!


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真っ白な扉を開けると、中には正面のショーケースが置かれただけの小さな店内。
でも、ショーケースの蛍光灯に照らされキラキラと輝いているプチガトーの数々といったら・・・

清楚な純白やほんのりココア色のクリームでお化粧された麗しい身体に
赤や黄色やオレンジと、新鮮な旬のフルーツのアクセサリーを大胆に身に纏い、
スポットライトの下でアナタが訪れるのを静かに待っているキミたちを見て僕はもう・・・

そうさ、このスイーツの秋のファッションショーに唯ウットリと眺めているばかりだったのさ。


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彼の日記で気になっていた“赤と青の宝石”は、既にこの宝石箱には無かったけれど、
その代わり、僕の目の前には“今しか”味わう事の出来ない特別限定のガトーが並んでいた。

その中でも、僕が特に気になったのが・・・


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・・・この、いちじくのタルトだった。


更に、秋ならではの限定スイーツも購入して大満足の僕ではあったが、
もう一つ、この店で是非ともしてみたい事があり、店の方に相談してみた。

彼の日記で紹介されていた雨模様とは異なり、この日は穏やかな一日だった。
そこで、店の方にお願いをして、目の前にある庭園のテラスをお借りする事にした。


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庭の真ん中に置かれた周りの草木とお揃いの、ダークグリーンのアイアンテーブル。
そのテーブルを優しく包み込む様にぐるりと囲んだ植え込みや木々の隙間からは、
刈入れを終えた田んぼの風景が広がり、更に遠くの森林をも眺める事が出来た。

この素敵なテラスで僕がしてみたかった事とは・・・


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そう、是非とも此処でスイーツを撮影してみたかったんだよ!


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お店で収穫した柿のシフォンケーキ


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いちじくのタルト


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秋の穏やかな緑の中に囲まれて非常に心地の好い、安らいだひと時。

このままのんびりとした雰囲気のブログを綴っていきたいのに・・・
Elvis Cafeは、そんなまったりとした雰囲気になる筈なのに・・・


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お店で収穫した柿のシフォンケーキ


ケーキの上面を覆い尽くさんばかりに盛りつけられた麗しく輝くオレンジ色に
一瞬で目が釘付けになる事間違い無しの、存在感抜群の角切りの次郎柿・・・

その艶やかに潤んだビジュアルも然る事ながら、一口含んだ瞬間に広がる
ねっとりとした食感と瑞々しさ、芳醇な柿の風味とくせの無い自然な甘み。
更に柿本来の美味しさを最大限に引き出しながらもリッチな味わいの
ホイップクリームと卵の優しさに包まれたふんわりシフォンケーキ。


柿を洋菓子に持ってくる発想自体が非常にユニークなのに、
この小さなガトーにこれほどまでの完成度を湛えるなんて・・・

彼の絶賛する理由をその舌で体感したのだった。


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いちじくのタルト


そして、ショーケースで僕が一番気になったのがこのタルトだった。

彼の紹介でもあった通り、フルーツをはじめ全ての食材にとことん拘る姿勢は、
勿論の事ながら最も旬の時期の最も旬の産地の果物だけを厳選して使用するとの事。
そして、それが叶わない場合は決して店頭に並ばないという非常にストイックなまでの姿勢。

今回のいちじくも例外無く、最高品質を求めてこの愛知産の品種に辿り着いたという。


波打つ真っ白なクリームのラインが何時しか紅のスパイラルに広がっていく・・・

柿の時も感じた事だが、この表面のワインレッドに潤んだ輝きを見ていると、
彼が表現していた様にまるでガーネットをスライスしているみたいで・・・
本当に、何時まででも眺めていたい衝動に駆られてしまうよ。


お菓子を食べるのにこんなにも意を決する必要があったなんて、
今まで考えてもみなかったけれど・・・僕はこの作品にフォークを刺した・・・

旬の果物の爽やかなジューシーさは直ぐに濃厚な甘みへと変わっていき、
とろりとした食感と共に舌先を滑り落ちる滑らかさの後に残るいちじくの余韻に
ミルキーなクリームとさっくりとしたタルトが更にいちじくの美味しさを引き立てる。

彼では無いが、本物の宝石にはこの贅沢は決して体験できないのだ。


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北海道産完熟かぼちゃのほくほくプリン


 トリック・オア・トリート!!
 お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ!!



まるでそんな風に問いかけながら無邪気な笑みを浮かべるカボチャくんに
僕は思い切って手を伸ばしてみたんだよ・・・逆に僕がオマエを食べちゃうぞ~!!


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一面真っ白に覆われたクリームをスプーンですくってみると・・・

イタズラしようとこっそり隠れていた山吹色のカボチャのお化けがた~っぷり!!


ほっこりぽてっとした食感の裏漉ししたかぼちゃのペーストを
そのままカップいっぱいに詰めた様な、自然のかぼちゃそのもの!
こっくりとした滑らかさと濃厚なかぼちゃの風味と甘さが一つになって、
かぼちゃをそのまま頂く以上にかぼちゃを味わっている様な、しかしながら、
決して普通のかぼちゃでは感じる事の出来ない非常に類い稀なかぼちゃプリン・・・

最高のハロウィンのお土産に、すっかり楽しませてもらったよ・・・カボチャくん!!


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 この中の幾つかでいいのよ。そう、全部って訳じゃ無いのよ。
 それに、littleさん、アナタだって気になってるでしょう・・・
 彼があのブログで紹介したお店なのですから・・・

 このリストの一軒一軒が、彼の心に楔を打ち込んで・・・きっと彼は・・・



期限は特に決まっていないし、彼の紹介した順序を遵守する必要も無い。

ルールは唯一つ。このリストにある店を・・・
そう、CindyがArnold日記で紹介した店を・・・
僕のブログ・・・Elvis Cafeに載せるというものなのだ。

・・・もう「ツ」まで紹介してしまったこのブログに・・・
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by mary-joanna | 2009-10-30 00:48 | 常ならん

ソ.Noir(ノワール)の密約

10月も半ばを過ぎると日が沈むのもめっきり早くなり、何時の間に暗くなっていたのかと、
基本的にこの時間帯は屋内で仕事をしている僕にとって驚いてしまう事もしばしばであった。
でも、今日は違う。まるで火事の終焉を連想させる様な真っ赤な夕焼けを背にしながら、
群青色と漆黒のグラデーションに染まる目の前の暗闇に向かって愛車を走らせる。
何時しか僕の後ろで鈍く輝いていたワインレッドの夕日も闇に溶け込んでいき、
段々長さを増し刻一刻と昼間を飲み込んでいく夜の帳を迎えようとしていた。

そんな、当然ではあるが毎日欠かさず行われるこの自然が織り成す儀式を・・・
いや、そんなに大袈裟に表現するつもりは無いのだけれど、車の中でも
はっきりと感じ取る事の出来る、日が暮れ夜の訪れを迎える瞬間を
久しぶりに目の当たりにして、感慨に耽っていたのかも知れない。

そう、この数ヶ月、すっかり欠かせない存在となった相棒の愛車の中で・・・
その間も車は休む事無く、この県南を貫く国道をひたすら東に向かって走っていた。


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そんな事をぼんやり考えながらも彼是一時間位は国道を走っただろうか。

国道を下りて小山の市街地に向かう頃には日もすっかり暮れ落ちて、
辺りはまるで淹れ立てのブラックのコーヒーを急冷して浸した様に
ひんやりした感触の澄み切ったダークな大気に包まれていた。
尤も僕にとっては・・・ビターなチョコレートを連想させたが・・・

駅の方に向かって暫く進むと、思川に架かる大きな橋を渡る事になる。
遠くに映える日光連山に想いをはせて名付けられたロマンチックな橋だが、
今の僕にとっては、闇の世界へと通じる境界線となっていたのかも知れない。
そう、忘れかけていた・・・でも、決して忘れる事の出来ない、あの闇の世界への・・・

この橋を渡り切った直ぐの場所に位置する、城山公園の入り口付近に車を停める。


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通りには街灯や店の照明が煌々と灯り、街はすっかり夜の顔に変わっていた。
駅に向かってこの通りを歩いて・・・いや、約束の場所は橋の袂から目と鼻の先にあった。


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此処か・・・この、鰻屋とタバコ屋に挟まれた、古びた事務所みたいな建物がそうなのか?

それにしても、僕がこれまでElvis Cafeで紹介してきたカフェとはかなり趣きが異なり、
何処となく妖しくも引き寄せられてしまう・・・不思議な魅力を放っている様に感じた。


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だが、メールに添付されたGoogleの地図は確かにこの建物がある場所を指していた。
それに休日のこの時間に明かりが付いているのだから、単なる事務所という訳でも無さそうだ。


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この時間帯なら大きく切り取られたガラス窓から中の様子を窺うのは容易だった。

ほんのりと淡いオレンジ色に照らし出された建物の内部は、ロッカーや事務机もあり、
一見事務所にも見えるが、グリーンの棚やオレンジのランプなどは非常にポップな印象で、
確かにカフェの1階は雑貨屋とギャラリーだとメールに添えられていたのも納得出来ると思った。


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mondo CAFE+GALLERY


看板の類は見当たらなかったが、ドアのガラスに控え目に店の名前が入っていた。

確かにこの名前は指定された店に間違いは無かった・・・でも、待てよ・・・
あっ、このカフェは確か彼のブログにも・・・そうか、僕とした事が見落としていたよ。


約束の時間まであと10分、僕はこの冷たくて重い、ブルーグレーの扉に手をかけた。
緊張はしていたよ。だって、メールの送り主といったら・・・でも、不思議と躊躇は無かった。
あれから3日間が過ぎ、その間、この後起こり得る様々なケースを考え尽くしたからだろうか?

いやいや、変な話、今後起こり得る展開については全く皆目見当付かないのが
僕の偽りの無い心の内であり、この建物の中で何を見出す事になるのかは、
もう実際に行ってみないと分からないというのが、唯一出した結論だった。

それに・・・このスリリングな展開に僕は麻痺し切っていたのかも知れない・・・
それは・・・むしろこのメールが来るのをワクワクしながら待っていたのだと・・・


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入ると直ぐにこの重厚で無機質なグレーのロッカーが出迎える。
この究極なまでにシンプルで機能性と効率性を重視した感のロッカーは、
50~60年代の高度経済成長期のオフィスに不可欠のアイコンだったのだろうか?

現在はこうしてアンティークの家具として余生を送るなんて・・・廃棄されないだけラッキーか?


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入り口の細い通路の突き当たりにどっしりと鎮座していたのは、
これまた日本の発展に貢献したであろう年季の入った事務机だった。

デスクの上にはかなり使い込んだ将棋板がポツンと立て掛けてあった。
実際、当時は休憩時の主要な娯楽とし頻繁に広げられたのかも知れない。


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突き当たりの事務机を右に折れると、先ほど窓から窺えた通り、
1階のフロアー全体をぐるりと見渡せる位の開けた空間となっていた。

分かっていたとはいえ、意識的に作られた入り口付近の狭い通路と
この広々とした空間とのギャップに良い意味での軽い驚きを覚えたのだ。


直方体の真っ白な箱の中に立っているという表現がしっくりとくる様な、
実際の寸法以上にがらんとした空間に、大小様々な“モノ”が一つ一つ
まさに自らその場所に配される事を望んでいたみたいにフィットしていた。

そう、その場所でなければ当てはまらないのだと言わんばかりに・・・
それにしても、どの“モノ”もまるでカフェに訪れた者の様にゆったりと寛いで・・・


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おや、この奥にも部屋があったのか・・・

それにしても、今1階にいるのは僕一人、此処には人の気配といったものが
全く感じられない反面、突然の僕の訪問に“モノ”たちが微かに動揺している様で・・・


凛とした佇まいの空間を後にした僕は、この無機質な白い廊下を渡り、
奥へと広がっているもう一つの部屋へと足を進める事にしたのだ。

約束の時間まであと数分、恐らく上の階ではあの青年とは異なる、
例のグループの一人が既に僕の到着を待っている事だろう・・・

僕がこの1階にいたのは、時間にしてほんの数十秒程度の
僅かなひと時だったに違いないが、かなりの長い時間を
費やしていた様に思えたのは気のせいなのだろうか?


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棚の上に一列に並んだ硝子の酒器が向こう側の照明に照らされて
まるでエメラルドの様にキラキラと透き通ったグリーンの輝きを放っていた。

更にこの部屋には、此処がカフェである事を強く意識させる“モノ”が存在する。


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ほう・・・こんな所で甘味の給仕をされるなんて、粋な計らいだなぁ・・・


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 あら、いやだ・・・お客さん、それ、和菓子ではなく置き物なんですよ・・・
 それよりお茶を一杯如何かしら・・・ず~っと、ゆっくりして下さいな・・・

 此処にいる“モノ”たちだって、元々は・・・まぁ、おしゃべりが過ぎたかしら・・・



そんな風に囁かれた気がした僕は慌ててこの部屋を後にした。

此処にいると今目にしている光景が本当に現実なのかって・・・
そうか、何故このカフェを指定したのかが少し分かった気がするよ。

丁度約束の時間を迎えたみたいだ・・・この狭くて急な階段を上るのか・・・


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1階に勝るとも劣らない、遮る物の無い広がりを持った空間だったが、
その空間に対する雰囲気は全くと言ってよいほど異なっていた。
通りに面した部分は全面窓ガラス(ベランダ)になっていて、
街灯や照明によって仄かに照らされた夜空がネイビーに
滲んで薄暗い建物の中にゆっくりと溶け込んでいた。

そう、この2階は無造作に吊り下げられた小振りのランプシェードと
各テーブルに備え付けられたテーブルランプ以外に照明は無く、
物理的に空間を遮る物が存在しない反面、明りによって
其々のプライベートな空間が作り出されていたのだ。


この不可思議な魅力に満ちた2階の真ん中で、階段を上り切って
この光景を目の当たりにした僕を出迎える一人の女性がいた。


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 いらっしゃい、貴方は何かを探していらっしゃるようね・・・

 花でしたら、この薔薇なんてどうかしら・・・綺麗でしょう?
 それとも・・・此処で誰かと待ち合わせをしているのかしら?



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この2階で唯一仕切りのある反対側の突き当たりは厨房になっていて、
その中で(恐らく)店主がアイスコーヒーの氷をかち割っている最中だった。

僕の他には厨房の直ぐ手前のテーブルにカップルと思しき客が一組のみ・・・
どうやら今度僕の相手をしてくれる人物はこの前の青年とは本当に異なる様だ。
何故かって・・・実はあの時、彼は僕が来るのを店の中からこっそり窺っていたんだよ。

それとも、何処かに隠れて僕が上がってくるのを見張っているとでも・・・まさかそんな・・・


 いらっしゃい、お好きな席にどうぞ!


厨房から聞こえるやや早口の口調が店主の忙しさを物語っていたので、
事情を話す前に席を決める振りをしつつこの空間を少し見学する事にした。


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厨房の直ぐ隣りに設えた白い棚には、まるでギャラリーの一角の様に几帳面に、
文芸書やアンティークのカメラ、小鳥のパネルなどがディスプレイされていた。


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かと思うと、中央の棚には雑誌や写真集など、多種に渡るジャンルの書物が
無造作に積み上げられていて、このギャップにかえって僕は惹き付けられていた。


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 待たせたね・・・キミ、もしかしてLittle Cidyさん?


この空間にすっかり魅入っていた僕の背後で不意に店主の声がした。
唐突だったのもそうだが・・・でも、Little Cindyって、如何して・・・


 やっぱりそうなのかい?・・・それなら席は決まってるんだ。

 6時半ぴったりに来るからあの席に通してやってくれって・・・
 ほら、あの窓際の角にあるテーブルを予約していったんだよ・・・

 

なっ、何だって・・・じゃあ、メールの主は此処にはいないっていうのか!?


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部屋の隅に置かれた小さな丸テーブルと肘掛の付いた背の高い背もたれのチェアー。
この広々とした2階の空間で見た目以上に周りとの距離が保たれているばかりか、
窓外の眺めも抜群の、左右に窓がある唯一の“お一人様”専用のテーブル・・・
完全に一人になる事が出来、この上なく寛いだひと時が過ごせるテーブル・・・

こんな素敵な席を予約しておくなんて・・・メールの主による心遣いは感じたけれど・・・


 あとね、キミが来たらこの封筒を渡してくれないかって・・・
 えっ、言っていいのかな?・・・そうだね、若い女性だったけど・・・



店主から受け取ったチョコレートブラウンの封筒の口を中々切る事が出来なかった。
封筒には宛名などの類は勿論無かったが・・・真っ黒な蝶々のイラストが描かれてあった。


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この小さなテーブルにもノスタルジックな雰囲気に満ちたアンティークのランプが
ちょこんと置かれていて、テーブルの上を仄かな蜂蜜色にぼんやり染め上げていた。


暫くの間この封筒を眺めていたが、意を決した僕は封筒の端を丁寧に破った。
中には・・・たった一枚のベージュの紙切れ(メモ用紙?)が入っているだけだった。
しかもその紙切れには僅か3行ほどの言葉が、箇条書きで記されているだけだったのだ。

でも、それこそが本当の密会の招待状とでもいうものでもあり、
それを見た僕は拍子抜けする間も無く紙切れを持った左手の掌から・・・
いや、体中の毛穴が一瞬で開いて嫌な感じの冷たい汗が噴き出すのを感じた。


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店主によると、この僕の予約は席だけではなくスイーツも含まれており、
なんとメニューも指定されていて、代金も既に頂いているというのだ。

だから、ドリンクのみを追加でオーダーして欲しいとの事だが・・・

それでだろうか、後に彼のブログで確認した例の胡散臭い“代金の番人”も、
この勘定の道具(だろうか?)を残して何処かに消えてしまっていた・・・


程無くして、メールの主が指定したスイーツと僕が決めたドリンクが運ばれた。



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チョコバナナワッフル


メールの主がわざわざ代金まで支払ってでも食べさせたかったメニュー。
チョコ・・・そう言えば、あの青年もチョコのドリンクをオーダーしていたし、
思えば彼の・・・あの物語にはチョコレートがキーアイテムになって・・・
僕の考え過ぎなのか、単なる偶然なのか、それとも・・・


1/4にカットされたワッフルをフォークで更に半分に切って刺すと、
押し返す様なふんわりとした弾力がフォーク越しにも十分に伝わる。
そのまま口に近づけると鼻先に甘い香りが広がり思わずひと口頬張ると、
さっくりとした歯触りの表面の凹凸としっとり柔らかな生地が同時に楽しめる。
そして、心地良い口溶けと共に口の中いっぱいにほんのり優しい甘さと
卵の風味が広がって何時の間にか自然と笑みが零れ落ちる様で・・・

真ん中のホイップクリームを取り囲む様にワッフルと円を描くのは、
このスイーツのもう一つの主人公でもあるねっとりとしたバナナ。
普段は凡そ普通に齧られるであろう、この食べ慣れた果物は、
この手のスイーツでは2~3切れが添えられる程度なのだが、
此処では無くてはならない重要な存在として盛られていた。

バナナの自然な甘さと食感が大好きで、何かと一緒に食す事は
殆んどしない僕だったが、先のワッフルにホイップクリームと乗せて
食べた際の焼き菓子とバナナの絶妙の食感は非常に新鮮な感じがした。

ワッフルとバナナを更にマッチさせているのが・・・そう、チョコレートなのだ。
この二つがとろとろのチョコレートソースと合うのは食べる前から想像出来るが、
濃厚な甘さのチョコレートがとろりと絡み合ったワッフルやバナナの美味しさと言ったら・・・


例の関連を抜きにしても、メールの主がオススメしたくなるのも頷けるのだった。


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ロイヤルミルクティー


僕がオーダーしたドリンクは、テーブルの周りをふんわり包み込んでいる
あの小さなランプに照らされた明りの色と同じ蜂蜜色のミルクティー。

舌先に滑り落ちるなめらかな食感と、温かさの中からふわっと薫り立つ
紅茶の華やかな香りがたっぷり入ったミルクのまろやかな風味と溶け合って・・・

これまで感じていた不安や緊張感が、このひと時だけ和らいでいくみたいで、
まったりとした時の流れに・・・心地良い緩やかな明りの中に・・・
このままずっと包まれていたかったのに・・・でもそんな・・・



そう、そんなひと時は僕の意思に反して間も無く終焉を迎える。
彼女が・・・メールの送り主が新たに指定した時間が迫っていたのだ。

メモ用紙にはシンプルに時間と場所が書かれているだけだった。
1行目に時間・・・2行目に場所・・・そして、3行目には・・・


 目黒川のサクラはもう見れないのかしら?


例のグループ・・・青年のメルアド・・・黒い蝶々・・・目黒川のサクラ・・・
まさかメールの主は・・・Cindyのもう一つの物語の・・・


店を出た僕は、直ぐ目の前の城山公園に通じる坂道を駆け上がった。
恐らく今度こそ本当にこの坂道の先で待っているであろう存在を目指して・・・


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短いながらも急な坂を上り切ると、直ぐに公園の名が彫られた石碑を目にする。
坂から続く歩道の左右には樹木が立ち並び、更に奥の方に広がっていく様子だった。

辺りに人影は無く、またもや肩透かしを食らった気分だったが、メモには単に
城山公園とだけ書かれていたので、もう少し公園の周りをうろついてみる事にした。


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芝生の植え込みの中で偶然見つけた、まるで雫の様な可憐な白い花。
その何処か憐憫な佇まいを連想させる貴女、寂しそうにしょんぼりうなだれて・・・

また朝が来たらいつもの明るい彼が貴女の事を元気付けてくれるから大丈夫!!


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早いもので、秋も大分深まってきて・・・キミを見るまですっかり忘れていたけれど、
今夜は今年一番の冷え込みになるかも知れないって、今朝テレビでやっていたっけ・・・

これからの季節、草花も少なくなって・・・これから冬を迎え、僕の計画は・・・


そう言えば、この歩道の左右に植わっているのは、きっと桜の木だよ。
春になればこの並木道が一面淡いピンク色に染まって・・・綺麗だろうなぁ・・・

・・・桜!?・・・という事は、まさか・・・


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「ソメイヨシノ」


 なぁ、何時から此処にいたんだ?
 さっき僕が来た時はいなかったじゃ無いか。

 そうか、向こうの展望台から川を見ていたのか・・・
 で、キミたちは一体何者なんだい、メルアドの主は確か男性だった筈だ。
 やっぱりその男性が僕に言った様に、キミたちのグループは・・・彼、Cindyの・・・



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僕が彼女・・・パピヨンと名乗る女性と会っていたのは正味数分程度の事だった。
しかも彼女と交わした話からは、例のグループの全容やCindyについて
聞き出す事はおろか、逆に謎が深まっていくばかりだったのだ。

ただ、僕は彼女(&例のグループ?)とある取り引きをした。
彼女は僕に店の名前が打ち込まれただけの一枚の紙を手渡した。
そして、其処に書かれた店名を見た僕は思わず声を漏らしそうになった。


 ほんっとに、あのボーイくんったら猪突猛進の考え無しなんだから!!
 アナタ・・・Littleさんに会っておきながら何も得られず帰ってくるなんて・・・

 でもね、これはお互いにとってプラスになる事だと思うのよ。
 Littleさんだって知りたいでしょう・・・彼が今どうしているのかを・・・
 だから、このリストの通りにして欲しいのよ。私たちはアナタのブログ、
 Elvis Cafeでそれを確認したら此方が持っている情報をアナタに知らせるわ。

 どう、其々が自分のやり方で彼に近づいていくの・・・その為の協定なのよ・・・



彼女が去った後、僕はどの位の間、あの桜の木の下に立っていただろう・・・

川沿いの冷たい風に揺られて今にも落ちそうな枯れ葉をぼんやり眺めていた。
でも、このリストの2番目に書かれ、ペンで消された目黒川沿いのあの店を
彼が紹介した際は、確か満開の桜が非常に綺麗に映っていたっけ・・・


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バラバラのリングが少しずつ繋がって・・・そして最後に・・・
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by mary-joanna | 2009-10-26 00:32 | 我が世誰ぞ

レ.生成り色の昼下がり

群馬県のある街の郊外に位置する、とある公園に着いたのは朝の10時半を少し回った頃だった。
地元の足利から数十キロも離れた、この公園まではるばるやって来たのには勿論訳がある。
この公園から数分進んだ場所にあるカフェにランチの予約を入れていたからだった。
11時半のオープンにはまだ多少の時間があったので、寄り道をする事にした。
ゆったりとまではいかないが、多少でもゆとりがあるのは良い事だと思う。
何時も、そんな風にして、結局遅刻しそうになるのだけれど・・・


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此処には見渡す限りの広々とした芝生があり、大きな池もあり、小高い丘もあり・・・
ゆったりとしたひと時を過ごすのには全く申し分の無いロケーションだった。

しかも、池の周りに沿って可憐な秋の風物詩が見ごろを迎えていた。


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秋桜畑


秋晴れの緩やかな日差しに優しく照らされた一面に広がる赤やピンクの秋桜が、
さわさわと微風に揺られながらゆっくり僕に手招きをしているみたいに感じた。

こんな綺麗なお出迎えにすっかり魅了された僕は、一瞬時間の事を忘れてしまい、
先ほど告白した通り、予約の時間に追われ急いで車を走らせる羽目になった。
でも、こんな寄り道だったら何時でも大歓迎なのだけれど・・・ね・・・


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公園から市街地方面に向かって数キロ、まだ市の中心部には距離があるけれど、
個性豊かな真新しい住宅が整然と並ぶ新興住宅街の入り口にやって来た。

紅葉にはまだ早いかな?と思っていたけれど、此方の街路樹はすっかり色付いていた。
山吹色や茶色に染まった街並みが、秋桜とは違った秋の香りを届けてくれていた。
これから段々と山を下って僕の住む街でも秋の情景を楽しませてくれるだろう。

そして、この通りを進んで住宅街の中に入ってゆくのだが・・・


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蒲公英


紅葉に見とれて上ばかり見ていた僕に気付いてほしいとばかりに、
ちょっと季節外れの可愛らしい黄色いキミが地面でそっと出迎えてくれた。


そう言えば、彼の日記に於いて蒲公英は大事な物語における
印象的なキャラクターとして何度か登場していたのを思い出したよ。

それにしても、此処で蒲公英に偶然出会ったからという訳でもなかろうが、
まさかこのお出迎えに誘発されてあんな展開が待っていたなんて・・・



先の通りのほぼ突き当たりを左折して、更に奥の方に入ってゆくと、
淡いベージュの外壁とオレンジブラウンの瓦屋根の一軒家に辿り着く。


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Cafe de ECRU


彼の日記では比較的早い段階で登場したカフェが此処だった。

その日記でも目にしていたけれど、住宅街の家屋とは思えないその外観は、
この一角だけ、まるで南仏辺りの田舎町にでも迷い込んでしまったかの様だった。

それにしても・・・あぁ、本当に素敵な建物だね。


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庭に何気無く置かれている一つ一つの物が更に雰囲気を盛り上げてくれる。

一刻でも早く店の中に入りたいという衝動に駆られた僕だったが、
何だかんだ言いながらも結局少し早めに着いてしまったので、
この魅力的な庭を散策しながらオープンを待つ事にした。


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こんな気持ちの良い日なら、木漏れ日を浴びながらテラスのテーブルで
ゆっくりとランチを頂いて、のんびりまったりと過ごすのも最高だね。


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庭の周りには色鮮やかな草花や芳しいハーブが植えられており、
地面にもまるで緑の絨毯を敷き詰めた様に沢山の植物で溢れていた。

爽やかで生き生きとしたグリーンに囲まれていると、何だか清々しい気持ちになって・・・
定刻の11時半になり、店員さんがOpenと書かれた看板を携えてやって来た。


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後から調べたのだが、ECRU(エクリュ)とは生成りの麻の色・・・
ベージュよりもアイボリーに近い、そして純白より自然な淡い色・・・


店内の壁をはじめとして、その面影は十分に感じられるけれど、
何故この店が昼時の時間帯のみのオープンだか分かる気がするよ。

だって、昼下がりの柔らかな日差しが窓から仄かに差し込んでくると、
ウットリとしてまどろんでしまいそうな緩やかな自然の明かりは
まるで生成りのままの生地のそれを連想させるのだから・・・


さて、僕が座りたい椅子は・・・あっ、あった!!


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この可愛らしい水色の椅子が、彼が惹かれたあの水色の椅子か・・・

如何してだろう・・・初めて目にするのに何だかとっても懐かしくって、
こうして腰掛けていると、まるで子供の頃に戻っていくみたいだ・・・


それに、この椅子に座って視線を上げると・・・


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白とべっ甲のちっちゃな木の実の飴粒が、ランプの熱に溶け出していって、
ほんのりオレンジ色の光になってキラキラとこぼれ落ちてくるみたい・・・

ポップで可愛い水色の椅子と、飴粒みたいなランプの明り・・・
何時の間にか絵本の世界に迷い込んでしまったのかな?


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ランチをオーダーした僕は、そんな事をぼんやりと考えていた。
各テーブルの上には、さり気無く花や緑が添えられていた。

Elvis Cafeを始める前の僕だったら、決して気付かなかっただろう。
ささやかだけど新たな発見に、ちょっぴり嬉しい気持ちになった。
こんなに穏やかな、自然な気持ちで食事を待つ事なんて、
このブログを始めるまで経験した事無かったなぁ・・・

なんて思っているうちに、第一の皿が運ばれてきた。


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エクリュ・セット


メインの前に先ずやって来たのが、スープとパンとサラダから成るワンプレート。
ランチのセットには、このプレートとメイン、更にはドリンクとデザートが付く。


ランチの先頭を飾るのは野菜のたっぷり入ったスープ。
そう言えばあの店でもメインのために胃の調子を整える目的で、
一番最初に質量共に丁度良いボリュームのスープが供されていた。

温かな舌触りは一杯啜る度に心身の緊張が解き解されてゆく様だった。

絶妙なバランスの塩とバターとコンソメの非常に繊細な優しい味付けに加えて
とろける様な柔らかさの野菜は、それでいてほど良い食感も感じられて、
更にスープの旨味が野菜にギュッと詰まっていて美味しく頂けた。


そして、スープに欠かせないのがシャキシャキの葉野菜と・・・パン!!

そう、何と言っても、この手作りの白パンが最高に美味しい!!
手に持った瞬間に伝わってくるふんわりとした感触は、
勿論口の中でもひと口頬張る毎にもっちりもちもち・・・
しかも、仄かな粉の香りとふわっと広がる甘さ・・・


全てが優しさに満ち溢れているワンプレートだったけれど、
これだけでも十分に満足の出来るプレートが“前菜”だなんて・・・


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ベーコンと小松菜とフレッシュトマトの塩味のスパゲティ


スパゲティ2種とピザ、更にはハンバーグから選べるメインの皿は、
その時々でメニューが更新され、季節の味覚を味わう事が出来るのだった。

今回は、さっぱりとした塩味のスパゲティをチョイスする事に決めた。

先ず最初に目を引くのが鮮やかなルビーレッドの粒々フレッシュトマト。
そのビジュアルに負けじと、フルーティーでジューシーなテイスト。
口の中でプチっと弾けると濃厚なトマトの酸味が広がって・・・

そんなトマトに深みとコクをプラスしているのがムギュっとした食感のベーコン。
そのコクと旨味がトマトと一緒にスパゲティに染み込んで更に美味しさを増していた。

小松菜は彩りのバランスばかりか、そのシャキっとした食感も楽しめ、
極めつけは、程よい辛さのピリッとした唐辛子のアクセント・・・


全体としてさっぱりとしたスパゲティでありながら心地良い満足感も感じられ、
身も心も納得のメインを十二分に堪能出来た、幸福感に満ちたランチタイムだった。

この後に秋の雰囲気いっぱいのデザートとドリンクが運ばれてきた。


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さつまいものモンブランタルト


本来のモンブランよりも更に淡いほんのり黄みがかったベージュのクリームは、
まさに自然のさつまいもの色合いで、そのほっこりとした風合いに待ち切れなくなって・・・

フォークですくってひと口・・・

表面にデコレーションされたなめらかで甘いスイートポテトのクリームと、
その中のたっぷり詰まったぷるぷるっとした食感のさつまいものムースのコンビ。
まったりとしたさつまいもの風味がふわぁ~っと優しく広がって頬っぺたが落っこちそう・・・

ふんわりスイートなさつまいもをしっとりのタルト生地とサクサクの台が受け止めて、
今日の日にぴったりの、秋の恵みに満たされたモンブランタルトが完成していた。



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パリっとした新品のそれともちょっと違う・・・洗いざらしのリフレッシュな感じ・・・
染みひとつ無い純白とも何処か異なる・・・生成りのナチュラルな白さ・・・

彼の紹介は彼是2年前、オープンしたばかりのカフェではないけれど、
何だか生まれ変わった様な新鮮な・・・そう、ピュアな気持ちになれるカフェ。
店名にはそんな想いがこめられているのかな・・・なんて思いながら戻る道すがら・・・


自宅近くの駐車場を仕切るフェンスの片隅に控えめに咲いている白い花。
これまでこのフェンスの側を幾度となく通り過ぎていた僕は、ふと車を停めた。


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「レインリリー」


梅雨明け頃から秋にかけ、比較的長く楽しめるこのヒガンバナ科の花は、
園芸品種としてはありふれた存在で、少し注意すれば街中でも頻繁に目にする。

すらっと伸びた6枚の花弁は白の他にもピンクや黄色とカラフルだ。
更にシャープな細い葉は、例の玉すだれに見立てられるのも十分頷ける。

そんな白い花弁が、すっかり日が傾いた秋の午後の陽光に照らされて、
ほんのりとアイボリーがかって・・・僕にはまるで生成りの麻地みたいに映った。


普段は全然気にも留めていなかったのに・・・
ずっとずっとこの場所で静かに咲いていたのに・・・

やっぱりあのカフェの帰りだから気付く事が出来たのかな?


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柔らかな日差しが肌に心地良い、秋の日の昼下がり。
ふんわりと淡く色付いた景色はまるで生成りのシャツの色。

そんな、穏やかで心休まるひと時を一瞬で凍て付く緊張した世界へと・・・
そう、僕にとって漆黒の闇の様に何も見えないあのダークな世界へと・・・
そんなメールを貰ったのは、のんびりと帰宅した午後の事だった・・・
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by mary-joanna | 2009-10-21 11:17 | 我が世誰ぞ

タ.わらしべパン屋

 ミチル~、川が見えてきたぞ~・・・早く来いよ~!!
 この橋、なんだかスゲ~から、ちょっと休んで見てみようぜ~!!

 なぁミチル、オレ、本当にビックリだったぜ。
 ミチルが夏休みに入っていきなり入院だもんなぁ・・・
 中学最後の夏休みだから、一緒に海行って、祭り行って・・・
 そうそう、一番楽しみにしていたのが花火大会だったよなぁ~。
 不景気で今年が最後の花火大会だって言ってたし・・・
 あっ、あの日はオレ・・・ずっと家にいたんだぜ・・・
 だって、ミチルを置いてオレだけなんて・・・

 結局、何にも出来なかったけど・・・まぁ、ミチルも元気になったんだし、
 こうしてまたオレたち一緒に連んで出かける事が出来るんだから。

 それになぁ、ミチル、今から行くトコはスゴいぞ!!
 何と言っても、かき氷の食えるパン屋なんだぜ!!
 まだやってるって聞いたんだけど・・・もう終わっちゃったかなぁ~?

 とにかく、ちょっと遅くなったけど・・・
 作ろうぜ、オレたちの中学最後の“夏の思い出”を!!



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利根大堰とセイバンモロコシ


 なぁミチル、ちょっとこっちに来てみないか?
 この川って橋の右と左で全然水の量が違うんだぜ!!

 風が冷たくって気持ちいいなぁ・・・やっぱりもう秋だもんなぁ~。
 秋って言えばさぁ、さっき土手のトコで見たのってイネ?・・・ススキ?・・・
 何だか穂が赤く色付いていてカッコよかったよなぁ?・・・そうでも無いか!?


 それに、先週から衣替えで学ランになったけれど・・・
 オレたちがこの学ランに袖を通すのも、もうあと少しなんだよなぁ・・・

 おいミチル、聞いてるのか?遠くの方ばっか見て・・・



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行田の街並み


 やっと街に辿り着いたけど・・・マジで疲れたよ~~~!!
 この地図だとホラっ、川のトコからそんなに離れていないんだけど、
 やっぱりチャリでここまで来るのって無謀だったかなぁ・・・って・・・

 オレたちまた帰りに同じ距離をこがなきゃならね~じゃん!?!?


 おい、あれ桃太郎だぜ、きっと!
 あっちの亀を連れてるのは・・・浦島太郎だ!
 この通りって昔話の主人公がいっぱいいるんだなぁ~。
 それに何となくこの街って江戸時代にタイムスリップしたみたいだなぁ。


 ところでチャリのカゴに置いてあるその箱、中に何が入ってるんだ?
 さっきからずっと気になってたんだよ。

 えっ、中は秘密だって?
 いいじゃん、ちょっと見せてみろよ~!!

 

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翠玉堂


 え~っと、地図だとこの辺りなんだけど・・・

 ちょっ、この家がもしかして目指してるパン屋かい!?
 それにしても・・・この街にマッチした和のテイスト満載ですなぁ~。
 ここでかき氷ってのも、“いとをかし”・・・へへっ、ちょっと違ったかな?

 ・・・ん、何か張り紙があるぞ・・・なになに?



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 わ・ら・し・べ・・・パン屋~!?!?なんじゃそりゃあ~~~!!
 わらしべって、あの“わらしべ長者”のアレのことかなぁ~?

 となりに「パンと何かを交換・・・」って書いてあるし・・・
 ミチル、お前、何か交換するものあるか?


 ところで、もうひとつ気になるのが・・・「ユアサ」!!

 小学生の頃、テレビで髪を振り乱していたオタクっぽいヤツが
 たしかそんな名前だったような気がするんだけどなぁ・・・
 でも何で箱に書いてあるんだ?それに・・・
 となりのって、アンテナだよなぁ?



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 おじゃましま~す!!


 おっ、このパン屋、店の中は土間になっているのかぁ~。
 店の中も風情があって、ホント、時代劇に出てきそうな雰囲気だなぁ。

 奥にはテーブルなんかもあって、カフェみたいでオシャレだなぁ・・・
 


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 店長さん、今日はオレたち、かき氷を食べに来たんですよ~!!

 夏の間中ずっと寝込んでいて中学最後の夏休みを寂しく過ごした
 コイツにひとつ、(遅いけど)“夏の思い出”を作ってやって下さいな。


 ・・・なんですと・・・9月でかき氷は終了しちゃったとですと~!?
 ・・・で、ですよね、やっぱ・・・ミチル、残念だなぁ・・・



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 じゃあさ、パンを買っていこうぜ!!
 
 しかもここのパンって、どれもガラスのケースに入ってて、
 何だかめっちゃカッコいいなぁ・・・まるで雑貨屋にいるみたいだな!!



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 おっ、フランスパンだな・・・このとなりにあるのって・・・
 “棒”っていうのか・・・ホント、まんま“棒”だな、コレ!!

 よっしゃ、オレ、この“棒”買うことに決めた。



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 なぁ、ミチル、あのガラスの棚に入ってるのもパンなのかなぁ?

 店長さん、このパン、何が入ってるんですか?
 えっ、“いちじく”!?コレがいちじくかぁ・・・

 じゃあ、コレも買ってみよう~っと。
 ミチル、お前も早く選べよ!!



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 で、コッチの棚の中には・・・おっ、ベーグルもあるぞ!!


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 どのパンもメチャメチャうまそうなんですけど・・・
 アレと・・・コレと・・・オレ、買いすぎちゃったかなぁ~?



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奥のテーブル


 えっ、せっかく来たんだからテーブルで休んでいきなって?
 さすが店長さん・・・ありがと~ございま~す!!

 じゃあ、買ったパンも置かせてもらって・・・



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テーブルの上のパン


 こうして見ると、どのパンもシンプルなのに個性的ってゆ~か・・・
 何だかこのパン屋そのものをギュっと凝縮したみたいな・・・

 うん、こんなパン、初めてだよなぁ、ミチル?



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 いやぁ~店長さん、このソファの座り心地もサイコ~でんがな~!?

 ・・・ってか、オレたち、こんなに寛いじゃっていいんですか~?
 もう、ホントにリラックスしまくりでとろけまくりっスよ~。



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お茶&かぶの漬物


 しかも、お茶(&パン屋なのに漬物!?)まで頂いちゃって・・・
 マジでここは最強の癒しスポット・・・チャリで川越えた甲斐がありました~!!


 あっ、ところで外の張り紙、アレってパンと何かを交換してくれるって本当ですか?
 えっ、さっきCindyってヤツが来て、パンはすでに交換しちゃった!?
 なんだ、とことんタイミング悪いなぁ~オレたち・・・

 ホント、ふたりで“夏の思い出”、作りたかったんですよ~・・・
 海とか・・・祭りとか・・・そう、花火、見たかったよ~!!

 
 ・・・それだったら丁度いいのがあるって?・・・
 そのCindyってヤツが置いていったのと交換するんですか?

 それって一体・・・もしかしてコレがその・・・あっ!!!
 
 おい、ミチル、コッチ来てみろよ!!
 コレ・・・“夏の思い出”にピッタリじゃんか。
 是非ともコレと交換してもらおうぜ~・・・って・・・

 そう言えば、オレ、何にも持ってきてなかったよ~!!


 ・・・ミチル?・・・お前、その箱・・・
 
 それと交換するのって・・・ええっ、店長さん、OKなんですかぁ~!!!




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いちじく


 コレコレ、すっごく気になっていたんだけど・・・いっただっきま~す!!

 おぉ~!!表面の皮ってゆ~のかなぁ・・・すっげ~パリパリでウマイじゃん!
 しかも、中の生地はふかふかでしっとりしてて・・・どうやって作るんだろう?

 この赤いのがいちじくなのかな?・・・オレ、いちじくって(多分)初めてなんだけど・・・
 ジャリジャリ・・・なんだこの食感、ジャリジャリなのにネットリしてて、甘くって・・・

 コレ、めちゃめちゃウマイぞ~~!!
 このパンにもジャストでハマっているし・・・サイコ~っス!!



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オレンジピール


 へへっ、実はもうひとつあるんだよなぁ~・・・
 今度は普通の丸いパンって感じなんだけれど・・・

 スゲ~よ、コレ!!ガシガシのガリガリのザクザクで香ばしい!!
 しかも、コッチも中はふんわりしててやわらかい・・・あの店長、スゲ~なぁ~。

 んんっ、このほんのり爽やかな香りは・・・オレンジの香りだよ~~!!
 シンプルな小麦味のパンに甘酸っぱいオレンジの風味・・・
 オシャレだなぁ・・・って、オレ、パンに目覚めたかも!?


 あと“棒”とかも買ったんだけど・・・帰りにチャリこぎながら食べちゃった!
 もう、あの距離をこぐと腹がヘリまくりなんだよなぁ・・・



 ・・・ミチル、パンも食ったし、そろそろ始めようか・・・

 オレたちふたりだけの“花火大会”・・・



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「ダリア(イエロー)」


 おぉ~~~!!!
 まずは黄色い花火が上がったぞ~~!!

 真っ黒な夜空に淡い黄色の花びらがパァ~っと広がって・・・
 キレイだよなぁ・・・そうだろう、ミチル・・・


 次は・・・デカイのいくぞ~~!!



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「ダリア(ホワイト)」


 うわぁ~~、コッチもめっちゃキレイだわ~~~!!!
 コレ、すっごく大きくて、周りの空も少し明るくなったみたいだ。

 それに、真っ白な花火だと思っていたら、だんだん紫色になるなんて・・・
 オレ、コレ見ててちょこっとウットリしてきちゃった・・・ってか、マジで感激したよ~!!


 ちょっと可愛い“花火大会”だったけど・・・不思議なパン屋だったけど・・・
 なんだか最高の・・・“夏の思い出”が作れたみたいだよ!!




 なぁ、ミチル・・・

 それにしても、あんなものを大事そうに箱の中にしまってたなんて・・・
 そっか、病室の窓枠に引っ掛かっていたのを見つけたのか・・・
 たしかに、ずっと病気で入院していたお前にとっては
 たったひとつの“夏の思い出”だもんなぁ・・・
 本当に交換しちゃってよかったのか?

 ・・・そうか、それならいいんだ、オレも安心したよ・・・
 “夏の思い出”のわらしべ交換・・・いい思い出になったよなぁ、ミチル!!




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今年の夏はこれまでの僕の生涯に於いて決して忘れられない印象的なものになった。
彼との約束でもあるElvis Cafeを完成させた後でもこのままカフェや花を紹介し続け、
カメラ片手に彼方此方に出掛けるかどうかは、今の僕には全く想像もつかないが・・・
ただ、6月終わりのあの日・・・そう、あの橋の“ムコウ側”を体験してしまった日から、
僕は何かにとりつかれたかの様に夢中になって花やカフェを追い続けたのだった。

勿論それまで同様、仕事や友人との付き合い、そして彼女との時間・・・
これまで送ってきた日々の生活も何等変える事無く過ごしてきたのだから、
時間的にも精神的にもやっぱり何処かで無理が生じたのかも知れなかった。

しかも厄介な事に、このカフェ&花を探し求める旅と写真の編集、ブログを作る作業・・・
Elvis Cafeに関わる一連の作業は僕にとって楽しくて楽しくて仕方が無いほどで、
時間の観念や自身の身体の事などは全く考えていない程になっていたのだ。

だから、このブログを始めるまでは本当によくこんな日記が毎回続けられるよなぁ・・・
と思っていた彼のあの日記も、今となっては十分に頷ける様になっていた。
でも、その皺寄せは僕の気付かない所でヒタヒタと忍び寄ってくる・・・


だらだらと書き綴ってきたのだが、実のところ何が言いたかったのかというと・・・
え~っと・・・つまり・・・その・・・この数ヶ月の劇的な生活サイクルの変化に加えて
これまで無意識のうちに積み重ねた無理が祟ったのか、僕は病気で倒れてしまった。

今回の物語は、彼の物語風カフェパン紹介に対する僕のアンサー(返答)のつもりだ。
実は病床の中で何もする事の無かった(何も出来なかった)僕は、唯ひたすらに
この手の妄想を悶々と考えながら布団に包まって過ごしていたのだった。
病気も完治した今、漸く解放されて籠から出してもらった昆虫の様に
飛び回る事が許された僕だけど・・・もう少し大人しくしていようか・・・

いや、多分それは無理だね・・・だって僕は既にこの世界を知ってしまったら。
だからこそ気になるんだ、何故彼がこの世界から消えてしまったのかが・・・
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by mary-joanna | 2009-10-18 09:45 | 我が世誰ぞ

ヨ.秋風吹いて

秋の便りがやって来た。
風に揺られてやって来た。
いっぱい乗せてやって来た。
みんなのトコロにやって来た。

・・・そしてアナタは、いま何処?


そんな秋の風に誘われて、僕はまた例の地を訪れる事にしたんだよ。
Elvis Cafeの記念すべき第一回目訪問地として紹介したあの場所にね。

あの夏の日からまだ2ヶ月ほどしか経っていなかったけれど、
一見変わらぬ一面の緑色の中にも、次第に変化していく秋の装い・・・
そう、季節の移り変わりを感じる事が出来るのではとの思いがあったのだ。

それに何と言っても今回のイニシャルは「ヨ」なのだ。
このイニシャルに関しては、僕は最初から決めていたのだ。

だから、初回だってこの広大な渡良瀬遊水地からスタートさせた訳だし・・・


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此処から見る川の流れに、いつもハッとさせられていたんだ。
そう、まるで二つの橋が競い合っているかの様に連なった光景。
そして、その下を我関せずとばかりに緑を従え悠々と流れる渡良瀬川。

僕の街に流れる渡良瀬川だって情緒溢れる光景で楽しませてくれるけれど、
目の前の渡良瀬川は僕が毎日慣れ親しんでいるそれとは何処か異なる気がする。
何と表現したら良いのか分からないけれど、ただ広く大きくなったと言うよりむしろ・・・

何か途轍もない場所に飲み込まれてゆく様な・・・
しかも、こんなにも大きな川と周りの深い緑を一度に・・・
そう、もう何もかも全てを飲み込む大きな何かがこの先に・・・


何時もはいったん川沿いの道を外れて湖に向かって南下するのだが、
今回は是非立ち寄ってみたい場所があったので、このまま川沿いの道を
直進して栃木県藤原町の街中を外れ田畑と住宅が混在する中を走り続けた。

そして辿り着いたのが今僕がいる渡良瀬川の支流の土手の上なのだが、
地図を見るとこの辺り一帯は“第3調整池”と呼ばれているそうだ。


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そんな姿になるまで、ずっとずっと見守っていてくれたんだね・・・

川はきれいになってきましたか?
木や草はみんな元気ですか?
此処で深呼吸出来るかな?


アナタはいつも真面目で真っ直ぐで正直で・・・

でも、そんな頑張り屋さんのアナタの事を・・・ほらっ!


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アナタはとっても素敵ですよって・・・

少し離れたトコから恥ずかしそうに・・・

そんなに顔を真っ赤に染めちゃって・・・


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土手では早くも冬に向けての準備が始まっていた。
僕が紹介したい「ヨ」の彼だって、もう頭のてっぺんは・・・


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ワルナスビ&キツネノマゴ


星型に大きく開いた薄青紫の花弁の中心に鮮やかな黄色い子房。
風貌だけを見れば“ナスビ”というのも十分に頷けるのだが、
棘のある葉茎に加え一度生えると駆除しづらいばかりか、
黄色いミニトマトに似た実には毒もあるとの事だった。

直ぐ傍には、そんな“ワル”に睨まれてしまった非常に小さな花。
“キツネノマゴ”とのネーミング通りの、何とも可愛らしい花が
穂状に伸びた花序の先からチョコンと顔を出していた。

まるで、あの大きな黄色いくちばしに怯えているみたいで・・・




調整池の土手を後にした僕は、湖の方に向かって再び車を走らせた。

広大な遊水地は同じ敷地とは言え町がすっぽりと入ってしまう広さだ。
従って、この調整池から広場や史跡のあるゾーンまでは車でも20分はかかり、
湖を取り囲む様に流れている川沿いをちょっとしたドライブ感覚で進む事になる。


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土手を過ぎ、橋を渡ると、湖へと入るエントランスのゲートに差し掛かる。

夕方には閉じられてしまうそのゲートを越えると、いよいよこの先は
例の形をした大きな湖の、まさに“心臓部(ハート)”へと入ってゆくのだ。


ヨシ原の中を突っ切る様に真っ直ぐ続く道路の両脇にはこの様に街路樹が
植えられていたが、暫く走っているうちにとても気になって車を停めてみる事にした。


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コブシ


へぇ・・・此処にはピンクのぶどうの実なんてのもあるんだ・・・なんて・・・


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サルスベリ


この夏の間、街中でも僕の目を楽しませてくれたふんわりとしたピンクの花も、
そろそろお別れの時期が迫ってきたみたいだったけど、昨年までは“サルスベリ”って
名前から連想するのは幹の方ばかりだったのだから・・・僕にとっては素敵な出会いだったかな?


さて、いよいよ広場のあるゾーンまでやって来た僕は、駐車場に車を停めて
売店や自転車貸出し所が並ぶ棟の脇にある入り口から中に入る事にした。

この日は休日と言う事もあり、家族連れを中心に大変賑わっていた。


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子供広場ゾーンと言っても、中は見渡す限り爽やかな芝生が広がり、
その周りにはゆったりとしたサイクリングロードや遊歩道も設けられていた。

本格的なサイクリングやジョギングに汗を流す者、芝生でキャッチボールをする者、
のんびり散策する者、ベンチで横になる者まで、みんな思い思いに広場を満喫をしていた。


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子供広場ゾーンに隣接して史跡保全ゾーンと呼ばれる場所があった。

実はその二つのゾーンの境目辺りでこの時期にこの場所でしか見ることの出来ない
ある花に出会えるとの情報を手に入れた僕は、早速向かってみる事にした。


史跡保全とは、かつてこの遊水地一帯に村があった事を後世に伝える為、
今僕が立っている周辺には当時の村役場跡や神社跡などが残されていた。
小高く盛り上がった丘の周りでは、彼岸花が朱色の花を寂しそうに揺らせていた。


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彼岸花の後ろに立つ杭に書かれていたのは・・・


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明治時代の谷中村、ひいては渡良瀬川と言えば・・・悲しい歴史が此処に・・・

・・・合掌・・・


さて、僕が探していた“それ”は意外にも直ぐに見つける事が出来た。
しかも、この辺り一帯に比較的広域に群生しているみたいだった。


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ワタラセツリフネソウ


秋風に揺られてサワサワと音を立てながらざわめく緑色の大海原に、
淡い桃紫色の船体を仄かに輝かせた船の一団が姿を現してきた。

キュッと窄まった船尾の一番先についた、そのクルンと丸まったスクリューと、
対照的にパックリと大きく開いた船首から成る可愛らしい船体は、どれも皆、
同じ方角を向いてゆったりと緑色の波間をプカプカ浮かんでいる様だった。


渡良瀬の水辺にこの季節だけ停泊する可愛らしい船団に別れを告げて、
史跡保全ゾーンの遊歩道を歩いていると更にもう一つ、黄色い花に・・・


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コウゾリナ?


タンポポともまた少し違った・・・恐らくキク科の花が点々と咲いていた。
タンポポよりも小さく、花の直径はせいぜい3cmほどであったろうか?

既に綿毛に変わっていたものもあったけれど、健気にも元気いっぱいに
咲いているその姿にすっかり心癒された僕は、ちょっとしゃがんで眺めていた。


此処に来ると少し歩いただけで実に様々な草木に出会う事が出来る。
街で見かけるもの、植物園で出会ったもの、山地でしか見れないもの・・・

そしてこの広大な自然の楽園を形作り、維持しているのが・・・


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第一回目の際は目にも眩しい黄緑の絨毯だったけれど・・・

9月も後半、今、僕の目の前には黄金色に輝くヨシ原が目の前に広がっていた。


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「ヨシ」


春の訪れと共に真っ黒に焼かれて炭の様になったキミたち。
その中からあっちに・・・こっちに・・・可愛らしい薄黄緑が芽吹き出して、
初夏の声を聞く頃には生命力でいっぱいの濃い緑を猛々しく天に突き出し、
何時しか黄金色に輝く穂先を涼しくなってきた秋の風にゆったりと身を任せて、
冬の頃、吹きさらしの荒野にまるで突き刺さっているかの様に枯れた茎が立っている。

そしてまた新たな春を告げるべく、この枯れた茎に火が点されるのだ。
また新しいキミに出会う為に・・・そして、この地の貴重な植物たちと再会する為に・・・


土手の上から・・・水門の所から・・・湖の側から・・・

何時も僕の視界いっぱいを埋め尽くすキミたちを眺めていたんだ。
キミたちの向こう側には、遠くの山々と・・・もう空しかないじゃないか!
キミたちを見ていると、本当に僕の存在なんてちっぽけだよね。
そう、何処までも広がっているキミたちに圧倒されて僕は・・・


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そして第一回目の時がそうであった様に、今回もまた、僕は同じ場所へと向かった。
遊水地を南に下り、湖の付け根に架かる大きな橋を渡ると、茨城県古河市へと入ってくる。

最近ではどの街もそうだろうが、大きな国道に面した郊外の賑わいに比べ、
駅の周りの所謂“市街地”は何処か閑散と・・・いや、何となくひんやりとしていた。


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遠くに見える背の高いマンション・・・

そう言えば僕の住んでいる足利だって街中に建つのって、
近頃はマンションかビジネスホテルくらいだったよなぁ・・・

そして、この街をずっと支えてきた商店はどんどん朽ち果ててゆくのかな?


でも、そんな朽ち果てた様な所謂“市街地”に・・・やっぱり此処に足が向かってしまうんだ。

だって、このElvis Cafeにとってこの場所は特別な場所なのだから・・・


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大きな葉っぱの街路樹と赤い街灯に守られた四角い建物。
スッキリとした印象のスカイブルーのストライプとレンガの外観。
はめ込まれた窓枠の濃いブルーとホワイトがとてもカッコいいんだ。

あの時と同じ、とてもスタイリッシュで・・・何処か懐かしい姿に、思わずホッとしてしまう。
まだ2回しか訪れた事が無いのに・・・子供の頃からずっと知っている様な懐かしさに・・・


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窓際にはくるくるって葦簀が巻いてあって・・・そうだったね、キミ、此処でも活躍してたっけ・・・

さあ、中に入ってゆっくりと休もう・・・今日はいっぱい散策したから・・・


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この前来た時もそうだったけれど、この空間に僕はすっかり魅了されていた。

使い古された木製のテーブルやあまり見かけなくなったビニール製の椅子、
テーブルの端や棚に置かれたガラス瓶や陶器など、この中にある全てのモノが
この空間ではまるで魔法をかけられた様にこれまでに無い新しい輝きを放っていた。


此処にいると心が安らいでウットリした気持ちになって・・・
このキラキラした世界に僕はずっと憧れていたんだ・・・


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はにかんだ少年と思わず目が合った。
子供たちはやっぱり笑顔が一番似合っているね。

最近、無邪気に笑った事なんてあったかなぁ・・・


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この空間には様々な“光”が存在していた。

表の窓から差し込む眩いばかりの真っ白な午後の日差しと溶け合う様に、
各テーブルには一つ一つ異なったランプシェードが仄かな明かりを照らしていた。

やわらかなオレンジ色のランプの明かりの下でまどろむ午後のひと時。
どの光も非常にパーソナルで、優しく包み込んでくれるみたいに・・・


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この前は入って直ぐのカウンターに座った僕だったけど、
今回は奥の部屋の、このテーブルにしようと決めていたんだ。

彼が始めてこのカフェを紹介した際に着いたテーブルにね。


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棚の上を見上げると・・・やっぱりカフェなんだなぁ・・・


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おや、此処にも一人・・・すっかり貫禄がついちゃって・・・


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初めての時は、この席だったよね・・・


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この秘密部屋からも紹介していたっけ・・・


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この前はとってもラヴラヴな二人だったけど、
今日僕の前にやって来たのは・・・元気いっぱいのボク!

ニコニコのキミをみていると、僕も楽しい気分になってくるんだ。
それに、だんだん温かい飲み物が恋しくなる季節になってきたよね。
カップから伝わる温もりとボクの温かい笑顔に癒されながら、のんびりと・・・


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クリームブリュレ


おやっ、新しいメニューを見つけたよ。
彼、クリームブリュレが大好きだったから、コレを見たらきっと、
いいなぁ~って、思いっきり羨ましがるんじゃないかなぁ・・・

パリパリのほろ苦いカラメルの中はふんわりまったりとろ~りで、
まろやかな卵の風味とやさしい甘さが口の中いっぱいに広がって・・・


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秋風吹いて


何だかとっても寂しくなって・・・
何処かちょっと切なくなって・・・
何故だかすごく悲しくなって・・・

秋の風が僕の心の窓からピュ~っと吹き抜けてゆくと、
一人ぼっちの僕の心は両手でバンっと窓を閉めちゃうんだ。
でも、またそっと窓の端っこから外の様子が気になっちゃって・・・
本当は風サンとも一緒に遊びたいんだよ!・・・って・・・




本当に大変ご心配をおかけしましたが、何とか復活できました・・・
更に(?)まったり更新になるかもしれませんが、これからも宜しくお願いします! m(_ _)m
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by mary-joanna | 2009-10-13 13:30 | 我が世誰ぞ