「ほっ」と。キャンペーン

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カ.暮らしのリズム

 リズムって変化の事?
 それともバランス?メリハリ?



僕は何かを変えたくて・・・そう、これまで経験した事の無い新しい何かを
手に入れたくて、(少々大袈裟かも知れないけれど)この世界に飛び込んだ筈だ。

今までずっとそうだった、大きな夢も無く、これといった希望も無い、
ただ何となく日々が過ぎて往く・・・そんな毎日にサヨナラを告げたくて・・・


そんな僕の背中を押してくれたのは、思いもよらないところからだった。

確かに、この世界との出会いは“偶然”以外の何物でも無かったのかも知れないね。
そして、そんな僕にとって彼の存在は『憧れ』に過ぎなかったのかも知れないね。

でも、僕はその出会いに“必然”と書かれた切手を貼って真っ赤なポストに投げ入れたんだ。
更に、僕なりのやり方で彼からの返事の手紙を受け取るのが今の『目標』になったんだ。

・・・イロハニホヘト・・・と書かれた宛名の先に何が待っているのか、僕は知らない。


・・・けど分かるんだ・・・僕のリズムは、確かに変わった。


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そんなリズムを肌で感じたかったから、僕はこの橋を渡る事にした。

この橋の向こう側の、坂を上った先でひっそり佇むあの場所に流れる、
ゆったりとしたメロディー・・・躍動するヴァイブ・・・揺らめくグルーヴ・・・

全てはパソコンの画面から想像した二次元的なものでしか無かったけれど、
僕の中では、この店の端々から最高のリズムが響き渡っていたんだ!
僕の心身は、この店が奏でる心地良いリズムに共感していたいんだ!

ゴウゴウと音を立て橋を渡ってゆく忙しない車の流れに僕も乗り、
まるで吸い込まれる様に橋の向こう側の世界へと走り去る。

僕にとって、この橋を越えるのは二回目だった。
勿論、一回目は・・・今から3ヶ月前の、あの“ムコウ側”へと・・・


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爽やかな空気がゆっくりと流れる、秋晴れの気持ちの良い一日だった。

橋を過ぎて暫く続いていた2車線の大きな国道も、東に進むにつれて
徐々に狭まっていき、いつの間にか“普通の道路”になっていた。

市街地を離れ緑や田畑の中を進むこと数キロ、隣町との境目の辺りの、
車と車がすれ違うのがやっとな程のこの路地へと折れて更に進むと・・・


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コスモス(秋桜)


秋きぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる


・・・とは言うものの、細い路地の道端で僕を出迎えてくれたのは、
華奢な身体のてっぺんにピンクや白の帽子を被った可憐な淑女たち。

この秋の訪れを告げる花が、のどかな田園風景に季節の彩りを添えていた。


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 また帰りに会おうね!


心の中でそう呟いて更に進むと、直ぐにこの坂道に直面する。
見た目以上に急なこの坂を上った先で待っているのは、
これから僕が訪れようとしているあの場所だが・・・

坂の入口では小さい秋の案内人がそっと手招きしてくれた。


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ヒガンバナ(彼岸花)


Arnoldが消え、そしてCindyも消え去った“ムコウ側”との分岐点が
あの小川に架かる例の橋だとするならば、この坂道の入り口こそ、
この先で響き渡る“暮らしのリズム”の地との分岐点なのだ!


今しか見えない真っ赤な君が、こっそり僕に教えてくれる。
こっちの道だよ早く行きなと、ゆったり身体を揺らしてる。


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僕が向かおうとしているのは、彼が絶賛し、感嘆していた食の店。
地元の食材を、季節の食材を、店主の魔法が最高の料理に仕上げてゆく。

そんな空間を祝福しているかの様に、この地の自然が季節の看板を掲げる。
栗に・・・柿に・・・秋ならではのお出迎えに僕の期待は更に膨らむ。


そして、坂を上り切り密集した住宅地をくねくねと曲がってゆく。
傍らの地図も車のナビも機能しないこの地は、先程出会った彼岸花が
まるで“コチラ側”の世界にようこそ、と示唆していた様にすら思えてくるのだ。

そんな妄想が頭の中を巡り初めてきた、まさにその時だった。
それまでの変哲無い住宅が開け、目の前に趣きを異にする建物が現れた。


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 はじめまして、年配の先客さん。

 あの彼より早いなんて流石!!って思っていたけど・・・
 相変わらず一番乗りで指定席に座っていらっしゃるのですね。

 今度は反対側にもこんなに魅力的な建物が出来たから、
 どちらを眺めていようか迷ってしまうのではないですか?

 

そうなのだ・・・実は駐車場を挟んだ直ぐ向かい側には、彼の日記にも
紹介されていなかった開放感溢れる素敵な小屋が建てられていたのだ。


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控えめな文字でINSIDE GARAGEと書かれた木の看板。
味のある古木の柱に水色のトタン屋根とガラス張りの外観、
加えて大きな扉(かな?)や沢山の窓は全て開け放たれていた。

建材だけを考えれば古き良き昭和の建物と言えなくも無いが、
明らかに古材や廃材を使用して建てられたと思われるのに、
古びた印象が全くしないのは逆に新鮮な感じがした。


新しいリズムがまた一つ、軽やかに鳴り渡っていく・・・


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回り続けるのが疲れたら、此処でひと休みしていけばいいじゃないか。
でも、居心地が良すぎてちょっとのつもりがいつの間にやら・・・


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このベンチにだらりと深く腰掛けて、一日中何をするでも無く
ただ屋根から差し込む緩やかな日差しをぼんやりと浴びていたい・・・

此処だったらそれも許されるのかも知れないね。
だって、この空間には特別な時が流れているのだから・・・


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ほら、その証拠に君だって思い思いの時を刻んでいるじゃないか!


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棚にはホワイトとアイボリーの食器が並んでいた。
確か、以前は1階のカフェに置かれていたっけ・・・

ひんやりとした肌触りなのに、何だかとっても温かい。
シンプルなデザインなのに、どういう訳か忘れられない。

君たちを見ていると、このお店そのものがギュッと凝縮されているみたい。
此処で食器を購入される方たちは、きっとそんな想いで連れて帰るんだろうね。


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雨風に晒されて所々剥げ落ちた木の板が張り巡らされた外観。
入り口の傍に掛けられている、錆びて赤茶けた丸いランプ。
そこには5年間の歳月が作る風合いや重みが感じられた。

そんな、まるで細長いチョコレートのバーを壁一面に貼り付けた様な
どこか可愛らしい焦げ茶色の建物を眺めていて、ふと僕は思った・・・

きっとこの店の店主は甘い物が大好きなんだって・・・

だから彼も足繁くこの場所にやって来たのかな?


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 どう?、イカシテルでしょう?

 彼女、キャロルって言う名前なんだ!!



うん、とてもキュートな貴女にお会いできるなんて・・・


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そうそう・・・僕はカフェに来たんだ。
でも、もうちょっとだけ待っていてくれないか?


だって・・・


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彼が教えてくれたこの店のオススメのコースは、先ずは2階だったよね。


カフェ入り口の脇にある、茶色くなった階段を、
カンカンカンと音立てて、ドキドキしながら上ってく。

2階のお店で待っている、飛び切り美味しいお料理を、
ムシャムシャムシャと音立てて、ワクワクしながら頂きます。


そんな想像をしながら階段を駆け上がろうとした、
まさにその途中で、僕を出迎えてくれたのが・・・


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 そうそう小鳥さん、是非ともキミに会ってみたかったんだ。

 彼の日記ではポストの上でひと休みしていたけれど・・・
 やっぱり電線(?)の上がよく似合っているよ!!



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ドアの右手のカウンターには大小様々な皿が整然と積み重ねられ、
目の前にはカップやグラスが丁寧に掛けられ、ワインなど酒瓶が並ぶ。

こんな、全く気取る事の無い、でも本当に絵になるカウンター。
その奥では店主が無駄の無い手捌きでフライパンを振っている。


そう・・・僕はこんなクッチーナの光景に憧れていたんだよ!!


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反対側に視線を向けてみると、そこにはランチの時間を前にして
綺麗にセッティングされたダイニングが、静かにその時を待っている。

これから始まる賑やかなひと時とは裏腹に、ひっそりと静まり返った空間は、
2階の窓から差し込む淡い日差しとテーブルランプのやわらかい光だけが、
ゆったりとしたアコーステッィクな響きを奏でているみたいだった。


窓際の席に座った僕は、ふとベランダの方に視線を向けてみた。


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可愛らしい菜園を見つけたよ。

こんなに大事に育てられた野菜を頂けるのだから・・・
うん、モリモリと豪快に食べようじゃあないか!!


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マリネしたパプリカのサラダ


存在感のあるサラダだ。

シャキシャキっとした葉野菜とザクザクのシリアルの、音まで楽しい食感や、
アクセントと片付けるには勿体無い、シャクシャクと甘酸っぱい梨のトッピング。

そして、サラダのメインにもなっている赤やオレンジ、グリーンの
色鮮やかなパプリカのマリネの、ひんやりねっとりした舌触り。
丁寧にソテー&マリネしたパプリカは柔らかさを通り越して、
トロトロとした感触からジューシーな甘みが広がってゆく。

これだけの個性を一皿にまとめてしまうなんて・・・
このお店の店主は何という実力のコンダクターなんだ!!

・・・なんて思いながらいつの間にか皿は空っぽになっていた・・・


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ミネストローネ


温かい気持ちになれるスープ。

複雑さと一体感の奇跡の融合・・・大袈裟な言葉が大袈裟でなくなる瞬間。
しかも、それはたった一杯の・・・こんなに小さなカップの中の話。

あのホーローのカップは先程のひんやり冷たい感触とは打って変わって、
そっと抱いた手のひらいっぱいにじんわりと温もりが心地良く伝わって・・・
フーフーしながらひと口すすると、トマトの優しさがふわっと広がって・・・

とても不思議な感じと何故か懐かしい感じが身体全体に染み込んでいくみたい。


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カボチャのミルクカレー


感動的なカレー!!

彼、Cindyがこのお店で初めて食べた料理がこのミルクカレーだった。
この地にやって来るまでに、色々な秋が僕を出迎えてくれたね。

そして、そのメインを飾るこっくりとした甘いカボチャの優しい風味が、
ミルキーなまろやかさと共にスパイシーなカレーをマイルドに仕上げてくれる。

しかも、トロトロに焼かれたトマトから弾けるキュンとした強い酸味と
焦げた表面の皮の香ばしさと一緒に、更に味わい深いカレーへと昇華して・・・


カレーが好きなんだ。

母さんが作ったカレー・・・
学校で食べたカレー・・・
あのカフェのカレー・・・

カレーが僕を、満たしてくれる。
身体も心も、満たしてくれる。

そう、カレーが大好きなんだ。


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スイーツは1階のカフェで頂く・・・
これが、このお店の流儀だったよね・・・

あれっ、さっきまで階段のところにとまっていた小鳥さんも
遊び疲れたのか、可愛らしい巣に戻って羽を休めていた。


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そして、1階のカフェでどうしても僕が会いたかったのが、
このキッコーパンと書かれた、赤と白のパンの棚。

彼が紹介してきた、あのふっくらと焼けた美味しそうなパンに・・・
いつも指をくわえながらパソコンの画面に釘付けになっていたんだ。


それから、もう一つ・・・


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ロケットランチャーだなんて言っていたけれど・・・

このコーヒー豆の瓶を見る事が出来るなんて、ちょっと感激したよ。


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 おや、また貴女にお会いしましたね。
 しかも、“お友達”とご一緒だなんて。

 僕は・・・また一人でやって来たけど・・・



この空間には四季のリズムもあるみたい。

今は秋、ちょっと切ないセピアな調べが物静かに囁いて・・・
何処かもの悲しいのに、何時までも身を委ねていたい旋律・・・


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 小鳥さん、アナタもこのリズムに誘われて来たんだね。


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エスプレッソとくりのシフォン


切ない秋の大人のケーキ。

フォークを刺そうとした瞬間に感じる、スポンジの様に押し返す弾力。
ひと口頬張った際の、しっとりした口当たりなのにふわっふわの食感。
ほんのりとした甘さの中から段々と広がっていくまろやかな栗の香り。
栗の風味にとても良くマッチした、仄かにビターなコーヒーの風味。


甘い物好きの店主だから・・・季節を大事にするお店だから・・・
スイートな秋の味覚に満たされて、まったりのんびり出来るんだよね。


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心地の良いランチのひと時を終えた僕は、気さくな店主に感謝の言葉と
近いうちの再訪の約束を告げ、名残惜しくもこのハートフルな空間を後にした。

こんなにも気持ちの良い時間と空間を体験出来るなんて、彼が入れ込んで
何度と無く足を運ぶのも納得できるのだが・・・たった一つだけ、気掛かりが・・・


そう、それは勿論、肝心のイニシャル「カ」の花について・・・


 折角素敵なカフェに巡り合えたのに・・・
 最高のひと時が送れたのに・・・

 なんかリズムが狂うんだよなぁ・・・



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結局「カ」の花を見つける事が出来なかった僕は、少し落ち込み気味に帰路についていた。
来た時に通った国道のこの大きな橋を渡り切ると何だか本当にお別れするみたいで、
花が見つからなかったのとも相俟って寂しい気持ちが込み上げて来たのだ。

もう少し橋の写真を撮ろうと車を停めて土手の方を覗き込んだ時だった。
土手の中央には、非常に鮮やかな真っ赤な絨毯が一面に敷き詰められていた。

その鮮やかな赤色にすっかり気を取られた僕は、引き寄せられる様に近づいてみた。


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「カンナ」


そう・・・こんな所で待っていてくれたのか・・・

まるで貴婦人のドレスの様に優美な曲線を描く赤や黄の花弁。
幅広でつるつるした表面の葉は鮮やかな色彩の花弁とも相まって
南国の花を連想させるが、何と江戸の初期には栽培されていたそうだ。


華麗な舞踏会のワンシーン・・・

赤い刺繍の入った黄金色の柔らかなドレスは午後の日差しを浴びながら、
時折の微風に吹かれてまるでワルツを踊っているかの様に優雅に舞っている。

でも、もう既に綺麗なドレスを脱ぎ去ってしまう者も・・・


初秋に咲いた赤と黄色の、ほんのひと時の夢の饗宴。
儚い夢は、また元の砂利と雑草の土手に戻ってゆく。


そして僕も“アチラ側”に別れを告げて、橋から離れる事にした。


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ゆっくりだったり速かったり、前に進んで後ろに戻って、
リズムにのって躍動してて、ちょっと止まってまた進み出す。

新しく出来たところに、古い物を置いたりなんかして・・・
聞いた事の無い料理なのに、懐かしかったりして・・・
とても賑わっているのに、落ち着いた雰囲気で・・・

毎日の単調な繰り返しを、よく分からないモヤモヤした気分を、
ワクワクとした気持ちに変えてくれるひと振りのスパイス。

迷った時はまた来よう!
素敵なリズムに酔いしれよう!


狂ったリズムをチューニングして、新しい旋律も加わって、
僕はまた毎日を歩み続けて行くんだね・・・彼の元へと、また一歩・・・
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by mary-joanna | 2009-09-30 17:47 | 我が世誰ぞ

ワ.僕の友達・後編

~白いネコさんに捧げます~



少年は寂しそうに部屋の窓から外をぼんやり眺めていました。
何を見るでも無く、たまにハァ~っとため息をつくばかりです。
実は今日、ある悩み事をかかえて家に帰って来たのです。


それは・・・

学校の課題でクラス全員の一人一人がそれぞれ異なった花を紹介する事になりました。
草花や自然、季節の風物詩にもっと興味や関心を持とうというのが課題の目的で、
先生は生徒たちに自分が調べてくる花の名前が書かれた白い紙を渡しました。

バラ・・・チューリップ・・・マーガレット・・・

用紙に書かれた花の名前を見て喜んだり、隣りの生徒を羨ましがったり、
一緒に花屋さんに行こうって相談したり、みんなとっても楽しそうです。

だって、どの花も綺麗で可愛くて華やかで・・・思わずワクワクしてきます。


でも、少年は自分が紹介する花がどうしても好きになれませんでした。
パソコンの画面に映し出された花の画像から目をそらし呟きました。


 どうして僕だけこんな変な花なんだろう・・・

 テルくんは菊になって(?)とっても喜んでいたし、
 キヨミちゃんだってカーネーションになって嬉しそうだった。

 それなのに僕が調べる花ときたら、何だよ、この・・・
 
 豆つぶみたいに丸まっていて・・・
 枯れてるみたいに黒ずんでて・・・
 クシュクシュっとして、これって・・・まるで毛虫じゃないか!!

 先生は“秋の花”だからって言ってたけど、こんなの花なんかじゃ無いよ。
 僕、こんな変な花、好きになれない・・・こんな毛虫みたいなの、きらいだよ!!



まだ2学期も始まったばかりの9月始めの頃ではありますが、日中の暑さも朝晩には
和らいで、時折り窓から吹き込む夜風が肌寒く感じる様にさえなってきました。
もう今夜は布団に入ろうと開け放していた窓に手を掛けたその時でした。

何と、一匹の白いネコが部屋の中に飛び込んで来たのです!!


 あっ、コラ!! パソコンに乗っちゃ駄目だよ、ネコさんっ!!


キーボードに乗ったかと思うと、そのネコはまた窓から去っていきました。

真っ白な短い毛並みが綺麗なネコが去り際に少年の方を振り向いた、
気品に満ちた表情と、澄み切った青い瞳が少年には忘れられませんでした。


 いやぁ、いきなりネコさんが入ってくるんだもん、ビックリしたよ・・・


少年が改めてパソコンのスイッチを切ろうとしてモニターを見た時でした。
パソコンの画面にはさっきまで調べていた花の画像とは全く別の、
あるイベントを告知するページが映し出されていました。

暫く眺めていた少年は、パソコンを消すのを止めてメモを取り始めました。


 何だ、コレってもう明後日じゃないか!!

 明後日の日曜日は花屋さんに行こうと思っていたけど、でも、
 ここなら自転車で行けるトコだし、それに、ここに行けばきっと・・・



ちょっぴりワクワクしながらベットに入る少年なのでした。


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森の中に不時着した未確認飛行物体・・・

緑の木々に見え隠れしながら銀色に輝く巨大な円形の物体を
少し離れた歩道橋から見ていた少年はそんな想像をしていました。


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円盤の側面をぐるりと取り巻いている無数のガラス窓。
まるでソーラーパネルみたいな姿に、この建物は実は本当に
大型スペースシップか何かで、中には宇宙人が乗っているのでは・・・

そんな空想を巡らしながら、少年は暫くこのドーム状の建物を見上げていました。


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予定の時間より早く着いたので、直ぐ側の土手を下りて川岸まで行ってみました。
川の中央では釣り人が非常に長い竿を垂らしているのがぼんやりと見えます。

更に少年はこの川岸にそって生い茂っている灌木や草原の方に歩いてみました。


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コンクリートに囲まれた街の中では気付きませんが、
少し視点を変えてみれば、もうすっかり季節は秋なのです。


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クズ(葛)


草むらの中で紫色をした小さな花のかたまりを見つけました。
鮮やかな紫色の蕾は下の方につれ綺麗な赤紫の花を咲かせます。

まるで小さな蝶々が寄り添う様に集まって羽を休めている様な姿に
少年は暫し見惚れ、あまり花屋さんで見かけない事を不思議に思いました。


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センニンソウ(仙人草)


四方にピンと伸びた真っ白で細長い花弁と、同じく真っ白な糸の様な雄しべは、
確かに白髪に白髭、白い着物のほっそりとした風貌の仙人の雰囲気に似ています。

見た目だけで無く、何処かその凛とした佇まいまで仙人らしさを感じさせます。


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さて、イベントの開始が近づいてきました。

土手を上って芝生を抜けて、いよいよドームの中に入ります。


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階段を上り切ると、目の前には大きなビルが建っていました。


 あのビルのてっぺんからの眺め、きっと最高だろうなぁ~♪


昨日までの憂鬱な少年は何処へやら、すっかりウキウキした気持ちで
周りの景色を眺めながらドームの外周に沿って歩いていきます。


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 いよいよ“宇宙船の中”に潜入するぞ~!!


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県内最大級の屋内アリーナとして、大小様々なイベントが連日行われているホールです。

この日は休日という事もあって大人は勿論、少年と同世代の子供たちばかりか、
パパやママと一緒にやって来たちびっ子たちもみんな仲良く遊んでいます。


そして、この1階正面入り口から入ったロビーの直ぐ向かい側の会議室こそ、
今日、少年が訪れようとしていたイベントの会場になっていたのでした。

中には雑貨屋さんやお菓子屋さん、パン屋さんにアクセサリー屋さん・・・
更には洋服屋さんや家具屋さんまであるではありませんか!!


 こんなにも楽しそうなイベントがあったなんて、僕、知らなかったよ!
 ところで、え~っと・・・あっ、あっちの方にあるお店ってきっと・・・



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少年がやって来たのは、イラスト&手拭い屋さんです。

そして、このイラスト&手拭い屋さんのお店番こそ他でも無い・・・


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 やあ、白いネコさん、こんにちは。  

 昨日はこんなに素敵なイベントを紹介してくれてありがとう。
 僕、実はあの時、悩み事があってちょっと落ち込んでいたんだよ。
 でも、ネコさん知らせてくれたおかげでこのイベントに来れたんだよ。

 ところで、ネコさんのお店って楽しそうな友達がいっぱいいるね!!

 

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薄暗い濃紺の水の底でギョギョっとしているおさかなクンに・・・


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でっかいクジラさん&ちっちゃなこいのぼりちゃんのデコボコツーショット・・・


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おさかなクンたちの下にはびよ~んと伸びたワンワンもいました!


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ネコさんの友達は動物たちばかりではありませんでした。

みょ~に困った感じでちょこっとひと休みしようか迷ってる(?)彼・・・


 ねぇ、おじさん(お兄さん!?)、大丈夫?
 僕も困っていたんだけど、ネコさんやみんなを見ていたら
 何だかとっても楽しい気分になって、元気も出てきたんだよ!

 せっかくだから・・・あっ、あれって・・・!!



少年が振り向いた先には可愛らしいイラストの描かれた
ハガキサイズのポストカードがディスプレイされていました。


 ネコさん、今日は本当にありがとう。
 僕、学校の課題、出来そうだよ・・・だって・・・




ネコさんに別れを告げて巨大なUFO(?)ドームを後にした少年は、
直ぐ側を流れている川沿いのサイクリングロードを北に向かって進みます。


 ここから先はまだ自転車では行った事が無いんだけど、
 昨日一緒に調べておいたあのお店がこの先にあるんだよね!
 
 

車だったら15分もあれば到着する位の道のりでしょうか、でも、自転車の、
しかも少年にとってこんなに長い距離のサイクリングは生まれて初めての経験です。

何度も足を止め、(一本道なのに)地図とにらめっこしながらペダルを踏みます。
そして、大きな公園と植物園を越えレストランや綺麗なお店が建ち並ぶ通りまで
辿り着いた少年は、こぐのを止めて少し前にコンビニで買った水を飲み干しました。


 どうやらここが、昨日僕が見つけたパン屋さんみたいだ。


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淡いクリーム色の壁と明るいオレンジ色の瓦屋根、柱にはレンガのタイルも貼ってあります。
とても素敵な雰囲気で、まるで雑誌かテレビで見た外国のパン屋さんにやって来たみたい。

それに、お店の前にだって・・・


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 これって東京タワーかな?・・・ちょっと違うみたいだけど、カッコいいなぁ~!



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 このお店は緑やお花がいっぱいで、何だかとっても気持ちがいいよ。
 僕の花はこんなじゃ無いけど、でももう大丈夫、だってネコさんのトコで・・・

 そう言えば近所のパン屋さん以外で一人で入るのって初めてだっけ?
 ちょっとドキドキするけれど・・・おじゃましま~す!!



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シンプルでスッキリとした印象のパンの棚がとてもオシャレです。
ゆったりと置かれたパンの一つ一つが気持ち良さそうで・・・美味しそう!!

次々と訪れるお客さんたちで見る見るうちに売れていきますが、
その度に焼き立てのパンがまた気持ち良さそうに並んでいきます。


他のお客さんに負けじと、少年もお目当てのパンを探す事にしました。
店内をぐるぐる回って・・・おやっ、何か気になる物を見つけたみたいです。


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 わぁ~、これって外でさっき見たあのタワーだよね!!

 きっとこのタワーがある街にも美味しいパン屋さんがあるんだよね。
 僕の街にはUFOがあって・・・こんなに素敵なパン屋さんもあったんだね。

 あっ、僕も早くパンを決めないと全部売り切れちゃうよ!



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 え~っと、んっ!?・・・ゾウさん、こんにちは♪
 何かオススメのパンはありますか?



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 可愛いぞうさんがいっぱい!!
 ありがとう、ぞうさん・・・今日はとっても楽しかったよ。



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クロワッサン


見ただけで伝わってくるパリパリの表面は軽く触れるだけでもハラハラと崩れ、
ひと口食べるとザクザクっとした気持ちの良い音を立てて消えていきます。

同時に口の中いっぱいに広がるバターの風味と仄かな甘さ。
中の層はふんわりやわらかくて、ふわっと無くなるのです。

あのタワーの街のパン屋さんにも負けないクロワッサン、
どうやら少年の心もクルっと巻き込んだみたいです。


そして、この日少年が大切に持ち帰ったもう一つのパンが・・・


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ぞうさん&ちびぞうさん


そう、お店で出会ったぞうさんの親子です!!

ふんわりやさしい卵の香りの、とってもやわらかぷくぷく親子。
ジャリジャリっとしたお砂糖と、ほんのり甘~いパンの生地。

でも、ほっぺたは勿論、思わず笑顔もこぼれる可愛い親子に
すっかり少年は夢中になってしまったのでした・・・


さてさて、お腹も心も大満足になった少年は、学校の課題に取り掛かりました。
そうそう、少年が調べる事になった花を言っていませんでしたね・・・


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「ワレモコウ(吾亦紅)」


 クラスのみんなの綺麗で可愛い花の話を横で聞きながら、
 ひとりぼっちでさみしい気持ちになった僕だったけど・・・

 思わず“きらい”だなんて叫んでしまった、

 豆つぶみたいな・・・
 枯れてるみたいな・・・
 クシュクシュっとした・・・

 そう、まるで毛虫みたいなキミだけれど・・・

 あの、白いネコさんや愉快なネコさんの仲間たち、そして・・・
 パン屋さんのぞうさんたちのおかげで、僕、キミと友達になれそうだよ!


 だから、もっと僕と一緒にいてくれないかい?



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確か小5だったかな?
クラスみんなで一人一つずつ違った花を調べたのって・・・

あの頃は小学校でインターネットなんて訳にはいかなかったから、
休み時間や放課後にはクラスのみんなが図書室に直行したり、
日曜日には友達と約束して花屋さんに行ったりもしたっけ。

えっ、僕が調べた花は「ワレモコウ」だって?

いやいや、たぶんヒマワリかユリだったかな・・・

華やかで・・・
鮮やかで・・・
美しくて・・・

それに、その頃の僕は「ワレモコウ」の存在すら知らなかったよ。

でも、たった一人で花を撮り続ける僕には、この・・・

クシュクシュで・・・
ボソボソで・・・
ツブツブで・・・

まるで毛虫みたいな奴が友達の様に非常に愛おしくて・・・
そう、遥か彼方のゴールを見つける今の僕には・・・
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by mary-joanna | 2009-09-23 23:21 | 我が世誰ぞ

ヲ(オ).僕の友達・前編

ある時は叱咤激励をしてくれて、
ある時は厳しい活も入れてくれる。

間違っている時はハッキリと指摘してくれるし
時には辛口のコメントで僕に刺激を与えてくれる。

でもね、他の誰よりも早く知らせてくれたり・・・
こっそりと大事なヒントを教えてくれたり・・・
心温まる言葉で元気付けてくれたり・・・

そして・・・

これまでずっと見守ってくれて、密かにずっと足跡を残してくれた、
まだ直接会った事も無ければ、顔はおろか声さえ聞いた事の無い存在。


でも、僕にとってはかけがえの無い・・・先輩・・・仲間・・・

あっ、友達・・・っていうのかな・・・

いや、友達っていうのは僕の一方的な片想いに過ぎないのだけれど・・・


Cindyにとっては、“あの人”がまさにその様な存在なのかも知れないね。
そんな“友達”が彼にあの場所を紹介してくれてから、もう彼是半年以上が経つ。
それは彼に、「ゆったりした時間が過ごせる」と紹介してくれたとっておきの秘密の場所。

1月末の、寒々とした薄鉛色の空の下に広がる庭の剥き出しの地面や
葉の付いていない木の枝は何処か寂しそうな雰囲気を醸し出していたが、
来るべき新しい生命の息吹に備え、みんな土の中で祝福の準備をしている、
そんな気がして僕にとってはこの冬の光景がかえって大きなインパクトを残していた。

でも、お家の中に一歩足を踏み入れると、其処に広がる空間と言ったら・・・



のんびりさんが夏休みの宿題に追われて慌て始める8月も終わり、
僕はその方が紹介してくれたとっておきの場所に出かける事にした。

大きな通りを斜めに入って暫く進むと更に細い路地へと続いてゆく。
まるで迷路の様に入り組んだ細い路地の左右にはグレーのブロック塀と、
地面から突き出たコンクリートの電柱には何本もの電線が張り巡らされている。

辺りは全く以って街中の住宅街といった面持ちだけれど、僕の心はワクワクしていた。
だって、今通っているこの細い路地は、僕にとっての「恋人の小径」なのだから・・・

そしてこの路地を縫う様にゆっくりと車を走らせると視界の先に緑の茂みが現れる。
屋根と屋根の隙間から見え隠れする木々に誘われる様に進むと次第に前方が開けて・・・


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直ぐ前の少し広くなった駐車場に車を停めて門の方に恐る恐る近寄ってみた。
薄水色のアイアンフェンスは塗装も剥げ所々ひどく錆付いて赤茶けていた。
更にそのフェンスを取り囲む様に下草や灌木が茂り、あたかも森の中で
偶然辿り着いた、年季の入った古びた洋館の外観そのものだった。

でも、それ以上に僕の目を釘付けにしたのは、フェンスの端から這い出る様に、
また、奥の建物を遮る様に正面の門の上に伸びる蔓バラで出来たアーチの入り口、
それは此方側の現実の世界と向こう側のおとぎ話の世界とを繋ぐトンネルの様にも思えた。

で、僕はそんなおとぎ話の中から、“あの物語”を想像しながら、既に花が落ちきって
すっかり葉だけになった緑のアーチをくぐってゆく事にした・・・綺麗な蔓バラを思いながら・・・


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カラッとした清々しい空気と目にも鮮やかな緑に満ち溢れた庭は夏の情景だけど、
一面の青空に千切れんばかりに薄く広がる白い雲が秋の訪れを告げていた。

そんな空色と黄緑に囲まれて、二階建ての可愛らしいお家が建っている。
その家のペールグリーンの大きな切妻屋根にはドーマーの真っ白な窓枠が二つ。


屋根裏部屋からあの娘が物思いに耽りながら庭の方を眺めている気がして・・・


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ヒマワリ(向日葵)


あの物語の主人公が初めて家にやって来たのは6月初め頃だろうか?
グリーンゲイブルズ周辺ではバラは勿論、山桜やライラックなど綺麗な花々が
これから始まるファンタジーを祝福するかの様に、彼女の到着を出迎えてくれたよね。

でも今は8月、僕の前には背高のっぽのヒマワリくんが大きな黄色の麦わら帽子を
ゆっくりと揺らしながらその大きな眼でジィ~っと僕を見つめていた・・・ヤァ、コンニチハ!


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ケイトウ(鶏頭)


その直ぐ向かい側ではニワトリくんがご自慢の真っ赤な鶏冠をピンと立てていた。

建物に向かう小路をぐるりと見回してみると他にも鮮やかな紫のサルビアや
オレンジ色のヒャクニチソウなど、とても色鮮やかな光景が広がっていた。

“メイフラワー”じゃあ無いけれど、“サマーフラワー”だって悪くないよね。


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庭の綺麗に刈り込まれた芝生の真ん中にはテーブルとベンチがが置かれていた。
こんな天気の良い午後だったら、ダイアナと一緒にのんびりお茶もいいかもね。


ピョン・・・ピョン・・・

んっ!?・・・そっちに誰かいるのかい?


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やぁ、ウサギさん、コンニチハ!

君もこの清々しい青空に誘われて遊びに来たんだね。
それにしても此処はとても気持ちの良い場所だね。

あの人が寛ぎに訪れる訳が僕にもわかったけど・・・
えっ、お家の中はもっとのんびり出来るって?


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やわらかな午後の日差しが真っ白な壁をほんのりアイボリーに染めていた。

入り口のドアの脇にはドライフラワー束が掛けてあり、初めて入るお店なのに
何処か懐かしさすら感じられる、幼馴染みの友人の家に遊びに来たみたいだった。


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家の中は奥行きがあって、思っていたのより広々としていた。


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ピカピカに磨かれたフローリングには可愛らしいテーブルと木製のダイニングチェアー。

何年もの間、丁寧に使われてきたこれらの家具たちはこの空間にとても良くマッチして、
まるでアメリカかカナダの片田舎の一軒家に食事を御馳走に招かれたみたいだった。


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エアコンの冷たい空気も良いけれど、此処にはやっぱり君が似合うね。
あぁ・・・そう言えば、この前も君みたいな扇風機に会ってきたところなんだ。

あのお店も凄くまったりと寛ぐ事が出来てね・・・


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ジャムとケーキの店番は君が担当なんだね。

いつもは優しいけれど時には鋭い眼差しでこの家を守ってくれる、
とても頼もしい君だったらみんなが安心してのんびりと過ごせるよ!


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そうそう、確か此処は自家製ハーブのお店だって、あの人が教えてくれたっけ。

ポプリに・・・ドライフラワーに・・・ハーブに・・・

そう言えば、あの娘が初めて日曜学校に行く時、道端に咲く花を摘んで
帽子の花飾りを作っていたけど、花って色々と素敵な楽しみ方があるんだね・・・


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実は何処に座るかは最初から決めていたんだ。

窓と壁に挟まれた小さな白いテーブルは、決して広くは無かったけれど、
外の庭を眺める事が出来たし、それにゆったり一人の世界に浸る事が出来た。

でも、一番の理由は何と言ってもあの人が座った席だから・・・
そして、“彼との”ツーショットまで見せられたのだから、もう・・・


ライムグリーンの窓枠を開けると、そのスッキリとした色合いにも負けない位の
清々しい爽やかな微風が、時折り僕の肌を心地良くさすってくれる気がした。


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ハーブティー


店長さんに相談して決めた、リフレッシュ出来るブレンドのアイスティー。

スゥ~っとしたミントの爽やかな薫りのスッキリとした味わいが、
ひんやりと喉を潤してくれると同時に、不思議と気分もリラックスして・・・


これまでの僕の旅っていつも何処か張り詰めた感じがあるのだけれど、
この瞬間、全てを忘れて心からまったりと出来るのだから・・・

もうこの感触はやめられないんだよね、きっと・・・


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ひみつの森のケーキ


スパイシーなシナモンのやわらかな香りがふんわりと広がってゆき、
その心地良い香りに誘われるままにフォークで分けたひと口を頬張ると、
非常にしっとりとした食感なのにとてもやわらかで口の中でフワッと溶けていく。

生地の優しい甘さにレーズンの凝縮された濃厚でねっとりとした甘酸っぱさや
シナモンの爽やかな甘さが複雑に絡み合って、更にはコリコリとした胡桃の歯応え。


「お化けの森」がそのモデルなら、きっと可愛くって優しくって楽しいお化けに違いない。

全ての魅力がが一つの森の中に・・・
アンが遊んだ秘密の森の中に・・・


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ゆっくりとケーキとお茶を頂きながら、この窓枠の向こうに広がる庭の眩しい緑を
眺めながら僕は、今回のイニシャル「ヲ(オ)」についてぼんやりと思案を巡らせていた。


 やっぱりこの物語の舞台に相応しい“あの花”がいいんだけれどなぁ・・・
 でも、今は8月、季節外れと言ってしまえばそれまでなのだけれど・・・



手作りのケーキとお茶と、そしてこの非常に素敵なお家と庭に囲まれながら、
まるであの物語の主人公みたいな優しくて明るい店長さんの笑顔に触れながら、

 ほんのひと時迷い込んだファンタジーの世界が永遠に続いて欲しい・・・


僕は、コンクリートとブロック塀に挟まれた細い路地に戻る際、そう呟いていたのだった。


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のんびりさんも何とか夏休みの宿題を終えて元気に出掛ける9月の初め、
僕は今回のイニシャルを見つけるべく、ある場所へと車を走らせる事にした。

そしてやって来たのは、そう・・・


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現在は秋バラに向けての剪定作業が行われて殆んどバラは咲いていないよ、との事だったが、
全く如何して、数は少ないものの、初秋の強い日差しの下でも綺麗な花を見せてくれた。

そんな中、僕は“ある種類”のバラに絞って広大な敷地を歩き回っていた。


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シャトー・クロ・ヴージョ


1908年にフランスで作出されたこの華麗なバラは、その名が示す通り、
まるでブルゴーニュの特級ワインの様な濃厚なルージュの花弁が魅力的だった。


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ピンク・グルス・アン・アーヘン


こちらは打って変わって愛らしい仄かなピンク色が可愛い印象を与えてくれる、
1929年に同じくフランスで作られたとされるオールト・モダン・ローズだった。


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パスカリ


真っ白なバラもあり、その神秘的な姿に僕は様々な事を連想していたのだ。

ベルギーで1963年に作出された品種だそうだが、歴史の長いバラにとっては、
40~50年前のバラでは、まだまだ“新入り”の部類にはいってしまうのだろう・・・


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バラ(アレンジ)


更に、敷地内にあるドーム型の温室にはこんなにも華麗なバラのアレンジも
展示されており、思わず足を止めて暫くの間、僕は魅入ってしまっていたのだった。


でもね・・・やっぱり何かが違うんだよね・・・

この場所にやって来た目的は今回のイニシャル「ヲ(オ)」の花として、
当初、「オールドローズ」を考えていたからだったのだけれど・・・
(1867年以前の品種を“オールドローズ”と呼ぶそうです)


アンの物語に出てくるウットリする甘い香気を漂わせながら輝くバラたちは、
新緑が一斉に芽吹き気持ち良く茂る6月の緑の中で咲き誇るからこそ、
そう・・・最も美しくなる季節だからこそ最高に僕の心を揺さぶるのだ!

夏の間、直射日光に晒され続け、梅雨や台風に震え、疲労し衰弱しきって、
それでも最後の力を振り絞るように気品に満ちた振る舞いで出迎える貴女の、
その痛ましい姿に僕は悲しい気分になってカメラを向け続けるのをやめる事にした。

僕があの“友達のお家”を訪れたのは8月終わり、秋の薫りが漂い始める頃だった。
だから、もし物語のあの娘がこの季節にプリンスエドワード島にやって来たら、
きっとまた違った素晴らしい草花が彼女を出迎え、虜にしてくれた事だろう。

そして僕が探している花だって、あの娘が感激した“メイフラワー”の様に、
この季節に最も美しい姿を見せてくれる花になって欲しいのだった。


そんな事を考えながら僕はばら園の周りをとぼとぼと歩いていた。
すると、端の方の花壇を埋める様に淡く黄色い小さな花が咲いていた。


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「オミナエシ(女郎花)」


秋の七草にも数えられる、古来から日本の秋を象徴するこの花を、
日本に生まれ育った僕は、今の今まで注目する事は無かったのだった。


こんなのあるのか分からないけど、まるでレモン味の綿菓子を
みんなで千切ってちっちゃなひと口サイズに分けたみたら、
ふんわりふわふわ、甘酸っぱい香りと一緒に浮いている・・・

淡く滲んだ黄色いつぶつぶ、ちっちゃくって可愛くって、
でも、みんな一人じゃ心細いから肩寄せ合って、くっついて・・・

そしたら可愛いお花になって、秋晴れの空でお休みしている
もくもくっとした、ちょっと変わった黄色い雲になっちゃった・・・


こんな花だったらあの娘だってきっと飛び上がって喜ぶんじゃあ無いかな?
そして、飛び切り素敵な情景を想像するに違いないよ、あの娘だったら、ね!


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 ばらが話せたら、すてきじゃないかしら。


季節外れのピンクのバラを眺めながら、あの娘が呟いた言葉だったね。


 君のバラは世界に一つしかないって事がわかるはずだ。


別の友達からは大事な言葉ももらっていたっけ・・・


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ひみつの森のケーキ(おみやげ)


しっとりとした濃厚な甘さを噛みしめながら・・・
爽やかなシナモンの薫りにウットリしながら・・・

僕は、あの夏の終わりの、“友達のお家”で過ごした素敵なひと時を、
秘密の小路と小さな森の先にある、“可愛いお家”のひと時を思い出していた。


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冒頭に綴ったのは、僕の、例の“友達”へのオマージュである事は言うまでも無い。

そして、え~っと、そう、何と表現したら良いのか上手く言葉に出来ないのだが、
そんな僕の憧れの友達が更に憧れていたあの方に、その友達、Cindyを
差し置いて何と僕の方が直接お会いする機会が巡って来たのだ!!

先日の、あの“お手伝い”を神様が見ていてくれたのかな?


月夜に輝く野を舞うあの水の様に澄んだ眼をしたネコさんが、
今度山を下りて来るなんて言ったら、僕の鼓動はもう・・・
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by mary-joanna | 2009-09-18 01:36 | 散りぬるを

ル.天空の白いカフェ

ブーランジェリーのサンドとベッカーのお菓子パン・・・
洗練された都心の丸の内と素朴な下町の上池袋・・・
優雅なテラスでの会話と懐かしい路地裏の散歩・・・

Elvis Cafe最初の(と言っておこう・・・また訪れるかも知れないから・・・)東京訪問は、
様々な角度から大都会東京の二つの側面を垣間見る事が出来た様な気がした。
それは何処か混沌としていて、不安ともワクワク感ともつかない何かが
僕の心を激しく揺さぶりながら大きく横たわっている様な・・・

・・・勿論その中にはあの青年が放った闇(?)も含まれていた・・・


確かにこれまでの何処か穏やかでのんびりとした草花探しには無い、
ドキドキする様な緊張感に僕は魅了されはじめていたのかも知れなかった。

でも、この次に訪れるのはそんな東京とは正反対に位置する場所と決めていた。


8月も後半に入り、漸く本来の夏らしい青空が広がる日が続く様になってきた。
今日訪れる予定の場所は、こんな青空が非常に良く似合っている所だった。

今回のルートだが、先ずは国道50号線を桐生方面へと向かって真っ直ぐ進み、
途中から重複していた122号線の方へと分かれて、桐生市内を北上してゆく。
更に旧大間々の市街で353号線に乗り換えると、後は暫く道なりに進むが、
やがて民家も疎らになってゆき、徐々に山道を上っているのに気が付く。

山道という事で、上っているだけでは無く左右にうねる様なカーブも続き、
周りの景色も落葉樹の林や丘陵の田園風景、また、牧場も見かけたりする。
そう、僕は赤城山の広大な裾野を、まるで弧を描く様に沿ってドライブしていたのだ。


まるで同じ場所をぐるぐる回っている様な変わり映えのしない山道が続いていたが、
突然視界が開けて目の前が明るくなると、僕は思わず息を呑んで車を停める事にした。


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うっすらと遠くに望むほぼ平行な位の幾層にも連なったなだらかな山々稜線が、
青白く霞んだ背景の淡い空色に段々と溶け込んで同化してしまいそうな程だった。
くっきりとした山並みの深緑が確認できる麓とその手前に広がる鮮やかな水田の黄緑との境、
そう、山の麓を境界線として数を増していく青や赤やグレーの民家の屋根、コンクリートの直方体。

まるでミニチュアの様に点々と置かれた集落をこうして高い位置から見下ろしてみると、
この現代に於いても自然の持つ圧倒的な雄大さはまだまだ健在なんだ、って感じてしまう・・・

その力は何も視覚によるものだけでは無く、下界の残暑を忘れさせてくれる様な涼やかな風が、
時おりビュウビュウと激しい音を立てて山間を吹き抜ける瞬間、ちょっとした怖さすら感じられるのだ。


兎に角、東京の街角では決してお目にかかる事の出来なかったこのパノラマに
僕は暫くの間魅了され、この後訪れる事にしている場所への期待が更に膨らんでいた。


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山を下り切ると目前には利根川に架かる大きな橋が現れてくる。

以前は北橘村と呼ばれたこの場所は、数年前、すぐ北側の赤城村などと共に
川の向こう側に位置する渋川市と合併し、現在では一地区としてその名を留めていた。


流石に視界を覆い尽くさんばかりの下流域の景観とはまた異なるものの、
こんなに上流の方までやって来ても、尚これだけ立派な水流を湛えているのは
やはり日本一の水量を誇る利根川ならではと感嘆しつつ、車を停めて橋桁に近寄った。

あの、先の方に見える山並みをゆっくりと眺めてみたいと思ったのも事実だが、
橋のたもと付近で偶然目に付いた、鮮やかな花が非常に気になったのだ。


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ノウゼンカズラ(凌霄花)


視界に飛び込んでくる鮮やかな橙色の花は周りの景色にも良く映えていた。

僕の背丈をもゆうに越えて、また四方へと伸びた蔓の一本一本からは、
大振りの蕾が沢山付いていて、その半分からやわらかな花を咲かせていた。

“大空をもしのぐ花”がその名の由来だと言われているらしいが、
思わず立ち止まって空を仰ぎ見た際の、真夏の青い空を切り裂く様に
すくすくと伸びていく鮮やかな花々にいっぱい元気をもらった気持ちになった。


更にもう一つ、僕の心を奪う可憐な花が咲いていた。


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ハクチョウソウ(白蝶草)


夏の終わりの澄んだ青空をヒラヒラと優雅に舞う純白の蝶々の群れ。
ピンと伸びた細い茎の先で羽を休めたり、じゃれ合っていたり・・・

そう言えば、この前は大粒のサクランボに誘われて雨の中をやって来たよね。
あの、雨露に潤んだ仄かに桃色付いた羽も綺麗だったけど、今日みたいな
眩しい太陽に照らされたスッキリとしたホワイトだってとても魅力的だよ。


道端に咲く夏の贈り物に別れを告げて、いよいよ目的の地へと足を踏み入れ・・・
いやいや、少し寄り道して行こうか。だって今日は時間に追われていないから・・・


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どのみち目的の場所へ行くには、この国道17号線バイパスを沼田方面へと
北上する事にはなるのだが・・・途中、通り沿いのとある施設で僕は車を停めた。


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彼の日記には遂に登場しなかった“道の駅”

地元で採れた季節ごとの新鮮な果物や野菜が購入出来るばかりか、
その果物や野菜をふんだんに使用したスイーツや料理だって頂けるのだから・・・

彼だったら見過ごしたりはしないと思うのだけれど・・・


だが、今回僕がこの道の駅を訪れるのは別の理由があったからだ。


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橋を渡る際に渋川市が近年の大合併によって現在の姿になった事に触れたが、
利根川の此方側とて例外ではなく、今僕がいる場所もかつて子持村と呼ばれていた。

その子持村の特産が“こんにゃく”だそうで、この道の駅にも入って直ぐの場所に
この様な専用コーナーが設置され、様々な種類のこんにゃく製品が売られていた。


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直売所を出た所には大振りのスイカが無造作に並べられていて、
側を通る人たちも足を止めて思い思いに品定めをしているみたいだった。

実際に購入する訳ではないのに、何時の間にか僕も目の前に立っていて、
このスイカは・・・いや、あっちの方が・・・と、夢中で選んでいたなんて・・・

でも、こんな光景も夏の風物詩のひとコマなのかな?、ってしみじみと感じていた。
そう、今日の旅行には心の中に余裕というか、ゆとりの様なものがあったのだ。


更に此処で購入する事が出来るのは、何も果物や野菜ばかりでは無かった。
今回の僕の目的こそ、この“道の駅”でこれらの食材に混ざって普通に売られていた。


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レンゲショウマ(蓮華升麻)


大きく開いた(とは言え3㎝程しか無いのだが・・・)真っ白な萼に守られる様に、
その中心には小さな花弁がちょんと座って、更にその中からまるで外の様子を
こっそりと覗き見するみたいにほんの少しだけ黄色い顔を出していた。

その花弁の淡い紫色と相俟って、平安の貴族が御簾からそっと外の様子を窺っている様な、
そんな気品に溢れた奥ゆかしさの感じられる姿を、この可憐な花に重ねてみたりしていた。


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初雪カズラ


縦に伸びたサーモンピンクからアイボリーのグラデーションが印象的で、
ふんわりとした柔らかな容姿の中に控えめな麗しさが感じられて、
僕は、晴れ着姿の女性の、あの凛とした佇まいを連想していた。

それにしても真夏の草花に“初雪”だなんて・・・風流だなぁ・・・


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ハイビスカス


レンゲショウマと初雪カズラのすぐ隣りには、何ともトロピカルなムードに満ち溢れた
まさに常夏のイメージを喚起させるこの大輪の花が飾られていて、先程までの
古風な情緒に浸っていた僕は、一気に陽気な夏の世界へと引き込まれた。

Elvis Cafeを始めるまでは花って春だけのものだと思っていたけれど、
この夏、様々なイメージを掻き立ててくれる素敵な草花と出会う事が出来た。



今僕がいるのは“道の駅”、言ってみれば単なる地域の直売所に過ぎない。
だから目を瞠る様な希少な草花も無ければ、状態や管理も決してベストでは無い。
直射日光を浴びながらケースごとその辺に置かれて萎び掛けているのだってあったのさ。

でもね・・・

此処には花屋さんとはまた違った花選びの魅力があるんだって教わったんだよ。
だからこそ、今回のイニシャルの花だってきっと・・・ほらっ、見つけたよ!!


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「ルリヤナギ(瑠璃柳)」


瑠璃色と言えば、例の宝石から何処か神秘的で深遠なブルーをつい連想してしまうのだが、
この花に冠された“瑠璃”は背景に比しても何とも淡く、ほんのりとした薄紫色をしていた。

更に葉っぱの形状が名前の由来との事であったが、僕はむしろ、時折り吹いてくる微風に
ゆらりゆらりとしなやかに揺らめく彼らの出で立ちの方がその名に相応しいのでは、と思った。


澄みきった薄青色の空の中、五芒星の形をした可愛らしい紫色の花が浮かんでいる。

こっちの花は仲良く並んで、あっちの花は少し離れて、五つ、六つと連なって・・・
紫色に広がる花弁の真ん中に、黄金色した雄しべと雌しべがキラリと輝いて・・・

まるで“お星様”が仲良く寄り添っている様なこのルリヤナギに、
そしてその名前に冠された瑠璃の惹き込まれる様な澄んだ青に、
満天の星が彩る夜空の中でもとりわけ美しく輝く青の星団、昴の姿を
僕は何時しか重ね合わせながら魅入っていたのかも知れなかった。

だって、今日僕は幾つも山を越えて此処までやって来たのだし、
これから向かう場所だって・・・そう、其処はもう天空の領域とさえ・・・


そして僕はこの淡い紫の“お星様”にある願い事をして、この場を離れた。


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「ルリヤナギ」との対面も果たした僕は、道の駅を後にしてもうひとつの大事な目的地、
この春彼が訪れたあの場所へと向かって再び国道17号線を北上する事にした。

視線の先にうっすらと横たわっている、なだらかな山々の稜線を眺めながら・・・


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17号線が旧子持村上白井地区に差し掛った頃、側道を山の方に向かって入っていくと
暫く上り道が続き、やがて周りが開けたかと思うと辺り一面が黄緑の絨毯に覆われる。

子持山を背にして正面から左手には赤城山の大きな裾野が、そして反対の右手には、
下方になだらかに広がる渋川市街とその向こう側に霞む榛名の山々の輪郭・・・

圧倒的な空間が僕の目の前に突然その姿を露わにしたのだ。
しかも、まるでこの一帯ごと宙に浮いている様な錯覚に陥る程だった。


Cindyもこの光景に歓喜し、写真を紹介していたが、あの縦長の窮屈な画像では
この広大なパノラマの魅力は伝え切れる術も無く、きっと彼も非常に悔しがったに違いない。

そして、この丘陵地を一面に覆っている緑の葉こそ・・・
先程道の駅で目にした此処、旧子持村の伝統的特産品の・・・


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蒟蒻の畑に他ならなかったのだ!!

あの薄暗い灰色の、むにゅっとした蒟蒻からは全く想像もつかない、
燦々と降り注ぐ太陽の日差しをいっぱいに浴びる生き生きとした緑の葉々。
この蒟蒻の葉が見渡す限り遥か遠くの方までずっと続いていたのだった。

で、この緑で敷き詰められたパノラマの終着地こそ、僕が目指した・・・


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あぁ・・・遂にこの真っ白な壁と切妻屋根の可愛らしいカフェにやって来たんだね。

彼の日記を見たあの日から、ずっとずっとこの日を待ち望んできたんだ。
そして、今、僕の目の前には夢だった白いカフェが現実のものとして建っている。


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彼の日記は勿論、こうして実物の真ん前に立ってこの建物を眺めてみると、
大きな三角と四角を合わせただけのシンプル極まりないフォルムに加え、
屋根のグレーと壁のホワイトのたった2色しか使われていない色構成。
眼下に見下ろす下界や遠くの山々を望む天上の様なロケーション。

スタイリッシュであり何処か非日常的なムードに包まれていたが、
この壁から突き出た屋根みたいな庇と横幅に対して高さのある木枠の扉、
シンプルながら非常にユニークなこのエントランスからも、そんなオーラが漂っていた。


この様な建物だからと、恐る恐るこの扉を開けて一歩中に踏み入れてみると・・・


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店の名の通りホワイトを基調としたナチュラルで明るいダイニングには、
柔らかな木目のシンプルで落ち着いたテーブル&チェアーで統一されていた。

穏やかで非常に落ち着いた印象の店内に、かえってビックリしてしまったのだ。
そして、入って直ぐの2人掛けのテーブルに通された僕は、彼が日記の中で
オススメしていたメニューとは異なるランチをオーダーしてみる事にした。


窓からは直ぐ向こうの蒟蒻畑の緑と、その先の天と地の境界線の様な
殆んど平行に近い遠くの山々の稜線を眺める事が出来た。

暫く眺めていると僕の目の前に大振りの皿がやって来た。


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チェダーチーズのベジタブルフォカッチャサンド


皿を回転させてサンドの断面が見えた瞬間、僕は思わずわぁ~っと呟いてしまった。
付け合わせのサラダだけでもたっぷりと野菜を採る事が出来るというのに・・・


チェダーチーズのまろやかな食感やコクのある旨味、パンや野菜に丁度良く合う塩加減に
真っ赤に熟したトマトのギュと詰まったジューシーな酸味が、ふんわりもちもちの生地に
仄かな小麦とオリーブオイルの風味が堪らないフォカッチャと良くマッチしていた。


だけど、やはりこのサンドの主人公は、ぎっしりと詰まった緑の野菜なのだった。
パンパンに膨らんだ財布の様にフォカッチャの形を変える位たっぷり入った
シャキシャキっとした食感の葉野菜の新鮮で瑞々しい事と言ったら・・・

窓の外の一面に広がる蒟蒻畑の、溢れんばかりの緑を連想していたのだ・・・


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ガトーショコラ


最近、様々なカフェでオーダーする機会が多くなったチョコレートのスイーツ。
真っ白な皿には黒一色の細長い三角形の塊、そして一枚の小さな緑。
まさにこのカフェそのものを具現化しているみたいじゃないか!!

チョコのほろ苦い甘さをクリームのまろやかさが優しく包んでくれて、
なめらかな口当たりでありながらホロっと崩れる食感と共に儚く溶けていく・・・


チョコレートのお菓子を食べると何時の間にかあの物語を重ね合わせてしまうのだ。
切ない甘さとほろ苦さ、優しさと冷たさ、気品に満ちていながらも親しみやすい・・・


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ピンクグレープフルーツジュース


これまでコーヒーやお茶ばかりだったので、今日は可愛らしいピンクのドリンクにしてみた。
それに、このカフェとピンク色とのギャップが逆にとても新鮮に映る様な気がしたのだ。

グレープフルーツをそのまま絞った様な、フレッシュで濃厚な味わいは、
あのキュンとした爽やかな甘酸っぱさとジューシーな舌触りが
ひと口飲む度に口の中いっぱいにふわっと広がってきた。

舌先に伝わるひんやりとした感覚が爽やかさと一緒に夏の午後を駆け抜けていく・・・


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カフェを後にした僕は、この丘陵に広がる蒟蒻畑の周りをゆっくり歩いてみる事にした。
畑の縁に植えられたピンクやオレンジの可愛い花が緑の中からピョコっと顔を出していた。

近くを歩いていた初老の男性が、これはヒャクニチソウだよって教えてくれた。


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ヒャクニチソウ


さっきのジュースと同じ色した、淡く綺麗なピンク色の花弁。

真っ青な大空を元気いっぱいに見上げるピンクの顔した君たちは、
夏の暑さにも負ける事無く、可愛らしい姿をひと夏の間楽しませてくれる。


この場所にいると・・・

何だかとっても空が青く、近くにある気がして・・・
何だかとっても空気がスッキリと、爽やかな感じがして・・・
何だかとっても穏やかで、大らかな気持ちになれる様な気がして・・・

この天空の緑の中にいると、何だかとっても・・・


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スイカがあった場所は何時の間にかカボチャのケースへと取って代わり、
長い様で短くもあった今年の夏も終わりを告げて、秋の装いへと変わってゆく。

心なしか行きに比べて下界の空気も涼やかになったと感じるのは、
単に陽が傾きかけてきたからだけでは無いだろう・・・

僕はこの秋に是非とも出会いたい草花たちを頭の中でリストアップしていた。
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by mary-joanna | 2009-09-10 10:00 | 散りぬるを

ヌ.Take The Long Road and Walk It

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東京駅に戻り、次の目的地への乗り継ぎのホームを探し、電車に揺られている間、僕はこの1ヶ月の・・・
そう、Elvis Cafeを始めてからの僕自身を取り巻く状況の変化についてぼんやりと考えていた。

Elvis Cafeの事は会社の同僚や学生時代からの親友のみならず、家族・・・実は彼女にさえ一切話していなかった。
当初、計画の話を仄めかした時期もあったが相手にされなかったので、どうして急にそんな事を言い出すのかと
聞かれた時には反対に適当な返事をして誤魔化す様になっていた。そして先日の霧降高原への旅行の際、
あまりにも熱心に花を撮っている僕に対して家族も少々不審に思ったらしいが、特に深い意味は無く、
日常や旅先で見つけた綺麗な風景を載せるブログを始めたんだ、とだけ伝えておいた。


これまでブログは元より、ネット上でのコミュニケーションなんて殆ど経験が無かった事は既に述べた。
そんな僕だったが、偶然にもCindy's WALKの世界に触れ、そのCindy本人との交流が実現し、
更にElvis Cafeを始めてからの僅かな期間で何かが劇的に変わったのは疑う余地も無い。


そして今日、これまでパソコンのモニターを通じたバーチャルなものでしか無かった
Elvis Cafeの世界が、あの青年との出会いというリアルなコミュニケーションを実現させた。

ほんの1ヶ月前まではこんな事になるとは全く考えてもってみなかった・・・
と言うか、ネットを通じて見ず知らずの人と会うなんて自分には無縁の事だと思っていた。

しかもこの出会いは、何か非常に大きな氷山のほんの一角の様な雰囲気を孕んでいる気がした。


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どうやら池袋駅に隣接する本屋(リブロだろうか?)に長居し過ぎたらしく、
東武東上線に乗り換えて北池袋駅に到着した時にはもう3時になろうとしていた。

池袋から僅かひと駅の場所に位置しているが故に電車の半分は通過してしまう、
改札口とホームしかないこじんまりとした駅には何処か落ち着ける雰囲気があった。

北千住~上野~東京、そして池袋といったキーステーションばかりを移動してきた
田舎者の僕にとって、この日一番愛着が感じられる駅舎だったのかも知れない。

そして駅前には、他の都内の沿線同様に自動車が通り抜けるのも
容易では無い商店と住宅が混在した一見下町風の細い通りが伸びていた。


改札を出て直ぐの自動販売機と空き缶用ダストボックスの脇で立ち止まった僕は、
無印の白いスケジュール帳に挟んでいたYahoo!からプリントアウトした地図を広げた。

目的の店の大体の位置を確認すると、直ぐにまたその地図を折り畳み、
スケジュール帳に挟んでバッグの奥の方に突っ込んでしまった。
こんな所で地図を広げるのが少し気恥ずかしかったのだ。


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駅の直ぐ横の踏切を渡るとなだらかな坂道が真っ直ぐに伸びていた。

踏切付近は車のすれ違いすら出来ない位の道幅しか無く、かなり端の方を
歩いていたにもかかわらず、車は勿論、自転車に追い抜かれる時でさえ
その都度振り返って更に脇へとそれなければならない程だった。


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やがて道幅も広くなり、歩道と街路樹による格好の付いた街路と呼べる程度になっていた。

もっとも目的の場所を目指してただひたすら歩き続ける僕にとっては、優雅な散歩と称するには
程遠いものであり、駅に着くまでの間中考えていた彼や青年(たち?)の事をこのひと時位は
すっかり忘れて気分転換に歩こうと思っていたのに、昼過ぎから丸の内や各駅の構内
(意外と辛かった!)など歩き通しての移動には苦痛すら感じ始めていたのだった・・・


そんな気が滅入ってきそうな道中に於いて道路の左右に植えられた街路樹、
プラタナスの爽やかな緑は少なからず僕の気分を和ませてくれたのだ。


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モミジスズカケノキ(紅葉鈴掛の木)


先程丸の内でも見掛けた存在感のある此方の樹木は、プラタナスという名称の、
街路樹や公園では古くから植栽されてきた非常にポピュラーな木だそうだ。
その外観だけでなく丈夫で成長が早いのも人気の理由と言われている。

“鈴掛け”はこの前のつくばで出会ったイニシャル「ト」の「トラノオスズカケ」と同様に、
この樹木がつける実の形から命名されたそうだが、「トラノオ~」が“アポロチョコ”の
可愛らしさを連想させてくれたのに対して、大きな葉と迷彩模様の樹皮からなる
このプラタナスの雑種からは本来の語源である山伏の武骨で猛々しい姿が
思い浮かんでくるのだが・・・修行僧の様に黙々と歩き続けていたのも、
そんな風に考えてしまう一因だったのかもしれなかった。


更に、一見すると何の変哲も無い下町の歩道に過ぎないのだが、
実は街路樹以外にも様々な草花がひっそりと僕に微笑みかけてくれた。


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この花は牡丹だろうか・・・それにしてはやや花期が遅いとも思うのだが・・・

幾重にも揺らめくピンク色の華麗な花弁が見事なこの大輪の花に、
何時の間にか僕は足を止めて暫くウットリと眺めていた。


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ノボタン


更に脇道へと入る曲がり角に植えられていた低木には紫の花が満開を迎えていた。

今まで殆んど気にも留めていなかったが、こうして周りを少し注意しただけでも
街中にもかかわらず綺麗な草花を目にする事が出来たし、この先どんな花に
出会えるのかと逆にワクワクした気持ちにすらなってくるのだった。


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これはクレマチスの一種だろうか・・・葉の形状が異なる様な気もするのだが・・・


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少し先の金網のフェンスには、渡良瀬遊水地でも見つけたヤブガラシが
豆粒ほども無いオレンジ色の小さな花に今にも溢れんばかりの蜜を付けていた。

先客のヒメスズメバチは此方の事など全く気にも掛けていないとばかりに、
ヤブガラシの透き通った水飴の様な蜜をさも美味しそうに舐めていたが・・・


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レンズを向け続ける僕が鬱陶しくなったのか、キッと此方を睨み付けた。


 お前が向かっているのはこっちじゃ無いだろう!


蜂がそんな事を言う筈は無いのだけれど、まるで何かを訴える様な
ヒメスズメバチの視線に僕は慌ててスケジュール帳の地図を取り出した。

何て事だ・・・てっきりこの方角で間違い無いと思って此処まで来たのに・・・

生まれて初めて訪れる街、方角が掴み切れない混み合った建物、
此処までの身体の疲れ及び精神的な緊張、そして変な見栄まで含め、
如何言う訳か、この期に及んで僕は道を間違えた原因を一々分析していた。

そして、とぼとぼと今まで歩いてきた道を引き返す事にした。


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漸く踏切の手前まで戻ってきた時には、駅を出てから既に30分は経っていた。
足利まで帰るのにかかる時間等を考えると、もっと急ごうと言うよりは
何とも憂鬱で、少々投げやりな気持ちにすらなりかけていた・・・

踏切を渡ろうとした瞬間、カンカンという警報機の音が響き遮断機が降りた。
何処までついていないのだろうかと如何してもマイナスに考えてしまう自分がいた。


踏切の脇の苔生した石垣には雑草が伸びていたが、ピンクの小さな花が咲いているのも
所々に確認する事が出来たので遮断機が上がるまで眺めていようと近づいてみた。

今回の東京訪問では2つのイニシャルを見つけるつもりでいた僕だったが、
この一日に起こった様々な出来事のせいですっかり忘れていたのだ。


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ヘクソカズラ


可愛らしいピンク色の花の周りには絡み付く様に細い蔓が巻き付いており、
その蔓の先端には、何処か見覚えのある筒状の小さな白い花が付いていた。
先程見掛けたヤブガラシと同様に渡良瀬遊水地を訪れた際に紹介した花だった。

“藪まで枯らす”事からその名が付いたというヤブガラシに加えて、
此方のヘクソカズラは“屁や糞”の様な臭気が語源になったと聞いている。

そう言えば、Elvis Cafeの最初のイニシャルでもあった「イヌタデ」だって、
“役に立たない(食用にすらならない)”事からその名が付いたのだそうだけど、
僕はこの3つの“雑草”を、大事な大事な第1話に抜擢していたのを思い出した。


そんな、少々感慨に耽りながらこの何処かコミカルな白い花を眺めていた時、
少し前に別の場所でもヘクソカズラに出会った事を思い出し、思わず呟いてしまった。


 そうだ、確かこの花の直ぐ近くに「ヌ」で始まるあの花が・・・!!


結局のところ、僕が踏切を待っていたのは精々1~2分位だっただろうか?

でも、遮断機が上がった後の僕の表情は先程までの眉間にしわ寄せ疲れ果てていたのが
嘘の様に晴れやかになり、やるべき事が見つかった希望に満ちた顔に変わっていた。


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 キミ、やっと此処まで辿り着いたのかい?
 あんまり遅いので眠ってしまうトコだったにゃ~!!



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かなり歩いた筈だったが、今度は思ったほど時間の経過も身体の疲れも感じなかった。
そして、目の前にはまるで世間から忘れ去られたかの様な路地裏の光景が現れた。
古びた商店と昭和の頃から変わらないであろう下町の家屋が軒を連ねていた。

周りの情景に全く溶け込んだ、淡いベージュに塗られたモルタル建築。
良く目を凝らさないと見逃してしまいそうなオレンジ色の看板には、
控えめな文字で“手造りパン工房”とだけ書かれていた。


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だが、この淡い外壁とは対照的にどっしりとした存在感のある木枠が印象的な、
恐らくは1坪足らずの小さな店こそ彼の日記にも遂に紹介されなかった・・・

東京に行った際は是非とも立ち寄ってみたいと常々思っていたパン屋だった。


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1坪とは決して誇張した表現ではなく、パンやお菓子を彼是と選ぶ事を考えるなら、
僕一人しか入っていない店内でもいっぱいいっぱいの広さと言える程だった。

入って左側のガラス棚には美味しそうなパンが丁寧にディスプレイされていた。


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右側の棚はクッキーやラスクなどの様々な焼き菓子で統一されており、
どちらの棚もまるで雑貨やオブジェを陳列している様なセンスの良さを感じた。


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クロワッサン・オ・ザマンドというクロワッサンにアーモンドクリームを詰めて(かけて)
焼き上げる菓子パンがあるが、確かCindyはこのパンが大好物でよく紹介していたっけ。

でも、そのクロワッサン・オ・ザマンドのラスクだなんて今まで見た事が無かった。


奥の工房で忙しそうにパンを焼き上げる若い店主に特別の許可を頂いた僕は、
この寂れた路地裏でひっそりと佇む秘密の小さなパン屋さんをカメラに収める事にした。


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東京で青年と会い、池袋の住宅街を歩き回ったどんよりとした空模様の
あの日から数日が過ぎた、良く晴れ渡った気持ちの良い夏空の昼時・・・

僕はこの前の、「ハンゲショウ」で世話になった足利市内の自然公園に来ていた。


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前回の紹介から1ヶ月弱が経過していたが、湿地帯にいる様な鬱蒼とした深い緑は
既に枯れていて、この木道も地面が見える程度にまで下草が刈り取られていた。

木道を渡り、更に公園を隔てる小川を過ぎて奥の方に向かうと、来る時に見た小高い山が現れる。
そして手前に位置する、夏の時期特有の背が高い雑草や灌木が周りを覆う林道に辿り着く。


 確か、この辺りだったんだけどな・・・あっ!!


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ヘクソカズラ


 やぁ、この前来た時は気にも留めていなかったね・・・

 でも、今回こうしてまたこの場所にやって来る事が出来たのも、
 キミがそのコミカルで伸び伸びとした姿を見せてくれたからなんだよ!!

 相変わらず元気にその細長い蔓をいっぱいに絡ませているね。



そして、その林道の直ぐ向かい側に生い茂った灌木の付け根に視線を下ろすと・・・


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「ヌマトラノオ」


穏やかな名前でないヌスビトハギ・・・
漆の一種で紅葉の美しいヌルデ・・・
その姿が愛らしいヌマガヤツリ・・・

この時期の(と言うより全ての時期に於いて)決して多いとは言えない
イニシャル「ヌ」の草花の中で今回僕が選んだのはこの「ヌマトラノオ」だった。


確かに上記の草花も含め簡単には見つからず、ずっと探していたのは事実だったが、
空に向かってシュンと伸びた尖塔状のフォルムに可愛らしい小さな花が房状に
ポツポツと咲いているその姿に、僕はすっかり魅了されてしまったのだった。

それに、先日は花屋さんからの紹介だったので、今度は野に咲くトラノオが見たかった。

そして何と言っても、あの日、挫けそうになっていた僕に力を貸してくれた、
日頃見向きもされず、雑草扱いを受けていたヘクソカズラがそっと教えてくれた花・・・


僕はまた一つ、このブログを通じて草花から大切な事を教えてもらったのかな・・・
遂に念願が叶った憧れのパン屋さんの美味しいパンを頬張りながらぼんやりと考えていた。


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ベリーベリークリームチーズ・ベーグル


パリパリの薄皮ともちもちっとした生地からなるベーグルはそれだけでも最高だ。

でも、苺&ブルーベリー&クランベリーの3種のベリーの微妙に異なる甘酸っぱさに
爽やかなクリームチーズがまろやかに絡み付いて、より一層美味しさが引き立っていた。


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ミルクコッペ


小さな子供たちからお年寄りにまで愛されそうなこの定番お菓子パンは、
あの路地裏の情景に非常にマッチしている気がして、その場で購入を決めた。

ふんわりとした舌触りの口溶けの良いミルクパンの中からは、
ミルキーな優しい甘さの練乳クリームがほど良いバランスで塗られて、
ひと口頬張る度に思わずニッコリと笑みがこぼれる様な美味しさだった。

子供の頃のおやつを思い出す、懐かしさでいっぱいのお菓子パン。


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クリームレザン


ミルクコッペから一転して、大人の為のスイーツなパンと呼びたくなるクリームレザン。

ラムレーズンの濃厚な香りがふわっと広がり、ギュッと詰まったレーズンの
ジューシーな甘酸っぱい果肉がとろりとしたなめらかさのカスタードにマッチする。

更には、ふんわりとして仄かに卵の風味と甘さも感じさせるブリオッシュと、
トッピングの香ばしいアーモンド&ジャリッとした甘さのあられ糖のトッピング。

全てが絶妙に計算された大人のお菓子パン・・・


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クロワッサン・オ・ザマンド・アラ・ラスク


パンの事には全く以って疎い僕だったけれど、彼の日記を見て、
何時か絶対に食べてみたいと思うお菓子系のパンがあった。

その想いは僕がこのブログを始めるにあたって、“食べてみたい”から
Elvis Cafeで“紹介してみたい”という気持ちに変わったのかも知れない。

クロワッサン・オ・ザマンド

彼、Cindyは自身の日記の中でそれはそれは美味しそうに紹介していたっけ・・・
そして、今僕は、そのクロワッサン・オ・ザマンドの、しかも“ラスク”を食べていた。

カリカリに焼かれた香ばしいラスクは、唯でさえサクサクのクロワッサンを、
更に一層・・・軽く、香ばしく、そしてサクサクの食感に仕上げていたのだ。

しかも、ふんわりとしたクリームの甘く、仄かにほろ苦い風味と言ったら!!

止まらぬ速さで、何時の間にか無くなってしまった事は言うまでも無かった。



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夏も終わりを告げようとし、朝晩は肌寒ささえ感じる様になった今日この頃。

陽気で鮮やかに咲き誇る夏の草花に変わって、落ち着いた印象の風情ある
植物の季節がやって来ようとしているが、僕の計画はまだ10話そこそこに過ぎない。

この先、冬に進むにつれて僕はこの計画を続ける事が果たして可能なのか?
そして、それ以上に僕の頭の中を支配しつつある、彼らの事が・・・
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by mary-joanna | 2009-09-03 15:34 | 散りぬるを