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シ.almost sleeping

僕にとってこの数ヶ月間は、まさに雲をつかむような思いの毎日だった。

Elvis Cafeをスタートさせよう・・・彼の軌跡を辿っていこう・・・突然の終焉の秘密に迫ろう・・・
そんな思いをのせたこの物語が尽きるまでに・・・そう、「イロハ」のイニシャルが終わるまでに、
必ずや僕はCindyの下へと辿り着き、今まで僕の心の中を占領してきた、もやもやしたモノに
ハッキリと白黒を付けてやろうって・・・遂に貴方に追いついたって大きく胸を張ろうって・・・

そうして何時の間にか月日は過ぎ去り、僕の日記のイニシャルはどんどん溜まっていった。
様々な苦労は確かにあったものの、幸いにも何とか思った通りの草花を紹介する事が出来た。
しかし、その一方で肝心の彼に近付くヒントは殆んど得られていないままでいるのが現状だった。
これでは会えるどころか、逆に彼の背中を見失ってしまう。そう思った僕は、これまで自らに課し、
貫いてきたルールを犯す事にした。そう、彼が敬愛した例のパン屋に赴き、店主に聞いたのだ。

当初、Cindy自身に関する情報(今、何処で何をしているのか等々・・・)を手に入れるつもりで、
そのパン屋の扉を開け、思い切って店主に話し掛けた僕だったが、実際に口から出た言葉は
思っていたのとは異なる、違う人物についての質問だった・・・全く関係無い訳ではないが・・・
果たして、店主から“情報(?)”を入手した僕は、ある事を確信し、また、ある事を決心した。

そう、いよいよフィナーレに向けての大仕事に取り掛かる時がやって来たのだ・・・
唯、その前にひと休みがしたかった。身体と心の両方をゆっくりと休ませたい・・・
これまで頑張って走り続けてくれた自分自身に対して感謝と労いを送りたい・・・
そう思った僕は、今回のイニシャルの花と、それにぴったりの場所に向かった。

心置きなく寛げる、気の置けないあの娘の待つ場所・・・そう、“友達の家”に・・・


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まるで迷路みたいな住宅街をクネクネと進んでようやく辿り着いたこの路地の、
目の前に現れた目印の緑色の建物。あの家の突き当たりの角を左に曲がれば、
確か、例の焦げ茶色の看板が直ぐに見える筈だ・・・あの角を曲がれば直ぐに・・・

何時だってそうだったんだ・・・どの街にだってきっとあるんだ・・・そして誰もが経験した、
あのワクワクする感覚・・・ドキドキする緊張感・・・そう、この路地の曲がり角の先には・・・


だって、この先はおとぎ話の世界が待っているのだから・・・


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アンの友達


車一台がやっと通り抜ける事の出来る細い路地を曲がると少し開けた空間になる。
路地とその奥にある建物との間には駐車場のスペースと、この家の庭があるからだ。
庭の樹木の向こうには、真っ白なドーマーが付いた大きなペールグリーンの切妻屋根。

今にもあの白い窓から麦わら帽子を被った赤毛の女の子が手を振ってくれる気がして・・・

久しぶりだね、元気だった?僕は・・・うん、まあまあ元気にやってるよ。
今度はランチとお茶を頂きたくなって、またキミのお家に遊びに来たんだ。
それにね、あの大きく開いた窓際の席からのんびり庭の緑を眺めたくってね。


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この前と同じ、塗装が剥げて錆付いた薄水色のアイアンフェンスの前に車を停める。
フェンスの先の庭へと向かうには、正面のアーチをくぐって行かなければならない。

前回訪れた際は、庭の端からフェンスを伝って伸びてくる細い蔓バラで出来たアーチが
それは、まるで触手のようにくねくねと絡み合って緑のトンネルを作り上げていたが、
未だ春と呼ぶには早過ぎる今日この頃、二つの世界を繋ぐ唯一のトンネルは、
花は勿論、一枚の葉っぱさえ付けずにその細々とした丸裸の腕を寂しそうに
アーチに絡ませているのだった・・・華麗に薫り立つ5月の頃を夢見ながら・・・


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入り口のアーチのみならず、あの時は庭中が眩しい位鮮やかな緑に覆われていたけれど、
今、僕の目の前に広がっているのは、剥き出しになった黒々とした地面と枯れた芝生・・・
あの夏の日の面影を見つけたくなって、僕は庭の周りをキョロキョロと見回してみた。

おやっ、玄関先で何かを見つめているキミは・・・あっ!!


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やぁ、久しぶりだね、おとぎの国のウサギさん。この前はオレンジ色のお花畑で
かくれんぼしてたけれど・・・今日は一体何をそんなに見つめているんだい?

僕もウサギが見つめる先に視線を向けてみた・・・あぁ、あの花を見ていたんだね。


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スイセン


確かキミとは何処かで会ったような・・・あぁ、ピースフルなパン屋近くの公園だったかな。
あの時は黄色い顔に真っ白な髪飾りを付けて、ちょっと物憂げに俯いていたっけね。

何時も自分の容姿が気になるキミの事だから、きっとまた綺麗に着飾っていると
思っていたけれど、今度は全身をイエローでコーディネートしているなんて・・・

目立ちたがり屋のキミだから、誰よりも早く華麗に咲くのは分るけれど、
相変わらずキミって・・・いやいや、勿論褒めているつもりなんだ・・・


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新緑が芽吹き、美しい花が咲き誇るにはもう少し時間が必要かも知れないけれど、
誰よりも草花に愛情を注ぐ店主が営む家だから、店内で出迎えてくれるのは・・・


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四季を問わず決して色あせる事の無い、淡い桃色や紅色で僕を魅了する貴女、
一瞬の瑞々しさと引き換えに、永遠の姿を手に入れる事を選択した貴女、それとも・・・

僕は永久に枯れてしまう事の無い、夢の中を彷徨っているとでも言うのだろうか・・・


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思えば、この家に入る瞬間からそうだったのだ。このリーフが何よりの証拠。
実りの秋にしかお目にかかれない筈の、薄小麦色をした穂を編んだリースが・・・

ドライフラワーにポプリに・・・そう、此処は草花の楽園、花の無い季節なんて存在しない!


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お馬さん、キミだってこの家でずっと植物に囲まれてのんびり過ごしてきたんだろう?
そう言えば、この前訪れた時に挨拶した焼き菓子コーナー担当の彼、見掛けなかった?

あぁ・・・正面でちゃんと番をしているんだって?


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やぁ、久しぶり・・・相変わらずちゃんと番をしているんだね。流石、しっかり者のキミだ。
一時たりともこの前を離れたりしないなんて・・・それに、ビシッとしていて決まっているよ!


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全く飾らないこのキッチンカウンターから、温かいママの手作り料理が出来てくるんだ。
この前はスイーツとドリンクだけだったけれど、、今日は是非ともランチを頂くとしよう。

だって、キッチンから伝わる美味しそうな香りに、さっきから僕の腹は鳴りっぱなしなんだ!
でも、その前に、カウンターでどうしても見ておきたいモノがあってね・・・あっ、これだよ!


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カウンターの上にズラリと整列したハーブの瓶・・・今日は君たちに用事があってね・・・

やぁ、ハーブのみんな、久しぶり。長く険しかった僕の計画も如何やら一段落つきそうなんだ。
そこで、疲れ切った心と身体をリフレッシュさせたくなってね・・・キミたちの力を借りに来たんだよ。
今日はちゃんとキミたちの仲間だって用意してきたんだから・・・ほら、もう待ち切れなくて真っ白な・・・


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テーブル・・・椅子・・・キャビネット・・・書棚・・・落ち着いた印象の部屋の至る所には、
良く手入れのなされた艶やかな飴色の木製家具がゆったりと配置されていた。
更に一番奥には煉瓦造りの暖炉まで設えてあり、まさにあの物語の舞台・・・

そう、まるでグリーンゲイブルズに遊びにやって来たような気分に浸れるんだ!
この部屋の、ゆったりした空気に包まれているだけで、まったりとして・・・


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あぁ・・・だからキミものんびりしに此処にやって来たんだね・・・


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この前もこの窓際のテーブルだったんだ・・・あの方に紹介された僕の特等席。


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おやっ、誰かが窓を開けて手招きしている・・・


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多肉植物の一種だろうか?・・・細い腕から沢山伸びた可愛らしい緑のおてて。

このミントグリーンの窓枠から、外の庭を見てごらん!って誘っているみたいに・・・


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8月に来た時も澄んだ青空の気持ちの良い一日だったね。

今日も穏やかな陽気で・・・今度こそ、バラの花咲く初夏の午後に、
あのガーデンテーブルでのんびりとアフタヌーンティーを楽しみたいな。


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ハーブ入り野菜カレー


陶器のポットには大きめにカットされた新鮮な野菜がゴロゴロと入っていた。
赤に黄色はパプリカかな?グリーンに・・・あっ、ラッキー、カボチャも入っている!
湯気と共に立ち上る薫り豊かなポットからお気に入りの野菜を探すのも楽しいけれど、
豊かな色彩も十分食欲をそそられるけれど、何と言っても一番の魅力はその味わい。
ひと口食べれば、瑞々しさの中から弾け出るジューシーな野菜本来の甘みと酸味。
ホッコリした食感はそのなままにしっかりと煮込まれて、旨みが凝縮されている。

そして、その野菜に絶妙に絡んでくるのが、店主特製の、このカレーのルー!
スパイシーで程良い辛さとハーブの爽やかな香りがマイルドに溶け合って、
野菜は勿論、ご飯にも良くマッチして何時の間にか全部食べ切っていた。


ハーブの庭のハーブのカレーにすっかり魅了され舌鼓を打った僕だが、
ハーブと言えば・・・そう、今日此処にやって来た一番の目的は・・・


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ナイトジャスミン(ハーブティーブレンド)


ジャスミンに・・・カモミールに・・・ジュニパーベリーに・・・真っ赤な実はローズヒップだね。

暫くポットのハーブが開いていくのを眺めていたけれど、ゆっくりとカップに注ぎ始めた。
ガラスのポット越しに見える淡い黄緑色が、白いティーカップを薄っすらと染めていく。
カップに注がれると湯気と同時に広がってゆくのは、ウットリとするような芳しい薫り。

薫りの中から仄かに広がる清涼感とジャスミンのすっきりとした香りが心地良い。
ひと口・・・またひと口・・・カップを近付ける度にまるで夢の中へと誘われてゆく。

これまでの僕の物語も立ち上る湯気のように淡い夢だったのかな?・・・なんて・・・
そして僕は、再び窓の方に目を向けた。窓と庭の間の、温室のスペースに置かれていた。


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「ジャスミン(羽衣ジャスミン)」


紅色の花先から、真っ白な蝶々がひらひらと、純白の羽衣を纏っているように舞っている。
儚い命と知りながらも、その一瞬の輝きに全てを託しているように、可憐で美しい花弁。
鉢からは、思わずウットリとする芳しいジャスミンの香りがふんわりと広がってくる・・・


この容姿も、そして香りも、一時だけの夢・・・次に訪れた際はきっと真っ白な蝶々は
何処か彼方へと飛び去ってしまい、緑の葉だけがあとに残されているのだろう・・・

まるでそれは、今僕が手にしているカップから広がるティーの芳しい香りのように・・・
そして、暫くのまどろみから覚めて、またいつもの世界へと引き戻されるのかな?


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“友達の家”で夢のようなひと時を過ごした僕は、おとぎの世界の住人たちに別れを告げ、
現実との境界である蔓バラのアーチを再びくぐって、何度も振り返りながら車に乗り込んだ。

もう、思い残す事は無い・・・
もう、やり残した事も無い・・・
最初から決まっていたんだ・・・
そして、遂にその時が来たんだ・・・

次に向かうのは、例のリストの店・・・もしこれで失敗したら・・・
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by mary-joanna | 2010-03-08 12:25 | 浅き夢見じ

ミ.Festa della donna(フェスタ・デラ・ドンナ)

Elvis Cafeも40回を越えて、いよいよ最終コーナーを回り切った所までやって来た。
残り僅かな最後の直線で全ての謎と障害を振り切り、彼の待つゴールへと向かうのが
これまで僕がイメージしていた楽観的な展開だが、現実はそう上手くいかないみたいだ。

そもそも何故彼がCindy's WALKを突然終了してブログの世界から忽然と姿を消したのか?
そしてリンクやランキングは勿論、全くと言って良い程、他との交流を排してきたこのブログに
不可解な執着と放置を繰り返す、あの物語の登場人物を語る一団(3人に過ぎないが)とは
一体何者なのか?(実際に彼等とコンタクトを取っているのが却って不気味に感じるが・・・)
更に不可解と言えば、イロハ順に花を紹介するのに引っ掛けた、あのコメントだって・・・

そんな謎と不安だらけのまま、このElvis Cafeはもう最終コーナーを回ってしまったんだ!


思えば今日まで僕は、彼、Cindyが訪れ、紹介してきた店をまるでトレースするように
訪問してきたのだが、各々の店の店主やスタッフは既に彼の事を知っていた筈になる。
だから、店の方に直接尋ねるのが一番の近道ではあったのだが、僕はそうしなかった。
それを敢えてやらなかったのは、僕の中での暗黙のルールであり拘りでもあったからだ。
しかし、このまま彼に出会う事はおろか有益な情報も得られずにフィナーレを迎えるのは、
昨年の夏以来40数回に渡り積み上げてきた全てがガラガラと崩れ去る事を意味するのだ。

もう僕には一刻の猶予も残されていなかった。実はこの物語、Elvis Cafeを始めるに際して、
彼のブログに無くてはならない存在とも言える、一軒のパン屋を紹介する事を心に決めていた。
そして、そのパン屋の若い店主ならば、彼の事を非常に良く知っているのでは無いだろうか?
何故なら、彼がブログを中断する旨を知らせる回・・・即ち“最終回”の、しかも最後の最後で
彼が自身の姿を晒した写真の中にツーショットで収まっていた人物に他ならないのだから・・・

しかし、僕がその事を知ったのは大分後々の事・・・そう、全く最近になっての事だった。
彼は、自身の姿をカミング・アウトしたその写真を、たったの一日で削除してしまっていた。
兎に角、僕は彼がCindy's WALKを通じて敬愛して止まなかったパン屋に行く事に決めた。

遂に、遂に機は熟したのだ!・・・熟し過ぎて落ちてしまう前に・・・


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何度も迷い、彷徨った。迷宮のような路地裏でも雄大な景色の田園地帯でもない、
何の変哲も無い田畑が点在する住宅地。学校とスーパーの周りをグルグル回った。
そう、彼の初めての訪問時と全く同じ・・・“Little”の称号は伊達じゃない・・・かな?

秋頃の予報では確か今年の冬は暖冬になる筈であったが・・・またこんな天気か・・・
2月も終わり、春はもう近くまでやって来て・・・こっちも最終コーナーだって言うのに・・・
霙交じりの薄暗い空の下、気が滅入ってくる頃だった・・・この看板を見つけたのは・・・


 ゴールはこっちだ、もう直ぐだ!この矢印に沿って進めばあと少しで到着だぞ!

きっとCindyも、訪れる度にこの四方の端が捲れ上がった看板に勇気付けられた事だろう。
雨の日も風の日も・・・そう、こんなに肌寒い冬の日だって変わる事無くビシッと矢印を向けて・・・


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矢印の通りに進んで突き当りを右に曲がると、とある一軒の民家の庭先へと辿り着く。
その開けた空間を埋め尽くしているのは、何と其処彼処に大量に積み重ねられた薪の山だ。
その積み上げられた薪の側で見つけたのは、もう可憐な姿を見せる事の無い小さな枯れた花。

そう言えば彼がこのパン屋を最後に紹介した際には、この薪で出来た高い壁に囲まれた空間で
可愛らしい白い花弁を咲かせていたね・・・沢山の薪たちと一緒で、とても楽しそうに揺らめいて・・・
それに比べて今日のキミは、まるでこの日の天気みたいに寂しそうに冷たい霙に当たりながら・・・


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薪窯パン ワンネス


やっと会えたよ、ワンネス・・・そう、Cindy's WALKがまだCindy's “TALK”と名乗っていた
初めてのパン屋巡りから、ブログの更新が途絶える1ヵ月前までの約2年に渡って幾度と無く
紹介続けてきた、何時だったか彼自身が綴っていた“Cindyの日記と共に歩んできたパン屋”・・・

そう言えば、このワンネスも確か以前はワンネス・“ブロート”って名前だったよね。

その外観は、ごく初期のグリーンの山小屋から常に増改築を繰り返し、一時たりとも
全く同じ表情を見せる事が無い・・・それは何処と無く、Cindyのブログに於ける歩みにも
相通じる部分があって、恐らく彼は自分の理想像を重ね合わせていたのかも知れなかった。


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でも、だったら尚更、途中で突然その歩みを止めてしまうなんてオカシイじゃないか!

だって、この類い稀なパン屋はまだまだ進化を遂げようとしていると言うのに・・・


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煙突から白い煙がもくもくと立ち上っている・・・どうやらやっているみたいだ。


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傘の中の裸電球は未だ眠ったままだったが、その奥に見える仄かな明かりは・・・


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そう、店の中では燭台に灯が点され、薄暗い中、蜜柑色の明りがゆっくりと揺らめいていた。

この窓の向こう、蜜柑色の店内には・・・窓の隣りの真っ白な扉の先には・・・あの店主が待っている・・・
これまでElvis Cafeで僕が訪れた店の中でも多分彼の事を一番良く知っている、あの若き職人が・・・

来る時から降っていた霙交じりの雨はまだ止まず、肌が剥き出しの手は感覚が無くなりそうだ。
何時までも扉の前に立ち尽くす訳にもいかず、僕は一呼吸して白い扉の取っ手に手を掛けた。


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中に入ってみると、低い天井と薄暗い室内が、決して広いとは言えないこの店内を
一層限られた空間に仕立てているように思えた。唯、大きな窓から差し込む曇り空の
真っ白な光と壁際に取り付けられたランプや燭台の上で生き物のように揺らめく蝋燭が
緩やかに鬩ぎ合って、この薄暗い空間を微妙で独特な色彩と陰影で染め上げていたのだ。

其処で最初に目にし、一番存在感を放っていたものこそ、この大きなダイニングテーブル。
テーブルの奥には窓からも窺えた燭台が緩やかな明かりで室内をほんのりと照らし出し、
目の前には、テーブルを埋めるようにこの店自慢のパンたちが規則正しく並んでいた。

手前にはオレンジ色の花束が活けられている。蝋燭の灯とパンと花のテーブル。
縁起でも無いけれど、僕は最後の晩餐としての一つのモデルを想像してしまった。
尤も、彼ならこんな風にテーブルいっぱいのパンに美しい花を添えて饗するかもね・・・

・・・最後の晩餐の時は、ね・・・


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テーブルの上のパンは、一見しただけではどれも極めてシンプルなものばかりだった。
昨今、巷で良く目にするカラフルで凝った作りのパンや菓子の類は、此処には全く無い。

代わりにあるのは、岩のようにゴツゴツとした褐色の塊、所謂ハード系と呼ばれるパンだ。
彼をはじめ多くの方が紹介の際に指摘していたが、確かにどのパンも本当に大きかった。


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無骨で飾らないテーブルの上で、唯一華やかな雰囲気を醸していたのがこの花束だった。


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チューリップ


常連のお客さんから頂いたとの事だが・・・それにしても、これがチューリップだって?

花を紹介するブログを綴るようになってから今日まで、僕だって多少なりとも花の事を学習し、
詳しくなったつもりだったけれど、それこそ世の中には数え切れない程の種類の花が存在し、
花によっては一つの種類から更に数百もの品種が絶えず作り出されているのだから・・・

半年やそこいら齧っただけではまだまだ入口を越えたとも言えないレベルなのだ。
尤も、だからこそ今日まで常に新しい魅力的な花に出会う事が出来たのだった。


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テーブルの隣りに目を向けると、其処にはアームのついた低いソファが二つ置かれていた。

オーセンティックな印象の、ブラックレザー調とモスグリーンのファブリックのクッションには
何処となく見覚えがあったが・・・あぁ、そう言えば何時だったか彼も紹介していたっけ・・・

ソファを眺めながらこのパン屋に対する彼のブログを思い出していた、まさにその時だった。
“バチバチ”っと何かが弾ける乾いた音が静まり返った店内に響き渡り、この突然の知らせに
ぼんやり物思いに耽っていた僕は、ハッと我に返り音の鳴ったソファの向かい側に目を向けた。


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入口から死角になっていた為に気付かなかったのだが、ソファの直ぐ向かい側には
家具職人でもあるこの店の店主が作り上げたオリジナルの薪ストーブが置かれていた。

廃材を三角コーナーのスペースにぴったりと収まるように溶接により繋ぎ合わせただけの、
全くシンプルな意匠なのに、これまで見た事もない独創的、アーティスティックなフォルムで
しかも、この小さな山小屋にいるような素朴な空間にも全く違和感無く落ち着いているなんて・・・

先のテーブルや、この店自体にしても同様だが、この若き店主が創造し形にするもの全てが、
素朴で何処か懐かしさを感じさせるのに、同時に斬新でスタイリッシュな側面も持ち合わせて・・・

そう、それはこの店のパンがそうであるように・・・


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店主の好意で、このソファに腰掛けストーブの火に当たりながら、店主が自ら焙煎をした、
この店オリジナルのコーヒーを淹れてもらう事となった。なんて優雅なひと時なのだろう!

だが、そんなまったりとした時間を引き裂いてしまうかのように、僕は思い切って口を開いた。


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店主との語らいは思いのほか長くなり、目の前に並んだ美味しそうなパンや焼き菓子の、
まるで此方を誘っているような魅力的な姿に抗えなくなった僕は、この場で食す許可を得た。

“ベルベ”と呼ばれている、数種類のフルーツやくるみをたっぷりと練り込んで焼き上げた、
ライ麦生地のお菓子を追加オーダーした。ほろ苦いコーヒーに良く合うと思ったのも確かだが、
この店で必ずGetするとCindyが毎回のように書かれていたのが非常に気になっていたのだ。

ずっしりとして、とても重厚感のある焼き菓子だ。生地の風味に加えて油の香ばしさも
更なる食欲へと誘ってくれる。口の中でホロホロと生地が崩れるのと同時に広がってくる
レーズンやアプリコットのネットリした舌触りや芳醇で複雑に絡み合った甘酸っぱい風合い、
カリカリして生地やフルーツの食感と絶妙なバランスでアクセントとなる胡桃に至るまで・・・

お世辞にも華麗とは言えないこの素朴な菓子の奥深さに、僕は(も?)心底打ちのめされていた。


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カッフェ・マッキャート


続いて店主が差し出してくれたのが、砂糖とミルクがたっぷり入ったエスプレッソ。
冷たいミルクと熱いエスプレッソとが混ざり合って、丁度良い温かさになって・・・


 すっごくぬるいだろう?


・・・確かにコーヒー牛乳を飲んでいるような口当たりで、温かさは感じられなかった。
それなのに、甘くてまろやかで、コクもあって・・・実際以上の温かさが伝わるんだ!


 でもなぁ、これが俺がイタリアのカフェで飲んだカッフェ・マッキャートの味なんだ。
 超がつくくらいの苦いエスプレッソに、砂糖と冷たいミルクをたっぷりと注いだ・・・
 そう、ナポリのガンブリヌスってカフェで飲んだ味なんだよね・・・



そして僕がこのカップを飲み干すのを見計らって、店主は先程の話の続きを再び始めた。


 へぇ・・・それじゃあ君は彼の後を継いでカフェやパン屋を紹介しているって訳?
 でも、それなら運が良かったね。だってこの店は来週から臨時休業に入るんだよ。
 毎年この時期にイタリアを巡る事にしているんだ。だから今日で本当に良かった。
 そう言えば、イタリアには“女性の日”っていう休日があるのは・・・知らないか・・・
 男性が女性に感謝や愛情を込めて花を送る日なんだけど、その花は休日でもある
 3月8日頃に綺麗な黄色い花を枝いっぱいに咲かせる・・・




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ライ麦プレーン&小麦プレーン(苺酵母)


Elvis Cafeを始めるまで、僕はライ麦のパンというものを意識して食べた事が無かった。
尤も意識してパンを食べる事自体が稀であったが・・・彼がこの店をUPする度に載せていたのが
他ならないこのライ麦プレーンだった。手に持っただけでズシリとした重量感・・・と同時にライ麦を
ローストした芳ばしさも伝わってくる。淡い狐色の皮は素朴な田舎のパンといった雰囲気を醸し出す。
バリバリした食感の厚めに焼き固められた皮は香ばしく、中の生地のもっちり感を強調しているようだ。
ライ麦パン特有のボソボソとした食感は殆ど感じられず、しっとりとして口の中で伸びていくみたいだ。
生地には適度な塩味と練り込まれた外皮の風合い、更に皮の香ばしさが絶妙にマッチしているので、
食事のお伴には勿論の事、パンだけで食べてしまうという彼の意見にも納得のいく味わい深さだった。

そしてもう一つ、隣りに置いたライ麦のパンに比べて濃い焼き色の付いたラグビーボール型のパン。
此方が小麦のパンとの事だが、他の店ではライ麦パンの方が比較的焦げ茶色の印象もあるが・・・
そして、何と言ってもこのパンは苺の酵母で発酵させているとの事であり、確かに苺の種らしき
粒々を確認する事も出来た。そして、それを裏付けるように仄かに薫る苺の甘酸っぱい風味。
爽やかで微かにスパイシーさも感じる気泡たっぷりの生地と、ガツンとくるバリバリの皮。
その全ての美味しさが一体となって、新しくもスタンダードな小麦パンに仕上がっていた。


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ライ麦いちじくくるみ&ライ麦ひまわり


更に、この店の定番でもあるライ麦パンのバリエーションを2種類購入する事にした。

断面がぽっこりとした山型の褐色のパンがいちじくくるみで、バリバリに固く香ばしい皮は
先程のプレーン同様、噛み締める毎に感動を覚える位の美味しさだが、中の生地には
たっぷりの無花果が散りばめられて、軽くトーストすると無花果の豊かな甘い薫りが
もっちりとした生地全体からふんわり広がってくる。その甘さの中心にはねっとりした
舌触りとジャリッとした種の食感が楽しい無花果の実がゴロゴロと入っていた。

スクエアーな断面が却ってこの店にとって新鮮な印象を与えているのがひまわりだ。
確かにドイツのライ麦パンの中にこんな形をしたパンがあったような気もするけれど・・・
粘り気のある保湿感いっぱいの生地が口の中でホロホロと崩れていくののだが、
これまで食べたこの店のパンとは一線を画しているのが印象的だった。しかも、
生地に練り込まれた向日葵の種がつるんとして噛むとむぎゅっと押し返す・・・
スープにも良く合いそうなシンプルな食事パンなのに、とても楽しいパン・・・


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花のよこつか


店主の最後の言葉を胸に秘め足利に戻った僕は、市内のある花屋の扉を叩いた。
隣りの群馬県館林市に本店を構えるこの店は、本店と同じく2階に雑貨屋も併設していて、
草花は勿論、アレンジからコーディネートに至るまで、素敵としか言いようの無い空間だった。

店の方のご厚意により、この最高のロケーションで今回のイニシャルを撮らせて頂く事になった。


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それは、まるで南欧の邸宅の一角で撮影しているのでは?と錯覚しそうな程だった。
そう、貴女に見てもらう為には、これくらいの演出が必要なのかも知れないね・・・


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潤んだような瑞々しく淡い紫の可愛らしい花が、そっと出迎えてくれた・・・


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シンビジューム


おいおい、アナタの出番は次の「シ」のイニシャルの筈だけれど・・・
まさか花の女王とも形容されるアナタが、よもや前座で登場だなんて・・・

「シ」の花はアナタにも負けない純白の花が用意されているのでご安心を。
それにしても・・・何て優雅で、そして美しい立ち振る舞いなんだろう・・・


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「ミモザ」


Festa della donna(フェスタ・デラ・ドンナ)・・・3月8日はイタリアでは休日となっていて、
日頃世話になっているアナタに、そして愛して止まない貴女にミモザの花を送る日でもある。
イタリアの食文化を敬愛し、今年も更なる進化を遂げる為に彼の地へと飛び立った若き職人。
このタイミングで、このイニシャルでワンネスを訪れたのも運命なのかな?なんて妄想した僕は
イタリアに因んだ・・・それに、ある女性に捧げる為に「ミモザ」を今回のイニシャルと決めたのだ。

ある女性?・・・勿論、彼女に・・・と言いたいところだが、実は最近僕は彼女との別れを経験した。
それについてはElvis Cafeで語る話題では無いので割愛する事にして、今回この花を贈りたい、
見て欲しいのは・・・そう、貴女への感謝の印なのだから・・・僕のお願いに応えてくれた・・・


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あの店で僕が店主に質問したのは、たった一つの点であった。
それは勿論、彼にかかわる事ではあるが、彼の人物像や現状といった、
言わば彼自身に関する事では無かった。実は、それはと言うと、その・・・

彼、Cindyと、ある人物との関係について・・・それこそ僕が一番知りたかった事・・・
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by mary-joanna | 2010-03-01 02:35 | 浅き夢見じ

メ.廻り廻って・・・

それは、全く以って僕の記憶の中から完全に打ち消されていた頃にやって来た。
あれは確か2月の最初の日の事だっただろうか、いや、それとも2日だったかな?
今こうして改めてその経緯を辿ろうと耽ってみても、具体的な日付の記憶等は直ぐに
曖昧になってしまうというのに、前の晩は雪が降る程の天気だったのが嘘だったように
一転して、穏やかで長閑な日差しが心地良い一日だったのは良く覚えているんだ・・・

兎に角、その日の午後の事だった、ポストの中に例の封筒が紛れ込んでいたのは。
まるで何も入っていないのでは?と不安になる位に薄っぺらい封筒に入っていたのは
一枚の小さな紙切れ。でも、この紙切れこそ僕の下に舞い降りたスペシャル・チケット!
スペシャル?・・・そう、この一度限りのスペシャル・チケットを僕は追い求めていた。

だから僕は喜びを噛み締めるのもそこそこに、そして逸る気持ちをも抑え切れずに、
直ぐに出掛ける予定のつく日を探し出して、気づいた時には既にこの小さな紙切れに
書かれている店の電話番号に電話をかけて、ランチの予約を入れてしまっていたのだ。
受話器を置くや否や、その小さな紙切れを丁寧に元の封筒に戻し、更に何時も持ち歩く
お気に入りのトートバッグの中に大事そうに仕舞った。あと前もってやって事といえば・・・

この、神様のお導きかも知れない“廻りあわせ”に思いを馳せる事?
いや、神様というよりも・・・自然の恵みとの“廻りあわせ”なのかな?

そんな事をぼんやりと考えながら次の週になり、早くも約束の当日がやって来た。
奇しくも雪の降った翌日の、穏やかで・・・長閑で・・・何と心地の良い朝日だろう!
これも廻りあわせかな?なんて言ったら流石にこの先訪れる店を意識し過ぎだって
揶揄されるかも知れないが・・・こうして待ちに待った日光ツアーがスタートしたのだ。


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ただいま、背高のっぽの緑の回廊たち。あの玉藻小路への小旅行以来、
僕は君たちが作り出す緑色のトンネルを進むのがすっかり気に入ったんだ。

でも今日は君たちの更に先に用事があってね。だから、名残惜しいけど今回は
再会の挨拶だけにしておくよ。この最後の数本を抜けると、長かった杉並木とも
暫しのお別れ。いよいよ、日光の市街地へと足を踏み入れる事になるのだが・・・



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日光の市街地を貫くこの通りを更に進み、今日最初に車を降りた場所、それは・・・


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神橋


日光東照宮・・・日光山輪王寺・・・日光二荒山神社・・・二社一寺のみならず、その遥か先、
男体山や中禅寺湖の手前に鎮座する朱塗りの架け橋。そう、この先はもう神の領域なのだ。

橋端に残る白い雪・・・冷たさを通り越し、痛みすら感じる指先・・・吐き出す息の白い事!
寒さのみならず、何処か静寂した凛とする佇まいに思わず僕の背筋もシャンとしていた。


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より神様の近い場所に願いを込めて・・・


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金谷ホテルベーカリー


まるで仏閣寺院のような情緒ある様式の建物の1階がホテルのベーカリーだなんて、
此処、日光の地にはこうした歴史と共存し後世に伝えてゆく場が数多く存在する。

先日訪れた玉藻小路にしてもそうだったし、何と言ってもこれから訪れる店も・・・


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Antiques & ZAKKA nazuna


神橋をあとにし、金谷ホテルベーカリーをも越えて、市の中心に向かって通りを下ると、
程無くしてある一軒の古びた建物が僕の目を惹き付ける。何かの店であるのは確だが、
本来掲げられていたであろう看板は、塗装が完全に剥げ落ち赤茶色に錆付いていた・・・
近寄って覗いてみると、雑貨とも古道具ともつかない品々の数々が所狭しと並んでいる。
どうやらアンティークと雑貨を扱う店だろう。店先に置かれた小さな黒板に白い文字で・・・

片面には“Antiques & ZAKKA”と・・・そして反対の面には“nazuna”とだけ書かれていた。

黒いハットを颯爽と被ったトルソーが見つめる側に並んだ外国の切手やポストカード、
立て掛けてあったボロボロの楽譜の表紙には、シューベルトって書かれていたっけ。
僕の興味をそそる“モノ”たちは、店の軒先に置かれている物ばかりではなかった。

決して広いとは言い難い店内に一歩足を踏み入れると、其処に所狭しと置かれ、
並べられ、積み上げられた古道具・・・電化製品・・・家具・・・食器・・・布・・・本・・・
まるで古今東西から集合した味わい深い表情をした“モノ”が寛いでいるかのように・・・

まるで遠く離れた母国の品を見つけたかのように、青い目を更に輝かせる外国人青年。
恐らくツアー旅行か何かだろう、老齢の団体の一人が徐に側にあった品を手に取り、
周りで品定めしていた同行者たちに講釈を述べ始めた。そして、ソファーや椅子の
集められた場所に陣取って、ひたすら椅子の状態を調べている3~40代の男性。

此処には個性的なモノの数だけ様々な個性の人たちが集い、語り、各自が楽しんでいた。
まるでパリの蚤の市にふらりと迷い込んだような感覚。此処もまた、廻りあいの場なのだ。


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店の隣りにはこんなBARBERも・・・僕は未だ先の店の世界観の中を彷徨っているのかな?


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神橋から通りを下って数分の散歩の中にも、魅力的な場所で満ち溢れている。
そして、今回の旅の終着点こそ、この雰囲気をいっぱいに湛えているのだ!


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目的の建物は直ぐに分った・・・だって・・・


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このインパクトのある看板・・・

それにしても看板のOriental Fine Art & Curiosの文字、此処は一体?
そのまま訳せば差し詰め、“東洋美術と骨董品の店”といったところだろうか?

確かに、僕が求めてきたものも、時代を越えて愛され受け継がれてきた、
日本の伝統と職人の情熱によって作り出される“ファイン・アート”であるが・・・


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その奥には、更に歴史を感じる純日本建築・・・遠くの山並みと背の高い針葉樹・・・
さり気無く和と自然が溶け込んだこの景色には、確かにオリエンタルな魅力を感じさせる。

でもね、この建物こそ僕の求めていた場所、言うなれば廻り廻って遂に辿り着いた・・・


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野菜cafe 廻 meguri


昨年秋のopen以来、地元の方は勿論の事、県内外の食通やカフェ好きな方によって
大いに注目され、絶賛されてきたオーガニック&ヴィーガン・カフェとの事であるが・・・

この日光の歴史と自然とに囲まれたロケーションは更に僕の期待を高めてくれた。


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ひと呼吸を整え、焦げ茶の扉をゆっくり開ける・・・何度も経験した事とは言え、昨年の夏、
あの店を訪れて以来毎回必ずやって来る、そして決して慣れる事の無い緊張感漲る瞬間だ。
40軒もの店を訪れたのだから今更緊張は無いだろうと思われるだろうが・・・そんな事は、無い。

入って直ぐの場所に重厚感のある無垢材の棚が設えてあり、食料品が丁寧に並んでいる。
パッと見た印象ではあるが、その大半(全て?)がオーガニックやフェアトレードの商品だった。
そして勿論ではあるが、オーガニックはこの店に欠かす事の出来ないキーワードになっていた。


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棚の隣りには料亭のような、日本人の僕が心から落ち着けるカウンターがあった。

パリのカフェやビストロみたいな雰囲気のカウンターが大好きだって綴ってきたけど、
すっきりした白壁に縦横に走った年季を感じる褐色の柱や梁の情緒溢れる和の空間に、
まるで久しぶりに故郷に帰ってきたような、そんな身も心も寛いだ気分になってくるんだ・・・

・・・今住んでいる場所が故郷なのに・・・


店内は大きく二つのスペースに別れていた。入って直ぐのカウンターの目の前は・・・


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比較的広い板敷きの空間になっていて、テーブル席のスペースとなっていた。
木のぬくもりが優しく伝わるアームチェアーとテーブルで、ゆったりとランチを頂く。

・・・とても贅沢なひと時が送れそうだよね・・・

それに、達磨ストーブにちょこんと乗った使い込んだ鉄瓶がこの季節には良く似合う。


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店内の至る所に配置されたさり気無い植物も魅力的で、華やかな花から可愛らしい鉢植、
そして、まるで縁側から眺めた日本庭園を切り取ったような風景まで様々な表情を窺わせる。

座敷との境目には、グリーンとのコントラストも鮮やかな南天の実が飾られていた。
邪気を払い清廉な新年を迎えるのに欠かせない冬の実は、眺めていて気持ちが良い。


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そして、通りに面したガラス張りのスペースは一段高い小上がりの座敷になっていた。
外から差し込む明るい陽射しの何て気持ちの良い事だろう・・・僕も座敷に上がらせてもらう。


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表の通りに沿った座敷に配されていのは、丸太をくり抜いた何とも可愛らしい横長の木卓。

板敷きの空間とは間仕切りで隔離されており、気兼ね無く食事を楽しめる場所になっていた。
愛すべき家族や気のおけない友人とは勿論だが、恋人や夫婦でのスイートな時間にも最適だ。


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座敷の傍らに置かれていたのは・・・蓄音機だった。


鈍い飴色の重厚感のある木製のキャビネットはそれ自体が存在感を醸し出す。
だが、何と言ってもそのキャビネットを覆っている恐らく真鍮製の“大きなラッパ”こそ
誰もが連想するこのオーディオ製品の姿であろうが・・・何て独創的な意匠なのだろう!

僕の訪問時にこの蓄音機が鳴り響く事は終ぞ無かったが、側の円卓に座っている間、
この大きなラッパから奏でられるであろう緩やかで懐かしい音色に僕は思いを馳せていた。


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日光の歴史と共に歩んできたこの建物は、それ自体が様々な物語に彩られている。
飽きる事無く店内の其処此処に魅入っていた僕に、店主が温かい言葉を掛けてくれた。


 是非、天井もご覧になって下さい。


店主の声に天井に目を向けると・・・頭上に広がる光景に暫くの間、声も出ずに見つめてしまった。


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またかよ・・・またキミは僕が凄く気になった店に先回りをしているじゃ無いか!
しかも、今回は美しい花と一緒にすっかり寛いでいるなんて・・・えっ、何だって!?


 先回りなもんか・・・オレは此処にお前が生まれるずっと前からいるんだぞ!


なぁ、一体キミたちの巣は何処にあるんだい?キミたちは何処からやって来て・・・
そして、何処に帰っていくんだい・・・キミたちの巣に、きっと彼もいるのかなって・・・


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店の角にあたる此方の円卓に着く事に決めたのは、此処に座った際の表の眺めが
あまりにも素敵だったから・・・眼前には先程下ってきた通りと、その先に見える山の稜線。


暫くの間この情緒に溢れた空間に酔いしれていたが、無論、此処にやって来た目的は
ランチとスイーツを頂く為であり、カウンターの下に立て掛けられた黒板に目をやった。
野菜cafe 廻では、曜日によりランチセットのラインナップが2種類に分かれていた。

金・土・日の週末にかけては、つけ麺と野菜カレーなどのセットとなり、
月・火・水の週の前半は、自然の恵みありがとう定食との事だった。
僕が訪れたのは週の前半。そして、程無くして料理が運ばれた。


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自然の恵みありがとう定食


角盆の上の様々な表情の器の中には、負けず劣らず魅力いっぱいの料理が盛れていた。
其々の器と黒板で目にした各料理の名前とを一つ一つ確認する度に期待が膨らんでゆく。


・有機豆腐の揚げだし(日光きのこのあんかけ)
・野菜と車麩のベジじゃが煮
・白菜とかぶの豆乳スープ
・ちっちゃな箸休め(かぶのわさびカルパッチョ・ヤーコンの甘みきんぴら)
・ペンネのグリーンカレー和え


この自然の恵みに彩られたバラエティー豊かなメニューを見ただけで、
僕の期待感が一層高まっていったのは言うまでもなかったが・・・

程なくして運ばれた盆を目の当たりにして、僕はわぁっと感激の声を漏らしていた。
どの碗も盛り付けの彩りに加え、食欲をそそる仄かな薫り、素材本来の旨みと素材を
大切にし、その魅力を十二分に引き出した調理、・・・そして、全てに愛情が溢れている!

例えば豆乳のスープは、手に馴染む茶碗の中はミルク色のスープと、
碗の中に見え隠れする大きめにカットされた白菜が純粋に美味しそうだ。
その白菜のシャキシャキとして、柔らかく溶ける絶妙のバランスが堪らない。
白菜を優しく包み込む温かいスープのクリーミーでミルキーな舌触りと言ったら・・・
茶碗一杯のスープだけで既に廻の料理にすっかり魅了されてしまった僕だった。

まだまだ序曲に過ぎないのに・・・

そして、この日の定食のメインと思しき、惣菜の中で一番大きな碗に盛られていたのが、
とろりと艶やかな黄金色のあんがたっぷり絡んだ、見るからにふるふるした揚げだし豆腐。
軽く揚げた豆腐の表面は薄く揚げ固められ、そのカリッと香ばしい風味は更に食欲が増す。
中はふわふわとして、ひと口毎にとろけてゆくなんて・・・ウットリしている間に無くなっていた。
しかも、この揚げだし豆腐に醤油と出汁のあっさりとした味付けのとろりとした餡がよく絡み合って・・・・


身体の隅々に美味しさが行き渡っていくなんて書いたら大袈裟かも知れないけど・・・そう感じるんだ!
そして、角盆で最も多くの面積を占めている大きな皿が、今回の定食のメインでもある・・・


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玄米ごはんと雑穀の黒ごまグレインサラダ


そう、メインとなる“ご飯”は“ライス&サラダ”だなんて・・・これだけでも十分に興奮ものだが・・・

添えられた青菜類の爽やかなグリーン、ナッツや粒ごまのやわらかなベージュ、
豆類や練り込まれた黒ごまの褐色に、真っ赤なサイコロ状の・・・何と、大根!

水菜のシャキシャキとした瑞々しいフレッシュな食感は、まさにサラダ感覚だけど、
口の中でプチプチッと弾け出す粒ごまとカリッと香ばしいナッツが絶妙なアクセント!
更に、噛めば噛む程にねっとり&もっちり感の増す玄米とホクホク豆も散りばめられて、
最後にはシャリシャリのリンゴでスッキリと・・・食感だけでもこんなにも楽しめるなんて・・・

玄米ごはんは黒ごまがたっぷり練り込まれ、また散りばめられた様々な雑穀が
玄米の素朴な風味を豊かにしてくれて、ごはんだけでもどんどん食が進むけれど、
何と言っても盆の上に沢山並んだ野菜の恵みいっぱいの惣菜たちとの相性が抜群!


素材の事は勿論、定食全てのバランスまで考え抜かれたレシピに、店主夫妻の
野菜料理と・・・食す方への並々ならぬ愛情がひしひしと伝わってくるのだった。


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ドリンク&スイーツセット


小さなチケットの、これまた小さな文字で書かれていたのは紛れも無くこのセットだった。
こちらのセットのスイーツもランチ同様に日替わりという事で、楽しみに待つ事にした。


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穀物コーヒー


セットのドリンクは各種コーヒー&お茶、ジュースより選ぶ事が出来たのだが、
そのどれもが非常に魅力的で選べなかった僕は、店主に相談してみる事にした。
そこで店主と話し合った結果、チョイスしたのが4種の穀物を焙煎、淹れた“コーヒー”。

4種の穀物とは、大麦やライ麦といったものから、何とどんぐりにチコリまで入っていた!
その全てがオーガニックで作られて・・・この店のアティチュードをしっかりと受け止めている。
でも、これまでこのElvis Cafeで紹介してきたコーヒーは、どの店も超本格的な逸品ばかり。
コーヒー豆では無い、“穀物”コーヒーの味や香りは如何なのだろうか?と思いながらひと口・・・

結論から言ってしまうと、それは僕が体験した事の無かった新しい美味しさとの出会い。
そう、この素晴らしい出会いだって、あの一枚のチケットが廻りあわせてくれたのだ。

これまでのコーヒーには無い、新しいコクと新しい香ばしさ、仄かに感じる新しい苦味。
穀物の風味と炭のような印象のロースト感。シンプルで、まろやかで、飲みやすい。


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バナナのチョコレートケーキ


新しいコーヒーと一緒に頂くスイーツは一転して素朴で飾らないホームメイド風なケーキ。
まるでお母さん・・・彼女・・・親友・・・親しい人が作ってくれた手作りの温もりに満ち溢れている。

非常にしっとりでもっちり感も楽しめる生地は、仄かなチョコレートの風味と微かな甘さが美味しい。
しかも、所々に入ったバナナのねっとりとした自然な甘さと香りが生地と混ざり合って口中に広がる。
ケーキにたっぷりとかけられた、ぷるんとしたクリーミーなチョコクリームと胡桃のカリカリ感が絶妙!


最後の〆のスイーツまで店主夫妻の優しさと野菜や料理にかける愛情に溢れれていて、
見た目?味?栄養?・・・全てに感動したのは勿論、僕はこのランチに心地良い驚きを覚えた。


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店の扉を開けてから帰るまでずっと、まるで家族や親友のように非常に温かいもてなしを
絶やす事の無かった若い店主夫妻の、穏やかで気品に満ちた表情に見送られた僕は、
駐車場に向かう坂を下りながら、市街地の通りを走りながら、そして束の間の再会を
果たした日光街道の“あの木のトンネル”をくぐりながら・・・ずっと考えていたんだ・・・

優しいものは、無くならない・・・美味しいものは、無くならない・・・
素敵な歴史は、無くならない・・・素敵な自然は、廻り廻って・・・

きっとまた、何時か何処かで素敵な再会が待っているんだ、って・・・
そして今回のイニシャルである「メ」との出会いも、再会の地だったのだ。


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つつじが岡公園


群馬県館林市の中心を貫く細長い城沼の片方の岸の大半を占める憩いの公園。
その名前の通りツツジの名所として全国的にも知られ、ツツジの満開の時期である
ゴールデンウィーク前後には多くの観光客で賑わうこの公園も今はひっそりとしていた。

広大な敷地内には、ツツジの他にも数多くの植物が季節毎に訪問者を楽しませてくれる。
例えば、花なんて咲いていないだろうと思われるこんな寒い季節にだってちゃんと・・・


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公園内の温室付近には所々に梅林があって、綺麗な紅白の花を咲かせていた。
梅もまた、新春の和の風情を感じさせてくれる存在として無くてはならない花だ。


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暫くの間公園内を散策し、城沼の畔までやって来た。先日訪れた、Niwaの対岸にあたる場所だ。
あの時カフェのテーブルから眺めた城沼の更に向こう側に見えた、絵に描いたような背の高い木々・・・


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「メタセコイア」


絶滅したと考えられていたのが数十年前に中国で発見され、生きている化石と呼ばれた木。
その後、研究と植栽が進む事によって、現在では日本各地でごく普通に見られるようになった。
“背の高い木”として真っ先に思いつくこの木に、実は廻り廻って今この場所で出会えたのかな?


同じ空を見つめ、同じ日射しを浴びて、同じ大地に足を付ける僕たちだから、
今は全然接点が無いかも知れないけれど、廻り廻って引き寄せられて、
何時かきっと、そう、きっと自然が導いてくれる・・・大自然の恵みが・・・

だから・・・この物語の最後のステージはもう既に決まっているんだ・・・
幾重もの細い枝が複雑に絡み合って、一本の太い幹に繋がり・・・
やがて全ての疑問の答は、廻り廻って再びあの場所へと・・・


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by mary-joanna | 2010-02-22 09:33 | 浅き夢見じ

ユ.lily (リリィ)

 君しか見えないスポットライト
 二人っきりのちっちゃなステージ
 ポケットに詰めたウソは、もう無い
 手と手をとって改札抜けたら、
 やっぱり僕も、言葉を混ぜるよ 

 今まで一度も使わなかった・・・あの言葉を・・・



こんな気持ちになったのは、一体何時以来の事だったかな?

こんな風に書き出したら、まるでおじいさんにでもなったみたいだけれど、
人生をのんびりと省みるほど、僕はまだ何も経験していないヒヨっ子なんだ
それに確かそれほど前の事でもなく、同じような気持ちになったはずなんだよ
でも、違うんだよ・・・今、僕の胸の中を占領しようとしているこの抗い難い気持ちは・・・

そもそも、始まりは何時だったかな?・・・そして、きっかけは何処だったかな?
まだ数ヶ月も経っていないじゃないか・・・それなのに、そんな事すら思いだせずに、
ただ、毎日毎日、段々と僕の中を満たしていくかのように浸透してきたんだよ、君はね・・・

そうそう、確かあれは僕がオレンジ入りのチョコを紹介した時の事だったよね
さり気無い、ほんの数行のコメントだったけど、“かわいい”って言ってくれたね
僕もブログを始めたばかりだったし、あの頃はカフェの紹介も全然少なかったけど、
それにね・・・そうだね、まだあの頃はカフェを紹介するブログの方だけだったけど、
あの言葉に僕は、恥ずかしくなって、揶揄われていると思って、でも嬉しかったんだ


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煤けて錆びて苔生して古びた小さな路地だけど、僕にとっては夢の入口

どうせ儚い夢ならば、勇気を出して手を繋いで、
夢から覚めるその前に・・・寂しい朝になる前に・・・
二人で走って行きたいんだ、この路地を曲がった先に・・・


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電球一つの街灯だけれど、君しか見えないスポットライト


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骨組みだけのベンチだけれど、二人っきりのちっちゃなステージ


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そう、あの角を曲がると見えてくるんだ、三角屋根のあの家が・・・


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花はすっかり枯れ切ってしまった・・・
僕の心も枯れる寸前だったんだ、君に会うまでは・・・


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神様に祈るなんて事はこれまで一度だって無かったのに・・・
もうこれ以上未練は無いと思っていた筈だったのに・・・


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AN-RIZ-L'EAU


憧れていた、トタンの屋根と、板張り壁と、大きな窓の小さなお家

何時の間にか、スポットライトと、ステージと、細い路地とを潜り抜け、
滑る様に、あの角も曲がって、お祈りもして、やっと届いた夢の家


ホントは二人で来たかったけど、まだ僕にはその覚悟が・・・


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秤の上の僕の気持ち・・・はかり知れない位、どんどん重くなって・・・


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“flower”かぁ・・・

僕の中にもたったの1本だけど、とっておきの花があるんだよ
まだまだ蕾・・・いや、さっき芽吹いたばかりかも知れないけれど、
でも何時かきっと、大輪の綺麗な花を咲かせるハズなんだ!!

それまでずっと、水をあげなくっちゃ・・・花が咲くまで・・・


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小さな庭のレンガの路を踏み締めて、ゆっくりゆっくり進むんだ
何時までもこの素敵な素敵な散歩道が続きますようにって・・・


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時には抜ける様な青空を、また、時には燃える様な紅葉の赤色を、
そして今日はキリリと輝く透明の氷を映し出す、魔法の鏡の缶なんだ


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カサカサのキミや・・・


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ジャラジャラのキミにも挨拶しなきゃね・・・お邪魔します!って・・・


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不思議の国の扉までやって来たよ、あとはこの呼び鈴を鳴らすだけだね
いつもの国から抜け出して来たよ、残りはこの呼び鈴を鳴らすだけだよ

毎日同じ小さな部屋で、いつも通りに格好をつけるの・・・もう疲れたよ
何処も一緒の暗い道で、いつも以上に自分を叫ぶの・・・ホントは辛かった


扉の向こうの不思議の国なら、一粒の水の澄んだ場所なら・・・僕だってピュアになれるかな?


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外の壁の色と同じ、家の中も手前の半分は真っ白な可愛い空間で・・・


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奥の半分は木が剥き出しになったナチュラルな空間になっていたよ


そんな二つの空間は広々として、全ての家具がゆったりと置かれていて、
何だかとっても気持ちが良さそう・・・僕までのんびりした気持ちになってきた


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ワインのコルクが蓋のつまみだなんて・・・こんな寒い毎日なら、ワインを入れてもいいじゃない!?



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何時も“お一人様”の席なんだ・・・自分から進んで決めていたんだ・・・

だから、こんなダイニングテーブルがとっても眩しくって、輝いていて、羨ましいよ
今度はみんなで一緒もいいかな?若いアイツに彼女も誘って・・・それから・・・

でも、ここで君と座る席は最初から決めているんだよ・・・二人の時は・・・


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可愛いレンガが仲良く並んだ夢のお家のカウンター
小さな窓がいっぱいついてる魔法のお家のカウンター

手前の梯子の上った先で僕らを出迎えてくれるのは?
奥のキッチンから漂うとっても美味しそうな薫りの主は?


夢と魔法がいっぱい詰まった、不思議な素敵なカウンター


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今はじっと瓶の中で待っているんだ・・・最高の輝きを放つ瞬間を夢見て・・・

何だか暖かい春のために冬の間中、土の中で静かに過ごす花に似ているね


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芽が出て、茎がどんどん伸びてきて、そして立派な実がなって・・・
また一つ、どこかで誰かの大きな夢が、ちゃんと叶ってゆくんだね

僕の夢はただ一つ・・・そう、たった一つでいいんだよ・・・


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ボーンボーンと夢の時間の終焉を告げる鐘の音よ、
もう暫くの間だけ、そっとして置いてくれないかい?

たとえ一時でも・・・君と離れ離れになる時間が辛いんだ
そう・・・君のコメントのあるページを閉じる瞬間が寂しいんだ

それにもう一つ、もうこれ以上進むのは・・・怖いよ・・・


(注:この写真だけモノクロの状態になっていた)


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さぁ、あの大きな窓の角が、予約していた今日僕が座る席なんだ!!


外から差し込む明るい陽射しがとっても気持ち良いこの席に・・・
さっき通ったちっちゃな小路を見渡す事の出来るこの席に・・・
目の前の草木に積まれた野菜、自然を感じるこの席に・・・

そう、この二人掛けのテーブル席に、今度来るときは・・・


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テーブルの目の前の、大きく切り取られた木枠の窓の直ぐ向こう側には、
使い古されたワインの木箱が仲良く並んで置かれているのが見えたよ
この店の命とも言える、自然の恵みをストックしておく大切な木箱たち
葡萄の箱から野菜の箱への第二の人生なら木箱だって本望かな?

さぁ、今日はどんな素敵な作品で僕を楽しませてくれるのだろう?
尤も、何時だってこの店は僕の期待を遥かに越えているけれど・・・


間も無く、今回オーダーしたTROIS(トロア)の最初の皿がやって来た


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コース仕立ての最初の皿は、勿論、前菜とスープだけれど・・・

3分割されたスタイリッシュな長皿の其々に盛られた趣きの異なる3種の前菜
シンプルな白いお皿のカンバスに描かれた絵画のような料理は独創的で、美しい


長葱のマリネ白ワイン風味

とろとろの長葱は自然な甘さと爽やかさが心地良く伝わって、
ピンク胡椒のピリッとした刺激にすっきりとした白ワインの風味
肉厚椎茸のムニュムニュ感と仄かに広がる旨味もよくマッチして、
これから始まるコースの一番初めに吹き抜ける一陣の微風のように


サツマイモのコロッケほうれん草ソース

カリカリコロコロホックホク・・・とっても楽しいコロッケボール
中はふんわりで、ほっくりで、自然な甘さのサツマイモがギッシリ!
ほうれん草のソースを絡めてハフハフしながら・・・いただきます


大豆のフライ“しもつかれ風”

グラスに入ったお洒落なオードブルは・・・何と地元栃木の伝統料理!?
さっぱりとした大根おろしにカリカリっとフライされた大豆や黒豆
懐かしい和風な味付けをここで食すなんて逆に新鮮な気分


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可愛らしい真っ赤なココット鍋の蓋を取ると、真っ白な湯気がふわっと立ち上がって、
色鮮やかな南瓜色のスープがこんにちは。アンリロだもの・・・人参のポタージュ!

温かなスープは、ぽってりしてるのになめらかで、濃厚なのにクリーミー
さらに人参の自然な甘味にトマトの酸味がギュッと溶け込んでいるなんて・・・


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前菜&スープ&お米料理&デザートから成るこのコースのメインとなるお米料理は・・・
まるで大きな白い円盤に乗って未知の世界からやって来た・・・牛蒡の照り煮のご飯!!

この店一番のランチコースのメインがお米料理だなんて・・・
それも他の店のどのメインにも負けないお米料理だなんて・・・


もじゃもじゃ頭のたっぷりグリーンは、さっぱりとしたブロッコリーのスプラウト
こってりとした甘辛い味付けの牛蒡の照り煮をスッキリと包んで相性も抜群!

そして直径3センチを超えんばかりの極太牛蒡の甘辛照り煮がどどんと乗って、
モギュモギュモギュっと頬張ると、ふんわりしていて柔らかい・・・これが牛蒡!?
ほど良く染み込んだ照り煮のタレがご飯に絡んで食欲も進んで・・・おかわりっ!

“もじゃもじゃ”スプラウトと“大木”牛蒡に挟まれた“長い髭”は・・・芹の唐揚げ

 せり、なずな 、御形、はこべら 、仏の座、すずな、すずしろ これぞ七草

パリパリとした小気味良い食感はふわっと無くなって、後からやって来る芹の風味
その仄かな苦みと抜けるような爽やかな風味が、清々しい新春の風を運んでくれる


お米料理って言ってたのに・・・ご飯物だって聞いてたのに・・・
不思議の国の、夢の家の食堂は、どこまでも僕の感性を刺激して・・・


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ずらっと並んだ魔法の瓶が、アナタ色のコーヒーに変身させてくれるんだ!


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今日のスイーツは初春にぴったりの苺のタルト


ほんのり焦げた玉子色の、しっとり、ふわふわ、ミルキー風味な優しい甘さのアパタイユ
ザクザク感が嬉しいタルト生地はバターのコクと全粒粉の香ばしさが薫る素朴な美味しさ

その真ん中に、ちょこんと座った真っ赤な可愛い苺の、ふわっと広がる甘酸っぱさ
そんな、仄かに甘く何処か切ない苺の甘酸っぱさが僕の胸をキュンと締め付けるんだ


ひと口ひと口噛み締める毎に、優しくて、懐かしくて、温かい気持ちになれるよ!
まるであの頃ママがおやつに作ってくれた、忘れられないあのお菓子の味みたいに
そして僕が如何しても伝えたかった、何時か二人で一緒に食べたいお菓子の味として



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「ユリ(lily)」


貴女に見て欲しい花があるんだ。
僕の大好きなあの歌の花なんだ。

これまで花の紹介なんてした事無かったけど・・・
心のドアに鍵かけて部屋の隅にしまってたけど・・・
貴女の事を考えながら・・・貴女に会うのを想像しながら・・・
何時かこの日が来るのかなって、淡い期待を込めながら・・・


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この前一人で行ったネコヤドで・・・本当は貴女と行きたかったこの店で・・・
一人で食べたピクニックのお弁当・・・一緒に食べたかった素敵なお弁当・・・

そんな夢のお弁当が入っていた可愛いバスケットにピンク色した花を添えて、
僕たち二人の隙間を埋めるようにちっちゃなグリーンもいっぱい詰め込んで、
貴女に出会って渡したいんだ!・・・僕の手から貴女の手に渡したいんだ!

そして、貴女の目の前で僕もひと言、言葉を混ぜて呼ばせて欲しいよ・・・
「最初で最後のヒト」って言葉に・・・ひと言混ぜて、貴女の事を・・・


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イニシャル「ユ」の花を紹介すべく記事を作成していた、正にその時だった。
“今回の「ユ」に関しては是非とも「ユリ」にして欲しい”という要望と共に
約40枚の画像の添付された上記の記事(?)が送られてきたのは・・・

鍵コメントに貼られたリンク先でこの記事を目の当たりにした僕は、
暫くの間この記事に見入った後、勿論一抹の不安は感じつつも、
差し替える事に同意する旨のコメントを送り主に返す事にした。

そして送られた記事に何ら手を加える事無く、そのままの状態でUPする事に決めた。
それは記事の雰囲気がElvis Cafeのそれと一致して僕自身が納得のいく仕上がりに
なっていたのは言うまでも無い事だが、何よりも送り主の熱意が伝わって来たのだ。
送り主は、僕にこの記事を載せて欲しいが為にエキサイトブログのIDを取得して、
たった一回の記事を載せるブログを作っていた(現在は閉じてしまっている・・・)
それに、この店は僕が何時か紹介したかった憧れの店であったのも事実だ。

気になる事は大いにあった。先ず、紹介しているのが栃木県内のカフェである事。
それは僕の行動範囲と非常に近い事を意味する。次に、この文体も気になった。
僕の・・・というより、まるで“彼”のあのブログの記事の紹介に瓜二つでないか!
例のグループのメンバーはこれまでこんな事はしなかった筈だとすると一体・・・

そして、僕を尤も困惑させたのは・・・それは・・・
たった一回のブログの名前が・・・あの・・・


・・・「咎無くて死す」だなんて・・・
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by mary-joanna | 2010-02-14 23:47 | 浅き夢見じ

キ.ピースパンのひとかけら(one piece)

或る冬の晴れた日の事、南東に向いたベランダの窓からは遅い朝の日光が燦々と降り注ぐ。
まさにスカイブルーと呼ぶに相応しい澄み切った青空を突き通して目に飛び込んでくるのは、
その周りの空の色をも変えてしまうほどの強い輝きを放ち全てを白銀に照らす太陽の光。
ゆっくりカーテンを開けてベランダに出ようとした青年は、その眩さに思わず目を伏せる。
昨夜も夜通しパソコンに向かっていたので尚更堪えるのだが、その表情は明るかった。
窓を開けると直ぐに感じるひんやりした空気と、後から続く日差しの温もりが心地良い。

さっきかけたヤカンの口から真っ白な湯気が立ち上る。パンの焼ける香ばしい薫りが、
差し込む日差しに負けんばかりにオーブントースターからキッチン全体に広がっていく。
飛び切り気持ちの良い朝だけ決めていた、水のブレンドという名前のコーヒー豆を挽くと
ふんわりと広がる甘いチョコレートのような薫りが青年の鼻孔を優しく擽ってくるのだった。

何の変哲もない、とても穏やかな朝の風景。こんなピースフルな朝が続けばいいなって、
こんなゆったりとした朝で一日を迎えたいなって、そう思った青年は焼き立てのパンを
ひと口齧って、淹れ立てのコーヒーをひと口啜って、お気に入りのコートに袖を通した。
袖口の解れから処分も考えたものの如何しても捨てられず自分で繕ったコートに・・・

そして、駆け込むように愛車の青い車に乗り込んだ。今日初めての忙しない動作。
何故かって?今朝のような穏やかな一日の始まりにぴったりなパンを焼く店が・・・
そう、ピースフルに満ちたパン屋が隣りの街に出来たって噂を確かめたかったから。


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目印はとり立てて変わったところの無い、普通の公園だった。
グラウンドを囲む遊具と木々の・・・朝日を浴びて、鳥たちが舞う。

初めて入る路地の、初めて訪れる住宅地。この街の中心を南北に貫く大きな国道には
そこそこ馴染みがあったにも拘らず、その国道から中に入った先に縦横に走っている
碁盤の目のような細い路地では、手にした店の地図すら何の役にも立たなかった。
同じように見える家屋の連なり、地図では確認出来なかった細く入り組んだ路地、
どの街にでもありそうな住宅街の風景が逆に迷路のように立ちはだかってくる。
そして、時間だけが過ぎて焦りすら感じ始めた頃、突然目の前に現れたんだ。

そう、これまでの不安や焦りを解き放し、穏やかで落ち着いた気持ちに誘う、
何だか長閑でピースフルな気持ちにしてくれる、この広い公園の前に・・・


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まるで迷宮のようにさえ感じた、初めて訪れた住宅街の、きっと中心に据えられた
だだっ広い公園は、特に変わった施設も遊具も無かったけど、この時の僕にとっては
砂漠の中で漸く辿り着いたオアシスのようだと表現しても決して言い過ぎでは無かった。

そんな平和の“オアシス”には、象さんだってのんびりゆったり寛いでいるんだ・・・


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・・・傍らでは、さり気無く季節を彩る花も咲いていて、訪れる人々の心を和ませてくれるのだ。


スイセン


その控え目で可憐な白と黄色の花の、何ともスマートな容姿と得も言われぬ芳香に、
青年は暫くの間ウットリと見つめてしまって・・・いや、自惚れるつもりは無いんだけど、
でも、このブログを始めるまで公園に咲く花をのんびり眺める事なんて・・・無かったなぁ・・・


迷いや不安もすっかり取り除かれ、穏やかな気持ちにしてくた公園を起点にして
地図を見直してみると、これまで迷っていたのが嘘のように目的の店に辿り着いた。


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店の軒先には数本の木が植えられていて、秋の実りの名残りが出迎えてくれた。
更に青年の目に飛び込んだのは、久しぶりの再会になるイニシャルの花・・・


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ヤツデ


緑色した大きな“おてて”の葉と白くて丸くて可愛い“ぼんぼり”の花。

森の中のパン屋で出会った小鳥たちに誘われて、地元足利の隣りの街の山の上で
真っ赤に腫らした小さな“おてて”を優しく見守る大きな“おてて”に出会ったのも・・・

そう、此処、群馬県太田市だったよなぁ・・・そして、この住宅街の中に出来たのが・・・


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Pan Peace


この、昨年末にオープンしたばかりのパン屋こそ、ひとつなぎの秘宝(One Piece)にも
負けない大切な宝物を求めて未知なる大海原へと一歩を踏み出した・・・冒険者なんだ!


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さぁ・・・見渡す限りの大空へ平和への狼煙を揚げ、真新しい幟を掲げるんだ!!

でも彼等が求める宝物って?・・・それは、勿論・・・


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そう、世界の海賊たちが追い求める秘宝(One Piece)にも勝るとも劣らない、それは、
世界の人たちに平和な気持ちと笑顔(Pan Peace)を与える美味しそうなパンの数々・・・

ほらっ、ズラリと並んだ沢山のパンを眺めるだけで、自然と笑みがこぼれてくるんだ!


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まず目に付いたのは、この店の店主が特に力を入れているというハード系のパン。

ゴツゴツとしたパンの表面を覆っているのは其々が個性豊かな表情を見せる
褐色に焼かれた皮とゼブラ状に入ったアーティスティックなクープのライン。

くるみ・・・レーズン・・・いちじく・・・単独でも売られていたナッツやドライフルーツが、
このハードパンたちを更に味わい深い魅力溢れる逸品へと仕上げてくれていた。


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横長の店内を占めているのは、まるで大洋を悠々と進む大きな筏のように
細長い竹筒を組み上げて作られた一枚のパンの棚。その上に乗っているのは、
先のハード系をはじめ、クロワッサンやベーグル、バゲットと、様々なクルーたち!

子どもからお年寄りまで、みんなの平和と笑顔への冒険には色々な個性を持った
多種多様の美味しいパンの協力が必要不可欠なんだ・・・此処の乗組員みたいにね。


この店にとって個性的なのは何もパンに限った事では無かった・・・
例えば、パンを切り分けるカッティングボード一つとっても・・・


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切株のまな板だなんで、ナチュラルなこの空間に良く似合っているよ!


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それに、さり気無い観葉植物にだって癒されてしまう・・・癒されると言えば・・・


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壁から提がった此方のひょうたん・・・何とスピーカーになっていたなんて!

こんなところから音が出るのだから・・・その緩やかな音楽に穏やかな気分に・・・


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店内はピースフルな空気で満ち溢れていて・・・ほらっ、此処にだって!
そう、棚の上に取り置かれた食パンには、この店の名前を冠するマークが・・・


長閑な午前の空気を切り裂くように忙しなく家を駆け出した青年であったが、
店を発つ頃にはすっかり時間も気にせず大らかな気分でいっぱいになっていた。
そんな優雅でのんびりした雰囲気でランチのひと時を過ごすのも最高じゃ無いか!


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クロワッサン


マットな表面が印象的なグルグルと渦を巻くクロワッサン。

幾重にも重なってきっちりと巻かれた表面の層は芸術的で美しい。
カリカリして香ばしい表面から同時に広がるバターの仄かに甘い香り。

手に持つとパリッとした表面の層からは想像もつかない位にふっくらした弾力。
そして、まるで年輪のような綺麗な渦の、ふかふかで・・・やわらかい事!!

仄かに薫る優しい小麦の風味と口の中に広がる芳醇なバターのコクが堪らない。
ハード系の無骨なパンのみならず、こんな繊細なクロワッサンまで仕上げるなんて、
このパン屋の“船長”のセンスとパッションには・・・本当に白旗を揚げそうだよ!


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ベーグル


先日湖畔の喫茶店で買ってすっかりはまってしまったベーグル・・・
“筏”に乗っていたのを見逃す事無く連れて帰ると、先ずはひと口・・・

黄金色の表面は今にも割れそうなほどパンパンに膨らんでいて、
思いっきり歯を立てて豪快に噛り付く!すると、美しい狐色の薄皮が
ペタペタッと舌先に吸い付いてきて何とも楽しい食感では無いか!!

パリッとした薄皮の中には、もちもちっとしてきめの細かい滑らかな生地が
ギュッと詰まって、この癖になるもっちり加減に青年は夢中になって食べていた。

食感も然る事ながら、シンプルで仄かな甘みと粉の爽やかな風味を感じさせる
この生地の味わいには、青年の中で暫くベーグルのブームが続きそうな気がした。


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スコーン


ずんぐりむっくり円柱型のフォルムは、まるで今にも口を開こうとする“貝がら”だね。

一目見るからに香ばしく焼かれた狐色の表面の、ボコッと張り裂けた側面が
焼き菓子好きな青年の食欲を刺激して、思わずひと口に齧り付いてしまう。

ザクザクと小気味良い音を立て口の中でホロホロと崩れてゆくスコーンの、
ひと口頬張る度に口中いっぱいに漂う香ばしさとまろやかな風味に加え、
シンプルな粉の甘みが一緒になってさ~っと溶けて無くなってしまう。

しかも全粒粉の素朴な風味が爽やかさも醸し出しているなんて・・・
そのままでも、お気に入りのジャムやクリームを付けても、
きっとみんなのスタンダードになる事、間違い無しだね!


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ミルククリームパン


大きな葉巻みたいなビジュアルの、可愛らしいサイズのクリームパンは、
パンとパンの仕切りのように縦にディスプレイされた姿に一目惚れしていた。


表面に規則正しく入った凹凸の表面は見た目の美しさは勿論の事、思ったよりも
パリッとしたサクサク感があって、しかもふんわりとした軽さもしっかりと楽しめる。
そして勿論、中の生地はクリームパンらしくふんわりとして、口溶けも滑らかだ。

しかし、何と言っても普通のクリームパンと違うのが、このミルククリームだ。

滑らかなミルククリームは、ややねっとりとした舌触りで生地に良く馴染んでいた。
ほんのりした控え目な甘さに絞りたてのバターのようなミルキー感がマッチしている。
ふんわりの生地にたっぷりと付けて一緒に頬張った瞬間の優しいミルクの風合いが良い。


今までに味わった事の無いクリームパンなのに、何処か懐かしい・・・ママの味、かな?
そして、このミルククリームパンと同様に、良く知っている筈の菓子パンの・・・


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あんぱん


これが・・・僕が幼少の頃から親しんできた菓子パンの代名詞、“あんぱん”なのか!?

こんなビジュアルをしたあんぱんは、それこそ百軒をゆうに超えるパン屋の中の、
数え切れない程のあんぱんを紹介してきた彼のブログでも全く見たことの無い・・・

そう、言うなればまさに・・・“ブラン・ニューな”あんぱんの誕生なんだ!!

バリバリに焼かれた皮は、ハード系のパンが好きだというシェフならではの仕上がりで、
その噛み応えと香ばしさは堪らなく美味しく、そのガシガシとした歯応えのハードな皮からは
想像もつかない程のもちもちっとした生地でパン全体がぽっこりとした球状にふくらんでいた。

そのもちもちの生地の、まるで餅のように伸びてふんわりとした滑らかな食感が堪らない。
更に、四方に裂けた皮から見え隠れする小豆色の粒々は今にも火口から噴き出す熔岩だ。
丁寧に炊かれた粒餡は、小豆の形状を保ちつつも、ぷっくらとして、一粒一粒がほんのり甘く、
そして口に入れた瞬間のホクホクな餡の感触は舌先から滑るように広がって溶けてゆくのだ。


この皮・・・この生地・・・この餡・・・

全てのバランスが他には考えられない位マッチして、そして新しいなんて・・・

“ブラン・ニューな”パン屋で出会った、“ブラン・ニューな”あんぱんは、
同時に青年の心を捉える“スタンダードな”あんぱんにもなっていた。


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ミルクミニ食パン


ピースフルなパン屋で見つけたピースマークの入った食パン。

店の棚にあったレギュラーサイズも良いけれど・・・こんなにちっちゃいのに
パンの端っこには、ちゃんとピースマークが入っているじゃあ無いか!!

耳の焦げ目はザクザクして、これだけでも十分に美味しかったけれど、
中の生地はしっとりとして、もちもちとして、勿論、ふんわりしているよ!
そして、このパン屋の生地はどれもシンプルなのに心地良い小麦の香りと
仄かな甘み、ミルクの風味が優しく伝わって・・・穏やかな気分になれるんだ。


だから、そんなパンのひとかけら(piece)をムシャムシャと頬張る度に、
日頃の緊張した刺々しさも和らいで平和(peace)な気持ちになってくるよ。


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「キンセンカ(金盞花)」


黄金色の杯(盞)とはよく言ったものだが、これはこれは何とも可愛らしい杯だね。
でも、こんなにも明るくて可愛らしい花の花言葉が、“別れの悲しみ”だなんて・・・

航海へと旅立ってゆく冒険者たちとの別れを心配し、悲しむ残された者たちの
悲しみの印なのだろうか?それとも平和な旅路を祝う幸運の杯なのだろうか?
まぁ、そんなに大袈裟に例えなくても、このオレンジ色の花を眺めるだけで、
何時の間にか穏やかで落ち着いた気持ちになってくるのは確かだけどね。

唯、この青年にとって残された航海は最早あと少ししかなく、
目的地の影が見え始めてきたのだが・・・

でも、まだまだ分らないんだ・・・大きな謎が・・・


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by mary-joanna | 2010-02-06 16:14 | 浅き夢見じ

サ.湖面に輝く澄んだ青

群馬県館林市。

羽を広げた鶴の形とも称される群馬県の南端付近、即ち細長い頭の部分に位置し、
栃木県と埼玉県とに挟まれた人口約8万人の、全国に数多ある地方の小都市。

県を跨ぎながらも僕の地元でもある栃木県足利市の隣り街として馴染みがある
ばかりでなく、僕が追いかけてきたカフェパンブロガーのCindyが密かに残した
もう一つの物語、Arnold日記の語り手のWilliamと名乗る人物の住所としても
僕にとって他の近隣の街とは一線を画する非常に印象深い街でもあった。


昨年末に訪れた華麗な花の模様に彩られたマイセンのカップやソーサーに
囲まれた喫茶店、“えんや”の紹介は記憶にも新しいところではあるが、
あのリストの店という事を差し引いても、この隣りの県の隣りの街は、
再び訪れてみたくなる非常に魅力に溢れた街なのだ・・・だって・・・


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ロウバイ(蝋梅)


館林市役所の向かい側に広がる一面の芝生は、嘗ての工場か何かの跡地であったが、
現在では気持ちの良い空間として市民のみならず訪れる方の憩いの場所となっていた。
広場と道路とを隔てるようにロウバイの木が植えてあり早くも黄色い花を咲かせていた。

近付くと辺り一面に広がってゆくロウバイの芳しい香り。思わずうっとりした気分になる。
更に、この蝋細工を溶かしたようなうっすら艶めく淡いレモンイエローの花弁といったら・・・

可憐な花弁と芳香に、暫くの間僕はその場に立ち尽くし魅せられていた事を付け加えておこう。
さて、この広場と女子高に挟まれた道路を進むと、宇宙飛行士の向井千秋さんの業績を称える
記念子ども科学館と館林出身の文豪、田山花袋の記念文学館が建っている三叉路にぶつかる。
その角を折れ、市の中心に大きく横たわる細長い城沼に沿って更に数分のドライブを続けていく。

そして、長芋にも似た城沼の、端から半分を過ぎただろうかという頃に、目的地が見えてくる。


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沼の畔に沿って遊歩道が走り、僕が訪れた時は朝の散歩やジョギングをする人が行き交っていた。

沼岸の枯れた芝生や葉を落とし切った木々を見ていると何処と無く冬の寂しさすら感じてしまうが、
並木道に植えられているのは桜の木、2ヶ月後には黄緑の芝生と淡いピンクで覆われる事だろう。


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桜の木に近付いてみると黒々とした幹から伸びた細い枝の先には沢山の蕾が付いており、
その小さな蕾たちは、みんな綻び出すのを今か今かと待ち詫びているようにも見えるのだった。

この日は冬晴れの非常に良い天気で、まるで吸い込まれそうな澄み切った空が印象的だった。
薄い雲を従えたその綺麗な空の青に全く引けを取らない澄んだ青が、目の前にも広がっていた。


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群馬県内で湖や沼と言えば、如何しても山間のダム湖やカルデラによる湖沼を連想してしまうが、
平野部の、しかも市の中心付近に於いてこんなに立派な水辺の風景に接する事が出来るなんて・・・


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1月の冷たい風に揺られてゆったりと漂う水面のさざ波は、遅い朝日に反射して
まるで照明に当てられた宝石のように白銀の眩い光をキラキラと輝かせていた。

更にその情景は日が昇るにつれて刻一刻と変化し、絶えず新鮮な輝きを見せていた。
向こう岸の黒々とした木々を境界線として、白から青への淡く微妙なグラデーションが
上下に広がってゆき、日差しの変化と共にその色合いも滲むように変わっていった。

まさに、モネの描く印象絵画を直に見ているような錯覚さえ覚えたのだが、
僕が今から訪れる場所こそ、この風景をコーヒーと共に楽しめる場所なのだ。


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Bakery & Cafe Niwa


湖畔にそって並んだ建物の中でもひと際目に付く一軒の白い家の前で僕は足を止めた。
城沼の畔の遊歩道を隔てて一段高くなった場所に、あたかも湖畔に迫り出したような
大きなウッドデッキを備えたグレーの切妻屋根と真っ白なサイディングの一軒家。

まるで富士五湖や中禅寺湖にでも訪れたような、とても印象的な湖畔のロッジが
直ぐ近くにあるなんて・・・それにしてもホワイトとブラウンのコントラストが美しい・・・


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見渡す限り真冬の風景だったけれど・・・まだまだ枯れる訳にはいかないんだ!

なぁ、そうだろう?・・・キミたちも・・・そして、僕自身も・・・


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ローズマリー

「ロ」のイニシャルの花として紹介してから彼是半年が過ぎ、新しい年も迎えた。
あの時はCindyに近付きたいという思い、唯それだけで闇雲に突っ走っていたっけ。
勿論、今こうして花を紹介し続けているのも、それ以外の何物でも無いのは事実だ。
だけど、この半年の間にElvis Cafeを通じて様々な事を経験してきたよなぁ・・・

心地良い冬晴れの下、時折り吹く肌寒い水辺の風に揺られる2番目のイニシャルとの
久しぶりの再会を、そしてあの時は見る事が出来なかった薄紫色の小さな花弁を
のんびりと愉しみながら、忘れる事の無いこの半年間を改めて思い出していた。


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湖畔に向けて大きくとられたウッドデッキの入口では、2台の自転車が寛いでいた。
自転車が趣味の店主の店ならではの光景だが、湖畔に沿って目の前に伸びる
この遊歩道で思いっ切りペダルを漕いだらどんなに爽快な気分だろうか。

そう言えば、Cindyも自身の日記でそのような試みをしていたっけ・・・


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外からも窺う事の出来る入口右手の焙煎室と、その手前の棚に並んだ珈琲豆の入った瓶。
とりわけ大きな看板は無くても、此方がコーヒーの専門店である事を十分に物語っていた。


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ホワイトウッドに囲まれた明るくて清潔な印象のカフェテラスは勿論、湖面に向かって
一面ガラス張りとなっていて、それに沿って細長いテーブルが括りつけられていた。
どの席に着いても目の前の城沼の風景を一望する事が出来る贅沢な間取りだ。
更に外から差し込んでくる陽光が店内を明るく、そして暖かく迎えてくれていた。

コーヒー専門店らしく数あるコーヒー豆と煎り方挽き方による味や香りの違いは、
一見迷ってしまいそうだったが、丁寧に書かれた分りやすいメニューは勿論の事、
親切な店主から直接好みを相談する事が出来、好みの一杯を選ぶ事ができるのだ。


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ブラジル(シティロースト)


艶やかで微かに赤味を帯びた深い琥珀色の表面から細かい粒子のような湯気が立ち上っていた。

世界一のコーヒーの産地ブラジルでも優良の豆が栽培される事で名高いセラード地区。
標高1000メートルを超えるという同地区のシーマ農園で昨年摘まれた新鮮なコーヒー豆を
深くなり過ぎない程度に焙煎し、店主自らドリップした一杯の拘りは、何と言ってもフレッシュ感。

さっぱりとした飲み口から広がってくるロースト感は確かにすっきりとして非常に飲み易い!
焙煎の具合だけでないマイルドな苦みながら酸味も控え目で、まろやかな甘みが心地良い。
後から仄かな苦味が広がってくるが、スルスルと飲めるのはやはり豆の新鮮さ所以だろうか?

一緒にオーダーしたトライフルのふんわりした甘さとまろやかさにも非常に良くマッチしていた。



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トライフル


苺のトゲトゲを背中に付けた、ハリネズミみたいな可愛い可愛い“お誕生日ケーキ”のトライフル。
来た瞬間から三角形のシャープなキミの体を覆った真っ赤なトゲトゲに僕の目は釘付けだよ!

ほんのり卵風味のスポンジは、仄かな甘さとふわふわの食感に優しい口溶け・・・全てが申し分無い。

そのスポンジにサンドされているのは、ぽってりとして滑らかな舌触りのふんわり甘いカスタード。
表面にたっぷりと塗られただけでなく、2段になったスポンジの間にもたっぷりと盛りつけられ、
更にそのカスタードクリームの中には例の“ハリネズミの苺ちゃん”がかくれんぼしていた。

見た目も可愛らしい爽やかな甘酸っぱい苺とカスタードの相性は・・・言うまでも無い、か・・・


ポカポカ陽気の窓際の席で、ひと口食べる毎に一足早い春の訪れを感じさせてくれるのだった。


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ベーグル


Niwaの魅力は目の前に広がる水辺の景色を眺めながら本格コーヒーを楽しむだけに非ず。
その証拠に控え目ながら店の入口に掲げられた看板には“Bakery & Cafe”と書かれていた。
先日僕が訪れていた時間内にも、入って直ぐのショーケースに並んだ焼き立てのパンを目当てに
お年寄りから若者たちまで入れ替わりでやって来た。で、僕も勿論その美味しそうなパンを購入した。

先ず選んだのがベーグルだった。見るからに張り裂けそうなつるんとした艶やかな焼き色。
ひと口噛んでみると、その薄い皮が香ばしい風味と共に口の中で吸い付いてくるのだ。

その薄皮がパリンと弾けたかと思うと、中にはもっちりとした生地がギュッと詰まっている。
ムギュムギュとした食感は、やがて小麦の仄かな甘さに変わって、溶けてゆくのだ・・・


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くるみパン


まるで地球に衝突した隕石のような、はたまた噴火した直後の火山のような、
張り裂けた表面の皮の、ゴツゴツでバリバリとした食感のほど良く焦げた香ばしさ。

真っ二つにカットすると断面からは胡桃のまろやかな薫りがふんわりと漂ってくる。
表面のゴツゴツ感が嘘のように、中の生地はふんわり柔らかで口溶けも最高だ。
しかも、万遍なく散りばめられた胡桃のムギュッとした食感と香ばしさは・・・

シンプルな胡桃の丸いパンなのに、何時までも忘れられない僕のスタンダード・・・


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「サイネリア」


カフェのテーブルで僕の目の前に広がった冬晴れの空の青と大きな湖面の澄み切った青。
二つの美しい青色にすっかり魅せられた僕は是非「サ」のイニシャルでも紹介したかったのだ。

そもそも青い花って、何とも不思議な、何処かミステリアスな魅力すら感じてしまう。

じっと眺めていると段々惹き込まれて、何処までも深く入ってしまいそうな気がして・・・
果てしなく広がる深遠な大空のブルーに、湖面に輝く澄み切った水のブルー・・・

そして、その深みに一度魅了されてしまったら後は先に進むしか・・・
そう、最後のイニシャルまでもう後戻りの出来ない今の僕みたいに・・・


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by mary-joanna | 2010-02-01 14:13 | 浅き夢見じ

ア.あの木のトンネルの先では

 あの木のトンネルの先では、
 嘗て置いてきた大切なものに
 再び出会う事が出来るだろう・・・

 でも一度置いてきたものは、
 決して持ち帰る事は出来ない
 あの木のトンネルの先からは・・・



あぁ・・・もうあれから2年が過ぎようとしているなんて・・・

“光陰矢の如し”とはよく言ったもので、本当にこの2年間はあっという間だった。
あの時は・・・そう、「ア」のイニシャルの花を紹介する頃は僕の計画も終盤に差し掛かって、
偶然を装って日光街道を北上するなんてベタなシチュエーションを演出したものだったけれど、
まさか、最後の最後であんな展開が待っていたなんて・・・今思い出してみてもビックリするよ・・・

でも、あれで良かったのかも知れない・・・あれ以上やってしまったら、僕も・・・貴方も・・・


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日光を訪れるのも、そして杉並木を通るのも2年ぶり、本当にあの時以来の事だった。
あの時は3つのコースから杉並木を上ってゆくコースを選んだって紹介していたけれど、
僕にとって日光に行くという事は、この日光街道の緑のトンネルを上る事を意味するのだ。


2年前の春にElvis Cafeを終了してから、僕はブログもカフェ巡りも辞めてしまっていた。
実はあの年の4月、僕は勤務先の学習塾の人事異動で地元の足利市を離れていたのだ。
そして今日、約2年ぶりに日光の地を訪れているのも、勿論、今こうして栃木県内にいるのも、
冬期講習と私立高校入試が一段落して遅い休暇をもらったので、地元に戻っているからだった。

それにしても・・・
まるで何処までも続いている尖塔の回廊の中を一心不乱に突き進んでいるような・・・
あるいは、おとぎ話の登場人物になって、深く暗い森の中を彷徨い続けているような・・・
前回の時もそうだったけれど、この杉並木を通っていると不思議な気分になってくるんだ。

尤も400年の歴史あるこの日光杉並木、たったの2年で変わる訳は無いか・・・
それともう一つ・・・森林浴のような爽快感も、あの時と同じ・・・本当に気持ちが良い。


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そして、果てしなく続くように思えた木のトンネルを抜けると、“街”に辿り着く。
2年前に置いてきた、“目に見えない大切なもの”が詰まった思い出の場所だ。

思い出と言えば、Kさんが惚れ込んだ旧今市の市街地に入り組んだ路地裏。
どんなに表の大通りが様変わりしても、昭和にタイムスリップしたようなこの情景は
2年やそこらご無沙汰していたからと言っても、全く変わる事なんて無いんだよね・・・

それに、建物のバックに聳えているのは日光連山・・・これも何時までも一緒なんだ・・・


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この裏通りを歩いてゆくと、前に訪れた際に目印にしていた神社の参道へと辿り着く。
石畳が敷かれた参道から奥に鎮座する境内を守る正門までの風景。僕の街の神社と同じ、
これまで何百年もの間大切に守られ、この先ずっと代々受け継がれてゆく身近な歴史なんだ。

そして、確かこの参道から程なく進んだ場所にあった筈だ・・・本当に見落としそうな場所に・・・


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あったよ。さっき路地裏で建物の間から見えた雪に覆われた日光の山々と同じ、
真っ白に聳える日光連山の更にその上に、誇らしげに掲げられた三つの店のロゴ。

NIKKO COFFEE・・・analog books・・・COCOLOYA!!

そして、この2階建ての家屋と向かいの平屋建てに挟まれた路地と言うには
あまりにも狭い、人がやっと通り抜ける程しかない隙間のような空間こそ・・・


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玉藻小路


鹿沼が“根古屋路地”ならば、此処、今市の路地裏には“玉藻小路”が伸びているんだ。
建物一つ分の、直ぐ向こう側へと届いてしまいそうな短い小路に過ぎないけれど・・・

果たしてこの路地の先は本当に目の前に見える空間に繋がっているのかな・・・

それとも・・・何処か違う世界へと通じる秘密の入口だったりして・・・


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日光珈琲


Elvis Cafeで紹介する為に初めてこの店を訪れたのは、出来て未だ半年足らずだったが、
“あの鹿沼の饗茶庵”が日光に新店舗をオープンさせるとの事でネットの口コミやブログの
レポは勿論、栃木県内の情報誌のみならず全国紙やカフェの専門誌、果てはテレビの
バラエティーにまで登場する程の大きな話題になっていた、まさにその時の事だった。

当時は週末毎にこの小路に長い行列が出来てしまうくらいの賑わいぶりだったので、
それこそ綿密に計画を立て、日程を調整して、予約も入れて・・・そして、勿論・・・
ありったけの気合とワクワクドキドキ感もバッグに詰めてあの杉並木のトンネルを
越えた僕だったけれど、2年経った今でもその人気は全く衰えを見せる事は無く、
逆に現在僕が生活している地方にもその名を轟かせる程の存在になっていた。

そして勿論、あの時感じたワクワク感はこれっぽっちも色褪せていないよ!!


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いきなり中に入るのが照れ臭かった訳では無いが、窓から窺った店内の様子は、
漆喰の白壁から成る広々とした空間に縦横に伸びる柱や梁、格子戸の木枠など、
落ち着いた純和風建築の趣きのある姿を垣間見る事が出来て・・・懐かしいなぁ・・・

2年前も前にたった一度、しかもほんの数時間の滞在していただけだったのに、
まるで数年ぶりに連絡無しで故郷の我が家に帰ってきたみたいな気分だった。
そう、このカフェ・・・空間全体が、そんな郷愁の薫りで包まれていたのだ・・・


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更に入口にはこんな物まで提げてあって・・・これでは本当に正月に帰省した気分だ・・・


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扉を開けて玄関に立つと正面には年代物の箪笥と、4人掛けのテーブルと・・・


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・・・このタイル張りのカウンターが僕を出迎えてくれる。

カウンターの手前まで進み、スタッフに挨拶を済ませた僕は直ぐに左右を見渡す。


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日光珈琲を象徴する風景と言っても過言では無い広い店内を真ん中で分けている中央通路。

2年前に様々な雑誌で見て、実際にこの光景を目の当たりにした僕は思わずこの中央通路こそ、
この日光珈琲のもう一つの“小路”そのものではないか、と興奮気味に紹介していたけれど・・・
今こうしてこの場所に立ってみると“小路”であるばかりでなく、頭上の柱や梁の隙間から
降り注ぐ木漏れ日のような淡い日差しは・・・さっき通ってきた杉並木と同じではないか!

そう、此処にも清々しい“木のトンネル”が存在しているんだ・・・
しかも、その先の、一番奥に掛けられていた額縁には・・・


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そしてもう一つ。背面に大きな棚を擁するこのカウンターキッチンも、
僕にとっての日光珈琲をイメージするのに必要不可欠な場所なのだ。

彼、Cindyが鹿沼の饗茶庵のキッチンを紹介した画像を一目見た時から、
棚の中で真っ白な皿やカップが積まれ、器やグラスが整然と並んだ光景、
今、目にしているこの光景こそ、僕にとってカフェのキッチンの姿なのだ!


更にこのカウンターの手前には、此処、日光珈琲ならではの“オブジェ”がある。


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恐らく毎日休む事無くシュッシュと真っ白な湯気を噴き出している大きなヤカン・・・
あの時と変わらず今日も健在で、そしてれからも不可欠な存在になってくれるだろう。


でも、キッチンの直ぐ側で、僕は2年前とは異なった“変化”を見つけた。


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格子戸越しに僕の目を捉えたのは真っ黒なボディーの大きなストーブだった。
前回訪れた後、このカフェの最初の冬を迎える際に新たに加わった仲間・・・

そう、歴史の息吹を感じさせるこのカフェは、同時に常に進化し続ける場でもあった。


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このカフェには一見同じトーンに見えつつも非常に個性的な様々な寛ぎの場が存在する。

以前、昭和の高度経済を影で支えた“UFO”と称した、ヘルメット型の大きなランプの下で
過ごすのも、目の前の小路を眺めながらも側の棚に並んだ美術書をめくるのも、乙なものだ。


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嘗ての遊郭を改築した、歴史情緒の雰囲気をいっぱいに湛えた純和風家屋だと、
実のところ良くは分ってはいない大正ロマンに浸りつつ視線を上に向けると・・・

何ともゴージャスなシャンデリア・・・良い意味での和洋折衷リノベーション建築なのだ!


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“華の世界”への入口を潜って上の階へと向かって・・・そう、其処にあったんだよんね・・・

2年前に僕が追い求めていた、「ア」のイニシャルの“花”は・・・


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この市松模様の壁面には本当に度肝を抜かれた思いに駆られたけれど、
今改めて見直しても、あの時の強烈なインパクトは全く変わらない・・・

そして、この場所で見つけたのだけれど・・・うわぁ、懐かしいなぁ・・・


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ずっと探し続けて・・・
やっと見つけ出して・・・
ようやくキミに出会えて・・・

2年前、僕は此処で「ア」のイニシャルの花に対面する事が出来たのだった。

同じ棚の上に置かれた花瓶には例の花はおろか、一輪の花も活けられていなかった。
もう2年も前の話なのだから・・・当たり前と言えば当たり前の事なのだけれど・・・

 大切なものは、目には見えない

僕にそう教えてくれたのは他でも無い、あの木のトンネルの先にあるこの空間ではないか!
目を閉じれば今でも瞼の裏にあのほっそりとした美しい姿の「ア」の花が鮮明に映っているんだ。


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心の中での再会を果たした僕が選んだのはこの席・・・うん、あの時と同じ席だ。


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おや?・・・窓の外に見えるあの花は・・・


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スミレ(パンジー)


あぁ・・・何という巡り合わせなんだろう!!
まさか、今日、この場所でこの花に出会うなんて!!


・・・Elvis Cafeの一番最後に咲いた可愛いあの子の花に・・・


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特製スープカレー


地元栃木のしかも日光という土地柄と、杉並木沿いに点在する蕎麦屋に触発されて
前回は地場産の食材をふんだんに使用したガレットをオーダーした僕だったが、
今日は鹿沼の饗茶庵の人気メニューであるこのスープカレーに決めていた。


とろみの無いサラサラした舌触りはスープと謳っている通りのものであったが、
サラリとしながらも同時に舌先に程良く絡み付いて、存在感は抜群だった。
熱々のスープは徐々に広がるピリリとした辛さと心地良い刺激に加えて、
スッキリとした酸味と仄かな甘味の絶妙なバランスが非常に味わい深く
更には様々なスパイスの風味、香り、コク等が複雑に絡み合ってくる。

このカレーのメインとなるのが、じっくり炊いた柔らかな骨付きのチキン。
皮の部分のトロリとしたゼラチン質の、クセになる食感が堪らない!
更に、直ぐ内側の肉は繊維にそってはらはらと裂けて・・・柔らかい!

ふんわりとした肉質・・・ジューシーな肉汁・・・とろけるような食感・・・
じわじわと広がってゆく鶏の旨味はもう言葉に出来ない程だった。

ゴロっと入った地元栃木産の新鮮な野菜の自然な甘さと食感が、
スープカレーにじわりと染み込んで一層美味しさが引き立っていた。
カレーとの相性抜群の白米と添えられたシャキシャキで甘い葉野菜、
極めつけは、爽やかな酸味のレモン塩による未体験の新たな美味しさ・・・


2年ぶりだとか・・・思い出の場所だとか・・・一瞬全てを忘れ、このカレーに魅了されていた・・・


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2年前の訪問の際、Kさん自らスイーツのプレートを持ってきてくれたっけ・・・
あの時は本当にビックリしたけれど、Kさんの嬉しそうな表情が脳裏に甦るよ・・・


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林檎のタルト


饗茶庵には一本の林檎の木があって、その木に生った林檎でスイーツを作ると言う・・・

そう、この日僕がオーダーした季節の果物のタルトには、その林檎が使われていた。
ホロホロと崩れるほんのりと甘いそぼろ状の表面は何処か懐かしさを感じる味だ。
土台のしっとりとした食感のタルト生地は、口の中で軽やかに消えてゆくのだ。

入れ替わるように口の中いっぱいにふわっと広がる爽やかな甘さの林檎の香り。
シャクシャクっとした歯応えと瑞々しくジューシーな林檎の果実感に加えて、
トロリと甘く煮詰められた、濃厚であり且つ、まろやかな風合いが堪らない。


カフェが所有するたった一本の林檎の木から採れた林檎で作った特別なタルト。
ひと口ひと口、目の前のスミレを眺めながらゆっくりと頬張る事にしたのだった。
眺めると言えば、僕は饗茶庵のドリンクをぼんやりと眺めているのが大好きだった。

まるでグラスに閉じ込めた宝石のようなカラフルでキラキラと輝く様を見つめて・・・
そして、今回スタッフの方に是非どうぞと勧められたドリンクも・・・
まるで初恋した時の心のときめきを表わしたような・・・


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木苺のソーダ


まるでクリスタルのようにキラキラと透明に澄んだ輝きを放つグラスの中には
ルビーのように真っ赤な粒選りの木苺が可愛いらしく繋がって浮かんでいた。
この非常にキュートなグラスに何時までも見つめていたい衝動に駆られて、
中々手をつける事が出来ずにウットリと眺めていたのは言うまでも無い。

グラスの底で真っ赤な木苺ジャムがキラキラ弾けるソーダの泡と混ざり合い、
とろんと滑らかな甘酸っぱさと冷たくてシュワシュワした心地良い刺激が
ゆっくりゆっくり溶け合っていく・・・ひと口毎にキュンとなりそうで・・・

クリスタルのような澄んだ輝きの氷の表面に浮かんだぷるんとしたフランボーズ。
名残惜しそうに一つすくって口の中に放り込んだ瞬間口中に広がるぷるんとした
表面の感触とプチプチと弾け出す果肉のジューシーでフレッシュな甘酸っぱさ。

饗茶庵のドリンクに、何時も恋に落ちてしまいそうなんだ・・・
だから・・・きっと彼もこのカフェに来るんだろうね・・・



そして日光珈琲を後にした僕は、直ぐ向かい側の建物の、小さな扉を潜る事にした。
あれから一時も忘れる事の無かったもう一つの“大切な思い出”との再会を果たす為に・・・


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COCOLOYA


先の日光珈琲の突き抜けるような広がりに比べると、其処はまるで雑然とした・・・
しかしながら心ときめく宝箱のような空間であり、そのこじんまりとした店内には、
“ジャンク”の文字でで括るには惜しい魅惑溢れる品々で埋め尽くされていた。

例えばほら、店に掲げられた明かり一つとってもご覧の通りである。


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この二つが一つになるなんて・・・そして、このランプに優しく照らされた一枚の絵がある。
そう、此処は静かな情熱溢れるアーティストの素敵な感性が形となって現れる場所なのだ。

2年前に僕の目を・・・いや、“目”では無く“心”を鷲掴みにしたあの絵は既に無かった。
しかし、その絵にも負けない絵だったのだ・・・大きな木の下にぽっかりと空いた穴の先には・・・


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GOING WITHIN 


・・・あの木のトンネルの先では、きっとアナタが来るのを心待ちにしている人が・・・


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あの日光への小旅行から約2年後のこの日、再び彼の地を訪れ、木のトンネルの先で
2年前に置き去りにしてきた“目に見えない大切なもの”との再会を果たしてきた僕は、
同じく2年ぶりに出会ったあの花瓶に花を活けようと思い、ある花を購入し帰宅した。

勿論、実際の花瓶に活ける事は出来なかったので、嘗て花を撮影していた場所に
花の鉢を置いて暫く眺めた後に、目を閉じて心の中で花瓶と重ね合わせてみた。


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「アネモネ」


冒頭にも書いたけれど、僕はあの春の日を最後にブログも、更にカフェ巡りからも離れてしまった。
そして、その後Cindyとは勿論、あの半年間にElvis Cafeで知り合った例のグループの人々と
コンタクトを取る事はおろか、彼等の名前をネット上で見掛ける事すら終ぞ無かったのだった。
そうして地元の栃木県から遠く離れた土地で今日まで過ごしてきた・・・いや、一度だけ・・・

そう、たったの一度だけ、それも2年前の最後の日から少し経ったあの日・・・6月半ば・・・
Christineと称する女性の日記を開いた事はあったっけ・・・本当に告白するんだなって・・・


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「analog booksの本と、本の家具展」

会期 2010年1月16日(土)~2月27日(土)←会期が延長しました!
会場 analog books
    栃木県日光市今市754 玉藻小路
    13:00~18:00(土曜19:00まで)

電話 090-7909-7072
休日 月曜日
主催 analog books + APARTMENT
後援 「日光森と水の会」 「All About Nikko」



先日お邪魔した際、analog booksの店長さんから上記の展示会の話を聞き、
是非とも此方の記事で紹介させて頂きたいと思いましてリンクさせてもらいました。
現在(1/27)開催中ですので、機会がある方は是非ともお立ち寄り下さいませ。
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by mary-joanna | 2010-01-27 02:52 | 浅き夢見じ