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マ.Loomer's room

僕の初めての(そして恐らくは最後の)ブログであるこのElvis Cafeも7月の後半に
イロハの「イ」の花でスタートしてから、早いもので彼是5ヵ月が過ぎようとしていた。

尤も、このブログを始めるようになってから少ないながらも目にするようになった
他の方たちのブログみたいに毎日の更新という訳にはいかず、約半年近くの間で
未だに30回にも満たないスローなペースでの半ば忘れ去られた存在と化していた。
それは、あのCindyの紹介によって言わば鳴り物入りで開始した際のアクセス数や
はじめまして&期待している系のコメントも直ぐに鳴りを潜めて、相当早い段階から
その両方共すっかり落ち着いてしまった事実からも容易に察する事が出来たのだ。

そんな、開始時の好奇の目に晒されていた時期に一段落したのを見計らったかのように
僕にコンタクトを取ってきたのが、Brit Boyやパピヨンといった例のグループだったのだ。
彼等はコメントやメール等の仮想世界に留まらず、実際に僕の目の前に現れてきた・・・
つまり、僕は彼等グループに顔を晒してしまった事になるが、それは彼等とて同じ事。
そしてCindyという共通の目的の為に、遂には彼等との取り引きに応じてしまった・・・



 Littleくん、俺とはあの時VIRONで会って以来だけど、元気にしてた?
 な~んてね・・・君のブログはもちろん毎回チェックしてるから大丈夫だよ♪
 相変わらず本家のCindy並みにあちこち駆け回っているみたいだね~!!

 ところでさぁ、この前パピヨンと交わした約束だけど、どうなったのかい?
 先月、浅草の天国に行ってきたんだね・・・ブログは見せてもらったけど、
 それっきりじゃん!他の店もバンバンと紹介してくれなくちゃ困るよ~!

 しかも肝心のリストの方はほったらかしにして・・・よりによって・・・
 “ブライアンのカフェ”に行くなんて!!あれにはマジでビビったぜ!!
 あまり時間は無いんじゃないか?・・・宜しく頼んだよ、“二代目”さん。



Brit Boyから上記(原文通り)の鍵コメントが届いたのは、同郷のパン好きとして彼ならずとも
何時か訪れてみたいと思っていた、益子町にある憧れの森のパン屋を紹介した夜だった。
早かれ遅かれ彼等からの催促のコメント(またはメール)が来るのは時間の問題だろうと
思いながらも、あえて僕はリスト以外の店を紹介していたのである程度予想はしていた。

尤もジョンと兄との物語のパン屋の直後だというのも、後から考えると感慨深いのだが・・・
実は次にリストの店を訪れるのは、彼等が痺れを切らして催促してからの事にしようと
前もって決めていたので、この結果は想定の範囲であって次に行く店も決めていた。


それは・・・その前に、僕も彼に倣って市販のチョコレート菓子の紹介から始めようか。


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近所のスーパーで購入したこのチョコレートには国産シングルモルトウイスキーの
山崎が中に入っており、チョコの中からフワッと広がる芳醇な香りと奥深い味わいは
まさにプレミアムウイスキーそのもの・・・勿論、チョコレートとの相性も抜群だった。

今回僕が紹介する例のリストに名を連ねた店であるが、そのリストの元にもなった
彼のあの物語でのこの店の紹介もこんなチョコレート菓子の写真から始まっていた。
チョコレートと洋酒の優美なマリアージュ・・・でも、その後の文章の中には、その後の
物語のヒントとも取る事の出来る記述が含まれていた・・・そして、今回紹介した後にも・・・


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彼の紹介では6月半ば、物語の主人公でもある語り手の青年が勤務している学習塾の
1学期中間テスト対策補講も終わったごく平凡な一日の遅い朝、という設定になっていた。
如何やら彼も僕と同じ学習塾の講師という職業に就いていたようだ・・・意外と近くにいるのかな?

それなら、今回僕が訪れたのは2学期期末テスト対策補講が終わった12月の中旬の一日。
ただし、こっちには来月(来年!)早々に控えている高校入試があるので、“緩く”は無いが・・・

そしてやって来たのは県を越えて足利の隣りに位置している群馬県館林市の郊外。
大きな都市という訳では無い為、市の中心から10分も車を走らせると長閑な田畑の
風景が辺り一面を覆っていて、収穫を終え剥き出しになった大地を眺める事が出来た。


見渡す限り雲一つ無い青空の下、視界の先には雑木林が小さく見てとれた。
この感じは、何処となく“あの橋のムコウ側”にも通じなくも無い気がしたが・・・

農道の脇に流れる用水路の側の草むらで、ピンク色に輝く小さな花を見つけた。


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ホトケノザ


先日金山で出会ったヤマツツジは本来は5月前後に花を咲かせるそうで、実際、
駐車場から神社までの決して短くは無い行程で見掛けたのはあの群生だけだった。

今僕の目の前で、まるでお辞儀をしかけているように可愛らしい姿を見せてくれる
この濡れて滲んだみたいなピンク色の小さな筒状の花も、本来の花期は早春との事。

これまで花期の関係で散々奔走し紹介を諦めた僕の苦労などお構い無しとばかりに、
全くの季節外れに可憐な花を咲かせている光景に、やはり無心で魅入る僕だった。


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えんや


件の物語の語り手であるWilliam青年がArnoldとの距離を近付けるきっかけとなった、
“群馬県T市の市街地からやや外れた場所”に位置する喫茶店・・・館林市と既に書いたが・・・

今回僕が例のリストの中から選んだのは、足利市の隣り街にある紛れもないこの店だった。

それは、先の語り手が憧れていた人物と交流を築く事になったこの場所に現を担いで、
僕もあの人物に一歩でも近付きたいとの願いを込めての選択であるのも、無論確かだが。


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自家焙煎珈琲の店


そんな、William青年に大胆な一歩を踏み出させたのは本格珈琲が楽しめる店。

こんな周りに何も無い所に?・・・いや、これまで彼が紹介してきた店には
得てしてこの様なロケーションに溶け込んでいる店が少なくは無かったのだ。


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目の前に広がる畑は剥き出しになった黒々とした土が僕の視界を占めていた。
物寂しい風景ではあるが、また新しい恵みに備えてジッと待っている大地の姿は、
この地でずっと続いてきた自然と人間との共同の営みである事を改めて感じさせる。


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煉瓦を積んだ門柱の上に置かれた鉢の白い花が、時期を過ぎて枯れかけの潅木と
生気を失いつつある芝生の寒々とした庭に控え目で可憐な印象を与えてくれていた。
また春になったら青々とした庭園に魅了される事だろうと思いつつ石畳の上を歩いた。

でも、そんな芝生の中でさり気無く訪問者を出迎えてくれるモノがいたのだ。


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こんにちは黄色い花さん、他のみんなはもう往ってしまったのかな?


石畳の小路からウッドデッキを上がった先に菱形に組まれた木の扉が待っており、
組み合わせた板自体がスタイリッシュなデザインとなった扉がこの店の入口だった。


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キミはそのダイヤの目で、目の前の大地をずっと眺めていたんだね・・・


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扉と店内とを結ぶスペースで見つけたのは勿論・・・珈琲の専門店なのだから・・・


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入ると直ぐにケーキのショーケースが控えていて、その中でまるで宝石のように
キラキラと輝くチョコレートケーキやいちごのタルトに・・・思わず唾を飲み込んでいた。

ケーキに見惚れてしまった僕だったが、振り返った光景は心安らぐ喫茶店の姿だった。


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重厚な木製の天板が素晴らしいカウンターの奥には煉瓦造りの“焙煎室”も備わり、
ガラス越しに覗う事の出来るその部屋の中ではマスターが焙煎をしている最中だった。

更にもう一つ、珈琲専門店に無くてはならないものと言えば・・・


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背面の棚に収まり切らない珈琲豆の瓶がカウンターに沿って綺麗に並んでいた。

生産国はもとより産地によって最良の焙煎が施された、黒く輝く珈琲豆の瓶を
ぼんやりと眺めながら、豆の故郷に想いを馳せ・・・いや、僕が考える事と言えば・・・


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恐らく珈琲の店にとっては命とも言える、この存在感抜群の焙煎機・・・
そして、それを証明するかのように与えられた専用の部屋の前には・・・

そう、キミがこの店の看板を背負っているんだよね・・・
珈琲で勝負するって意気込みとプライドを掛けた看板をね・・・


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プライドと言えば、マイセンの歴史と誇りを誇示する双剣のサイン。


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更にカウンターの端のキャビネットに目を向けると、その中で厳重に陳列されていたセットは・・・
金の装飾の描かれた澄んだコバルトブルーに輝くセーブルの、何と気品に満ち溢れている事だろう。

このキャビネットにはセーブルの他にもギャラリーや美術館クラスの逸品がディスプレイされていた。


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更にキャビネット以外にも僕の目を釘付けにするプレミアムカップが至る所に置かれていた。


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ドラゴンメロディー


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猟師のほら話


括り付けられた棚で見掛けた、現代マイセンのマイスターの一人であるハインツ・ヴェルナー氏に
よって息吹を吹き込まれた、まるでおとぎ話のワンシーンを見ているような作品にも出会えた


インドの花を筆頭に、マイセンの栄華を極めたマスターピースが所狭しと並べられており、
それは正しく宝石や美術品が放つオーラを帯びた輝きにも全く引けを取らないものであった。

これまで紹介した作品も勿論そうであるが、この他にもマイセンには花をモチーフにした作品が
沢山存在し、それは現在花を紹介しながらカフェを回る僕にとって大きな刺激となってくれた。


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アーモンドの樹


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ローズ・シリーズ


清楚な純白の地肌に緻密に描かれた潤んだ花弁たちが可憐に舞っていて・・・何て美しいんだ!!

アーティストと呼ぶに相応しい熟練の絵師たちによる、全てが手作業の一点ものである。
そんな貴重なマイセンのカップが街の外れの喫茶店にここまで集められているなんて・・・


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ヘレンド(2枚目はフォーシーズンと名付けられたカップ&ソーサー)


ドイツのマイセン・・・フランスのセーブル・・・そして、ハンガリーのヘレンド・・・

セレブリティのステータスの一つとして、この様な陶磁器のセットをコレクションするのは
欧州各国の貴族階級によって寵愛され続けてきたのだろうが・・・何て優雅な意匠なんだ!


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店内を彩るカップ&ソーサーを最大限に引き立てる為か、店内はシンプルにまとめられ
テーブルやチェアー等も、上品な印象を醸しながらも落ち着いた雰囲気で統一されていた。

勿論、カップやコーヒー、スイーツをより楽しんで頂きたいという配慮もあるのだろうが、
木目の輝きが美しいカウンターやカップがディスプレイされた棚も含め、控え目ながらも
この木の温もりの中でまったりとした気分に浸りながら緩やかな時間を過ごす事が出来た。


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此処までカラフルな作品を見せて頂いた僕が今回オーダーしたコーヒー&ケーキは何と・・・
全く色が無いのだ!!そんなカラーレスの注文にどんな色が添えられるのかと思っていたら・・・

マスターのセンスと感性の高さに、僕はもう完全に脱帽するしか無かった・・・


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ガトー・クラシック・オ・ショコラ(チョコレートケーキ)


極上のカップとコーヒーを提供するこの店の事だから、ケーキは勿論、
コーヒーと共に頂くスイーツやパンも、最高に拘り抜いたものばかりだった。

そんなスペシャルなスイーツの中で今回僕が選んだのが此方のケーキだった。
定番中の定番でもあるガトー・ショコラをチョイスしたのは、ケースで目にした際に
一目惚れしてしまったのが正直な処であるが、この店が“例の物語のリストの店”
という事も勿論考え、その物語で言及された方に捧げる意味合いもあったのだった。


ほんのりと色付いた、まさにミルクチョコレート色とも呼べる表面はふんわりと焼かれた
軽い感触でサックリと仄かな香ばしささえ漂ってくるが、その感覚は一瞬でしか無かった。
と言うのも、フォークを口の中に入れた際に感じられる表面の内側のギュッと詰まった質感と、
中心に進むにつれ増してゆくしっとりとした滑らかな食感、中心はクリームの様にとろけていた。

この様々な顔を見せてくれる食感を、ミルキーなチョコレートで味わう事が出来るのだった。
ややほろ苦く香ばしい表面から、段々と口の中で溶けたチョコレートの濃厚な風味と甘さが
そのクリーミーな舌触りと共にゆっくりと広がってゆき・・・それはそれは、幸せなひと時だった。


そんなチョコレート・ケーキと共に頂くのも、この白と青のカップ&ソーサーに映えるコーヒー。


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グァテマラ(中深炒り)


僕がカップに夢中になっている間、カウンターの向こう側ではマスターが豆を挽き、淹れていた。
何一つ変わる事は無いその無駄の無い動きは、まさにマイスターだけが手にする事の出来る技だ。
寡黙なマスターが淡々と珈琲を入れる間の静寂した凛とした雰囲気の中、コポコポというポットから
お湯の流れ出る微かな音が部屋全体に響き渡り、同時に芳しいふくよかな薫りが鼻孔を擽り始めた。

そうして運ばれてきた至極とも言える一杯の珈琲のブラックオニキスのような輝きといったら!

舌に付けた瞬間、心地良い熱気の中から滑らかでややとろみすら感じられる口当たりのコーヒーから
口の中を刺激するインパクトのある苦味。そのビターな風味から感じる酸味とコクに唸ってしまった。

仄かなローストの薫りが落ち着きと安らぎを与えてくれる。ゆらゆらと不規則な軌跡を描きながら
立ち上る湯気と共に広がる、仄かに甘さと芳ばしさを帯びながらも何とも言えない豊かな香り。
この香りに包まれていると、此処だけが外界から隔絶され時がゆるやかに流れてゆくようだ。

そして、この最高の一杯が注がれているカップ&ソーサーはマイセンを象徴する・・・


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ブルー・オーキッド


“花を紹介するブログを綴っている”という僕の申し出にマスターが粋な計らいをしてくれた。


前出のハインツ・ヴェルナー氏の代表作の一つでもある此方のモチーフは・・・
何と、白地の表面にシンプルな青色の釉薬で描かれた“蘭の花(オーキッド)”!

生き物の手足の様にくねらせた枝振りからデフォルメされた大きな蘭の花は、
青一色の濃淡だけで花弁の繊細な表情を完全に表現し切っている様にも思えた。

彼のブルー・オニオンと並んで現在のマイセンでも1・2を争う人気シリーズであるが、
何処か日本古来の焼物にも通じる部分もあり、それでいて西洋の優雅さをも兼ね備えた、
そんな現代マイセンの逸品を恐る恐る手にしながらも、何時までも飽きる事無く眺めていた。



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えんやでの甘い余韻にもう少し浸っていたかった僕は、焼き菓子を買って帰る事にした。
まるで花弁みたいなひらひらとした形の可愛らしい焼き菓子と一緒に合わせるのは・・・


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「マーガレット」


今シーズンの花期は既に終了し、専門店では早くも来春に向けての花が準備されるとの事だが、
偶然にも近所の店でほんのりと淡いピンク色を付けた此方の鉢植えを手に入れる事が出来た。

マイセンの花柄の中にはこのマーガレットも存在するのだが、唯でさえ入手困難なマイセンの、
しかも市場に中々出回らないレアな絵柄との事で、残念ながら実物を見る事は叶わなかった。
だが、今僕が目にしているのは、紛れも無い正真正銘“本物の”マーガレットの花ではないか!

白い花弁とはまた違った、仄かな甘い香りと共に可憐な少女の様な姿を見せるピンクの花弁。
しかし、こんな可愛らしい花がもう少しで儚くも散ってしまうのだから、カップの絵柄に留め、
この美しさを後世に長く残してゆきたいという人々の想いも十分に頷けてしまうのだった。


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今回のBrit Boyによる鍵コメントは気の短い彼が焦って送ったものか、それともパピヨンか・・・
あるいは僕が未だ知らない他の(彼の物語にはあと数名の登場人物の名が出てくる)メンバーが
彼に送らせたものなのかは定かでは無いのだが、大丈夫・・・僕だってちゃんと考えているのだから。


そう言えば、このえんやの紹介をUPしてから2~3日経ったある日、二つの鍵コメントがあった。

一つは匿名の、それもたったのワンフレーズ、“咎無くて死す”とだけ書かれていたのだが・・・
コメント欄を見た瞬間ドキっとしたが、これが紹介に対する彼等からの報酬なのだろうか?
もしそうでないとしたら、このいろは歌の暗号を引用した謎めいたコメントは一体誰が・・・

そしてもう一つは・・・何とあの人物からの誘いのコメント、しかもプレゼントもあるなんて!
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by mary-joanna | 2009-12-22 13:12 | 有為の奥山

ヤ.Eight Fingers To Hold You

彼、Cindyの物語への憧憬をこの二つの眼にしっかと焼き付ける僕の密かな試みも、
(元々50回にも満たないのだが)もう既に折り返し点を越えて後半へと差し掛かってきた。
そんな12月も半ば、先日のあのカフェへの二度の訪問に触発されたからという訳でも無いが
僕の心の奥底から今まで禁断にしていたあの店を紹介してみたいという欲求が湧き上がっていた。

それは、もう残り少ない“イロハ計画”の中で紹介したい店が限られてきた事は勿論、
例のリストに記載された店も、未だ浅草の天国の一軒しか訪れておらず、その為だろうか
一時期あれ程頻繁だったグループからのコンタクトもここ最近パタリと途絶えてしまった様で、
“彼の情報を得たい”という本来の目的をも頓挫しかかっている不安も、多少なりに存在していた。


それに何より、今回のイニシャルでもある「ヤ」のイメージに何処かピッタリな感じがして・・・
能書きはこの位にして、早速出発する事にしようか・・・今回訪れる街には可愛らしい・・・


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たった一両のこの電車が僕を連れて来てくれる筈になっていたんだ!

尤も、残念ながら諸事情によりこの真岡鉄道を利用するプランは今回は見送る事となり、
益子の街へと入る手前の踏切で、のんびりと眺めているだけになってしまったけど・・・
可愛らしい電車クン、僕の目の前を過ぎ去るスピードなら新幹線より速かったよ!


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陶芸の販売店が左右に立ち並ぶ益子焼きのメインストリートとも呼べる大通りを抜けて、
更に小高い山の方へと細い路地を入ってゆくと辺りはすっかり里山の景色を見せる。
この秋は様々な場所の紅葉を紹介したけれど、今、僕は山吹色の中に立っていた。

で、果たしてこの先に目的の店はあるのか、と少々不安が過り始める頃なのだ・・・


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この数本の大きなドングリの木に守られている、可愛らしい小さな山小屋を目にするのは・・・


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pain de musha musha and coffee


遂に僕は、この森の中でかくれんぼする小さなカフェ兼パン屋にやって来た。

彼が“兄”と慕っていた隣り街のマエストロが、親交の深いこの店でイベントを行ったのは
今年の1月、もう彼是1年近くが経とうとしているのだが、それまで彼は自身の日記の中で
ほんの2~3の例外を除いてこの種のイベントを紹介するのを極力避けている様に感じられた。
唯一、これ以上は無い程の情熱を傾けて紹介したイベントこそ、この店と“兄”とのコラボだった。

その物語で、決して川のムコウ側には出ようとしなかった少年を引っ張り出したのだから・・・
もう、ジョンとポールの物語の続きに触れる事は出来ないの?・・・なぁ、どうなんだい?


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朝から飲まず食わずでの長いドライブと今年一番とも言える朝方の冷え込みの為に
兎に角温かいものが欲しかった僕は、ドングリの木の横を通り抜けて石段を駆け上がった。


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あの真っ白な木枠の引き戸の側の、直ぐ目の前に大きなドングリの木を眺める事の出来る
四角い卓の場所こそ、彼があの物語でチョイスした席だった・・・外の日差しが気持ち良さそう・・・



とても優しくて物腰の柔らかな店主夫妻と過ごすひと時は、心安らぐ気持ちに誘ってくれる。

その会話の中で偶然出てきた話題が、お気に入りの椅子についてだった。
実は、最近掲載された雑誌の中にデザイン&建築関連のものがあったのだ。

僕は嘗て、イームズやプルーヴェなどのチェアーを追い求めていた時期があった。
今でこそレプリカ製も数多く出回り、カフェの椅子としても定番になったが、あの頃は、
程度の良い中古品に脚や座面のファブリックをカスタムしてもらうのが凄く楽しみだった。

その事を伝えると、ご主人が穏やかな口調で僕に語った。


 貴方に見て頂きたい自慢の椅子があるのです。


果たしてその椅子はカフェの奥の、2畳程の板敷きのスペースに置かれていた。


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写真での印象以上に小さな椅子は、まるで子供用と見紛うばかりであったが・・・


 勿論大人だって座れますよ・・・どうぞ、腰掛けて下さい!


その言葉に恐る恐る腰を下ろすと・・・何てしっかりとした椅子なのだろう!!

その華奢なビジュアルとは裏腹に、座った際に腰に伝わってくる安定感と言ったら、
まるでこの椅子が切り出される前の、まだ大きな樹木に優しく包まれている感じだった。
柔らかな発色が美しい淡い赤色のフレームに、微妙な反り具合が腰に自然とフィットする
桜の古木を使用した座面に映る枯れた色合いの木目からは、木の温もりが直接感じられる。

イベントではあの方が着かれていたのも納得だが、僕はこの椅子がすっかり気に入ってしまった。


このスペースはギャラリーとしても活用され、側のカウンターには陶器がディスプレイされていた。


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そう・・・僕も心の中で誓ったドングリの約束を果たしに、この森の中のカフェに来たんだ。


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クグロフ


可愛らしいクグロフ型で焼きしめられた、伝統的な焼き菓子のクグロフをオーダーした。
先日のシュトーレンでも感じたけれど、クリスマス当日の華やかな食事を迎えるまでの間、
素朴な焼き菓子を少しずつ頂きながら過ごす・・・なんて素敵なクリスマスの過ごし方だろう。

バターをたっぷりと練り込んで焼き上げたブリオッシュ生地と伺っていたのだが、
ふかふかの生地は口の中でふわっと溶けてバターの心地良い風味に包まれてゆく。
ラムレーズンの豊かな香りとねっとりした食感、噛んだ際に広がるフルーティーな風味、
ナッツ香ばしさとカリっとした歯応えがふんわりしたブリオッシュにアクセントを加えていた。

レモンのほろ苦くも爽やかな薫りが微かに漂って、この素朴なパンに奥深さを与えていた。


このクグロフを食べていると、本当にクリスマスが待ち遠しくなってくるよ・・・


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コーヒー (カメルーン・カプラミ・ジャバ・ロングベリー)


3種類の産地(カメルーン、エクアドル、そして中国!)から、中焼きのカメルーンをオススメして頂いた。

先ず注目して欲しいとサーヴされたのが、カフェでのコーヒー用にと特注された此方の専用カップ。
縦長の筒状になっているのはコーヒーの香りをダイレクトに感じて欲しいとの配慮からだったが、
コーヒーの芳醇な香りは勿論の事、店主のコーヒーへの情熱や拘りをも感じ取れるのだった。

早速香りを堪能させて頂くと、柔らかなローストのまったりとした心地良い香り・・・
この中焼きのロースト感から、てっきりマイルドな味わいを連想していたのに・・・

パンチのある苦味の中から広がる円やかな酸味と微かな甘みが作り出す複雑な味わい!
しかも、冷めてくると内側かすっきりとしたら酸味が段々顔を覗かせてくる感じがした。


唯、豆を焼いただけの飲み物なのに・・・何て奥深い飲み物なのだろう・・・
このコーヒーの魅力にウットリとしながら惹き込まれていると・・・


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・・・この日のメインは大き目のカップに入ってやって来た。


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冬野菜のクリーム煮・ポットパイ


とっても“ホット”な“ポット”パイ!!

大きなカップを覆い尽くすパイの蓋はほんのりとしたこんがり小麦色。
アイボリーのカップからモコモコとはみ出して・・・まるでキノコの傘みたい。

そのカップを覆った何処か愛らしいパイの蓋を暫く眺めていた僕だったけれど、
冷めてしまわないうちにと、名残惜しくもスプーンを刺すとパイ生地はサックリと
崩れて熱々の湯気がいっぱい立ち上り、僕の食欲も一気にヒートアップするんだ!


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サックリと焼かれた表面は、仄かに粉の香ばしさが感じられクリスピーな美味しさ。
それでいて内側の方はむにゅっとして柔らかな食感と素朴な味わいが何処か懐かしい。

大きなカップを更に大きく覆ったボリューム満点の、二つの美味しさのパイ生地の中には
キノコの豊かな香りとほんのりとクリーミーな風味が抜群にマッチしたシチューがたっぷり!

クリーミーなシチューには、とろとろに煮込まれた甘いネギにシャキシャキでほっこりした蓮根、
そして何と言っても、ムニュっとした食感から広がる旨みたっぷりのキノコがたっぷりと入っていた。
スプーンで崩し入れたパイ生地はシチューを吸い込んで絡み合い、更に一層美味しさを増していく。


全て具材を包み込む優しいシチューは素朴で優しい味付けとたっぷりのミルクの、
小さい頃、寒い夜に作ってもらった、あのママの優しい温もりがいっぱい感じられて・・・

森の中の小さな小屋のカフェで頂く野菜とキノコがたっぷり入ったあつあつパイシチューは
それまでの僕の、冷え切った身体と心をゆっくりと優しく、そして、暖かく包み込んでくれていた。


身体も心もすっかり温まった僕はこのカフェを後にして、“もう一つの”入り口に向かった。


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カフェだけじゃない・・・ずっとこの“ムシャムシャパン”の小屋に憧れていたんだよ!

まるで何処かの惑星の生き物みたいな何とも名状し難いオブジェにも遂に出会えた。
真っ白な扉のノブに手を掛ける前、僕はこの小屋の屋根を暫くの間眺めていた。
この時期に訪れる機会があったら、是非ともその目で確認して欲しいのです・・・

この“ムシャムシャパン”の小さなお店の屋根の色は何色かって・・・


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クリスマスのカラフルなイルミネーションも良いけれど、このパン屋さんにぴったりだよね?


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クリスマスって言えば・・・サンタさん、この前は綺麗な花と懐かしい思い出をありがとう・・・


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中に入ってみると、丁度パンが焼き上がったところだった。


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ちっちゃなまん丸パンに、しっかりしたハードパンに・・・季節の野菜のキッシュもあったよ!!
棚の向こう側にいる店主と相談しながらお気に入りのパンを選ぶって、ちょっと嬉しいよね。


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やっぱりキミたちは此処にも遊びに来ていたんだね・・・

あれっ、キミたちが向かっているは、上の方にあるちっちゃな丸いぼんぼりを付けた・・・
そう、その白くてまん丸が寄り添った花・・・その周りには優しい“おてて”が守ってくれて・・・



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金山城跡 (群馬県太田市)


数日が過ぎたある日、森の小さなパン屋さんで再会した小鳥クンに教えてもらった僕は、
彼が慕っていたマエストロがそうした様に、隣り街のとある場所までやって来たのだ。

街の中心から北に向かっていくと、“呑龍様”で名高い大光院という浄土宗の寺院に辿り着く。
更に車を走らせる事数分、辺りは直ぐに山道へと変わり、くねくねした細いを登ってゆく。
そして、展望台付近の駐車場に車を停めてからは、この石段を徒歩で登る事になる。


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全く舗装のされていない山道の左右からは壮観な太田の街並みを見下ろす事が出来る。
それまで息を切らしながら重い足取りで進んでいたが、この景色に爽快な気持ちになるのだ。

そして、道中ではこんな美しい偶然の出会いもあったりするから嬉しい。


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ヤマツツジ


何と、返り咲きのヤマツツジの群生が枯れた木々の間で華やかさを添えていた。
この可憐な薄紅色の花弁にすっかり心も癒されて、更に先へと進む意欲も出てきた。


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歩き始めて20分は経っただろうか・・・目の前には重厚な石垣が圧倒的な存在感で迫ってきた。
金山城跡・・・そうか、此処は嘗て難攻不落の堅固な山城として近隣に名を馳せていた様だ。

この聳え立つ石垣の間を通り抜けると、一番奥には元本丸が置かれていた神社がある。


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だが、僕が目指していたモノは、神社の境内に向かう緩やかな石段の脇にあった。


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「ヤツデ」


寒い北風に吹かれながら真っ赤に腫らしたちっちゃな紅葉の“おてて”の前で、
緑色した大きな“おてて”が優しく包み込むようにその“手のひら”を広げていた。

僕の手よりも大きさのあるくっきりとした輪郭の濃いグリーンの葉は、
まるでお父さんのような力強さとお母さんのような優しさの両方の手で、
向こうの木で寄り添っている沢山の小さな手を温かく見守っているみたい・・・


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真っ白でちっちゃな丸いぼんぼりを付けたヤツデの花・・・

小鳥クン、やっと僕も見つける事が出来たよ!!



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くるみパンとアン・ノア


素朴な粉がしっかりと焼きしめられて、香ばしくてパリッとしてそれだけでも美味しい。
中を割ると胡桃の風味が皮からは想像もつかないくらいふんわりしっとりの生地と
一緒に口の中でふわっと広がって、本当に自然で優しい気持ちになれるんだ。

ちっちゃな丸パンの中には優しい甘さの粒あんがたっぷり入っていて、
思わずちっちゃな子どもに戻った様に無邪気な笑みが零れそうだ。


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季節の野菜のキッシュ


マットな印象でサクサク感いっぱいのパイ生地の中いっぱいに詰まったアパタイユ。

ふんわりとしてミルキーな風味と卵の優しい風合いが何ともマッチして美味しいけど、
何と言ってもたっぷり入った野菜の食感や旨みがキッシュを更に美味しくしていた。

次回は是非とも、ホールで購入したくなるキッシュだった。


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マフィン


スイーツかと勘違いしそうな可愛らしいマフィンだけれど・・・

トッピングのリングは何とオリーブの輪切りで、赤色はトマトだと言うのだから・・・
そう言えば、このパン屋さんの工房の壁の色はショッキングピンクに染められていて、
森の中の可愛らしいパン屋さんは、時にアバンギャルドなブーランジェリーになるのだった。


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彼が“森の中の幻のパン屋さん”と言って紹介してからもう3年近くが過ぎて、
この店自体はパン屋のみの頃から含めて何と5th Aniversaryを迎えたとの事・・・

でも、何時までもおとぎ話に出てくる森の中の可愛いちっちゃな小屋であって欲しい・・・
そんな事を願いながら、可愛らしいまん丸パンをムシャムシャと頬張っていた。


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遂にジョンとポールの物語に登場する店まで紹介してしまったけれど、
その為もあってか、UPした夜、久しぶりに鍵コメントを貰ったのだ・・・彼等から・・・
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by mary-joanna | 2009-12-18 13:52 | 有為の奥山

ク.花に囲まれて

彼が綴った“三兄弟のカフェ”を遂に訪れてからもう彼是2週間が過ぎようとしていた。
その間僕はカフェやパン屋への訪問はおろか、肝心の花を観賞する事すら怠っていた。
11月末から12月初めにかけては学習塾の講師という仕事柄大変忙しい時期に当たる為
元々週に1日だけの休日も返上して職場に通い詰めていたのは確かに事実ではあるが・・・

実を言うと、例の病気による数週間の中断はあったにせよ、此処までの数ヵ月間で
Elvis Cafeを綴り始めてからこの何日間くらい、迷い、悩み、躊躇した事は無かった。
その理由は勿論、あの夜のテラスで体験した“ほんの”数十分に起因してはいるのだが、
その詳細を語る機会は“必ず”やって来る事になっているので此処は一先ず伏せておこう。


暫くの間、憂鬱な日々を過ごしていた僕に必要だったのは・・・やっぱり花なんだ!
僕は今までそうしてきた様に、のんびりゆったり・・・花に囲まれていたかったんだ!

それに、もう12月も中旬に差し掛かろうとしている今日、自分自身へのご褒美として、
そう、クリスマスプレゼントとして、そんな僕のささやかな願いにぴったりのあの場所で、
しかもプレゼントにぴったりのあの花に会う事が出来るなら・・・そして、何と言っても・・・
僕からサンタさんへの小さな願いを叶えてくれる場所は、直ぐ近所にあるじゃないか!!


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駐車場に車を停めて一番初めに出迎えてくれるのは・・・この可愛らしい小屋の看板。
そして、目の前の駐車場の一角に設置されたテントでは、自家製のパンが売られていた。
店主自らテントで販売する焼きたてパンの芳ばしい香りに誘われて人だかりが出来ていた。

後ろ髪を引かれる思いでカフェに向かうべく傍の坂を上ろうと・・・いや、直ぐに止まってしまった。


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何故なら、この坂の脇にはとても綺麗な・・・



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アークトーチス


細長く伸びたスマートな容姿、コバルトブルーの空との爽快なコントラスト、そして
スノーホワイトの細長い花弁が印象的なアークトーチスだが、キク科の園芸品種は
これまで此処でも幾つか紹介してきたものの、このクールな花弁は黄色く縁取られた
シルバーグレーの中心と相まって、嘗て無いスタイリッシュな雰囲気を醸し出していた。

カフェの駐車場から坂へと向かう途中のお宅の庭先にとても見事に咲き誇っていた為、運良く
庭に出ていた家の方にお願いして撮らせて頂いたが・・・“素晴らしい”の一言に尽きるのだった。


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更に、短いながらお世辞にも緩やかとは言い難いこの坂道を程無く上っていくと
直ぐ目の前に現れる緑に囲まれた真っ白なサイディングの三角屋根の山小屋こそ・・・


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Garden Cafe 南の麦


この素敵な“空中庭園”を彼も勿論放ってはおかなかったが、Cindy's WALKに
最後にこのガーデン・カフェが登場したのはもう1年以上前の10月の事だった。

尤も、彼の日記自体が途絶えてからも、既に数ヵ月が過ぎているのだが・・・


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何とカフェの庭園にはこの蔓に覆われた緑の門を潜り抜けるようになっていて、
まさに此処から先は“花と緑の楽園”になっているのだったが、この緑の門には・・・


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大きく熟れた赤紫の果実が所々に生っており、思わず手を伸ばしたくなる程だった。
後で店主からあけびの一種であると教えて頂いたけれど、これがあけびの一種か・・・

坂からこの入り口まで既に驚きの連続であったが、この先にはそれまでの驚きですら
霞んでしまう様な、素晴らしい光景が広がっていた・・・そして、幾つかの“再会”もあった!


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カフェは庭に面した壁一面が大きく開いていてカフェ全体がまさにテラスとなっていた。
今日の様な良く晴れた日には、太陽の日差しもいっぱい入って何とも気持ちが良さそうだ。

このテラスルームとも呼ぶべき空間からも、庭の草花を存分に楽しむ事が出来るだろう・・・ほら!


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ラベンダー


暫しの間、僕を何処か懐かしい世界へと誘ってくれた藤色のふさふさで着飾ったキミたち・・・
また、あの甘いフローラルの香りと共にタイムスリープの旅に連れて行ってくれないかい?


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カフェのテーブルはアンティークのミシンに古木の天版をつけたカスタム製のものだった。
そう言えば、彼の日記にも度々この様なリフォームされたテーブルが登場していたが、
此方のテーブル&チェアーは坂の途中にあった工房で作られたオリジナルとの事・・・

だから、チェアーは庭にマッチする様にグリーンのグラデーションになっているんだね!


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大きく開いた店内から、この煉瓦畳の小路へと下りて、再び庭の方に向かうと・・・


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庭の木もすっかり紅葉していた。

花は枯れ・・・実が生り・・・種となり・・・そして、また今年も長い冬に備える・・・


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庭の物陰でひっそりと佇む真っ赤なキミみたいにね・・・

暫くジッと見つめていたが、視線を表の庭全体に向けてみる事にしよう。


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見晴らしの良い高台には緑に囲まれたゆったりした庭が広がっており、敷地に沿って
並んだグラストップのガーデニング・テーブルが、何とも優雅な雰囲気を作り出していた。

座った際に視線の高さにぴったりと収まる様に考慮して配置された非常に大きな鉢植えには
それぞれ異なった草花が植えられていて、まさにお花畑の中で寛いでいる気分に誘われる。
また、低木や鉢植えは各テーブル間を絶妙のバランスで隔てている役目もしているので、
周りを気にせずのんびりと出来る自然に囲まれたプライベートな空間を演出していた。

そんなウットリとした中でふと目に留まった可愛らしいレモン色の花々・・・キミたちは・・・


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ウインターコスモス


やぁ、またキミたちに会ったね・・・此処ではみんな寄り添って楽しそうだけど・・・
この前の、青空に向かって頑張っていた彼らは“天国”に近づいたかな?


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ケイトウ


紅色のツンツン頭のキミたちには、え~っと・・・そうだ、あの“友達の家”で会ったね!
もうあれから3カ月近くも経つけど、明るい笑顔が可愛いかった彼女は相変わらず元気かい?

そして、この花の庭園には未だ紹介していない新しい仲間たちも華やかな姿で出迎えてくれた。


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ブルーデージー


シュンと伸びたシャープな花弁だなんて、何てスマートでお洒落なんだろう!!
しかもほんのりとした淡い水色が中心の鮮やかな黄色と似合ってとても綺麗だよ。


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ノースポール


この前「ノ」のイニシャルで紹介しようと思っていたキミたちと此処で出会えるなんて・・・
ブルーデージーがカッコいいイケメンお兄さんなら、キミたちは可愛らしいボクちゃんだね・・・


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アークトーチス


坂の途中で見たのとは全く印象の異なる、鮮やかなオレンジ色のアークトーチス。
先程の、まるで氷雪の様なクールな印象のキミにも惹かれたけれど、太陽の様に
僕の冷えた心を明るく、そして暖かくしてくれるアナタもとても素敵ですよ!


紫色に始まり、イエロー・・・ブルー・・・紅色・・・ホワイト・・・そして、この蜜柑色と、
師走も半分に差し掛かったこの年の瀬に、まるで早春の情景を見ている様だ!!
あの坂を上るまでは全く想像もしなかった麗らかな花の園は、少し寂れかけた
冷たくて薄暗い僕の心をゆっくりと穏やかに照らしていってくれたのだった。

そんな、ささやかながら今の僕にとってこの上ない(多分)サンタさんからのプレゼントを
感じながらも何時までも眺めていたかった庭園の散策にひと区切りをつける事にした。


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ブランケットも用意されていたが、風も無く穏やかな日差しが心地良く降り注いでいた。
花と緑に囲まれた麗らかな庭園でのまったりしたランチのひと時に僕がオーダーしたのは・・・


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タルティーヌ


大きなバゲットを半分に割ってハムやチーズがこぼれんばかりに乗ったオープンサンド。

パリからやって来たブーランジェリーの、東京は四谷の店舗でパンを作っておられた
店主が焼くバゲットは、パリッとした皮の香ばしい歯応えともっちりとした食感から
広がるシンプルな粉の風味と微かな塩味、生地の瑞々しさが何とも言えない!

そんな本場フランスの薫りがいっぱいに詰まったバゲットを一層美味しくしてくれるのは、
ハムやチーズ、新鮮な野菜などのシンプルながらパンとの相性が抜群なこれらの食材たち。


ツナの旨みとシャキッとしたオニオンがオリーブオイルの風味とマッチして食欲をそそる。
生ハムのとろける食感と独特の塩味が、まったりとしたチーズに良く絡んでリッチな味わい。
更にオープンサンドの定番と言えば、フレッシュトマトにたっぷり溶けた熱々のとろ~りチーズ!

3種の美味しさが一度に味わえるオープンサンドだけど・・・やっぱり青空の下で頂くとまた格別だよね!!


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ベリーのタルト


緑の門の脇に立て掛けてあったデザートメニューの中で僕がとりわけ気になったのが、
ラズベリーにブルーベリーに、それにブラックベリーまで入ったゴージャスなタルトだった。

サックリと焼かれた表面のタルト台の中はアーモンドクリームの甘く芳ばしい香りが仄かに漂う
非常にしっとりとした生地がたっぷりと詰まっていた。ひと口頬張る毎に甘い風味と一緒にふんわり
溶けていって・・・後からベリーのキュンっとした華やかな甘酸っぱさが瑞々しさと共に薫り立ってくる!


そして、優しくも何処か切なさを感じさせながら口中に広がって・・・仄かに消えてゆく・・・
まるで、華麗な花畑の花たちが日々段々と儚く散ってしまうかの様に・・・


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シュトーレン


坂の下の駐車場に設けられたテントでのパン販売は既にに完売してしまい、
その代わりに日持ちのするシュトーレンがレジの向かい側の台に置かれていた。

ここ数年、この季節になると洋菓子店だけでなくパン屋等でも見かけるようになった
このシュトーレンであるが、すっかりクリスマスの定番菓子として市民権を得たようだ。
よく考えてみるまでもなく、およそ一晩限りで終わってしまう生クリームのケーキと異なり、
何日間もの間少しずつ切り分けゆっくりと楽しめるのもこの伝統菓子の魅力の一つだろう。


そう言えば、彼はこの時期、毎年シュトーレンを紹介していたっけなぁ・・・
そんな事を思いながらも、リーズナブルなカットサイズを購入する事にした。


花に囲まれたガーデンカフェに別れを告げるも、坂の途中で足を止める。
その訳はと言うと、勿論、其処に今日僕が紹介すべき花があったからなのだ。


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「クリスマスローズ」


ここ数年、クリスマスを特別に祝った事なんて無かったよなぁ・・・

第一、毎年クリスマス前後には2学期も終わり、いよいよ冬期講習に入る時期だったのだ。
特に、最近は受験生も担当する様になったので、僕にとっては尚更縁の無いイベントだった。
通常より早い時間から夜遅くまでずっと教室で過ごし、帰宅して真っ暗な台所の電気を点けると
テーブルの上に皿が置かれてあり、ラップを取ると僕の分のチキンやサラダが寄せ集められていた。

で、冷蔵庫の中から白いケーキの箱を取り出してみると、中から出てきたのは所々に生クリームが
はみ出した、雑に切り分けられた断面のスポンジがボロボロに乾いた一人分のショートケーキだった。
ケーキの表面には蝋燭や飾り、苺が乗っていた筈の形跡だけが残っていて、本体は取り去られていた。
つまり、深夜に一人台所のテーブル(と言うより冷蔵庫の前)で口にする、スポンジが剥き出しになった
生クリームのケーキこそ、年によって程度の差こそあれ僕にとっての“クリスマスケーキ”の味なのだった。

それからすると、この半年間の間に見た目も味も、とんでもなく素晴らしいケーキを食べ続けててきたと
半分呆れてしまう位、我ながら感心してしまうのだが・・・でも、今年のクリスマスケーキはと言えば・・・

・・・今語った、スーパーか近所のケーキ屋で購入したボロボロのスポンジでも・・・悪くはないよ!!


こんなに良い天気なのに・・・とっても綺麗なコバルトブルーの青空なのに・・・

何処か物寂しそうに俯いて下を見ているぼんぼり型したキミを眺めていると、ロマンチックとは程遠い、
パッとしない僕のクリスマスの夜が何故か懐かしい思い出になって瞼の裏に映し出されるんだよ・・・
でも、そんな感傷的な気持ちにさせてくれるのも、サンタさんの想定の内だったりするのかな?


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シュトーレン


たっぷりと塗した甘い粉糖で固められた表面の中には、ホロホロの甘い生地。
その生地に漂う何ともリッチで濃厚な薫りと言ったら・・・まったりした気分に誘われる。
しかも、中には香ばしいナッツやねっとりとしたジューシーなドライフルーツ、しっとりとした
マジパンの塊りが所々に入っていて素朴なのに何処を食べても楽しい発見に出会えるのだ。

見た目の華やかさはクリスマスケーキに譲るものの、思い出作りにはぴったりの焼き菓子だね。


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僕の願いが通じた訳では無いだろうが、本来は年明けの2月頃からが花期となる
この「クリスマスローズ」の早咲きの株に出会えたばかりか、12月とは思えない位の
様々な種類の美しい花たちをゆっくりと観賞しながら美味しいランチを楽しむ事も出来た。

また、当初の目的でもある“例の旅”に戻れそうかな・・・たとえサンタさんでもこのお願いは・・・
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by mary-joanna | 2009-12-14 03:01 | 有為の奥山

オ.シークレット・ラヴァーズ Ⅱ

11月も後半に差し掛かると昼間でもコートが手放せなくなってくる。
この日みたいな薄雲に覆われた空の下では尚更その様に感じてしまう。
今年も手足の先が凍る様に冷たくカチカチにひび割れる季節がやって来きて
この先数ヶ月も続くのかと想像しただけでも憂鬱な気分になってしまうのだが、
3年連れ添ってきたあのダッフルコートは袖先の解れが如何しようも無くなって
先日泣く泣く処分したばかりで、次の休みに新調しようと思っていた矢先だった。

時折り明るい太陽の光が差し込むものの何処かスッキリとしないこの日みたいに、
僕の心の中も薄靄色したフィルターを通して覗いている様な煩わしさが感じられた。
別に今日この場所で全てにケリを付けようなんて、これっぽっちも思っちゃいないさ。
その舞台はちゃんと用意してあるじゃないか・・・しかもElvis Cafeを始めた時から!
唯その為に、イロハのイから季節を跨いで漸く半分過ぎまでやって来た訳なのだし。


だけど、今日、このカフェを訪れたのには勿論理由があった。
そう、如何してもこのカフェでなければならない理由が・・・

この前、「ノスタルジー」を紹介したから?それとも追憶の女性に願いを込めたから?
兎に角、“その時”に備える意味でも、僕は遂にこのカフェを訪れる事にしたのだ。
半ば、自分自身に言い聞かせる様に封印していた、“あの三兄弟”のカフェに・・・



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café la famille


どの雑誌にも同じ様に書いてある・・・誰のブログを見ても変わらない・・・
街の外れの住宅街の只中に突然姿を現す、外国に迷い込んだ様な風景・・・

でも大袈裟ではあるが、それこそ此処で体験するべき事の全ての始まりな訳だし、
僕はこの風景を見る為に1時間半もの時間をかけて足利からやって来たのだ。


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(後から気付いた事だが)建物の奥へと入った場所にも駐車する場所があった様だったが、
まだオープンする前だった為か、ランチの時間帯は曜日を問わず連日満席となるこのカフェも
今のところ僕以外に人の気配は見られなかったので、この建物の前に車を停めて待つ事にした。

路地に面した所々煤けた真っ白な壁の大きな切妻屋根の家屋の側面には、大小の窓枠が
不規則に開けられており、左右に付いた空色の飾り雨戸が可愛らしい雰囲気を醸し出していた。
更に建物を取り囲む不揃いの高さの板張りのフェンスまで含め、彼が紹介した世界そのものだった。

思わずフロントガラス越しに身を乗り出して魅入ってしまったが、降りて辺りを散策する衝動に駆られた。


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フェンスの脇にポツンと立っている背高のっぽの外灯クンが訪れる人々を最初に出迎えてくれる。
ぐるぐる迷って漸く着いてちょっぴり心細くなった僕たちの心を、キミの明かりがそっと癒してくれる。
だから、たとえ辺りが真っ暗でも、僕たちはキミの優しい明かりの下に安心して車が停められるんだ。

そう言えば、このカフェには辺りをそっと照らしてくれる個性豊かなランプが随所に配されていた。
そして、何時だったか彼も日記でその事に触れ、“ランプ・コレクション”なる紹介をしていたっけ・・・


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敷地内に植えられた樹木も既に黄や山吹に色付いており、すっかり晩秋の装いを見せていた。
街中にいながら四季折々の自然の移り変わりを感じながら過ごす事が出来るのも此処の魅力だ。

その事を知ってか知らずか、彼は5月、8月、1月と、季節を変えてこのカフェを紹介していた。
そして、あと足りなかったのが、僕がこうして訪れている秋のfamilleという事になる訳だけれど・・・


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強風の日に外れかけた鉄柵の門を弟二人だけで修理して、
異国の地で独りで暮らす兄に家の事は大丈夫だと安心させる・・・

・・・もしや彼には離れて暮らす兄弟でもいるのかしら・・・


オープンの時間となり、スタッフがこの鉄柵の門を開けにやって来た。
それにしても、東方にある国のパン好きな住人って・・・君自身の事かい?


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左右の建物に伸びる枕木の小路をさり気無く彩る小さな花の可愛らしいピンクに、
長いドライブの疲れや待っていた時間もすっかり忘れてウットリとしてくるんだ。


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庭に入ると恐らく動く事は無いであろう錆付いた自転車が芝生の中に置かれていた。
その姿はまるでもう戻ってこない主人を何時までも待っているみたいにも思えた。

折角手放しで乗れる様になったというのに・・・


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 父さんと母さんがここに座って・・・
 僕らが目の前の庭を駆け回って・・・



家族みんなが揃ってこの家で新しい朝を迎える・・・何て素敵な事じゃないか!
この光景を前にして暫く感慨に耽っていたが、おもむろに隣りの扉に手をかけた。


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店内に入った僕は、迷わずに一番奥の部屋へと向かった・・・例の場所は・・・


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一番奥の開放的なダイニングの突き当りの、壁一面に大きく開いた窓からは、
薄曇りの昼時ではあったが外の日差しが降り注ぎ白い店内を更に引き立てていた。

まるでこのカフェを訪れたゲストに爽やかな自然の明かり出迎えてくれている様に思えた。


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ダイニングの広い空間を見回した僕は、直ぐに探し物の一つに気付いた。

だって、あの時のUFOは余程この場所の居心地が気に入ってしまったのか、
飛び去る気配も見せずに今もこうして同じ場所をゆらゆらと漂っているのだから。

そして、もう一つこのカフェで忘れてはならない大事なオブジェが・・・


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壁に掛けられた調理器具の数々は、彼がどうしてもUPしたかったと言って紹介し、
また、ブライアンの物語では、兄に対するささやかな優越感のアイコンとして登場した。


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更に、ブライアンの物語と言えば・・・あぁ、あんなところに・・・


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離れ離れの兄との再会を夢見て作り上げたヨットの模型・・・

このヨットで早く家に、家族の元に帰りたいんだ・・・難破してしまう前に・・・


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この空間は本当に船のデッキにいるみたいで・・・

店内からテラスへと下りた直ぐのところの、以前は4人掛けの丸テーブルが
置かれていた場所には、現在2人掛けのデスクが代わりに置かれていた。

彼の描いたあの家族の間にあれから何らかの変化があったのでは?
でも僕は待っているよ・・・また君が愛してくれる日を・・・何時までも・・・

そんな妄想を膨らませつつも、そのデスクに着く事にした僕だった。


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こんなところに“カール”の椅子が・・・本物の“カール”はもうこの世にいない・・・

そして、貴方までがいなくなってしまったら、もう僕は・・・
いや、それは神様にしか分らない・・・だったよね?


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10食限定キッシュプレート


非常に人気のランチプレートで直ぐにオーダーストップがかかると言う
此方の限定キッシュプレートを偶然にも頂く機会に恵まれたのだが・・・

大皿に沿ってぐるりと並んだバラエティー豊かな料理の数々を
目の前にして、オープンと同時に完売との噂にも納得だった。


カリフラワーのスープ

香草の薫りとほろ苦さが淡白なスープにアクセントを加えていた。
主役のカリフラワーはサラりとした食感でスープに溶け込んでいたが、
そのカリフラワー本来の自然な美味しさや瑞々しを存分に堪能出来るのだ。
温かなスープはカリフラワーの持ち味を生かす為にシンプルな味付けながらも
全てを優しく包み込んでいて、そのまろやかさとクリーミーさがまた秀逸だった。

鶏肉と豆腐のハンバーグ

メインには可愛らしいサイズの豆腐のハンバーグとの事であったが
ミニサイズのココット鍋に収まったハンバーグのこんがりとした表面は
ビジュアル的に食欲をそそるばかりか、食べた際の香ばしさに笑みが零れる。
ふわふわとした食感のやわらかな豆腐のつなぎから溢れ出さんばかりの鶏肉の
ジューシーな旨みとコクは味のみならずボリューム的にも十分満足出来るのだった。

温野菜&ディップ

サラダとしてだろうか、シンプルな温野菜が添えられていて、この季節には嬉しい。
目移りしそうなプレートの中では単なる脇役的な扱いと、何気無く手を伸ばしてみる。
ふっくら炊かれたブロッコリーと蕪は野菜の持つ食感も絶妙に感じられて・・・何より甘い!
そして、何と言ってもカップに盛られたほんのり卵色のディップの美味しさは、衝撃的だ!!

ジャガイモのホクホクした感触と卵のまろやかなコクが一つとなったディップは
今が旬の冬野菜を更に美味しくしてくれるだけで無く、パンとの相性も抜群だった。


全7品、スペシャルなカフェのスペシャルな料理を少しずつ頂けるなんて・・・
みんなのワクワクした笑顔が瞼に浮かんでくる様で・・・僕も笑みが零れていた。

そして、そんなプレートに名を冠している料理がこの・・・


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キッシュ


プレートのどの料理もメインに成り得る完成度と美味しさを誇る中で、
フランスの伝統的郷土料理であるこのキッシュを中心に据えたのは、
このカフェが本格的なフレンチのメニューに拘っているからだろう!!

ザックリ焼かれたパイ生地の芳ばしい香りとサクサクの食感が堪らない。
その中にはたっぷりと流し込まれた卵は、ふわふわで非常にクリーミー!

しかもジューシーで噛み応え十分の旨みと塩味がたっぷり乗ったベーコンに
熱々でホクホクしたジャガイモの自然な美味しさが卵と一体になっているのだ。

全てが一つの中に閉じ込められていて、素朴だけれど非常に複雑な味わいが
身体全体に伝わって・・・とても幸せな気持ちになれる伝統的な卵料理だった。


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カプチーノ


更にこのカフェに無くてはならないのが、此方のカプチーノだろう。
サーヴされた瞬間、僕は思わず“わぁ”って小さな声を漏らしてしまった。

だって本当にずっと憧れていたんだ・・・彼のブログに登場するハートのラテアートを・・・
でも今日此処にあるこの愛に満ちたハートも直ぐに消えて無くなってしまうなんて・・・


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クリームブリュレ


このフランスの伝統的スイーツは彼の日記で何度となく紹介されてきたし、
まだ20数回足らずのの僕の日記でも全く始めての登場という訳でもなかった。
更に、とろりとした濃厚な甘さと卵の風味がマッチしたデザートが大好きなのだ。

でも、このカフェのクリームブリュレと言ったら・・・


ヨーグルトアイスのひんやりした舌触りと、その直後に薫り立つ仄かな甘酸っぱさ。
控え目ながらふんわりと薫る柚子の清々しさは冷たいアイスの感触と相まって、
まるで伝統的な和菓子の様に落ち着きの中にも凛とした気分に誘ってくれる。

これだけでも十分スペシャルなデザートとなり得るのに・・・脇役だなんて・・・

クリームブリュレの要とも称される表面のカラメルをスプーンで突く瞬間の、
彼も幾度と無く綴ってきた、“このデザート最大の贅沢な瞬間”・・・僕も同感だ。

パリッとした小気味良い音を立てて割れたカラメルの硬い感触と中のブリュレの
口の中でとろけて消えてしまう食感を同時に味わう際の、あの瞬間と言ったら!
更にカラメルのパンチのあるほろ苦さと濃厚な甘さをコーティングしていく様に
ふんわり広がってゆく仄かな卵の薫りいっぱいのクリーミーで優しい風合い。


まさにこの類い稀なカフェだからこそ成し得る伝統と革新の融合を堪能出来るのだ。


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僕がいたテーブルは建物と庭とを隔てているテラスの一番端に位置していたので、
デッキを取り囲む古木のフェンスを越えると直ぐ向こう側は庭と畑に通じていた。

デザートを終えた僕は、あるモノを探す為にデッキを下りて庭に行ってみる事にした。
このカフェを訪れる大半の人々が、こうして庭の散策を楽しんでいる様子だった。

そして、そのモノは直ぐ隣りにひっそりと佇む様に取り付けられていた。


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あぁ、これか・・・

本当だったらまんまるランプとまんまる雲のツーショットを撮りたかったけど、
彼みたいな気まぐれクンだから、直ぐに形を変えて何処かに行ってしまうんだ。

この家で過ごしたあの甘い日々が無くなるのを目の当たりにするのは辛いんだよ・・・


真っ白のパレットに溶かした淡いブルーみたいな空と土の匂いが微かに漂う剥き出しの畑、
晩秋の今でも様々な彩りを添えてくれる庭の草木に別れを告げて、僕はこのカフェを後にした。



そして、数日が過ぎたある日の晩、すっかり日が暮れ辺りは漆黒の闇夜に包まれて・・・


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真っ暗な路地を進んでこの外灯に照らされた瞬間の安堵の気持ちと言ったら・・・
つい先日の昼間に訪れた時は、さも客観的に語っていた筈だったのに・・・


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そして僕は再びこの水色のドアに手をかけた・・・


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勿論向かった先もこのデッキだったが、晴れた午後でも肌寒い11月も下旬の、
しかも夜の帳もすっかり落ちて、風は無かったとはいえ寒さも昼の比では無かった。

それでもこのデッキを希望する我が儘な訪問者にも、このカフェのスタッフは皆、
まるで家族の一員の様に温かく接してくれた・・・ブランケットの温もりが心地良い・・・


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ショコラ・ショー


こんな寒い夜は、熱々の甘くて濃厚なショコラ・ショーが恋しくなるんだ。
それはまるで優しさに満ち溢れた貴女の温もりにも似ている様で・・・


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あんざい果樹園の洋なしタルト ヨーグルトアイスと


まるで白いきのこみたいな可愛らしいヨーグルトアイスとツーショットで
仲良く出てきたのは、かの有名なあんざい果樹園の洋なしで作ったタルト。

洋なしの爽やかな薫りが仄かに広がっていく様で・・・ウットリと眺めていた・・・


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ガレット&フロランタン


お土産として持ち帰ったのはfamilleの焼き菓子・・・彼の定番のお土産でもあった。


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「オステオスペルマム(イエロー)」


近所の園芸店の軒先をパステルトーンの淡い黄色やピンクに染め上げる、
やや小さ目のポットに入った何とも可愛らしい宿根草に心を奪われてしまった。

まるでマーガレットみたいに沢山付いた細長い花弁は花占いにぴったりかも知れないね。
そんなロマンチックな願い事は柄じゃ無いけれど・・・でも如何しても君に占って欲しいんだよ。


それは勿論、例の事についてなんだけれど・・・もし僕の考えが間違ってなければ・・・


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“家族の食卓”の古びたテーブルに木の椅子が二つ・・・仲良く寄り添って・・・



今回は、約2年前に此方のカフェを紹介した際の物語をイメージして作りましたので、
もし宜しければ是非ともその日記の方もご覧になって頂ければと思っております。

http://navy.ap.teacup.com/spookycindy/248.html
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by mary-joanna | 2009-12-08 02:55 | 有為の奥山

ノ.美女たちの追憶

Cindy's WALKとArnold日記と・・・嘗てCindyが綴っていた二つのブログを通じて、
ほんの些細な事かも知れないが僕の心の奥底にずっと引っ掛かっていた事があった。

それはカフェやパン屋を紹介する彼のブログの本筋からは外れているのだろうが、
その“些細な事”が、二つのブログにのめり込む程、段々大きな存在になっていった。
彼の事が気になっているというのはこのElvis Cafe上でここまで散々書いてきたので
今更ではあるが、その“些細な事”は彼自身に関わるある一部分(というのかな?)だった。

尤も彼のブログには自身のプライベートに関する記述は決して多くは無いばかりか、
むしろCindyはブログに於いて自身の素性すら殆んど明かしていなかったのだ。

例えば、あるカフェの店主から聞いた話ではあるが、僕と同様に彼のブログを
参考にしてその店を訪れた人にCindyは男性であるという事を告げたところ、
ずっと女性だと思っていたのだと大変驚かれていた、との事であった・・・

かく言う僕も、Cindy's WALKを知ったばかりの頃は、実は彼は実在しない
複数の人物による架空のユニットか何かだと真剣に思っていたのだが・・・


例によってだらだらと書き綴ってきたが、肝心の、僕がずっと気になっている
彼に関するその“些細な事”とは・・・つまり、彼を取り巻く女性についてであった。
無論、当初僕は、純粋に彼が紹介するカフェやパン屋の写真や文章に魅せられて
彼に会って話がしたい、この思いを伝えたい、という気持ちでこの日記を始めた訳だが、
同時に彼の事をもっと知りたいと思う気持ちも次第に大きくなってきて、その矛先(?)は
彼を取り巻く女性について向いてゆく様になってきたのだった・・・だって彼の物語に登場する・・・

そして、この思いはElvis Cafeの今後の展開に大きな影を落としてゆく事となった。
まさかあんな結末が待っているとは、この時の僕には全く知る由も無かったのだ。
唯、彼に対する好奇心と憧れの様な気持ちから、僕はこのElvis Cafeに於いて
彼が微かに仄めかす女性の影を追い求めるささやかな行動を起こす事にした。

今回僕が紹介する花とカフェは、まさにその思いを実行するのに相応しい場所だ。
それこそ女性をイメージした花は数知れず存在するが、何と言ってもやはり・・・
更に僕の妄想に過ぎないが彼の感性を育み支えたであろう女性に対する
僕のオマージュとしてどうしてもこのタイミングで紹介したかったのだ。

けど今回の紹介が思いもよらない引き金を引く結果に繋がるなんて・・・



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敷島公園ばら園


確か前回この場所を訪れたのは、漸く暑い夏が終わり涼しくなりかけた頃・・・
“のんびりさんも宿題を終えて元気に出掛ける9月の初め”って紹介していたっけ・・・

2学期の始まりと終わりにこの地を紹介するなんて・・・偶然ばかりじゃ無いけれど・・・


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そう、此処を訪れたのは11月も半ば、前橋の木々も他の街に劣らず綺麗に色付いていた。
僕の住んでいる足利と同様(もっと早いかな?)、今頃は葉を落とし始めている頃かな。

それにしても、この日は雲が悠々と流れていって・・・まるで嘗ての彼みたいに・・・


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今僕が立っている敷島公園ばら園では、10月中旬から11月の初めにかけて
“秋のバラフェスタ”というイベントが行われていたとの事で、期間中敷地内には
数百種数千株もの美しいバラの花がゆったりと配置され訪れる人を魅了していた。

イベントは既に終了して秋バラのピークも過ぎていたため、広大な敷地を埋め尽くす
満開に咲いた美しいバラの供宴を目にする事は叶わなかったが、広い園内の所々では
まだまだ何種類もの華麗なバラたちを楽しむ事が出来たのでゆっくりと見て回る事にした。


そして、広い敷地をひと通り回った僕は幾つかの品種をカメラに収めるべく立ち止まった。
それこそが僕が思い続けてきた“些細な事”に対する“ささやかな行動”な訳だけれど・・・



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マリリン・モンロー


うっすらとピンクがかった淡い肌色の花弁が一枚一枚ゆったりと重なった姿は
まるでスクリーンの向こうでセクシーなポーズを取る彼女の様に映っていた。

艶めかしい程にグラマラスな佇まいに、僕の鼓動はドキドキと早まって・・・


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ダイアナ・プリンセス・オブ・ウェールズ


同じく淡いピンクのグラデーションでありながら、徐々に純白へと透き通る様は
非常に優雅で、ゴージャスな印象と気品に満ちた面持とを兼ね揃えていた。

この華麗で上品な大輪の薔薇は、まさにプリンセスの名に相応しかったが・・・
午後の日差しに照らされたプリンセスは何処か物憂げで悲しそう・・・


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オードリー・ヘップバーン


先の二人の美女に比べ、更に丸みを帯びたふんわりした柔らかなピンクの花弁は、
絶世の美女でありながら同時に親しみのある優しい雰囲気を持った貴女だからこそ!

世界中で愛されたチャーミングな王女さまを背に、僕も街を走りたいんだ・・・なんてね・・・


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ブルー・ボーイ


そんな世紀の美女たちに囲まれて、ブルーな僕も思わず頬を赤らめて・・・

さて、名残惜しくも美女たちに別れを告げてそろそろイニシャルのバラに向かおうか。


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「ノスタルジー」


忙しなく過ぎ去っていく毎日の喧騒を忘れ、何時までも変わらない美しさを魅せてくれる。
全ては心の中の淡い思い出・・・でも、決して色あせる事無く・・・何時までも僕の心に・・・
日々僕に付き纏い、感じている諸々の焦りや不安、緊張を、ほんのひと時だけでも
ゆっくりと優しく解き解してくれるんだ・・・美しい貴女を目の前にしていると・・・

今改めて思い返してみると赤面してしまう様な、無邪気で世間知らずな経験ばかり・・・
でも、今の僕では決して出来ない、全てが一生を通じた大切な思い出ばかりなんだ!

まん丸ピンクの可愛い薔薇を前に、懐かしいあの頃にちょこっと浸った僕だった。


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でもね、彼が残した追憶の日々と・・・そして、僕が本当に気になる女性の事が脳裏に蘇ると、
それまで僕の頭の中を占めていた甘い青春(?)の思い出は何処かに消え去ってしまった。

そう・・・僕の旅は、まだまだ終わっていない・・・


何時までも色褪せる事の無い麗しい世紀の美女たちへの憧憬の思いと、そして・・・
何時までも忘れる事の無い若かりし頃の淡い青春の思い出に暫し別れを告げた僕は、
何かに引き寄せられる様に、ばら園に入る通りの角に佇む一軒の家屋へと向かったのだ。


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ぶちの店


前橋随一の緑豊かな公園の周辺という、絶好のロケーションだけあって数多くの
素敵なカフェやレストランが建ち並ぶこのエリアに於いてもひと際目を惹くその外観は、
まるでアンデルセンやグリム童話の世界から切り抜かれた様な真っ赤な瓦の三角屋根が
とても印象的で、この可愛らしいお家でのんびりとお茶とケーキを楽しむのを目的にしていた。


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伝統的なハーフティンバー様式の真っ白な壁と縦横に走る褐色の木枠に・・・
何といっても正面に見える煉瓦の煙突が、メルヘンチックな気分に誘ってくれる。

とてもワクワクした気持ちで入り口の扉に手をかけた。


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上品な白い壁と重厚感の溢れる腰壁とが織り成すコントラストがとても良くマッチして、
更に特注で設えた腰壁と同じ意匠が施されたベンチ式のコーナースペースをも含め
木の温もりを存分に感じさせてくれるシックで落ち着いた空間を作り上げていた。

まるで西欧の田舎の邸宅に招待された様な穏やかなひと時が送れそうだ。
そして、この地に建っているのだから、勿論、店内を見渡してみると・・・


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店内の其処彼処には麗しいバラの花が活けられており、此処はまさに“薔薇の園”!
この家が先程までいたばら園の中に建っているのではと錯覚すら覚えるのだ。


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緩やかな曲線を描くアールヌーボー様式のランプはこの空間にぴったり。

しかも、ランプシェードに施された華麗なバラの隣りには、さり気無く本物のバラが
が活けられており、店主のセンス溢れるツーショットを堪能する事が出来るのだ。


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奥の空間への入り口には・・・


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お美しいご婦人がお出迎えしてくれた。


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ロケーションから始まり、外観、内装、家具などの全てに店主の並々ならぬ拘りが感じられ、
店内に配されたクラシカルな調度品の数々までもが、この空間に見事に調和していた。


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緩やかな午後の日差しが優しく差し込む窓際のこの席に座ろう・・・

綺麗なバラをゆったりと観賞した後に、そのままの気分で頂くのはやっぱり・・・


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ロイヤルコペンハーゲン・ブルーフルーテッド(フルレース)


お茶の準備が整うと、テーブルの上には華麗な茶器のセットが並べられた。

状態の良いアンティーク品なら、カップ&ソーサーのセットだけでも
数万円の値は下らないロイヤルコペンハーゲンの人気の逸品だが、
こんなにも素敵な茶器を前にして無粋な事を言うのは止めにしようか。
 
ロイヤルコペンハーゲンを代表する清楚で繊細な白地に青色の模様は、
シルバーに輝くティーポットに反射して更に華やかさを増している様だった。


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最初の一杯は奥様自ら・・・


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マローネ


奥様がお勧めしてくれた紅茶は、この季節限定のフレイバーティーなのだが、
その香りとは、その名の通り“栗”!!・・・確かに秋の味覚には欠かせないが・・・

砂時計が落ちるのを逸る気持ちを抑えながらも待ち続け、始めの一杯を注がれると、
その瞬間にテーブルいっぱいに広がる得も言われぬ甘い薫りといったら・・・

もうこの薫りだけでも華やかな気持ちに包まれてしまうのだが、
勿論、恐る恐るカップを近づけると、更にふわっとした柔らかな、
そして、何処か素朴な円やかさも感じられ・・・これは焼き栗の、
あのほっこりとした甘い香りにも似ている様だった・・・

この芳しさは芳醇な香りだけにとどまらず、舌を通る味わいに関しても
とろりとした食感の後から濃厚な茶葉の香りや仄かな渋みに加えて、
まるでマロングラッセを食べた後の余韻の様な甘さも感じられた。


薔薇の園での優雅な時間を過ごした後に頂く午後のティータイム・・・
それは華麗な茶器と甘い香りに囲まれた、うっとりする様なひと時・・・

何もかもを忘れて、唯ぼんやりとあの頃の思い出に浸りながら・・・


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勿論、お茶と共にケーキもオーダーした。


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シャルロット・ポワール


控え目ながらもまったりとしたクリーミーなホイップクリーム。
このスイーツのメインであるふんわりとした軽い食感のムースは、
口に入れた瞬間、シュワッとした心地良い感触と共に溶けて無くなり、
ひんやりとした爽やかさとまろやかな甘さが余韻となって広がっていった。

そして何と言っても・・・ムースを覆うサクサクとした洋梨の瑞々しさ!
非常にフルーティーで、仄かに薫る酸味と自然な甘みが素晴らしい。

クリームとムースと洋梨を優しく受け止めているしっとりスポンジに至るまで、
その一つ一つ全てがまるでクラシック音楽の様に絶妙なハーモニーを奏でていた。


優雅な紅茶と優雅なスイーツのマリアージュに魅了されて・・・


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そうか・・・やっぱりキミは此処でも羽を休めに来ていたんだね・・・

でも・・・また直ぐに此処から飛び立ってしまうのだろう?
そして、また僕の手の届かない場所へと行ってしまうのだろう?


そう言えば、彼もこの店を一度訪れた事があったみたいだったけれど、
今回の僕の様にこの店にも一人で訪れたのかな?・・・それとも・・・
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by mary-joanna | 2009-12-03 00:29 | 有為の奥山

ヰ(イ).僕の見つけた小さい秋

明確な記述は無いものの、Cindy(William?)が綴ったArnold日記に因れば
物語の主人公であるArnoldは自身の日記の中で地元・足利の店も紹介していた。

本当によく此処まで続いたなと我ながら感心してしまうこのElvis Cafeであるが、
良く考えてみると、20数回にも及ぶ記事の中で僕自身の地元の足利市に軒を
構える店については、今までのところ唯の一度も紹介してはいなかったのだ。


足利市内のとある企業に勤めて3年目を迎えるが、これまで転勤?はおろか
市外に出向する事も全く無かったので、仕事に関して足利を出る事は無かった。
しかも家族と共に暮らし、偶然ではあるが現在交流の深い友人や・・・彼女までも
足利市に住んでいる為、今年の夏までは日常生活は殆んど市内で事足りていた。

確かに休日は近隣の街だけでなく県外(足利市は栃木県の外れに位置する)等にも
頻繁に出掛けていたし、GWや盆正月には更に遠出の旅行に行く事もあったけど・・・
だからと言ってこれまで足利市内にある店を全然紹介していなかったという事実は
全く意識していなかった分だけ余計に、そして意外と言うか不思議な気分だった。

彼の日記(Cindy's WALK)にも素敵な足利のカフェやパン屋が登場して、
その中の何軒かは実際に僕も訪れた事があった・・・いや、通っていたのだ。
更に、宇都宮の紹介をリクエストしておきながらこれまで沈黙を続けるハニーも
同じ足利市に住む人間という事は、もしや知らずに何処かで会っている事も・・・


あのリストに書き記された・・・あの物語の舞台となった・・・そして・・・
恐らく僕が追い求めている何かを解く鍵となるかも知れない一連の店の一つを
遂に、このElvis Cafeで紹介してしまった僕にとっては、今後の“イロハ計画”を
続けていく上でも、このタイミングで地元の足利の街と・・・店と・・・イニシャルとを
載せてみたいと強く決心したのは、勿論単なる気紛れだけでは無いと思っている。

尤も“満を持して”って表現は、少々大袈裟かも知れないけれどね・・・



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11月も半分が過ぎてそろそろ身の回りも本格的な冬支度に様変わりする頃、
この日はそんな季節の変わり目をより一層強調する、どんよりした曇り空だった。


僕の勤務先は市内の中心に位置する通りに面した場所と、更に北の方角に
進んだ場所との2ヶ所にあり、行き来するのに目の前の大通りを移動していた。
その通り沿いには、市内の観光名所の一つでもある鑁阿寺(通称“大日さま”)に
向かって伸びる石畳の路地の曲がり角があり、通勤途中に幾度と無く目にしていた。

地元住民として恥ずかしい事であるが、この路地に入るのは一体何時ぶりだろう?
Elvis Cafeを始めてから様々な街の様々な路地裏を歩いてきたが・・・灯台もと暗し・・・


細い路地の左右には、昔から営まれたであろう地元の商店や路地の雰囲気にマッチした
情緒溢れる飲食店と土産物を売る店に交じって、少数であるが僕の気を惹く店が見られた。



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例えば、まるでパリの街角からやって来たこの白い窓枠の建物は、どうやら雑貨屋らしい。

残念ながら・・・この日、店内に明かりが灯される事は無かった・・・


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スプレー菊


その代わりなのだろうか、路地沿いの花壇には可愛らしい赤紫の花が僕を出迎えてくれた。
寺社に飾られた大輪の菊も素晴らしいけれど、さり気無く路地に彩りを添えるキミたちも素敵だよ。

通りの片隅に花があるだけで、無味乾燥で忙しなかった“移動”が・・・
視界の片隅に花があるだけで、気にも止めていなかった“背景”が・・・

ゆったりとした“散歩”に・・・華やかな“絵画”に変身するんだ。


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この路地の終点に控えているのは大日さまの愛称で親しまれている鑁阿寺の、
正面の堀に架かる、これまた誰からも愛され此処のシンボルにもなっている太鼓橋。

この橋を恋人と並んで渡ると別れてしまう・・・なんて学生時代に噂されていたなぁ・・・


手前の蔵とのツーショットも、歴史の街である足利の雰囲気を一層盛り上げてくれた。
確かに大日さまの周りには、この手の歴史を感じさせる漆喰の蔵が点在していたが、
“鑁阿寺と蔵”と言えば今は無きあのカフェの存在が思い出されてならないんだ。

彼の紹介にあった様に・・・あれは全て夢の中の出来事だったのかなぁって・・・


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彼の物語を抜きにしても、この空間にいると、まるで無声映画のワンシーンに
迷い込んだみたいな、とても凛とした佇まいの静寂の中に包まれてゆく。


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広々とした境内の彼方此方には様々な種類の木々が植えられており、
11月も半ばに差し掛かった今日、此処足利でも紅葉のピークを迎えようと
鮮やかな赤や黄色で境内の仏閣に彩りを添える木々もちらほら出始めてきた。


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そんな綺麗な木々の中でも、紅葉と言って真っ先に目がいくのは真っ赤な・・・


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紅葉(モミジ)


可愛らしい星型の赤い葉っぱが寄り添う様に集り大きなキャンバスを埋め尽くしていた。

目にも鮮やかな朱色から落ち着いた感じの深紅へ微妙なタッチで仄かに変わりゆく様は
まるで燃え盛る炎の一瞬の揺らめきを捉えた印象絵画を鑑賞している様にも思えた。


やがて情熱的な炎は完全に消えて、後には寒々と焦げた真っ黒な枝が残るのに・・・


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塔と銀杏


だが、今回此処に来たのは如何してもこの時期に見ておきたい木があったからだ。
その木を探す為に境内を彷徨い暫く歩き続けていたが、あの塔の向こうに見えるのは・・・


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「イチョウ(銀杏)」


これが、とちぎ名木百選に数えられている“鑁阿寺の大いちょう”、か。

根元から二手に分かれて大空へと伸びていくこの巨木は、直径約9メートル、
高い所では約30メートルにもなるという、まさに足利随一の“大いちょう”だった。

これまで何度となく大日さまに訪れこの木を目にしてきたが、気に留めた事は無かった。
そんな地元の魅力を改めて僕に教えてくれたのも・・・そう、やっぱり彼なんだよ・・・


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今年の初め頃だったかな、彼の日記に今は無きあのカフェが登場したのは・・・

まるで時間を越えて古き良き足利の蔵の街に降り立った様な不思議な物語に
僕は(時々訪れていたのに)非常に新鮮で、でも何処か懐かしい気分にさせられた。


そんな彼の蔵の店の物語では、裏手の路地で繋がった直ぐ近くこの鑁阿寺と、
今僕の目の前に聳える此方の大いちょうも、非常に印象的に紹介されていた。

彼の日記では丸裸で寒そうだったこの大木も、今は綺麗な黄色い葉っぱを
ふんわりと体いっぱいに身に纏って・・・とてもお洒落で温かそうだよね・・・


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 だれかさんが だれかさんが
 だれかさんが 見つけた

 小さい秋 小さい秋
 小さい秋 見つけた

 目隠し 鬼さん 手の鳴る方へ
 澄ました お耳に 微かに沁みた
 呼んでる口笛 百舌の声

 小さい秋 小さい秋
 小さい秋 見つけた



ほらっ、僕も見つけたよ・・・大きないちょうがくれた小さい秋を・・・


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cathette


元来た路地を旧市街地の方に戻って大通りに出ると車の量もぐっと増えるが、
通り沿いには駐車スペースが殆んど無く、また他の地方都市の市街地同様、
郊外の大型商業施設に客足を取られている感もあり、通りに面した建物は
何処か暗い空気が漂っている様な、活気が欠けている様な印象だった。


そんな通りにあるのが、このグリーンの瓦屋根の白い建物だった。

普段はシャッターが下りていて、あぁ、この店もか・・・と、先の懸念を
連想させてしまいそうではあるが、木曜日のこの日は気持ちの良い
大きなガラス張りの外観を通して穏やかな印象の店内が窺えた。


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nico + shuan


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見た目以上に広々と感じるのは、アンティークのドアやテーブルなどの調度品を、
まるで彼らが気持ち良く寛げる様にと考えてゆったり配置しているからであって、
それは同時に、この場所にいる僕にとっても、十分寛げる空間になっていた。


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nico


そんな緩やかな空間を提供してくれる店だから、パンのディスプレイだって・・・


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どのパンも、のびのびとして、心地良さそうで、そして・・・美味しそうだよ!


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パンが置かれたテーブルの反対側にはレディースの洋服やアクセサリーが
此方もまたゆったりとディスプレイされ、きっとまったりと選ぶ事が出来るだろう。


この空間にはパンや服などの“商品”だけが置かれている訳ではない。


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可愛い絵描きさんのアトリエだってちゃんと用意されているんだ!
それに、その奥の木の椅子にちょこんと腰掛けているのは・・・


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君だって、此処でのんびりまったり寛いでいるんだね。


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shuan


cathetteと名付けられたこの店は、パン職人の店主ことnicoさんと、
もうひと方、リネン素材のレディース服を主に手掛けているshuanさんの
二人の店主が営む非常にユニークな形態のショップで、先程も紹介した通り・・・


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さらりとした肌触りの良さそうな風合いの、シンプルで落ち着いた印象ながら
一目で作家の高いセンスと感性が伝わってくる、リネンの服が飾られていた。

単にお洒落というだけでなく、着る人が自然と和やかな気持ちになりそうな・・・


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更に、アクセサリーがディスプレイされた、こんな素敵なブリキのケースや・・・


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所々錆びたクリーム色の傘立てを眺めているだけで、穏やかな気分になってくるんだ。


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蔓編みの篭たちと一緒に吊るされた古びたランプシェードから零れ落ちる
仄かに揺らめく蜜柑色の明かりがぼんやりと店内を照らし出していて・・・

ファインダーを覗くのを止めて、思わずウットリしてくるよ・・・


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君たちを連れて旅に出たいんだ。
篭の中にはいっぱいのお菓子とパンと・・・

まるで彼みたいな事を言って・・・段々似てくるのかな?


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お菓子系のパンを3個ほど購入する事にした。

実はこの他にも色々と迷っていたパンや焼き菓子があったのだが、
この日は2週間ぶりの販売日であるばかりか、今後冬期に限ってだが、
1~2週間に一度(木曜日)しかパンの販売を行わなくなってしまうそうで、
オープン直後にお邪魔したにもかかわらず、次々と訪れるお客さんによって
パンは見る見るうちに売れていき、考えている間も無くほぼ完売してしまった。

撮影のため、特別にアンティークの台の上にプレートを置かせて頂いた。


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あんバター


元気なあの子のゲンコツ位のコロコロ可愛いまん丸白パン。

あのパックマンが3Dになったみたいにパカッと口を開けて、
その中にはまるで和菓子みたいに落ち着いた印象のしっとりした
紫色のつぶ餡が口の端っこからはみ出さんばかりにサンドされていた。

小麦粉のふんわりとした薫りにすっきりな酵母の優しい香りが
ミックスされて、思わずひと口食べるとホロホロっと崩れながらも
もっちりとした食感が感じられてこの白パンだけでもとても美味しい。

でも、ホクホクに炊かれた餡の滑らかな舌触りから伝わる自然な甘さと
柔らかな粒の感触、餡の奥でキラキラ輝くクリーム色のカルピスバターが
ミルキーな風味が生地とつぶ餡にとろりと絡んで一つになって・・・

僕もモンスターみたいにキミを追いかけてしまうんだ。


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ベーグル(チョコ)


艶やかな焼き色のぷっくり膨らんだベーグルも購入した。

ほど良い厚みのリングに比べて表面の皮は薄くパリパリ・・・とても香ばしい!
中の生地は表面の皮からは想像出来ない位ふっくらでもちもちしていた。
ひと口噛み締める毎にギュッと押し返す様な弾力感が何とも堪らない。

そんなリング状の生地に沿ってぐるりと巻かれた濃厚なチョコレートの、
芳しいほろ苦さと仄かな甘さが口の中いっぱいに溶けて広がっていった。


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おからバナナマフィン


やぁ、こんがり茶色のもじゃもじゃ頭のキャベツ君・・・
彼の大好きだった君にやっと僕も会う事が出来たんだね・・・

サクサクのカーリーヘアは、中がふんわりしっとりしていて、
もぎゅもぎゅした食感から自然なおからの風味も加わってくる。

更には、ふんわり広がるバナナの甘い香りにうっとりしていると、
もじゃもじゃ頭の真ん中のトロトロになったバナナの、濃厚で
ジューシーな甘酸っぱさが口の中いっぱいに広がって・・・

どうやら僕も・・・君に恋しそうだよ。


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街で見つけた小さい秋は・・・
やっと見つけた小さい秋は・・・

来たかと思ったら、直ぐ何処かに行ってしまって・・・
会えたと思ったら、もうさよならを告げてしまって・・・

だれかさんが見つけた小さい秋は・・・一瞬だけ手のなる方へ・・・
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by mary-joanna | 2009-11-26 10:33 | 有為の奥山

ウ.天国に向かって

 Littleさん、あの夜以来、ご無沙汰しております。
 最近の宇都宮でのご活躍、楽しく拝見させて貰いましたわ。

 でもね・・・

 ハニーのリクエストには三度も応えていらっしゃるというのに、
 先に“予約”した私のリストの方は一向に紹介してくれないとは・・・

 何て連れないお方なのかしら・・・



やはりと言うか、当然と言えばそれまでの事なのだが、
パピヨンとハニー・・・2つの点は一本の線で結ばれていた・・・
それに、蝶々と蜜・・・そうだね、考えてみれば花のブログだものね。

このパピヨンからの(今回は)鍵コメントがElvis Cafeに送られたのは、
“みはし”の通りと橋と、僕を一瞬で虜にしたフレンチの薫りでいっぱいの
あのカフェの、三つの“みはし”を紹介してまだ一日と経たない夜の事だった。

ハニーの沈黙は気になるが、(えこ贔屓する?)僕の作戦は一応成功した様だ。


パピヨンが僕に渡した、一枚の紙に無機質な箇条書きで記載された店の名前。
そう、僕自身が時間も忘れて幾度となくパソコンのモニターを食い入る様に凝視し、
その街や自然の風景に空気の様に溶け込みながらも全く個性的で他には見られない
類い稀なるセンスに圧倒されこの上ない衝撃を受けた、十数軒の素晴らしい店の名前。

・・・残念ながら既に閉じてしまった店も含まれているのだが・・・

その夢の店を僕はこのブログを通じて制覇し尽くすつもりは、さらさら無かった。
更に、例のグループとの約束(少なくとも、あのパピヨンが僕に語った言葉)では、
リストの中からElvis Cafeに紹介する店の数や順序等は僕に委ねられているのだ。


このリストを手にするずっと前から、僕は既に決めていたんだ。
最初からこんなリストが無くたって・・・お前等なんかに会わなくたって・・・

最初から・・・そう、最初から決めていたんだよ。
僕が貴方に伝えたいメッセージとして、あの物語の舞台に登場する店を
もしElvis Cafeで紹介するなら、僕が一番初めに訪れようと思っている店は・・・



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足利市内の外れに位置する小さな駅からの出発となったが、今回の目的地はこの駅から
出発する東武伊勢崎線を、(途中の久喜駅で乗り換えるが)唯ひたすら終点まで目指すのだ。

この日は抜ける様な青空が気持ち良く、高架式のホームからは付近の街並みや収穫を終えて
剥き出しになった田畑の風景、更に北側に広がる小高い山々の木々の様子まで見る事が出来た。


時刻は丁度午前9時、普段は通過するこの寂れた駅にも朝の時間帯の準急列車は
上りに限って言えば、通勤や通学用に比較的頻繁に電車が停車してくれるのだった。
そして、東武伊勢崎線の終点の駅までの約2時間、電車の中で揺られ続ける事となる。

この2時間もの缶詰状態の中、持ってきた本を読みながら過ごそうと思っていたのだが、
今回訪れる予定の店と、もう一ヶ所、如何しても立ち寄っておきたい場所の事を考えると
如何にもページが進まず、一旦捲ったのに全く内容が頭に入っていない事も多々見られた。
結局途中で本を読むのを止めてしまった僕は代わりにバッグの中から数枚の紙を取り出した。


数枚のA4のコピー用紙にはびっしりと文章が書き込まれていたのだが、これは昨夜僕が
あるブログの文章部分をコピーしワードに移し替えた後、改めてプリントアウトしたものだった。

その文章の1行目には、その記事のタイトルとして“04 Come In Alone”と書かれていた。
そう、これから僕が訪れる予定にしている浅草のカフェを紹介した、Arnold日記の写しなのだ。
2時間もの移動時間の大部分、僕はたった数枚の記事を何遍も繰り返し読む事に費やしていた。

・・・今日、これから経験するであろう未知の領域に備えて・・・


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駅前の交差点を何の違和感も無く人力車が闊歩する街、浅草。

東武伊勢崎線の終着点でもあるこの街は、足利からやって来た僕にとって
純粋に交通面に於ける東京への玄関口となっているのは勿論の事なのだが、
それ以上に東京の店が大半を占めている彼の日記への入口に感じてしまうのだ。

駅を出て目の前の交差点を渡れば江戸の街へとタイムスリップする有名なあの風景が
待っているのだが、180度振り返って橋の方に視線を向けるとこの街のもう一つの顔である・・・


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電車の中からこの2つのモニュメントが視界に入る度に目で追ってしまうんだ。
それと同時に、あぁ・・・また浅草にやって来たんだなぁ・・・って思ったりもして・・・

そんな浅草の“今”と“これから”に、もう一つ新たな仲間が加わる事になった様だが、
その前に如何しても行っておかなければならない場所がある・・・それこそ今回の・・・


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雷門


どうだと言わんばかりの圧倒的な存在感で参道の入り口に仁王立ちしているキミこそ、
まさに“浅草の顔”・・・まだまだ彼等新参者たちがこの役を引き継ぐのは早いかな?

記念撮影をしている人たちの間を何とか掻い潜り雷門を通り抜けると先の混雑は
治まるどころか、前方を確認する事すら難しい程の人の波が待ち受けていた。


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仲見世通り


雷門から浅草寺の境内入口の宝蔵門までの、僅か数百メートルの細い路地に、
一体幾つの店が軒を連ね、どれ程の人間がこの通りを練り歩いているのだろう。

そんな仲見世通りに犇めく観光客の波を掻き分けながら、左右の店に目もくれず、
僕はやや小走りにも近い足取りで前方の視界を段々占拠する二重の赤い門を目指した。


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仲見世通りの付け根とも呼ぶべきこの荘厳な入母屋造の門の内部こそ、
いよいよ浅草寺の境内となるのだが、参拝をしに来た訳ではなかったので、
これまでのスピードが嘘の様に落ち、境内の中をぶらぶらと散策する事にした。

目的の店の開店時刻には十分に時間があったのだから仲見世をのんびりと
見て回れば良かったのだが、如何いう訳か人込みの中だと忙しなくなるらしい。


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宝蔵門と五重塔と・・・浅草ビューホテルの新旧スリーショットなんて、どう?

何度か再建や修復を繰り返しているとは言え、東京都内最古の仏教寺院であると共に
下町情緒溢れる浅草の中心的スポットとして国内外から観光・参拝に訪れる人の絶えない
浅草寺のイメージと言えばやはりこの朱塗りで統一された境内の各建物ではあるけれど・・・

その浅草寺の直ぐ目の前に聳える高層ホテルとの風景も、もうすっかり様になってきたかな?
でも、隅田川の反対側には更に度肝を抜くインパクトのスタルク建築と、これから僕が訪れる・・・


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先日宇都宮の二荒山神社で見る事の出来た菊の展覧会は此処でも行われていた。
この時期は全国の寺社で開催されるイベントなのだろうが、大小様々な種類の
色鮮やかな菊が境内の特設さ会場に展示され、参拝客の目を惹いていた。


境内の裏手に回った僕は、もう一つ、先日の宇都宮訪問に欠かせないあの花に出会った。
その際は足利から小さな鉢植えを持参したのだけれど、今回はこんなにも立派な・・・


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ムラサキシキブ


また貴女にお会いしましたね・・・この前よりも更に一層華麗に着飾って・・・
貴女の鮮やかな紫に輝く肌は厳粛な雰囲気漂う歴史的な空間に良く似合いますよ。



予定の時刻が迫ってきた事もあり、浅草寺を後にして第一の目的地でもある・・・
例の場所へ向かって歩み出した・・・彼が未だWに知られる前にひっそり訪れていた・・・


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伝法院通り


先ほどの仲見世とはまた異なった、江戸下町の歴史情緒を感じさせる趣きのある通りだ。
華やいだ仲見世の風情も良いが、この落ち着いた印象の下町の雰囲気も捨て難い。

そのまま伝法院通りを進み、浅草公会堂を少し過ぎると数本の分かれ道に出る。


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六区通り


伝法院通りから浅草演芸ホールまでの、ほんの100メートル弱の僅かな通り。
でもその僅かな距離の左右で出迎えてくれるのは・・・何ともゴージャスな芸人たち!

ほら、僕の目の前には欽ちゃんが待ってるじゃないか!!
そんな欽ちゃんの直ぐ傍にひっそりと立つ小豆色ののぼりには・・・

コーヒーとホットケーキの文字!!


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天国


古びた煉瓦造りの建物に掛けられた、“天国”と書かれた大きなコーヒーカップの看板・・・
まさにArnold日記の、“04 Come In Alone”の回で紹介されたあの看板なのだが、
彼が載せていた写真の姿とは何かが違う・・・何か、こう・・・あっ、看板の色だ!

確か例の写真の看板は脇に立っているのぼりと同じ淡い小豆色をしていた筈だ。
このくすんだモスグリーンは・・・酸性雨で此処だけ色が落ちたとでも言うのか?

尤も、この自然な色落ち具合と何処か哀愁をも感じさせる微妙な鶯色は、
この煉瓦造りの外観は勿論の事、浅草の裏通りに良くマッチしていた。


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正面から見る店の外観は、浅草の商店街の中だけあって間口は狭いものの、
古びた赤レンガ造りが印象的で二つのアーチは碓氷峠に掛る陸橋を連想させた。

右側のアーチはテイクアウトのスタンドになっていて、この店の定番のホットケーキは
勿論の事、ホットドックなどお持ち帰りだけで無く散策のお供にも丁度良いと思った。


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スタンドの隣りの僅かに奥まったチョコレート色の古い木枠のドアを押ス。

ドアの手前の額縁は彼の写真には無く、店主の話だとその後設置したそうだが、
赤色エレジーの、幸子と一郎の悲しい物語は今の僕にとっては彼と彼女の・・・
いや、僕には未だその全容は全く掴めていないんだ・・・だからこうして・・・


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店の中に入ると壁に沿って小さな4人掛けのテーブルが2つ置かれていた。
その向こうには厨房があって、ケーキを焼く様子が硝子越しに見る事が出来る。

最近の洒落たカフェには見られない昭和の喫茶店の風景が僕には新鮮に映った。


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向かい側にはやや小さ目のテーブルが並び、此方は一人客用の席になっている。
更に壁に沿ってオレンジ色のソファーが続いており、窓際にまで伸びていた。


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そして、その窓際の席に着く事にした・・・嘗て彼がそうした様に・・・


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ひと段落ついてソファーに腰掛けると大きな窓からは表の六区通りの様子が窺えた。
のんびりと窓の外を眺めていると、人力車がやって来て僕の目の前で停まった。
其処に乗り込んだのは、外国人の観光客・・・まぁ、当然と言えば当然だが・・・

外国人を乗せた人力車は再び走り去って行ったが、如何やら此処が発着所になっていた様だ。
まぁ、これもこの浅草ならではの光景という事なのだろう・・・とても長閑な時間が過ぎてゆく・・・


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そう、此処は喫茶店だもの、心地良いひと時はお手のものだったよね・・・


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そんなまったりとした空気を感じていると、先ずはじめにコーヒーが運ばれてきた。
シンプルなドリップコーヒーをオーダーしたが、この空間に良く似合っていた。

そして、真っ白なカップには外の看板で目にしたあの“天国”の文字が・・・
このカップをずっと憧れていたんだよ・・・あの写真を初めて見たその日から、ずっと・・・


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ホットケーキ


可愛らしいサイズの真ん丸ホットケーキが2枚、大きさに比べて厚みは十分だ。
仄かに色付いた綺麗な焼き色の表面には“天国”の二文字が刻印されている。

サックリと焼かれた表面の、微かに感じる香ばしさの中は勿論、ふっかふか!
ほんのり優しい甘い香りにしっとりとした口当たりの生地は、懐かしいあの感じだ。

備えられたバターが生地の熱で溶けて、ミルキーな塩味がとろりとした濃厚な
シロップの甘さと混ざり合って気泡でいっぱいのふかふかな生地に染み込んでいく。


遂に・・・遂に此処までやって来たんだね・・・


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店を出た僕は六区通りから伝法院通り、そして仲見世通りと、
来た道をそのまま引き返す様に駅の方に向かって歩いた。

碁盤の目の様に縦横に路地が広がる浅草故に、他にも近道はあったのだが、
この雰囲気を一秒でも長く感じていたかったので、敢えて同じ路を通りたかったのだ。


駅前を過ぎて隅田川に架かる橋を渡ると、最初に見た金色に輝くビルが一層大きな姿を現した。

橋の真ん中辺りから川の方を眺めてみると、直ぐ手前には屋形船も停泊しており、
此処でも尽きる事の無い魅力的な浅草の風景を満喫する事が出来るのだった。


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こんなに近付いたのは初めてだけど・・・何という圧倒的な光景だろう。

ビール会社の建物との事で左のビルの方は容易に想像がつくのだが、
この美術作品さながらのモニュメントの意匠は何をイメージしてのものか、
暫くの間考えていたが、見上げ続けて疲れた為に別れを告げて歩き始めた。


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下町の裏道を歩き続けひと駅分の散歩の末に辿り着いたのは、この運河の畔・・・


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スカイツリー


運河から更に近付くと、周りにはデジタルカメラや携帯電話を手にした沢山の人が
まるで撮影会を行っているかの様に青空に突き出た一本の塔を撮影していた。


まだまだ完成までには1/3にも満たない建設途中の段階ではあったが、
直ぐ傍まで近寄った際の(それでも大分手前で規制されていたが・・・)、
まるで天にまで届くのではないかとも思える圧倒的な迫力と言ったら
とても言葉で表現し切れるものでは無く、唯茫然と見上げていた。




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「ウインターコスモス」


10月の後半までは頻繁に訪れる園芸店の軒先で白と黄色が混ざった可愛い花弁を
ひょろっと細長く伸びた茎の先っちょでゆらゆらと揺らめかせていた筈だったのに、
少し見ない間に枯れ始めて半額の値札と共に店の端っこに追いやられていた。

冬の名を冠しながら、冬の訪れと共に枯れていくなんて・・・
まるで彼の名を冠しながら、彼に会う事も出来ずにいる僕みたいで・・・


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このまま彼に会えずに終わってしまうのかい?
このまま花を見せずに枯れてしまうのかい?

いや、まだ枯れないよ・・・まだまだ伸び続けるんだよ!
あの青空の向こうまで・・・天国に辿り着くまでは・・・

そうだろう?・・・僕も・・・そして、貴方も・・・


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by mary-joanna | 2009-11-21 13:04 | 有為の奥山