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カテゴリ:散りぬるを( 5 )

ヲ(オ).僕の友達・前編

ある時は叱咤激励をしてくれて、
ある時は厳しい活も入れてくれる。

間違っている時はハッキリと指摘してくれるし
時には辛口のコメントで僕に刺激を与えてくれる。

でもね、他の誰よりも早く知らせてくれたり・・・
こっそりと大事なヒントを教えてくれたり・・・
心温まる言葉で元気付けてくれたり・・・

そして・・・

これまでずっと見守ってくれて、密かにずっと足跡を残してくれた、
まだ直接会った事も無ければ、顔はおろか声さえ聞いた事の無い存在。


でも、僕にとってはかけがえの無い・・・先輩・・・仲間・・・

あっ、友達・・・っていうのかな・・・

いや、友達っていうのは僕の一方的な片想いに過ぎないのだけれど・・・


Cindyにとっては、“あの人”がまさにその様な存在なのかも知れないね。
そんな“友達”が彼にあの場所を紹介してくれてから、もう彼是半年以上が経つ。
それは彼に、「ゆったりした時間が過ごせる」と紹介してくれたとっておきの秘密の場所。

1月末の、寒々とした薄鉛色の空の下に広がる庭の剥き出しの地面や
葉の付いていない木の枝は何処か寂しそうな雰囲気を醸し出していたが、
来るべき新しい生命の息吹に備え、みんな土の中で祝福の準備をしている、
そんな気がして僕にとってはこの冬の光景がかえって大きなインパクトを残していた。

でも、お家の中に一歩足を踏み入れると、其処に広がる空間と言ったら・・・



のんびりさんが夏休みの宿題に追われて慌て始める8月も終わり、
僕はその方が紹介してくれたとっておきの場所に出かける事にした。

大きな通りを斜めに入って暫く進むと更に細い路地へと続いてゆく。
まるで迷路の様に入り組んだ細い路地の左右にはグレーのブロック塀と、
地面から突き出たコンクリートの電柱には何本もの電線が張り巡らされている。

辺りは全く以って街中の住宅街といった面持ちだけれど、僕の心はワクワクしていた。
だって、今通っているこの細い路地は、僕にとっての「恋人の小径」なのだから・・・

そしてこの路地を縫う様にゆっくりと車を走らせると視界の先に緑の茂みが現れる。
屋根と屋根の隙間から見え隠れする木々に誘われる様に進むと次第に前方が開けて・・・


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直ぐ前の少し広くなった駐車場に車を停めて門の方に恐る恐る近寄ってみた。
薄水色のアイアンフェンスは塗装も剥げ所々ひどく錆付いて赤茶けていた。
更にそのフェンスを取り囲む様に下草や灌木が茂り、あたかも森の中で
偶然辿り着いた、年季の入った古びた洋館の外観そのものだった。

でも、それ以上に僕の目を釘付けにしたのは、フェンスの端から這い出る様に、
また、奥の建物を遮る様に正面の門の上に伸びる蔓バラで出来たアーチの入り口、
それは此方側の現実の世界と向こう側のおとぎ話の世界とを繋ぐトンネルの様にも思えた。

で、僕はそんなおとぎ話の中から、“あの物語”を想像しながら、既に花が落ちきって
すっかり葉だけになった緑のアーチをくぐってゆく事にした・・・綺麗な蔓バラを思いながら・・・


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カラッとした清々しい空気と目にも鮮やかな緑に満ち溢れた庭は夏の情景だけど、
一面の青空に千切れんばかりに薄く広がる白い雲が秋の訪れを告げていた。

そんな空色と黄緑に囲まれて、二階建ての可愛らしいお家が建っている。
その家のペールグリーンの大きな切妻屋根にはドーマーの真っ白な窓枠が二つ。


屋根裏部屋からあの娘が物思いに耽りながら庭の方を眺めている気がして・・・


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ヒマワリ(向日葵)


あの物語の主人公が初めて家にやって来たのは6月初め頃だろうか?
グリーンゲイブルズ周辺ではバラは勿論、山桜やライラックなど綺麗な花々が
これから始まるファンタジーを祝福するかの様に、彼女の到着を出迎えてくれたよね。

でも今は8月、僕の前には背高のっぽのヒマワリくんが大きな黄色の麦わら帽子を
ゆっくりと揺らしながらその大きな眼でジィ~っと僕を見つめていた・・・ヤァ、コンニチハ!


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ケイトウ(鶏頭)


その直ぐ向かい側ではニワトリくんがご自慢の真っ赤な鶏冠をピンと立てていた。

建物に向かう小路をぐるりと見回してみると他にも鮮やかな紫のサルビアや
オレンジ色のヒャクニチソウなど、とても色鮮やかな光景が広がっていた。

“メイフラワー”じゃあ無いけれど、“サマーフラワー”だって悪くないよね。


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庭の綺麗に刈り込まれた芝生の真ん中にはテーブルとベンチがが置かれていた。
こんな天気の良い午後だったら、ダイアナと一緒にのんびりお茶もいいかもね。


ピョン・・・ピョン・・・

んっ!?・・・そっちに誰かいるのかい?


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やぁ、ウサギさん、コンニチハ!

君もこの清々しい青空に誘われて遊びに来たんだね。
それにしても此処はとても気持ちの良い場所だね。

あの人が寛ぎに訪れる訳が僕にもわかったけど・・・
えっ、お家の中はもっとのんびり出来るって?


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やわらかな午後の日差しが真っ白な壁をほんのりアイボリーに染めていた。

入り口のドアの脇にはドライフラワー束が掛けてあり、初めて入るお店なのに
何処か懐かしさすら感じられる、幼馴染みの友人の家に遊びに来たみたいだった。


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家の中は奥行きがあって、思っていたのより広々としていた。


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ピカピカに磨かれたフローリングには可愛らしいテーブルと木製のダイニングチェアー。

何年もの間、丁寧に使われてきたこれらの家具たちはこの空間にとても良くマッチして、
まるでアメリカかカナダの片田舎の一軒家に食事を御馳走に招かれたみたいだった。


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エアコンの冷たい空気も良いけれど、此処にはやっぱり君が似合うね。
あぁ・・・そう言えば、この前も君みたいな扇風機に会ってきたところなんだ。

あのお店も凄くまったりと寛ぐ事が出来てね・・・


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ジャムとケーキの店番は君が担当なんだね。

いつもは優しいけれど時には鋭い眼差しでこの家を守ってくれる、
とても頼もしい君だったらみんなが安心してのんびりと過ごせるよ!


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そうそう、確か此処は自家製ハーブのお店だって、あの人が教えてくれたっけ。

ポプリに・・・ドライフラワーに・・・ハーブに・・・

そう言えば、あの娘が初めて日曜学校に行く時、道端に咲く花を摘んで
帽子の花飾りを作っていたけど、花って色々と素敵な楽しみ方があるんだね・・・


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実は何処に座るかは最初から決めていたんだ。

窓と壁に挟まれた小さな白いテーブルは、決して広くは無かったけれど、
外の庭を眺める事が出来たし、それにゆったり一人の世界に浸る事が出来た。

でも、一番の理由は何と言ってもあの人が座った席だから・・・
そして、“彼との”ツーショットまで見せられたのだから、もう・・・


ライムグリーンの窓枠を開けると、そのスッキリとした色合いにも負けない位の
清々しい爽やかな微風が、時折り僕の肌を心地良くさすってくれる気がした。


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ハーブティー


店長さんに相談して決めた、リフレッシュ出来るブレンドのアイスティー。

スゥ~っとしたミントの爽やかな薫りのスッキリとした味わいが、
ひんやりと喉を潤してくれると同時に、不思議と気分もリラックスして・・・


これまでの僕の旅っていつも何処か張り詰めた感じがあるのだけれど、
この瞬間、全てを忘れて心からまったりと出来るのだから・・・

もうこの感触はやめられないんだよね、きっと・・・


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ひみつの森のケーキ


スパイシーなシナモンのやわらかな香りがふんわりと広がってゆき、
その心地良い香りに誘われるままにフォークで分けたひと口を頬張ると、
非常にしっとりとした食感なのにとてもやわらかで口の中でフワッと溶けていく。

生地の優しい甘さにレーズンの凝縮された濃厚でねっとりとした甘酸っぱさや
シナモンの爽やかな甘さが複雑に絡み合って、更にはコリコリとした胡桃の歯応え。


「お化けの森」がそのモデルなら、きっと可愛くって優しくって楽しいお化けに違いない。

全ての魅力がが一つの森の中に・・・
アンが遊んだ秘密の森の中に・・・


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ゆっくりとケーキとお茶を頂きながら、この窓枠の向こうに広がる庭の眩しい緑を
眺めながら僕は、今回のイニシャル「ヲ(オ)」についてぼんやりと思案を巡らせていた。


 やっぱりこの物語の舞台に相応しい“あの花”がいいんだけれどなぁ・・・
 でも、今は8月、季節外れと言ってしまえばそれまでなのだけれど・・・



手作りのケーキとお茶と、そしてこの非常に素敵なお家と庭に囲まれながら、
まるであの物語の主人公みたいな優しくて明るい店長さんの笑顔に触れながら、

 ほんのひと時迷い込んだファンタジーの世界が永遠に続いて欲しい・・・


僕は、コンクリートとブロック塀に挟まれた細い路地に戻る際、そう呟いていたのだった。


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のんびりさんも何とか夏休みの宿題を終えて元気に出掛ける9月の初め、
僕は今回のイニシャルを見つけるべく、ある場所へと車を走らせる事にした。

そしてやって来たのは、そう・・・


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現在は秋バラに向けての剪定作業が行われて殆んどバラは咲いていないよ、との事だったが、
全く如何して、数は少ないものの、初秋の強い日差しの下でも綺麗な花を見せてくれた。

そんな中、僕は“ある種類”のバラに絞って広大な敷地を歩き回っていた。


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シャトー・クロ・ヴージョ


1908年にフランスで作出されたこの華麗なバラは、その名が示す通り、
まるでブルゴーニュの特級ワインの様な濃厚なルージュの花弁が魅力的だった。


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ピンク・グルス・アン・アーヘン


こちらは打って変わって愛らしい仄かなピンク色が可愛い印象を与えてくれる、
1929年に同じくフランスで作られたとされるオールト・モダン・ローズだった。


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パスカリ


真っ白なバラもあり、その神秘的な姿に僕は様々な事を連想していたのだ。

ベルギーで1963年に作出された品種だそうだが、歴史の長いバラにとっては、
40~50年前のバラでは、まだまだ“新入り”の部類にはいってしまうのだろう・・・


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バラ(アレンジ)


更に、敷地内にあるドーム型の温室にはこんなにも華麗なバラのアレンジも
展示されており、思わず足を止めて暫くの間、僕は魅入ってしまっていたのだった。


でもね・・・やっぱり何かが違うんだよね・・・

この場所にやって来た目的は今回のイニシャル「ヲ(オ)」の花として、
当初、「オールドローズ」を考えていたからだったのだけれど・・・
(1867年以前の品種を“オールドローズ”と呼ぶそうです)


アンの物語に出てくるウットリする甘い香気を漂わせながら輝くバラたちは、
新緑が一斉に芽吹き気持ち良く茂る6月の緑の中で咲き誇るからこそ、
そう・・・最も美しくなる季節だからこそ最高に僕の心を揺さぶるのだ!

夏の間、直射日光に晒され続け、梅雨や台風に震え、疲労し衰弱しきって、
それでも最後の力を振り絞るように気品に満ちた振る舞いで出迎える貴女の、
その痛ましい姿に僕は悲しい気分になってカメラを向け続けるのをやめる事にした。

僕があの“友達のお家”を訪れたのは8月終わり、秋の薫りが漂い始める頃だった。
だから、もし物語のあの娘がこの季節にプリンスエドワード島にやって来たら、
きっとまた違った素晴らしい草花が彼女を出迎え、虜にしてくれた事だろう。

そして僕が探している花だって、あの娘が感激した“メイフラワー”の様に、
この季節に最も美しい姿を見せてくれる花になって欲しいのだった。


そんな事を考えながら僕はばら園の周りをとぼとぼと歩いていた。
すると、端の方の花壇を埋める様に淡く黄色い小さな花が咲いていた。


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「オミナエシ(女郎花)」


秋の七草にも数えられる、古来から日本の秋を象徴するこの花を、
日本に生まれ育った僕は、今の今まで注目する事は無かったのだった。


こんなのあるのか分からないけど、まるでレモン味の綿菓子を
みんなで千切ってちっちゃなひと口サイズに分けたみたら、
ふんわりふわふわ、甘酸っぱい香りと一緒に浮いている・・・

淡く滲んだ黄色いつぶつぶ、ちっちゃくって可愛くって、
でも、みんな一人じゃ心細いから肩寄せ合って、くっついて・・・

そしたら可愛いお花になって、秋晴れの空でお休みしている
もくもくっとした、ちょっと変わった黄色い雲になっちゃった・・・


こんな花だったらあの娘だってきっと飛び上がって喜ぶんじゃあ無いかな?
そして、飛び切り素敵な情景を想像するに違いないよ、あの娘だったら、ね!


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 ばらが話せたら、すてきじゃないかしら。


季節外れのピンクのバラを眺めながら、あの娘が呟いた言葉だったね。


 君のバラは世界に一つしかないって事がわかるはずだ。


別の友達からは大事な言葉ももらっていたっけ・・・


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ひみつの森のケーキ(おみやげ)


しっとりとした濃厚な甘さを噛みしめながら・・・
爽やかなシナモンの薫りにウットリしながら・・・

僕は、あの夏の終わりの、“友達のお家”で過ごした素敵なひと時を、
秘密の小路と小さな森の先にある、“可愛いお家”のひと時を思い出していた。


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冒頭に綴ったのは、僕の、例の“友達”へのオマージュである事は言うまでも無い。

そして、え~っと、そう、何と表現したら良いのか上手く言葉に出来ないのだが、
そんな僕の憧れの友達が更に憧れていたあの方に、その友達、Cindyを
差し置いて何と僕の方が直接お会いする機会が巡って来たのだ!!

先日の、あの“お手伝い”を神様が見ていてくれたのかな?


月夜に輝く野を舞うあの水の様に澄んだ眼をしたネコさんが、
今度山を下りて来るなんて言ったら、僕の鼓動はもう・・・
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by mary-joanna | 2009-09-18 01:36 | 散りぬるを

ル.天空の白いカフェ

ブーランジェリーのサンドとベッカーのお菓子パン・・・
洗練された都心の丸の内と素朴な下町の上池袋・・・
優雅なテラスでの会話と懐かしい路地裏の散歩・・・

Elvis Cafe最初の(と言っておこう・・・また訪れるかも知れないから・・・)東京訪問は、
様々な角度から大都会東京の二つの側面を垣間見る事が出来た様な気がした。
それは何処か混沌としていて、不安ともワクワク感ともつかない何かが
僕の心を激しく揺さぶりながら大きく横たわっている様な・・・

・・・勿論その中にはあの青年が放った闇(?)も含まれていた・・・


確かにこれまでの何処か穏やかでのんびりとした草花探しには無い、
ドキドキする様な緊張感に僕は魅了されはじめていたのかも知れなかった。

でも、この次に訪れるのはそんな東京とは正反対に位置する場所と決めていた。


8月も後半に入り、漸く本来の夏らしい青空が広がる日が続く様になってきた。
今日訪れる予定の場所は、こんな青空が非常に良く似合っている所だった。

今回のルートだが、先ずは国道50号線を桐生方面へと向かって真っ直ぐ進み、
途中から重複していた122号線の方へと分かれて、桐生市内を北上してゆく。
更に旧大間々の市街で353号線に乗り換えると、後は暫く道なりに進むが、
やがて民家も疎らになってゆき、徐々に山道を上っているのに気が付く。

山道という事で、上っているだけでは無く左右にうねる様なカーブも続き、
周りの景色も落葉樹の林や丘陵の田園風景、また、牧場も見かけたりする。
そう、僕は赤城山の広大な裾野を、まるで弧を描く様に沿ってドライブしていたのだ。


まるで同じ場所をぐるぐる回っている様な変わり映えのしない山道が続いていたが、
突然視界が開けて目の前が明るくなると、僕は思わず息を呑んで車を停める事にした。


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うっすらと遠くに望むほぼ平行な位の幾層にも連なったなだらかな山々稜線が、
青白く霞んだ背景の淡い空色に段々と溶け込んで同化してしまいそうな程だった。
くっきりとした山並みの深緑が確認できる麓とその手前に広がる鮮やかな水田の黄緑との境、
そう、山の麓を境界線として数を増していく青や赤やグレーの民家の屋根、コンクリートの直方体。

まるでミニチュアの様に点々と置かれた集落をこうして高い位置から見下ろしてみると、
この現代に於いても自然の持つ圧倒的な雄大さはまだまだ健在なんだ、って感じてしまう・・・

その力は何も視覚によるものだけでは無く、下界の残暑を忘れさせてくれる様な涼やかな風が、
時おりビュウビュウと激しい音を立てて山間を吹き抜ける瞬間、ちょっとした怖さすら感じられるのだ。


兎に角、東京の街角では決してお目にかかる事の出来なかったこのパノラマに
僕は暫くの間魅了され、この後訪れる事にしている場所への期待が更に膨らんでいた。


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山を下り切ると目前には利根川に架かる大きな橋が現れてくる。

以前は北橘村と呼ばれたこの場所は、数年前、すぐ北側の赤城村などと共に
川の向こう側に位置する渋川市と合併し、現在では一地区としてその名を留めていた。


流石に視界を覆い尽くさんばかりの下流域の景観とはまた異なるものの、
こんなに上流の方までやって来ても、尚これだけ立派な水流を湛えているのは
やはり日本一の水量を誇る利根川ならではと感嘆しつつ、車を停めて橋桁に近寄った。

あの、先の方に見える山並みをゆっくりと眺めてみたいと思ったのも事実だが、
橋のたもと付近で偶然目に付いた、鮮やかな花が非常に気になったのだ。


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ノウゼンカズラ(凌霄花)


視界に飛び込んでくる鮮やかな橙色の花は周りの景色にも良く映えていた。

僕の背丈をもゆうに越えて、また四方へと伸びた蔓の一本一本からは、
大振りの蕾が沢山付いていて、その半分からやわらかな花を咲かせていた。

“大空をもしのぐ花”がその名の由来だと言われているらしいが、
思わず立ち止まって空を仰ぎ見た際の、真夏の青い空を切り裂く様に
すくすくと伸びていく鮮やかな花々にいっぱい元気をもらった気持ちになった。


更にもう一つ、僕の心を奪う可憐な花が咲いていた。


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ハクチョウソウ(白蝶草)


夏の終わりの澄んだ青空をヒラヒラと優雅に舞う純白の蝶々の群れ。
ピンと伸びた細い茎の先で羽を休めたり、じゃれ合っていたり・・・

そう言えば、この前は大粒のサクランボに誘われて雨の中をやって来たよね。
あの、雨露に潤んだ仄かに桃色付いた羽も綺麗だったけど、今日みたいな
眩しい太陽に照らされたスッキリとしたホワイトだってとても魅力的だよ。


道端に咲く夏の贈り物に別れを告げて、いよいよ目的の地へと足を踏み入れ・・・
いやいや、少し寄り道して行こうか。だって今日は時間に追われていないから・・・


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どのみち目的の場所へ行くには、この国道17号線バイパスを沼田方面へと
北上する事にはなるのだが・・・途中、通り沿いのとある施設で僕は車を停めた。


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彼の日記には遂に登場しなかった“道の駅”

地元で採れた季節ごとの新鮮な果物や野菜が購入出来るばかりか、
その果物や野菜をふんだんに使用したスイーツや料理だって頂けるのだから・・・

彼だったら見過ごしたりはしないと思うのだけれど・・・


だが、今回僕がこの道の駅を訪れるのは別の理由があったからだ。


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橋を渡る際に渋川市が近年の大合併によって現在の姿になった事に触れたが、
利根川の此方側とて例外ではなく、今僕がいる場所もかつて子持村と呼ばれていた。

その子持村の特産が“こんにゃく”だそうで、この道の駅にも入って直ぐの場所に
この様な専用コーナーが設置され、様々な種類のこんにゃく製品が売られていた。


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直売所を出た所には大振りのスイカが無造作に並べられていて、
側を通る人たちも足を止めて思い思いに品定めをしているみたいだった。

実際に購入する訳ではないのに、何時の間にか僕も目の前に立っていて、
このスイカは・・・いや、あっちの方が・・・と、夢中で選んでいたなんて・・・

でも、こんな光景も夏の風物詩のひとコマなのかな?、ってしみじみと感じていた。
そう、今日の旅行には心の中に余裕というか、ゆとりの様なものがあったのだ。


更に此処で購入する事が出来るのは、何も果物や野菜ばかりでは無かった。
今回の僕の目的こそ、この“道の駅”でこれらの食材に混ざって普通に売られていた。


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レンゲショウマ(蓮華升麻)


大きく開いた(とは言え3㎝程しか無いのだが・・・)真っ白な萼に守られる様に、
その中心には小さな花弁がちょんと座って、更にその中からまるで外の様子を
こっそりと覗き見するみたいにほんの少しだけ黄色い顔を出していた。

その花弁の淡い紫色と相俟って、平安の貴族が御簾からそっと外の様子を窺っている様な、
そんな気品に溢れた奥ゆかしさの感じられる姿を、この可憐な花に重ねてみたりしていた。


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初雪カズラ


縦に伸びたサーモンピンクからアイボリーのグラデーションが印象的で、
ふんわりとした柔らかな容姿の中に控えめな麗しさが感じられて、
僕は、晴れ着姿の女性の、あの凛とした佇まいを連想していた。

それにしても真夏の草花に“初雪”だなんて・・・風流だなぁ・・・


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ハイビスカス


レンゲショウマと初雪カズラのすぐ隣りには、何ともトロピカルなムードに満ち溢れた
まさに常夏のイメージを喚起させるこの大輪の花が飾られていて、先程までの
古風な情緒に浸っていた僕は、一気に陽気な夏の世界へと引き込まれた。

Elvis Cafeを始めるまでは花って春だけのものだと思っていたけれど、
この夏、様々なイメージを掻き立ててくれる素敵な草花と出会う事が出来た。



今僕がいるのは“道の駅”、言ってみれば単なる地域の直売所に過ぎない。
だから目を瞠る様な希少な草花も無ければ、状態や管理も決してベストでは無い。
直射日光を浴びながらケースごとその辺に置かれて萎び掛けているのだってあったのさ。

でもね・・・

此処には花屋さんとはまた違った花選びの魅力があるんだって教わったんだよ。
だからこそ、今回のイニシャルの花だってきっと・・・ほらっ、見つけたよ!!


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「ルリヤナギ(瑠璃柳)」


瑠璃色と言えば、例の宝石から何処か神秘的で深遠なブルーをつい連想してしまうのだが、
この花に冠された“瑠璃”は背景に比しても何とも淡く、ほんのりとした薄紫色をしていた。

更に葉っぱの形状が名前の由来との事であったが、僕はむしろ、時折り吹いてくる微風に
ゆらりゆらりとしなやかに揺らめく彼らの出で立ちの方がその名に相応しいのでは、と思った。


澄みきった薄青色の空の中、五芒星の形をした可愛らしい紫色の花が浮かんでいる。

こっちの花は仲良く並んで、あっちの花は少し離れて、五つ、六つと連なって・・・
紫色に広がる花弁の真ん中に、黄金色した雄しべと雌しべがキラリと輝いて・・・

まるで“お星様”が仲良く寄り添っている様なこのルリヤナギに、
そしてその名前に冠された瑠璃の惹き込まれる様な澄んだ青に、
満天の星が彩る夜空の中でもとりわけ美しく輝く青の星団、昴の姿を
僕は何時しか重ね合わせながら魅入っていたのかも知れなかった。

だって、今日僕は幾つも山を越えて此処までやって来たのだし、
これから向かう場所だって・・・そう、其処はもう天空の領域とさえ・・・


そして僕はこの淡い紫の“お星様”にある願い事をして、この場を離れた。


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「ルリヤナギ」との対面も果たした僕は、道の駅を後にしてもうひとつの大事な目的地、
この春彼が訪れたあの場所へと向かって再び国道17号線を北上する事にした。

視線の先にうっすらと横たわっている、なだらかな山々の稜線を眺めながら・・・


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17号線が旧子持村上白井地区に差し掛った頃、側道を山の方に向かって入っていくと
暫く上り道が続き、やがて周りが開けたかと思うと辺り一面が黄緑の絨毯に覆われる。

子持山を背にして正面から左手には赤城山の大きな裾野が、そして反対の右手には、
下方になだらかに広がる渋川市街とその向こう側に霞む榛名の山々の輪郭・・・

圧倒的な空間が僕の目の前に突然その姿を露わにしたのだ。
しかも、まるでこの一帯ごと宙に浮いている様な錯覚に陥る程だった。


Cindyもこの光景に歓喜し、写真を紹介していたが、あの縦長の窮屈な画像では
この広大なパノラマの魅力は伝え切れる術も無く、きっと彼も非常に悔しがったに違いない。

そして、この丘陵地を一面に覆っている緑の葉こそ・・・
先程道の駅で目にした此処、旧子持村の伝統的特産品の・・・


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蒟蒻の畑に他ならなかったのだ!!

あの薄暗い灰色の、むにゅっとした蒟蒻からは全く想像もつかない、
燦々と降り注ぐ太陽の日差しをいっぱいに浴びる生き生きとした緑の葉々。
この蒟蒻の葉が見渡す限り遥か遠くの方までずっと続いていたのだった。

で、この緑で敷き詰められたパノラマの終着地こそ、僕が目指した・・・


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あぁ・・・遂にこの真っ白な壁と切妻屋根の可愛らしいカフェにやって来たんだね。

彼の日記を見たあの日から、ずっとずっとこの日を待ち望んできたんだ。
そして、今、僕の目の前には夢だった白いカフェが現実のものとして建っている。


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彼の日記は勿論、こうして実物の真ん前に立ってこの建物を眺めてみると、
大きな三角と四角を合わせただけのシンプル極まりないフォルムに加え、
屋根のグレーと壁のホワイトのたった2色しか使われていない色構成。
眼下に見下ろす下界や遠くの山々を望む天上の様なロケーション。

スタイリッシュであり何処か非日常的なムードに包まれていたが、
この壁から突き出た屋根みたいな庇と横幅に対して高さのある木枠の扉、
シンプルながら非常にユニークなこのエントランスからも、そんなオーラが漂っていた。


この様な建物だからと、恐る恐るこの扉を開けて一歩中に踏み入れてみると・・・


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店の名の通りホワイトを基調としたナチュラルで明るいダイニングには、
柔らかな木目のシンプルで落ち着いたテーブル&チェアーで統一されていた。

穏やかで非常に落ち着いた印象の店内に、かえってビックリしてしまったのだ。
そして、入って直ぐの2人掛けのテーブルに通された僕は、彼が日記の中で
オススメしていたメニューとは異なるランチをオーダーしてみる事にした。


窓からは直ぐ向こうの蒟蒻畑の緑と、その先の天と地の境界線の様な
殆んど平行に近い遠くの山々の稜線を眺める事が出来た。

暫く眺めていると僕の目の前に大振りの皿がやって来た。


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チェダーチーズのベジタブルフォカッチャサンド


皿を回転させてサンドの断面が見えた瞬間、僕は思わずわぁ~っと呟いてしまった。
付け合わせのサラダだけでもたっぷりと野菜を採る事が出来るというのに・・・


チェダーチーズのまろやかな食感やコクのある旨味、パンや野菜に丁度良く合う塩加減に
真っ赤に熟したトマトのギュと詰まったジューシーな酸味が、ふんわりもちもちの生地に
仄かな小麦とオリーブオイルの風味が堪らないフォカッチャと良くマッチしていた。


だけど、やはりこのサンドの主人公は、ぎっしりと詰まった緑の野菜なのだった。
パンパンに膨らんだ財布の様にフォカッチャの形を変える位たっぷり入った
シャキシャキっとした食感の葉野菜の新鮮で瑞々しい事と言ったら・・・

窓の外の一面に広がる蒟蒻畑の、溢れんばかりの緑を連想していたのだ・・・


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ガトーショコラ


最近、様々なカフェでオーダーする機会が多くなったチョコレートのスイーツ。
真っ白な皿には黒一色の細長い三角形の塊、そして一枚の小さな緑。
まさにこのカフェそのものを具現化しているみたいじゃないか!!

チョコのほろ苦い甘さをクリームのまろやかさが優しく包んでくれて、
なめらかな口当たりでありながらホロっと崩れる食感と共に儚く溶けていく・・・


チョコレートのお菓子を食べると何時の間にかあの物語を重ね合わせてしまうのだ。
切ない甘さとほろ苦さ、優しさと冷たさ、気品に満ちていながらも親しみやすい・・・


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ピンクグレープフルーツジュース


これまでコーヒーやお茶ばかりだったので、今日は可愛らしいピンクのドリンクにしてみた。
それに、このカフェとピンク色とのギャップが逆にとても新鮮に映る様な気がしたのだ。

グレープフルーツをそのまま絞った様な、フレッシュで濃厚な味わいは、
あのキュンとした爽やかな甘酸っぱさとジューシーな舌触りが
ひと口飲む度に口の中いっぱいにふわっと広がってきた。

舌先に伝わるひんやりとした感覚が爽やかさと一緒に夏の午後を駆け抜けていく・・・


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カフェを後にした僕は、この丘陵に広がる蒟蒻畑の周りをゆっくり歩いてみる事にした。
畑の縁に植えられたピンクやオレンジの可愛い花が緑の中からピョコっと顔を出していた。

近くを歩いていた初老の男性が、これはヒャクニチソウだよって教えてくれた。


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ヒャクニチソウ


さっきのジュースと同じ色した、淡く綺麗なピンク色の花弁。

真っ青な大空を元気いっぱいに見上げるピンクの顔した君たちは、
夏の暑さにも負ける事無く、可愛らしい姿をひと夏の間楽しませてくれる。


この場所にいると・・・

何だかとっても空が青く、近くにある気がして・・・
何だかとっても空気がスッキリと、爽やかな感じがして・・・
何だかとっても穏やかで、大らかな気持ちになれる様な気がして・・・

この天空の緑の中にいると、何だかとっても・・・


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スイカがあった場所は何時の間にかカボチャのケースへと取って代わり、
長い様で短くもあった今年の夏も終わりを告げて、秋の装いへと変わってゆく。

心なしか行きに比べて下界の空気も涼やかになったと感じるのは、
単に陽が傾きかけてきたからだけでは無いだろう・・・

僕はこの秋に是非とも出会いたい草花たちを頭の中でリストアップしていた。
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by mary-joanna | 2009-09-10 10:00 | 散りぬるを

ヌ.Take The Long Road and Walk It

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東京駅に戻り、次の目的地への乗り継ぎのホームを探し、電車に揺られている間、僕はこの1ヶ月の・・・
そう、Elvis Cafeを始めてからの僕自身を取り巻く状況の変化についてぼんやりと考えていた。

Elvis Cafeの事は会社の同僚や学生時代からの親友のみならず、家族・・・実は彼女にさえ一切話していなかった。
当初、計画の話を仄めかした時期もあったが相手にされなかったので、どうして急にそんな事を言い出すのかと
聞かれた時には反対に適当な返事をして誤魔化す様になっていた。そして先日の霧降高原への旅行の際、
あまりにも熱心に花を撮っている僕に対して家族も少々不審に思ったらしいが、特に深い意味は無く、
日常や旅先で見つけた綺麗な風景を載せるブログを始めたんだ、とだけ伝えておいた。


これまでブログは元より、ネット上でのコミュニケーションなんて殆ど経験が無かった事は既に述べた。
そんな僕だったが、偶然にもCindy's WALKの世界に触れ、そのCindy本人との交流が実現し、
更にElvis Cafeを始めてからの僅かな期間で何かが劇的に変わったのは疑う余地も無い。


そして今日、これまでパソコンのモニターを通じたバーチャルなものでしか無かった
Elvis Cafeの世界が、あの青年との出会いというリアルなコミュニケーションを実現させた。

ほんの1ヶ月前まではこんな事になるとは全く考えてもってみなかった・・・
と言うか、ネットを通じて見ず知らずの人と会うなんて自分には無縁の事だと思っていた。

しかもこの出会いは、何か非常に大きな氷山のほんの一角の様な雰囲気を孕んでいる気がした。


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どうやら池袋駅に隣接する本屋(リブロだろうか?)に長居し過ぎたらしく、
東武東上線に乗り換えて北池袋駅に到着した時にはもう3時になろうとしていた。

池袋から僅かひと駅の場所に位置しているが故に電車の半分は通過してしまう、
改札口とホームしかないこじんまりとした駅には何処か落ち着ける雰囲気があった。

北千住~上野~東京、そして池袋といったキーステーションばかりを移動してきた
田舎者の僕にとって、この日一番愛着が感じられる駅舎だったのかも知れない。

そして駅前には、他の都内の沿線同様に自動車が通り抜けるのも
容易では無い商店と住宅が混在した一見下町風の細い通りが伸びていた。


改札を出て直ぐの自動販売機と空き缶用ダストボックスの脇で立ち止まった僕は、
無印の白いスケジュール帳に挟んでいたYahoo!からプリントアウトした地図を広げた。

目的の店の大体の位置を確認すると、直ぐにまたその地図を折り畳み、
スケジュール帳に挟んでバッグの奥の方に突っ込んでしまった。
こんな所で地図を広げるのが少し気恥ずかしかったのだ。


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駅の直ぐ横の踏切を渡るとなだらかな坂道が真っ直ぐに伸びていた。

踏切付近は車のすれ違いすら出来ない位の道幅しか無く、かなり端の方を
歩いていたにもかかわらず、車は勿論、自転車に追い抜かれる時でさえ
その都度振り返って更に脇へとそれなければならない程だった。


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やがて道幅も広くなり、歩道と街路樹による格好の付いた街路と呼べる程度になっていた。

もっとも目的の場所を目指してただひたすら歩き続ける僕にとっては、優雅な散歩と称するには
程遠いものであり、駅に着くまでの間中考えていた彼や青年(たち?)の事をこのひと時位は
すっかり忘れて気分転換に歩こうと思っていたのに、昼過ぎから丸の内や各駅の構内
(意外と辛かった!)など歩き通しての移動には苦痛すら感じ始めていたのだった・・・


そんな気が滅入ってきそうな道中に於いて道路の左右に植えられた街路樹、
プラタナスの爽やかな緑は少なからず僕の気分を和ませてくれたのだ。


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モミジスズカケノキ(紅葉鈴掛の木)


先程丸の内でも見掛けた存在感のある此方の樹木は、プラタナスという名称の、
街路樹や公園では古くから植栽されてきた非常にポピュラーな木だそうだ。
その外観だけでなく丈夫で成長が早いのも人気の理由と言われている。

“鈴掛け”はこの前のつくばで出会ったイニシャル「ト」の「トラノオスズカケ」と同様に、
この樹木がつける実の形から命名されたそうだが、「トラノオ~」が“アポロチョコ”の
可愛らしさを連想させてくれたのに対して、大きな葉と迷彩模様の樹皮からなる
このプラタナスの雑種からは本来の語源である山伏の武骨で猛々しい姿が
思い浮かんでくるのだが・・・修行僧の様に黙々と歩き続けていたのも、
そんな風に考えてしまう一因だったのかもしれなかった。


更に、一見すると何の変哲も無い下町の歩道に過ぎないのだが、
実は街路樹以外にも様々な草花がひっそりと僕に微笑みかけてくれた。


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この花は牡丹だろうか・・・それにしてはやや花期が遅いとも思うのだが・・・

幾重にも揺らめくピンク色の華麗な花弁が見事なこの大輪の花に、
何時の間にか僕は足を止めて暫くウットリと眺めていた。


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ノボタン


更に脇道へと入る曲がり角に植えられていた低木には紫の花が満開を迎えていた。

今まで殆んど気にも留めていなかったが、こうして周りを少し注意しただけでも
街中にもかかわらず綺麗な草花を目にする事が出来たし、この先どんな花に
出会えるのかと逆にワクワクした気持ちにすらなってくるのだった。


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これはクレマチスの一種だろうか・・・葉の形状が異なる様な気もするのだが・・・


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少し先の金網のフェンスには、渡良瀬遊水地でも見つけたヤブガラシが
豆粒ほども無いオレンジ色の小さな花に今にも溢れんばかりの蜜を付けていた。

先客のヒメスズメバチは此方の事など全く気にも掛けていないとばかりに、
ヤブガラシの透き通った水飴の様な蜜をさも美味しそうに舐めていたが・・・


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レンズを向け続ける僕が鬱陶しくなったのか、キッと此方を睨み付けた。


 お前が向かっているのはこっちじゃ無いだろう!


蜂がそんな事を言う筈は無いのだけれど、まるで何かを訴える様な
ヒメスズメバチの視線に僕は慌ててスケジュール帳の地図を取り出した。

何て事だ・・・てっきりこの方角で間違い無いと思って此処まで来たのに・・・

生まれて初めて訪れる街、方角が掴み切れない混み合った建物、
此処までの身体の疲れ及び精神的な緊張、そして変な見栄まで含め、
如何言う訳か、この期に及んで僕は道を間違えた原因を一々分析していた。

そして、とぼとぼと今まで歩いてきた道を引き返す事にした。


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漸く踏切の手前まで戻ってきた時には、駅を出てから既に30分は経っていた。
足利まで帰るのにかかる時間等を考えると、もっと急ごうと言うよりは
何とも憂鬱で、少々投げやりな気持ちにすらなりかけていた・・・

踏切を渡ろうとした瞬間、カンカンという警報機の音が響き遮断機が降りた。
何処までついていないのだろうかと如何してもマイナスに考えてしまう自分がいた。


踏切の脇の苔生した石垣には雑草が伸びていたが、ピンクの小さな花が咲いているのも
所々に確認する事が出来たので遮断機が上がるまで眺めていようと近づいてみた。

今回の東京訪問では2つのイニシャルを見つけるつもりでいた僕だったが、
この一日に起こった様々な出来事のせいですっかり忘れていたのだ。


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ヘクソカズラ


可愛らしいピンク色の花の周りには絡み付く様に細い蔓が巻き付いており、
その蔓の先端には、何処か見覚えのある筒状の小さな白い花が付いていた。
先程見掛けたヤブガラシと同様に渡良瀬遊水地を訪れた際に紹介した花だった。

“藪まで枯らす”事からその名が付いたというヤブガラシに加えて、
此方のヘクソカズラは“屁や糞”の様な臭気が語源になったと聞いている。

そう言えば、Elvis Cafeの最初のイニシャルでもあった「イヌタデ」だって、
“役に立たない(食用にすらならない)”事からその名が付いたのだそうだけど、
僕はこの3つの“雑草”を、大事な大事な第1話に抜擢していたのを思い出した。


そんな、少々感慨に耽りながらこの何処かコミカルな白い花を眺めていた時、
少し前に別の場所でもヘクソカズラに出会った事を思い出し、思わず呟いてしまった。


 そうだ、確かこの花の直ぐ近くに「ヌ」で始まるあの花が・・・!!


結局のところ、僕が踏切を待っていたのは精々1~2分位だっただろうか?

でも、遮断機が上がった後の僕の表情は先程までの眉間にしわ寄せ疲れ果てていたのが
嘘の様に晴れやかになり、やるべき事が見つかった希望に満ちた顔に変わっていた。


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 キミ、やっと此処まで辿り着いたのかい?
 あんまり遅いので眠ってしまうトコだったにゃ~!!



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かなり歩いた筈だったが、今度は思ったほど時間の経過も身体の疲れも感じなかった。
そして、目の前にはまるで世間から忘れ去られたかの様な路地裏の光景が現れた。
古びた商店と昭和の頃から変わらないであろう下町の家屋が軒を連ねていた。

周りの情景に全く溶け込んだ、淡いベージュに塗られたモルタル建築。
良く目を凝らさないと見逃してしまいそうなオレンジ色の看板には、
控えめな文字で“手造りパン工房”とだけ書かれていた。


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だが、この淡い外壁とは対照的にどっしりとした存在感のある木枠が印象的な、
恐らくは1坪足らずの小さな店こそ彼の日記にも遂に紹介されなかった・・・

東京に行った際は是非とも立ち寄ってみたいと常々思っていたパン屋だった。


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1坪とは決して誇張した表現ではなく、パンやお菓子を彼是と選ぶ事を考えるなら、
僕一人しか入っていない店内でもいっぱいいっぱいの広さと言える程だった。

入って左側のガラス棚には美味しそうなパンが丁寧にディスプレイされていた。


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右側の棚はクッキーやラスクなどの様々な焼き菓子で統一されており、
どちらの棚もまるで雑貨やオブジェを陳列している様なセンスの良さを感じた。


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クロワッサン・オ・ザマンドというクロワッサンにアーモンドクリームを詰めて(かけて)
焼き上げる菓子パンがあるが、確かCindyはこのパンが大好物でよく紹介していたっけ。

でも、そのクロワッサン・オ・ザマンドのラスクだなんて今まで見た事が無かった。


奥の工房で忙しそうにパンを焼き上げる若い店主に特別の許可を頂いた僕は、
この寂れた路地裏でひっそりと佇む秘密の小さなパン屋さんをカメラに収める事にした。


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東京で青年と会い、池袋の住宅街を歩き回ったどんよりとした空模様の
あの日から数日が過ぎた、良く晴れ渡った気持ちの良い夏空の昼時・・・

僕はこの前の、「ハンゲショウ」で世話になった足利市内の自然公園に来ていた。


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前回の紹介から1ヶ月弱が経過していたが、湿地帯にいる様な鬱蒼とした深い緑は
既に枯れていて、この木道も地面が見える程度にまで下草が刈り取られていた。

木道を渡り、更に公園を隔てる小川を過ぎて奥の方に向かうと、来る時に見た小高い山が現れる。
そして手前に位置する、夏の時期特有の背が高い雑草や灌木が周りを覆う林道に辿り着く。


 確か、この辺りだったんだけどな・・・あっ!!


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ヘクソカズラ


 やぁ、この前来た時は気にも留めていなかったね・・・

 でも、今回こうしてまたこの場所にやって来る事が出来たのも、
 キミがそのコミカルで伸び伸びとした姿を見せてくれたからなんだよ!!

 相変わらず元気にその細長い蔓をいっぱいに絡ませているね。



そして、その林道の直ぐ向かい側に生い茂った灌木の付け根に視線を下ろすと・・・


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「ヌマトラノオ」


穏やかな名前でないヌスビトハギ・・・
漆の一種で紅葉の美しいヌルデ・・・
その姿が愛らしいヌマガヤツリ・・・

この時期の(と言うより全ての時期に於いて)決して多いとは言えない
イニシャル「ヌ」の草花の中で今回僕が選んだのはこの「ヌマトラノオ」だった。


確かに上記の草花も含め簡単には見つからず、ずっと探していたのは事実だったが、
空に向かってシュンと伸びた尖塔状のフォルムに可愛らしい小さな花が房状に
ポツポツと咲いているその姿に、僕はすっかり魅了されてしまったのだった。

それに、先日は花屋さんからの紹介だったので、今度は野に咲くトラノオが見たかった。

そして何と言っても、あの日、挫けそうになっていた僕に力を貸してくれた、
日頃見向きもされず、雑草扱いを受けていたヘクソカズラがそっと教えてくれた花・・・


僕はまた一つ、このブログを通じて草花から大切な事を教えてもらったのかな・・・
遂に念願が叶った憧れのパン屋さんの美味しいパンを頬張りながらぼんやりと考えていた。


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ベリーベリークリームチーズ・ベーグル


パリパリの薄皮ともちもちっとした生地からなるベーグルはそれだけでも最高だ。

でも、苺&ブルーベリー&クランベリーの3種のベリーの微妙に異なる甘酸っぱさに
爽やかなクリームチーズがまろやかに絡み付いて、より一層美味しさが引き立っていた。


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ミルクコッペ


小さな子供たちからお年寄りにまで愛されそうなこの定番お菓子パンは、
あの路地裏の情景に非常にマッチしている気がして、その場で購入を決めた。

ふんわりとした舌触りの口溶けの良いミルクパンの中からは、
ミルキーな優しい甘さの練乳クリームがほど良いバランスで塗られて、
ひと口頬張る度に思わずニッコリと笑みがこぼれる様な美味しさだった。

子供の頃のおやつを思い出す、懐かしさでいっぱいのお菓子パン。


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クリームレザン


ミルクコッペから一転して、大人の為のスイーツなパンと呼びたくなるクリームレザン。

ラムレーズンの濃厚な香りがふわっと広がり、ギュッと詰まったレーズンの
ジューシーな甘酸っぱい果肉がとろりとしたなめらかさのカスタードにマッチする。

更には、ふんわりとして仄かに卵の風味と甘さも感じさせるブリオッシュと、
トッピングの香ばしいアーモンド&ジャリッとした甘さのあられ糖のトッピング。

全てが絶妙に計算された大人のお菓子パン・・・


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クロワッサン・オ・ザマンド・アラ・ラスク


パンの事には全く以って疎い僕だったけれど、彼の日記を見て、
何時か絶対に食べてみたいと思うお菓子系のパンがあった。

その想いは僕がこのブログを始めるにあたって、“食べてみたい”から
Elvis Cafeで“紹介してみたい”という気持ちに変わったのかも知れない。

クロワッサン・オ・ザマンド

彼、Cindyは自身の日記の中でそれはそれは美味しそうに紹介していたっけ・・・
そして、今僕は、そのクロワッサン・オ・ザマンドの、しかも“ラスク”を食べていた。

カリカリに焼かれた香ばしいラスクは、唯でさえサクサクのクロワッサンを、
更に一層・・・軽く、香ばしく、そしてサクサクの食感に仕上げていたのだ。

しかも、ふんわりとしたクリームの甘く、仄かにほろ苦い風味と言ったら!!

止まらぬ速さで、何時の間にか無くなってしまった事は言うまでも無かった。



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夏も終わりを告げようとし、朝晩は肌寒ささえ感じる様になった今日この頃。

陽気で鮮やかに咲き誇る夏の草花に変わって、落ち着いた印象の風情ある
植物の季節がやって来ようとしているが、僕の計画はまだ10話そこそこに過ぎない。

この先、冬に進むにつれて僕はこの計画を続ける事が果たして可能なのか?
そして、それ以上に僕の頭の中を支配しつつある、彼らの事が・・・
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by mary-joanna | 2009-09-03 15:34 | 散りぬるを

リ.シークレット・ラヴァーズ Ⅰ

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2009年8月某日、現在の時刻は・・・

僕は東武足利市駅構内の、改札口に設置してある時計に目を向けた。
午前10時20分、僕が乗る予定の特急列車の発車時刻までは20分近くもあった。

僕の周りでは、後ろ手を組み掲示板を眺めている人や荷物を抱えている人、
急いで切符を買おうとしている人など、ごく普通に駅で見かける光景があった。

構内のベンチに腰掛けた僕は、昨夜ネットで調べた乗り換えの経路を思い出しながら、
財布に仕舞い込んでいた特急乗車券を取り出したりデジカメのメモリを確認したりしていた。
まるで修学旅行に行く前の学生みたいに全く落ち着きが無いのは自分でも分かっていたのだ。

彼との約束場所は東京駅から歩いて数分の場所にあるビルの1階に面した店だった。
これまで地元の栃木や群馬、茨城といった北関東に限定してきた僕にとって、
このブログを通じて東京に行くというのは考えてもみなかった事だったし、
ましてや東京に行く事自体、ここ数年来の大変久しぶりの経験だった。

更にそれ以上に僕を緊張させていたのは・・・これから会う人物が・・・



1時間半後の正午過ぎ、予定通り東京駅までやって来た僕だったが、人だらけの
広い駅の中でかなり迷った挙句、大分遠回りして漸く丸の内方面に出る事が出来た。

Cindyはこの駅の中も目的地を目指してスマートに進んでいったのだろうか?
そして、東京駅の中をグルグルと彷徨っている間、“そもそも彼は何者なのか?”
という半ば自ら封印していた疑問が再び僕の頭の中を駆け巡っていた。


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有名な東京駅赤レンガ駅舎はまさに復興工事が進められている最中だった。

竣工当時の姿を再現するべく、今現在はグレーのシートに覆われてしまったものの、
赤レンガに白いラインが入ったモダンな雰囲気のヴィクトリアン・ゴシックとも呼べる外壁と
その重厚な近代建築が駅舎として視界いっぱいに左右に伸びて続いていく圧倒的な存在感は
工事作業中の大型重機や取り囲まれたフェンス越しからでもはっきりと見てとる事が出来たのだった。

大正初めの帝都東京、延いては近代日本の陸の玄関口に相応しい荘厳な佇まいで
100年経った21世紀の現在でも周りの高層ビル群を凌駕するインパクトを醸し出していた。
忙しなく進み続ける東京の中枢として再開発の進む丸の内一帯の中で、この駅舎周辺だけが
まるで時間の歩みを止めてしまったかの様に古き良き大正モダンの穏やかな薫りに包まれていた。

そう、その奥にうっすらと霞んで見える新しいビルがひょろっと縦に伸びてゆくのに対して、
目の前でどっしりと構える赤レンガの姿に歴史が持つ重みや威厳を改めて感じていた僕だった。


とは言え、視線を駅舎の反対側の皇居方面に向けると、視界いっぱいに飛び込んでくるのは・・・


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東京駅と皇居とを結ぶ僅か数キロの通りはその目的から行幸通りと呼ばれている。
東京駅を出るとすぐ目の前に皇居を確認する事が出来る位の距離なのだが、手前には
全長に対して非常に幅広い大きな通りを見守るかの様に左右に聳える2本の巨大な塔がある。

近隣のビル群の中でも一際目を引くこの2本の塔の、新しい方の1本でもある
此方の塔に初めてCindyが潜入したのは、彼是2年以上も前の事だった。
それは未だこの塔もCindyの日記も誕生して間もない頃である。


その塔の中では、一見何の関連も無いバラバラの“点”と“点”とが
魔法の様な妙技で結ばれて、1本の素晴らしい“線”となってゆくと言う。

この塔にあるパン屋のシェフによる類稀なる感性や情熱、才能が
和洋に縛られない様々な素材をパンという食べ物を中心に繋いでいき、
今までに無い“パンのある食事の風景”という新たな“線”を紡ぎ出してゆく。

彼が丸の内で真っ先に紹介したがっていたこの店が2年経った現在でも
塔の奥深くで燦然と輝いている訳が、僕にも分かる様な気がした。


だが、コメントの主が指定した場所はこの塔の中では無かった。


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僕は駅舎と塔に挟まれた大きな交差点を足早に渡り、丸の内のビル街の間を
縫う様に通り過ぎ、雨露に濡れる街路樹に囲まれた石畳の通りを有楽町方面に進んだ。

その通りを暫く歩いてゆくと、前方にはビルの一部ではあったが
それまでのオフィス街とは明らかに趣きを異にする一角が見えてくる。


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通りに面したガラス張りの外観、そして何よりもこの建物を印象付ける真っ赤な外壁、
また、建物を優しく取り囲む様に街路樹の緑が配されていて清々しい光景を見せていた。
鮮やかでセンスのある赤と緑のコントラストは、一分の隙も無い位に完璧な絵に映っていた。

更に、その店の壁と街路樹の間に沿って円型のテーブルが一列に並んでいる様は、
この場所が丸の内のビル街である事を忘れさせてくれるのには十分であった。

一瞬ではあったが、僕はパリのカフェにやって来たのだと錯覚してしまった・・・


そして、まさにこの場所こそがコメント主との待ち合わせの場所だった。


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慣れない東京駅構内でもたついていたせいもあり、店の扉に手を掛けた際に
ちらりと覗いた腕時計の針は約束の僅か5分前である12時25分を指していた。

この店は店内で食事が出来る他にパンやスイーツなども販売しており、
確か先のパン屋と同じ時期の2年前にCindyもこの店のパンを紹介していた。


先程から強まってきた雨脚のせいだろうか、非常に人気のある店の昼時という事で
もっと多くのお客さんで店内は混雑していると思った僕は、僅か一人の若者が
熱心にパンのショーケースを眺めている姿に少々拍子抜けした。

そして、その若者は後ろに立っている僕の姿に気がつくと、
パンを選ぶのを止めて全く躊躇する事無く僕に話しかけてきた。


 はじめまして・・・って言うのかな、“Little” Cindyさん!


僕はこの一言を返すのに非常に長い時間を要したと記憶している・・・
だが、その時何を言ったかは、改めて思い返してみても全く覚えていない・・・


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店はランチの時間帯になっており、店内でのカフェのみの使用は出来なかった。
決して格安の店と言う訳では無かったが、店内での食事を予定していた僕は、
それなりの(金銭的な)準備をしてこの店にやって来たつもりだった。

しかし店員からランチの説明を受けた彼は、直ぐにドリンクのみをオーダーすると、
ショーケースの方に向き直して先程までしていた様にパンを選び始めたのだった。

 
 この店はパンが最高なんだよ!今日は天気も今一つで寒いから、
 君もホットの飲み物を注文して・・・あっ、あれなんか美味しいよ!



彼に促されるままに僕もドリンクとパンをオーダーする事にした。
そして二人は店を出て外に並んだ円形テーブルを二つ繋げて席に着いた。


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 やぁ、本当に会ってくれるかは半信半疑だったから、あのコメントに貼った
 俺のアドに返事が来た時は嬉しかったってゆ~か、マジで興奮したよ!

 でもさぁ、Cindyが引退宣言したのもビックリだったけれど、それから
 “Little”なんてフザけた名前で、「イロハ順」に花を紹介するなんて
 いつもの彼のシャレにしてはキツ過ぎるって思ったりもしたんだぜ!

 ところが、どんどん話が進んでいくから・・・コレってマジで別人?って思った訳。
 で、面白そうだし“Little”の方なら会ってくれるかもって、コメントしたのさ!

 君からOKのメールが来た事を知らせたらみんなも驚いていたぜ!!
 だから、今日の俺のレポ、みんなスッゲー楽しみにしてるんだよ!

 遂に、Cindyの秘密が明かされるってね!!

 

そう、確かに僕は彼、Brit Boyと名乗る人物の鍵コメントにあったアドレスに
返事を書き、会う約束をし、こうして実際に会って話をしている・・・

何故、今時の若者の風貌をした一見大学生風の青年に会おうと決心したのか。
それはひとえに、僕の方こそどんな事でもいいから彼、Cindyの事が知りたかったから。
そして、目の前にいるこの青年は、Cindyが僕に教えてくれた数少ない自身の情報を
あの鍵コメントの中でさらりと言及していたからに他ならなかったのだ・・・

しかも、本当に信じて良いのか分からないけど・・・Brit Boyってハンドルネームは・・・


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僕がCindy's WALKの最後のお店に行き店主から彼の本名とアドレスを教えてもらった事。
そして、Cindy本人とメールの交換をして彼の後を継ぐブログを始める様になった事。
更には“Little”の称号(?)を冠する様になった経緯に至るまで、僕は語った。

目の前の青年は、如何してCindyは僕に返事をくれたのかという点が納得出来なかった
(と言うか、少々不満そうに感じていた)様だったが、彼自身の事について僕が殆んど
知らないのを悟ると(かなりあからさまに)落胆した表情を見せていた・・・


 Cindyの本名とメルアドは俺たちも知っているんだよ!!
 だって、彼、けっこう色々なお店に名刺を配っていたからね。

 でもさぁ、“Little”クンだけなんだよ、彼から返事をもらってるのって・・・
 俺たちだって彼にメールを送っているんだよ・・・また前みたいに・・・



青年はそれ以上の事は語ろうとしなかったし、此方から聞ける雰囲気でも無かった。
それから程無くしてドリンクとパンが運ばれ、僕たちは食事をする事にした。


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カプチーノ


僕たちがテラスにいた時間は正味3~40分位だったろうか。
決して長いとは言えないその間にも時折激しい雨が降り、
街路樹を濡らし、石畳の歩道を強く打ち付けていた。

今年の夏は本当にどうしてしまったのだろう。

七分丈のシャツ1枚ではどうにも肌寒く、袖口から腕先をさすりながらの
食事となってしまったが、恐らく店内で出されるより温かく感じたであろう
このカプチーノの熱いカップを両手で包み込む様にそっと抱え、ひと口ひと口
ゆっくりすする度に表面に描かれたハートの優しい鼓動が伝わってくる感じがした。


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バゲット・サンド “コッパ”


僕が選んだこの日のランチは、この店を代表するメニューの一つでもある、
カスクルートと呼ばれるバゲット(所謂フランスパン)のサンドだった。

カリカリの香ばしい表面でありながら中は驚くほどもっちりとした食感で、
このバゲットは是非とも買って家に持ち帰りそのままでも食べたいと思った。


だが、更に僕を驚かせたのがサンドされている具材の数々だった。

サンドの名前にもある、“コッパ”と呼ばれるイタリア産生ハムの、
はち切れんばかりの食感と弾力から広がるハムの堪らない旨味とコク。
加えてジューシーな茄子に濃厚な酸味のトマト、癖になる食感のキノコや
自然な甘みと鮮やかなパプリカもマリネとなって葉野菜と共に添えられていた。

この店が単なるパンやスイーツの店に留まらず、ブラッスリーとしての
確固たる地位を僅か数年で築き上げたのも納得の、素晴らしいサンドだった。


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青年がチョイスしたのは、ショコラ・ショーとヴィエノワ・サンドだった。

チョコレートのドリンクとふんわり甘いパンの組み合わせを選ぶなんて・・・
流石は“あの物語”の登場人物に名を連ねるだけの事はあるなぁ、と僕は感心した。


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食事が終わるや否や、青年は急に用事が出来たからと言って席を立った。

出会いも突然だったなら別れの方も全く以って突然の事で、人を呼び出しておいて・・・
といった青年の不躾さを感じる間も無く、僕は狐にでも化かされたかの様にポカンとしていた。

まぁ、彼なりに気を遣ったのだろうか、別れ際に僕のブログを期待していると、
振り向き様に付け加えてはくれたのだけれどね・・・


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テラスに座っている間、通りの反対側に見えていたバスの一団が気になったので、
東京駅に戻る道すがら、通りを横断して直ぐ側まで近づいてみる事にした。

如何やら東京駅丸の内南口から線路に沿って、はとバスの発着所になっていた様だ。
はとバス自体はテレビ番組などで良く知っていたが、実物を見るのは恐らく初めてだった。
この様に連なって停まっているのかと感心していたが、特に気になっていたキティ仕様に
ペイントされた最後尾のバスに近寄った僕は、バスの中に気付いて少しビックリした。


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キティちゃん、キミも一緒に旅に出るんだね。
僕も旅に出たところなんだけど、目的地を決めた筈なのに、
今回の旅は果てし無く遠く・・・そして、何処かとても謎めいていて・・・

キミみたいにいつも元気で明るくてみんなを笑顔にしてくれる様な、
そんなブログにしたかったのだけれど・・・そう、彼のブログみたいにね・・・



少しの間キティを眺めていた僕だったが、視線を前方に向けると来た時と
同じやや足早の歩調で東京駅に吸い込まれる様に戻っていった。

この短い時間に様々な思惑が僕の頭を巡り、すり抜けていったが、
僕にはもう1カ所、前々から訪れてみたい店があったのだ。
直ぐに気持ちを切り替えるなんて出来なかったけど・・・


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2軒目の店も無事訪問する事が出来て、帰りに乗り換えの駅構内で
偶然にも見つけたのが、此方の豪華な寄せ植えの展示だった。

何でもこの駅では専門家がこうして季節毎に寄せ植えを展示しており、
今回は夏の山野草及び花をメインテーマとして展示しているとの事だった。

勿論電車の出発時刻を待つという目的はあったものの、暫くの間、
夏を彩る華麗で繊細な草花たちの共演に無心で魅入っていたが・・・


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そう言えば、非常に大事な事をすっかり忘れていたよ・・・
今度のイニシャルは、確か・・・「リ」、だったよね・・・


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「リンドウ」


お盆や帰省先のお墓参り等で重宝されるこの時期の切り花の中に、
可愛らしい蕾と鮮やかな青紫色で花屋の軒先に一際目立っている花がある。

歴史のある花なので秋の七草に名を連ねていないのが不思議な位だと
思っていたけれど、残念ながら憶良の時代には未だ日本に存在しなかった。

先日の「チョコレートヒマワリ」で大変お世話になった自宅近くの花屋さんに
相談を持ち掛けたところ、敢えて青色を抑えた淡い紅紫色の束を渡してくれた。


殆んど見る事の無い茎から放射状にシャープなフォルムを見せる葉と、
その葉に守られる様に弱々しくも可憐な花弁で見る者を魅了する柔らかな花。

悲しさや淋しさへの誠実なまでの愛情・・・今の僕が求めている事なのかな・・・


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デルフィニウム


今回の「リンドウ」が紅紫色だった事と、僕のブログに毎回温かい励ましのコメントを
下さっている方が好きな色という事もあって、もう一つ青い花もリクエストしていたのだった。

このポピュラーな園芸品種は、先日にも“トリック”と呼ばれる品種を紹介したが、
お店のショーケースの中で、透き通る程の透明感を持った綺麗な青色が
僕の視界を一瞬にして独占し、思わずお店の方に指差してしまった。


キリリとした清冽な澄んだブルーとふんわりした花弁とのコントラスト、
花瓶に活けてファインダーを覗いた僕の手が一瞬止まってしまう位だった。



先の店では勿論パンも購入していた。

だって、あの青年も“パンが最高!”と語っていたし・・・
Cindyが紹介した東京の店のパンを買う機会は貴重だったし・・・

そして何より、ショーケースのパンがどれも本当に美味しそうだったのだ!!


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バゲット“レトロドール”


この店の象徴とも言うべき、この拘り抜かれたバゲットを僕も購入してみた。

パリパリと音を立てて細かく割れていくカリカリに焼かれた仄かに焼き色の付いた皮は、
まるでその小気味良いリズムまでが計算され尽くした美味しさの一部であるかの様だった。

更に、スライスしてみるとポコポコっとした大小の気泡が生地全体に入っており、
もちもち感としっとり感の両方を爽やかな粉の風味いっぱいに堪能する事が出来た。


店では野菜のマリネとのサンドで頂いたが、シンプルな中での奥ゆかしさ・・・?
僕にはグルメ的な感想は全く向いていないみたいだった・・・


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ショーソン・オ・ポム


僕があの青年の言葉を信じて会う約束を取り決めた訳、それは・・・

Cindyがカフェ&パン屋を紹介するブログを始める前に別の名前で
mixiをやっていた事を青年が知っていたから、そしてmixi上で
彼とはマイミクの関係だったと書いてあったからだった。

Cindy's WALKにはそんな事は一切書かれていなかったし、
多分Cindyもその事をブログ上で語ったりはしないだろう・・・


この店のクロワッサンと、このショソーン・オ・ポムは彼の日記の中で
“イチオシ”として紹介されていたが、プロフィール写真の事を尋ねた際に
そのツーショット写真をmixiで使った時期があったとメールに書いてあった。

だから青年がこの店を指定した時は僕の方こそ興奮していたのだ。
彼、Cindyの秘密が明らかになるよ、って・・・


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カヴァット


平べったくて細長い容姿が名前の由来になっている、このカヴァット(ネクタイ)。

ふんわりと焼かれたブリオッシュは平たい分だけ表面のサックリ感が増して、
スナック&焼き菓子的な要素も合わせ持ったパンに仕上がっていた。

中からはみ出してくる濃厚でほろ苦いトロトロの甘いチョコチップ、
更にまろやかでクリーミーな風合いのカスタードが絶妙にマッチして
このしっとりふんわりな卵の優しい風味のブリオッシュにサンドされていた。


菓子パン専門のCindyがこの店で必ず購入するのも頷ける美味しさで、
もし僕がもう一度この店を訪れても、きっと再びチョイスするだろう・・・

斜めにカットしたカヴァットの半分を頬張りながら、僕はそう思っていた。



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あの青年との会話の中からCindy自身の事における情報は殆んど得られなかった。
けれど、僕の頭の中を占領してしまう位の非常に大きな収穫・・・いや、謎?を知った。

それは、彼を取り巻き、彼の事を知ろうとしているグループが存在する事・・・
そして、そのグループは、mixiと・・・“あの彼の物語”に何らかの関係がある事・・・


僕は一つの海を渡り切ろうとして、より大きな海原へと流れ着いてしまったのだろうか?
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by mary-joanna | 2009-08-27 17:42 | 散りぬるを

チ.Wake up. Don't fear.

  眩いばかりの陽射しが辺り一面に燦々と降り注いでいる・・・


まるで物語でも見ている様な彼の“あのお店”の日記から丁度1年が過ぎた8月某日。
冷夏だの台風だのと鬱陶しい天気が続く今日この頃なので、肝心のこの日も上記の様な
美辞麗句はお世辞にも言えない一日であったが、何とかこの日に都合をつける事が出来た。

どうして休みを調整してでもこの日でなければならないのかって?

それは、あの少年にとって“特別の日”だったから・・・


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もうこんなに登ってきたのか・・・

深い緑の木々に囲まれた山間の麓に点在する小さな集落の屋根を見下ろしながら、
僕はこの夏休みに毎朝畑に出て父親を手伝うあの少年の姿をぼんやりと想像していた。


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そして少年が強い意志と情熱で黙々と歩いたこの道を、
普段の山道よりも幾分ゆっくりとしたスピードで運転していた。

うっすらと濡れ、ひび割れ波打つアスファルト・・・
所々苔生した、急角度に切られたコンクリートの壁面・・・
そして、左右、更には前方から伸びて迫り来る木々の鮮やかな緑・・・

壮大な山の自然は、一人の少年にとって時として脅威に映るかもしれない。
そんな風にして彼の日記の情景を頭の中で膨らませながら、僕は車を走らせた。


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やがて湖と、其処を横切る背の高い橋の傍までやってきた。
地図によればこの湖を越えると例のトンネルあり、目的の場所にも・・・

この足のすくみそうな絶景の橋を筆頭に、この先の湖へと注ぐ川の急流には
大小幾つもの橋が架かっていて、確かあの少年も赤い橋を渡るシーンが載っていた。


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例の場所までもう直ぐの所までやって来た僕は、車から降りて少し歩く事にした。

この辺りまで登ってくると川の様子も渓流と呼ぶに相応しい感じになって、
上流からザアザアと激しく音を立てながら白い飛沫が翡翠色の淵へと
止め処無く流れ込むのを眺めながらあの人の事を思い描いていた。

それは少年の憧れであり、目標でもある兄の様な存在。
そして、僕の憧れであり、目標でもある彼の様な存在。

でも、恐らくその彼にとっても、あの人は憧れであり目標でもあったのだ。
それは彼、Cindyが作る物語の中での架空の人物なのだろうか、それとも実際に・・・


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なぁ少年、お前はよく頑張ったよなぁ~。
だってたった一人で此処まで登ってきたんだろう。
しかもトンネルを越えて未だ見ぬ領域に足を踏み入れるなんて・・・

だって、このトンネルの先は僕にとっても未知の領域なのだから・・・


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そして、トンネルを抜けて程無く進むと見えてくる木の板の看板・・・
そう、少年が焦り、迷い、躓き、それでも己の意思と兄への強い想いで
遂に辿り着いた、細い山道に沿って流れる支流を越えた脇道に置かれた看板。

此処に看板があるという事は、直ぐ側にはもしやあの花も咲いているのでは!?
暫くの間辺りを見回した僕だったが、それらしい花を見つける事は出来なかった。


彼の日記にあった“さらさらと流れる川のせせらぎ”は、
ここ数日の天候で耳に突き刺す激しい響きへと変わっていた。

夏の陽射しも届かない深緑の林が作り出す薄暗い陰の世界に逆らう様に
剥き出しの地面は白く輝いていたが、小鳥のさえずりさえも掻き消してしまう
川底から湧き上がる水の音、更には望んでいた探し物に出会う事も出来なかった
焦りから、僕はマガーリ少年で無くても不安で躊躇するのも無理はないと思い始めていた。


そんな僕を見兼ねてだろうか、支流の側の灌木からひょっこりと顔を出すモノが・・・


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ひゅ~~~ん・・・


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パァ~~~ン!!


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1年前にマガーリ少年が、そのまた1年前に彼の兄が出会った思い出の白い花の
直ぐ側で僕に笑顔と勇気をくれた小さな小さな昼の花火にお礼と別れを告げた僕は、
自動車すら入る事の出来ない泥と砂利の道を一歩一歩踏みしめる様に進んだ。

だって僕は未だあの場所に辿り着いていないじゃないか!!
それに、あの場所でこの花を彼に捧げるんじゃなかったのかい?


そう、僕は手に花を抱えて此処まで来たのだ。
それは、数本ではあったが漸く手に入れた茶色の花・・・

もう往ってしまった貴方とそして・・・その後を追う貴女に捧げる褐色の花・・・


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草木に囲まれた緩やかに傾斜する小道を進むと程無くして3つの小屋に辿り着く。

一番手前の煙突の突き出た小屋とその隣りにある風変りな印象の真っ黒の小屋、
そして一番奥に位置するのが、最も大きく堂々とした佇まいのログハウスだった。


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奥のログハウスが目的の場所であるのだが、其処へと続く石畳の小路の左右には
この時期の綺麗な花が咲き誇り、さながら秘密の花園を抜けていくといった感じだった。

どの花もこのロケーションによくマッチした穏やかな印象を僕に与えてくれた。


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シュウカイドウ(秋海棠)


秋海棠、以前はほんのりピンクだったのに透き通る様な白い肌の君は、
何処か物憂げでその黄色い眼で寂しそうに遠くの方を見つめているんだね・・・

まるで誰かに怯え、でもその人の帰りを待っているかの様に・・・
誰にも打ち明ける事の出来ない耐え難い悲しみを内に秘める様に・・・


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ギボウシ(擬宝珠)


次に出迎えてくれたこの小さくも存在感のある花の控えめな淡い薄紫色は、
雨露に濡れて滲んでしまったのでは?とも感じさせる微妙な色合いを見せていた。

非常に清らかで凛とした佇まいに、僕はまるで仏閣の貴重な宝物を
拝見しているかの様に、暫くの間この可憐な花に見入っていた。


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フロックス(花魁草)


花魁が塗っていた白粉の香りがこの花の語源との記述を目にしたけど・・・

純白から桃色へとキリリと変化していく様が江戸の街を彩る遊女の肌を思わせ、
また、一つ一つの小さな花が集まり絢爛華麗な花の束を作り上げる点も
何処か華やいだ遊郭に集まる遊女たちの様子を連想させてくれて、
バラやユリとはまた違った華やかさを感じる事が出来た。


そして、趣きのある愛おしい花たちに出迎えられて僕がやって来たのが・・・


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これまで目にしてきた花にも負けない、淡い水色の扉。
僕も遂にマガーリ少年と同じ場所にまで辿り着いたのだ!!

この扉で待っていてくれるのは、勿論・・・


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  ようこそいらっしゃいました。

  美味しいお菓子が待ってます。
  緩やかなひと時が待ってます。


優しく僕に語りかけてくれる気がした・・・


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僕は本当に建物の中にいるのかな?

表には可愛い花々、
優しい木の香りに包まれ、
その周りを爽やかな緑が取り囲み、
やわらかなオレンジ色の空気に満たされる・・・


まるで花咲く森の道に遊びに来たみたいな・・・

そして僕は此処で誰と出会うのだろうか?
どんな大切な物を落としてしまうのだろうか?


この中にいると身体の疲れはもとより、此処まで付いて来た
不安や焦りまでもが何時の間にか何処かに消え去っていく気がした。


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「チョコレートヒマワリ」


僕も花を探しに来たんだ。
君が僕に笑顔をくれたあの白い花を・・・

確かに僕は、此処に来るまでずっと焦っていたのかも知れないね。
花の事に気を取られて、肝心な事を忘れていたのかも知れないね。
だから結局少年が見つける事の出来たあの白い花には出会えなかった。


でも、君のお陰でこんな素敵な場所に来る事が出来たんだ!
だから、そのお礼にこの場所で君に見て欲しかったんだ!

もう1年も前に姿を消してしまった、君が憧れるあの人物と・・・
そして、その彼の秘密を知っているあの女性をイメージしたこの花を・・・


彼の物語のイメージ通り、そしてこのお店のイメージ通り、
店主はチャーミングな笑顔が印象的な、穏やかで清楚な方だった。

そんな店主が心を込めた、まるで子どもの為にお母さんが作るスイーツ・・・


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スコーン


手に取るとごつごつとした質感から想像もつかない優しい温もりが伝わってきた。

そのサックリとした香ばしい表面と、中の生地のふんわりしっとりの感触、
更には全粒粉の風味豊かな粉の香りが口の中いっぱいに心地良く広がってくる。

更に生地の食感にマッチする仄かな甘さとまろやかさは、そのまま頂いても
付け合わせのブルーベリーや生クリームと合わせても最高の美味しさだった。


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レモングラスティー


8月に入っていたが、ここ最近の肌寒さすら感じる真夏とは思えない気候に加えて
山間の深い緑の中で頂くスイーツやドリンクは、このような温かいものが丁度良かった。

スッキリと爽やかなレモングラスの香りとほろ苦さが口の中は勿論、
テーブルいっぱいに広がって、まったりとした空気に包まれている様だった。
このひと時が何時までも続いてくれれば、と僕は思いながら少しづつ飲んでいた。


そう・・・
マガーリ少年の心の悩みを解きほぐしてくれた店主の優しさと
マガーリ少年のお腹を満たしてくれたスイーツに僕も酔いしれてた。


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まるでトトロみたいな形をした、ちょっと不思議で可愛らしいサボテンと目が合った。

  サボテンくん、何だかとっても寛いでいるじゃないか!!
  それに、素敵な場所と優しいご主人さまに囲まれて・・・
  
  俺はオマエが本当に羨ましいよ!!



店主にお礼を言い、名残惜しそうに庭の花を眺めていた僕だったが、
この店を出る際の僕の表情にもちょっとだけ希望の笑みがこぼれていた。


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今回の僕の小さな夏の旅は、そう、丁度1年前の夏に彼が作り出した二つの物語に
触れる旅であり、また、その登場人物たちにささやかながらプレゼントを送る旅でもあった。

花を通じて彼の物語に繋がっていきたい、そして新たな物語を綴っていきたい・・・
僕の中で想像とも妄想ともつかない強い想いがどんどんと膨らんでいって・・・


そんな想いでこの物語を紹介した時だった。
僕の下に彼では無いある鍵コメントが届いたのは・・・

しかも、僕に会って話がしたいだなんて・・・


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by mary-joanna | 2009-08-21 11:06 | 散りぬるを