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シ.almost sleeping

僕にとってこの数ヶ月間は、まさに雲をつかむような思いの毎日だった。

Elvis Cafeをスタートさせよう・・・彼の軌跡を辿っていこう・・・突然の終焉の秘密に迫ろう・・・
そんな思いをのせたこの物語が尽きるまでに・・・そう、「イロハ」のイニシャルが終わるまでに、
必ずや僕はCindyの下へと辿り着き、今まで僕の心の中を占領してきた、もやもやしたモノに
ハッキリと白黒を付けてやろうって・・・遂に貴方に追いついたって大きく胸を張ろうって・・・

そうして何時の間にか月日は過ぎ去り、僕の日記のイニシャルはどんどん溜まっていった。
様々な苦労は確かにあったものの、幸いにも何とか思った通りの草花を紹介する事が出来た。
しかし、その一方で肝心の彼に近付くヒントは殆んど得られていないままでいるのが現状だった。
これでは会えるどころか、逆に彼の背中を見失ってしまう。そう思った僕は、これまで自らに課し、
貫いてきたルールを犯す事にした。そう、彼が敬愛した例のパン屋に赴き、店主に聞いたのだ。

当初、Cindy自身に関する情報(今、何処で何をしているのか等々・・・)を手に入れるつもりで、
そのパン屋の扉を開け、思い切って店主に話し掛けた僕だったが、実際に口から出た言葉は
思っていたのとは異なる、違う人物についての質問だった・・・全く関係無い訳ではないが・・・
果たして、店主から“情報(?)”を入手した僕は、ある事を確信し、また、ある事を決心した。

そう、いよいよフィナーレに向けての大仕事に取り掛かる時がやって来たのだ・・・
唯、その前にひと休みがしたかった。身体と心の両方をゆっくりと休ませたい・・・
これまで頑張って走り続けてくれた自分自身に対して感謝と労いを送りたい・・・
そう思った僕は、今回のイニシャルの花と、それにぴったりの場所に向かった。

心置きなく寛げる、気の置けないあの娘の待つ場所・・・そう、“友達の家”に・・・


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まるで迷路みたいな住宅街をクネクネと進んでようやく辿り着いたこの路地の、
目の前に現れた目印の緑色の建物。あの家の突き当たりの角を左に曲がれば、
確か、例の焦げ茶色の看板が直ぐに見える筈だ・・・あの角を曲がれば直ぐに・・・

何時だってそうだったんだ・・・どの街にだってきっとあるんだ・・・そして誰もが経験した、
あのワクワクする感覚・・・ドキドキする緊張感・・・そう、この路地の曲がり角の先には・・・


だって、この先はおとぎ話の世界が待っているのだから・・・


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アンの友達


車一台がやっと通り抜ける事の出来る細い路地を曲がると少し開けた空間になる。
路地とその奥にある建物との間には駐車場のスペースと、この家の庭があるからだ。
庭の樹木の向こうには、真っ白なドーマーが付いた大きなペールグリーンの切妻屋根。

今にもあの白い窓から麦わら帽子を被った赤毛の女の子が手を振ってくれる気がして・・・

久しぶりだね、元気だった?僕は・・・うん、まあまあ元気にやってるよ。
今度はランチとお茶を頂きたくなって、またキミのお家に遊びに来たんだ。
それにね、あの大きく開いた窓際の席からのんびり庭の緑を眺めたくってね。


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この前と同じ、塗装が剥げて錆付いた薄水色のアイアンフェンスの前に車を停める。
フェンスの先の庭へと向かうには、正面のアーチをくぐって行かなければならない。

前回訪れた際は、庭の端からフェンスを伝って伸びてくる細い蔓バラで出来たアーチが
それは、まるで触手のようにくねくねと絡み合って緑のトンネルを作り上げていたが、
未だ春と呼ぶには早過ぎる今日この頃、二つの世界を繋ぐ唯一のトンネルは、
花は勿論、一枚の葉っぱさえ付けずにその細々とした丸裸の腕を寂しそうに
アーチに絡ませているのだった・・・華麗に薫り立つ5月の頃を夢見ながら・・・


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入り口のアーチのみならず、あの時は庭中が眩しい位鮮やかな緑に覆われていたけれど、
今、僕の目の前に広がっているのは、剥き出しになった黒々とした地面と枯れた芝生・・・
あの夏の日の面影を見つけたくなって、僕は庭の周りをキョロキョロと見回してみた。

おやっ、玄関先で何かを見つめているキミは・・・あっ!!


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やぁ、久しぶりだね、おとぎの国のウサギさん。この前はオレンジ色のお花畑で
かくれんぼしてたけれど・・・今日は一体何をそんなに見つめているんだい?

僕もウサギが見つめる先に視線を向けてみた・・・あぁ、あの花を見ていたんだね。


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スイセン


確かキミとは何処かで会ったような・・・あぁ、ピースフルなパン屋近くの公園だったかな。
あの時は黄色い顔に真っ白な髪飾りを付けて、ちょっと物憂げに俯いていたっけね。

何時も自分の容姿が気になるキミの事だから、きっとまた綺麗に着飾っていると
思っていたけれど、今度は全身をイエローでコーディネートしているなんて・・・

目立ちたがり屋のキミだから、誰よりも早く華麗に咲くのは分るけれど、
相変わらずキミって・・・いやいや、勿論褒めているつもりなんだ・・・


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新緑が芽吹き、美しい花が咲き誇るにはもう少し時間が必要かも知れないけれど、
誰よりも草花に愛情を注ぐ店主が営む家だから、店内で出迎えてくれるのは・・・


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四季を問わず決して色あせる事の無い、淡い桃色や紅色で僕を魅了する貴女、
一瞬の瑞々しさと引き換えに、永遠の姿を手に入れる事を選択した貴女、それとも・・・

僕は永久に枯れてしまう事の無い、夢の中を彷徨っているとでも言うのだろうか・・・


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思えば、この家に入る瞬間からそうだったのだ。このリーフが何よりの証拠。
実りの秋にしかお目にかかれない筈の、薄小麦色をした穂を編んだリースが・・・

ドライフラワーにポプリに・・・そう、此処は草花の楽園、花の無い季節なんて存在しない!


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お馬さん、キミだってこの家でずっと植物に囲まれてのんびり過ごしてきたんだろう?
そう言えば、この前訪れた時に挨拶した焼き菓子コーナー担当の彼、見掛けなかった?

あぁ・・・正面でちゃんと番をしているんだって?


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やぁ、久しぶり・・・相変わらずちゃんと番をしているんだね。流石、しっかり者のキミだ。
一時たりともこの前を離れたりしないなんて・・・それに、ビシッとしていて決まっているよ!


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全く飾らないこのキッチンカウンターから、温かいママの手作り料理が出来てくるんだ。
この前はスイーツとドリンクだけだったけれど、、今日は是非ともランチを頂くとしよう。

だって、キッチンから伝わる美味しそうな香りに、さっきから僕の腹は鳴りっぱなしなんだ!
でも、その前に、カウンターでどうしても見ておきたいモノがあってね・・・あっ、これだよ!


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カウンターの上にズラリと整列したハーブの瓶・・・今日は君たちに用事があってね・・・

やぁ、ハーブのみんな、久しぶり。長く険しかった僕の計画も如何やら一段落つきそうなんだ。
そこで、疲れ切った心と身体をリフレッシュさせたくなってね・・・キミたちの力を借りに来たんだよ。
今日はちゃんとキミたちの仲間だって用意してきたんだから・・・ほら、もう待ち切れなくて真っ白な・・・


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テーブル・・・椅子・・・キャビネット・・・書棚・・・落ち着いた印象の部屋の至る所には、
良く手入れのなされた艶やかな飴色の木製家具がゆったりと配置されていた。
更に一番奥には煉瓦造りの暖炉まで設えてあり、まさにあの物語の舞台・・・

そう、まるでグリーンゲイブルズに遊びにやって来たような気分に浸れるんだ!
この部屋の、ゆったりした空気に包まれているだけで、まったりとして・・・


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あぁ・・・だからキミものんびりしに此処にやって来たんだね・・・


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この前もこの窓際のテーブルだったんだ・・・あの方に紹介された僕の特等席。


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おやっ、誰かが窓を開けて手招きしている・・・


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多肉植物の一種だろうか?・・・細い腕から沢山伸びた可愛らしい緑のおてて。

このミントグリーンの窓枠から、外の庭を見てごらん!って誘っているみたいに・・・


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8月に来た時も澄んだ青空の気持ちの良い一日だったね。

今日も穏やかな陽気で・・・今度こそ、バラの花咲く初夏の午後に、
あのガーデンテーブルでのんびりとアフタヌーンティーを楽しみたいな。


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ハーブ入り野菜カレー


陶器のポットには大きめにカットされた新鮮な野菜がゴロゴロと入っていた。
赤に黄色はパプリカかな?グリーンに・・・あっ、ラッキー、カボチャも入っている!
湯気と共に立ち上る薫り豊かなポットからお気に入りの野菜を探すのも楽しいけれど、
豊かな色彩も十分食欲をそそられるけれど、何と言っても一番の魅力はその味わい。
ひと口食べれば、瑞々しさの中から弾け出るジューシーな野菜本来の甘みと酸味。
ホッコリした食感はそのなままにしっかりと煮込まれて、旨みが凝縮されている。

そして、その野菜に絶妙に絡んでくるのが、店主特製の、このカレーのルー!
スパイシーで程良い辛さとハーブの爽やかな香りがマイルドに溶け合って、
野菜は勿論、ご飯にも良くマッチして何時の間にか全部食べ切っていた。


ハーブの庭のハーブのカレーにすっかり魅了され舌鼓を打った僕だが、
ハーブと言えば・・・そう、今日此処にやって来た一番の目的は・・・


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ナイトジャスミン(ハーブティーブレンド)


ジャスミンに・・・カモミールに・・・ジュニパーベリーに・・・真っ赤な実はローズヒップだね。

暫くポットのハーブが開いていくのを眺めていたけれど、ゆっくりとカップに注ぎ始めた。
ガラスのポット越しに見える淡い黄緑色が、白いティーカップを薄っすらと染めていく。
カップに注がれると湯気と同時に広がってゆくのは、ウットリとするような芳しい薫り。

薫りの中から仄かに広がる清涼感とジャスミンのすっきりとした香りが心地良い。
ひと口・・・またひと口・・・カップを近付ける度にまるで夢の中へと誘われてゆく。

これまでの僕の物語も立ち上る湯気のように淡い夢だったのかな?・・・なんて・・・
そして僕は、再び窓の方に目を向けた。窓と庭の間の、温室のスペースに置かれていた。


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「ジャスミン(羽衣ジャスミン)」


紅色の花先から、真っ白な蝶々がひらひらと、純白の羽衣を纏っているように舞っている。
儚い命と知りながらも、その一瞬の輝きに全てを託しているように、可憐で美しい花弁。
鉢からは、思わずウットリとする芳しいジャスミンの香りがふんわりと広がってくる・・・


この容姿も、そして香りも、一時だけの夢・・・次に訪れた際はきっと真っ白な蝶々は
何処か彼方へと飛び去ってしまい、緑の葉だけがあとに残されているのだろう・・・

まるでそれは、今僕が手にしているカップから広がるティーの芳しい香りのように・・・
そして、暫くのまどろみから覚めて、またいつもの世界へと引き戻されるのかな?


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“友達の家”で夢のようなひと時を過ごした僕は、おとぎの世界の住人たちに別れを告げ、
現実との境界である蔓バラのアーチを再びくぐって、何度も振り返りながら車に乗り込んだ。

もう、思い残す事は無い・・・
もう、やり残した事も無い・・・
最初から決まっていたんだ・・・
そして、遂にその時が来たんだ・・・

次に向かうのは、例のリストの店・・・もしこれで失敗したら・・・
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by mary-joanna | 2010-03-08 12:25 | 浅き夢見じ
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