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ミ.Festa della donna(フェスタ・デラ・ドンナ)

Elvis Cafeも40回を越えて、いよいよ最終コーナーを回り切った所までやって来た。
残り僅かな最後の直線で全ての謎と障害を振り切り、彼の待つゴールへと向かうのが
これまで僕がイメージしていた楽観的な展開だが、現実はそう上手くいかないみたいだ。

そもそも何故彼がCindy's WALKを突然終了してブログの世界から忽然と姿を消したのか?
そしてリンクやランキングは勿論、全くと言って良い程、他との交流を排してきたこのブログに
不可解な執着と放置を繰り返す、あの物語の登場人物を語る一団(3人に過ぎないが)とは
一体何者なのか?(実際に彼等とコンタクトを取っているのが却って不気味に感じるが・・・)
更に不可解と言えば、イロハ順に花を紹介するのに引っ掛けた、あのコメントだって・・・

そんな謎と不安だらけのまま、このElvis Cafeはもう最終コーナーを回ってしまったんだ!


思えば今日まで僕は、彼、Cindyが訪れ、紹介してきた店をまるでトレースするように
訪問してきたのだが、各々の店の店主やスタッフは既に彼の事を知っていた筈になる。
だから、店の方に直接尋ねるのが一番の近道ではあったのだが、僕はそうしなかった。
それを敢えてやらなかったのは、僕の中での暗黙のルールであり拘りでもあったからだ。
しかし、このまま彼に出会う事はおろか有益な情報も得られずにフィナーレを迎えるのは、
昨年の夏以来40数回に渡り積み上げてきた全てがガラガラと崩れ去る事を意味するのだ。

もう僕には一刻の猶予も残されていなかった。実はこの物語、Elvis Cafeを始めるに際して、
彼のブログに無くてはならない存在とも言える、一軒のパン屋を紹介する事を心に決めていた。
そして、そのパン屋の若い店主ならば、彼の事を非常に良く知っているのでは無いだろうか?
何故なら、彼がブログを中断する旨を知らせる回・・・即ち“最終回”の、しかも最後の最後で
彼が自身の姿を晒した写真の中にツーショットで収まっていた人物に他ならないのだから・・・

しかし、僕がその事を知ったのは大分後々の事・・・そう、全く最近になっての事だった。
彼は、自身の姿をカミング・アウトしたその写真を、たったの一日で削除してしまっていた。
兎に角、僕は彼がCindy's WALKを通じて敬愛して止まなかったパン屋に行く事に決めた。

遂に、遂に機は熟したのだ!・・・熟し過ぎて落ちてしまう前に・・・


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何度も迷い、彷徨った。迷宮のような路地裏でも雄大な景色の田園地帯でもない、
何の変哲も無い田畑が点在する住宅地。学校とスーパーの周りをグルグル回った。
そう、彼の初めての訪問時と全く同じ・・・“Little”の称号は伊達じゃない・・・かな?

秋頃の予報では確か今年の冬は暖冬になる筈であったが・・・またこんな天気か・・・
2月も終わり、春はもう近くまでやって来て・・・こっちも最終コーナーだって言うのに・・・
霙交じりの薄暗い空の下、気が滅入ってくる頃だった・・・この看板を見つけたのは・・・


 ゴールはこっちだ、もう直ぐだ!この矢印に沿って進めばあと少しで到着だぞ!

きっとCindyも、訪れる度にこの四方の端が捲れ上がった看板に勇気付けられた事だろう。
雨の日も風の日も・・・そう、こんなに肌寒い冬の日だって変わる事無くビシッと矢印を向けて・・・


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矢印の通りに進んで突き当りを右に曲がると、とある一軒の民家の庭先へと辿り着く。
その開けた空間を埋め尽くしているのは、何と其処彼処に大量に積み重ねられた薪の山だ。
その積み上げられた薪の側で見つけたのは、もう可憐な姿を見せる事の無い小さな枯れた花。

そう言えば彼がこのパン屋を最後に紹介した際には、この薪で出来た高い壁に囲まれた空間で
可愛らしい白い花弁を咲かせていたね・・・沢山の薪たちと一緒で、とても楽しそうに揺らめいて・・・
それに比べて今日のキミは、まるでこの日の天気みたいに寂しそうに冷たい霙に当たりながら・・・


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薪窯パン ワンネス


やっと会えたよ、ワンネス・・・そう、Cindy's WALKがまだCindy's “TALK”と名乗っていた
初めてのパン屋巡りから、ブログの更新が途絶える1ヵ月前までの約2年に渡って幾度と無く
紹介続けてきた、何時だったか彼自身が綴っていた“Cindyの日記と共に歩んできたパン屋”・・・

そう言えば、このワンネスも確か以前はワンネス・“ブロート”って名前だったよね。

その外観は、ごく初期のグリーンの山小屋から常に増改築を繰り返し、一時たりとも
全く同じ表情を見せる事が無い・・・それは何処と無く、Cindyのブログに於ける歩みにも
相通じる部分があって、恐らく彼は自分の理想像を重ね合わせていたのかも知れなかった。


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でも、だったら尚更、途中で突然その歩みを止めてしまうなんてオカシイじゃないか!

だって、この類い稀なパン屋はまだまだ進化を遂げようとしていると言うのに・・・


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煙突から白い煙がもくもくと立ち上っている・・・どうやらやっているみたいだ。


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傘の中の裸電球は未だ眠ったままだったが、その奥に見える仄かな明かりは・・・


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そう、店の中では燭台に灯が点され、薄暗い中、蜜柑色の明りがゆっくりと揺らめいていた。

この窓の向こう、蜜柑色の店内には・・・窓の隣りの真っ白な扉の先には・・・あの店主が待っている・・・
これまでElvis Cafeで僕が訪れた店の中でも多分彼の事を一番良く知っている、あの若き職人が・・・

来る時から降っていた霙交じりの雨はまだ止まず、肌が剥き出しの手は感覚が無くなりそうだ。
何時までも扉の前に立ち尽くす訳にもいかず、僕は一呼吸して白い扉の取っ手に手を掛けた。


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中に入ってみると、低い天井と薄暗い室内が、決して広いとは言えないこの店内を
一層限られた空間に仕立てているように思えた。唯、大きな窓から差し込む曇り空の
真っ白な光と壁際に取り付けられたランプや燭台の上で生き物のように揺らめく蝋燭が
緩やかに鬩ぎ合って、この薄暗い空間を微妙で独特な色彩と陰影で染め上げていたのだ。

其処で最初に目にし、一番存在感を放っていたものこそ、この大きなダイニングテーブル。
テーブルの奥には窓からも窺えた燭台が緩やかな明かりで室内をほんのりと照らし出し、
目の前には、テーブルを埋めるようにこの店自慢のパンたちが規則正しく並んでいた。

手前にはオレンジ色の花束が活けられている。蝋燭の灯とパンと花のテーブル。
縁起でも無いけれど、僕は最後の晩餐としての一つのモデルを想像してしまった。
尤も、彼ならこんな風にテーブルいっぱいのパンに美しい花を添えて饗するかもね・・・

・・・最後の晩餐の時は、ね・・・


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テーブルの上のパンは、一見しただけではどれも極めてシンプルなものばかりだった。
昨今、巷で良く目にするカラフルで凝った作りのパンや菓子の類は、此処には全く無い。

代わりにあるのは、岩のようにゴツゴツとした褐色の塊、所謂ハード系と呼ばれるパンだ。
彼をはじめ多くの方が紹介の際に指摘していたが、確かにどのパンも本当に大きかった。


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無骨で飾らないテーブルの上で、唯一華やかな雰囲気を醸していたのがこの花束だった。


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チューリップ


常連のお客さんから頂いたとの事だが・・・それにしても、これがチューリップだって?

花を紹介するブログを綴るようになってから今日まで、僕だって多少なりとも花の事を学習し、
詳しくなったつもりだったけれど、それこそ世の中には数え切れない程の種類の花が存在し、
花によっては一つの種類から更に数百もの品種が絶えず作り出されているのだから・・・

半年やそこいら齧っただけではまだまだ入口を越えたとも言えないレベルなのだ。
尤も、だからこそ今日まで常に新しい魅力的な花に出会う事が出来たのだった。


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テーブルの隣りに目を向けると、其処にはアームのついた低いソファが二つ置かれていた。

オーセンティックな印象の、ブラックレザー調とモスグリーンのファブリックのクッションには
何処となく見覚えがあったが・・・あぁ、そう言えば何時だったか彼も紹介していたっけ・・・

ソファを眺めながらこのパン屋に対する彼のブログを思い出していた、まさにその時だった。
“バチバチ”っと何かが弾ける乾いた音が静まり返った店内に響き渡り、この突然の知らせに
ぼんやり物思いに耽っていた僕は、ハッと我に返り音の鳴ったソファの向かい側に目を向けた。


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入口から死角になっていた為に気付かなかったのだが、ソファの直ぐ向かい側には
家具職人でもあるこの店の店主が作り上げたオリジナルの薪ストーブが置かれていた。

廃材を三角コーナーのスペースにぴったりと収まるように溶接により繋ぎ合わせただけの、
全くシンプルな意匠なのに、これまで見た事もない独創的、アーティスティックなフォルムで
しかも、この小さな山小屋にいるような素朴な空間にも全く違和感無く落ち着いているなんて・・・

先のテーブルや、この店自体にしても同様だが、この若き店主が創造し形にするもの全てが、
素朴で何処か懐かしさを感じさせるのに、同時に斬新でスタイリッシュな側面も持ち合わせて・・・

そう、それはこの店のパンがそうであるように・・・


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店主の好意で、このソファに腰掛けストーブの火に当たりながら、店主が自ら焙煎をした、
この店オリジナルのコーヒーを淹れてもらう事となった。なんて優雅なひと時なのだろう!

だが、そんなまったりとした時間を引き裂いてしまうかのように、僕は思い切って口を開いた。


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店主との語らいは思いのほか長くなり、目の前に並んだ美味しそうなパンや焼き菓子の、
まるで此方を誘っているような魅力的な姿に抗えなくなった僕は、この場で食す許可を得た。

“ベルベ”と呼ばれている、数種類のフルーツやくるみをたっぷりと練り込んで焼き上げた、
ライ麦生地のお菓子を追加オーダーした。ほろ苦いコーヒーに良く合うと思ったのも確かだが、
この店で必ずGetするとCindyが毎回のように書かれていたのが非常に気になっていたのだ。

ずっしりとして、とても重厚感のある焼き菓子だ。生地の風味に加えて油の香ばしさも
更なる食欲へと誘ってくれる。口の中でホロホロと生地が崩れるのと同時に広がってくる
レーズンやアプリコットのネットリした舌触りや芳醇で複雑に絡み合った甘酸っぱい風合い、
カリカリして生地やフルーツの食感と絶妙なバランスでアクセントとなる胡桃に至るまで・・・

お世辞にも華麗とは言えないこの素朴な菓子の奥深さに、僕は(も?)心底打ちのめされていた。


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カッフェ・マッキャート


続いて店主が差し出してくれたのが、砂糖とミルクがたっぷり入ったエスプレッソ。
冷たいミルクと熱いエスプレッソとが混ざり合って、丁度良い温かさになって・・・


 すっごくぬるいだろう?


・・・確かにコーヒー牛乳を飲んでいるような口当たりで、温かさは感じられなかった。
それなのに、甘くてまろやかで、コクもあって・・・実際以上の温かさが伝わるんだ!


 でもなぁ、これが俺がイタリアのカフェで飲んだカッフェ・マッキャートの味なんだ。
 超がつくくらいの苦いエスプレッソに、砂糖と冷たいミルクをたっぷりと注いだ・・・
 そう、ナポリのガンブリヌスってカフェで飲んだ味なんだよね・・・



そして僕がこのカップを飲み干すのを見計らって、店主は先程の話の続きを再び始めた。


 へぇ・・・それじゃあ君は彼の後を継いでカフェやパン屋を紹介しているって訳?
 でも、それなら運が良かったね。だってこの店は来週から臨時休業に入るんだよ。
 毎年この時期にイタリアを巡る事にしているんだ。だから今日で本当に良かった。
 そう言えば、イタリアには“女性の日”っていう休日があるのは・・・知らないか・・・
 男性が女性に感謝や愛情を込めて花を送る日なんだけど、その花は休日でもある
 3月8日頃に綺麗な黄色い花を枝いっぱいに咲かせる・・・




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ライ麦プレーン&小麦プレーン(苺酵母)


Elvis Cafeを始めるまで、僕はライ麦のパンというものを意識して食べた事が無かった。
尤も意識してパンを食べる事自体が稀であったが・・・彼がこの店をUPする度に載せていたのが
他ならないこのライ麦プレーンだった。手に持っただけでズシリとした重量感・・・と同時にライ麦を
ローストした芳ばしさも伝わってくる。淡い狐色の皮は素朴な田舎のパンといった雰囲気を醸し出す。
バリバリした食感の厚めに焼き固められた皮は香ばしく、中の生地のもっちり感を強調しているようだ。
ライ麦パン特有のボソボソとした食感は殆ど感じられず、しっとりとして口の中で伸びていくみたいだ。
生地には適度な塩味と練り込まれた外皮の風合い、更に皮の香ばしさが絶妙にマッチしているので、
食事のお伴には勿論の事、パンだけで食べてしまうという彼の意見にも納得のいく味わい深さだった。

そしてもう一つ、隣りに置いたライ麦のパンに比べて濃い焼き色の付いたラグビーボール型のパン。
此方が小麦のパンとの事だが、他の店ではライ麦パンの方が比較的焦げ茶色の印象もあるが・・・
そして、何と言ってもこのパンは苺の酵母で発酵させているとの事であり、確かに苺の種らしき
粒々を確認する事も出来た。そして、それを裏付けるように仄かに薫る苺の甘酸っぱい風味。
爽やかで微かにスパイシーさも感じる気泡たっぷりの生地と、ガツンとくるバリバリの皮。
その全ての美味しさが一体となって、新しくもスタンダードな小麦パンに仕上がっていた。


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ライ麦いちじくくるみ&ライ麦ひまわり


更に、この店の定番でもあるライ麦パンのバリエーションを2種類購入する事にした。

断面がぽっこりとした山型の褐色のパンがいちじくくるみで、バリバリに固く香ばしい皮は
先程のプレーン同様、噛み締める毎に感動を覚える位の美味しさだが、中の生地には
たっぷりの無花果が散りばめられて、軽くトーストすると無花果の豊かな甘い薫りが
もっちりとした生地全体からふんわり広がってくる。その甘さの中心にはねっとりした
舌触りとジャリッとした種の食感が楽しい無花果の実がゴロゴロと入っていた。

スクエアーな断面が却ってこの店にとって新鮮な印象を与えているのがひまわりだ。
確かにドイツのライ麦パンの中にこんな形をしたパンがあったような気もするけれど・・・
粘り気のある保湿感いっぱいの生地が口の中でホロホロと崩れていくののだが、
これまで食べたこの店のパンとは一線を画しているのが印象的だった。しかも、
生地に練り込まれた向日葵の種がつるんとして噛むとむぎゅっと押し返す・・・
スープにも良く合いそうなシンプルな食事パンなのに、とても楽しいパン・・・


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花のよこつか


店主の最後の言葉を胸に秘め足利に戻った僕は、市内のある花屋の扉を叩いた。
隣りの群馬県館林市に本店を構えるこの店は、本店と同じく2階に雑貨屋も併設していて、
草花は勿論、アレンジからコーディネートに至るまで、素敵としか言いようの無い空間だった。

店の方のご厚意により、この最高のロケーションで今回のイニシャルを撮らせて頂く事になった。


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それは、まるで南欧の邸宅の一角で撮影しているのでは?と錯覚しそうな程だった。
そう、貴女に見てもらう為には、これくらいの演出が必要なのかも知れないね・・・


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潤んだような瑞々しく淡い紫の可愛らしい花が、そっと出迎えてくれた・・・


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シンビジューム


おいおい、アナタの出番は次の「シ」のイニシャルの筈だけれど・・・
まさか花の女王とも形容されるアナタが、よもや前座で登場だなんて・・・

「シ」の花はアナタにも負けない純白の花が用意されているのでご安心を。
それにしても・・・何て優雅で、そして美しい立ち振る舞いなんだろう・・・


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「ミモザ」


Festa della donna(フェスタ・デラ・ドンナ)・・・3月8日はイタリアでは休日となっていて、
日頃世話になっているアナタに、そして愛して止まない貴女にミモザの花を送る日でもある。
イタリアの食文化を敬愛し、今年も更なる進化を遂げる為に彼の地へと飛び立った若き職人。
このタイミングで、このイニシャルでワンネスを訪れたのも運命なのかな?なんて妄想した僕は
イタリアに因んだ・・・それに、ある女性に捧げる為に「ミモザ」を今回のイニシャルと決めたのだ。

ある女性?・・・勿論、彼女に・・・と言いたいところだが、実は最近僕は彼女との別れを経験した。
それについてはElvis Cafeで語る話題では無いので割愛する事にして、今回この花を贈りたい、
見て欲しいのは・・・そう、貴女への感謝の印なのだから・・・僕のお願いに応えてくれた・・・


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あの店で僕が店主に質問したのは、たった一つの点であった。
それは勿論、彼にかかわる事ではあるが、彼の人物像や現状といった、
言わば彼自身に関する事では無かった。実は、それはと言うと、その・・・

彼、Cindyと、ある人物との関係について・・・それこそ僕が一番知りたかった事・・・
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by mary-joanna | 2010-03-01 02:35 | 浅き夢見じ
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