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エ.See Emily Play

自然の摂理を揶揄しようなんて大それた事はこれっぽっちも考えてないし、
何を今更・・・と、お咎めを受ける事も承知で、敢えて綴らせて欲しいのだが、
花には時期というものがあり、小さな子供でも良く知っている有名な花でさえ
少しタイミングを外しただけで全く見る事が出来なくなるというのは、僕自身が
この半年間に幾度となく体験してきたのだから十分過ぎる程理解している筈だ。

でも、だからこそ四季折々の花の移ろいがかけがえの無い非常に尊い存在の一つとして、
華道のような高尚な文化を語るまでも無く日々の生活に於いても大切な要素であるのも、
四季の変化が比較的明確である、此処、日本ではとりわけ顕著であるのかも知れない。
確かに、西洋のフラワーアレンジメントが、一年中華やかで、そしてファッションのように
色彩や形状等の流行があるのに対して、日本の生け花では季節感を最重視している。
また、俳諧や短歌など古典文学の世界での季節と花の関係は言うまでもないだろう。

こんな事をぐだぐだと述べるなら、その時最高の輝きを放つ花を紹介し続ければ良かろう!
と、愈々以って非難の声が上がるやも知れないけれど、そう簡単には事が進まないのだ。
何故なら、僕はイロハ順に花を紹介し続け、しかも春に終わる様に調整していたからだ。
だから、花の開花時期とその花のイニシャルとが一致していないと、どんなに美しく、
またどんなに有名でも、紹介する事が出来なかった。Elvis Cafeをスタートさせるに
於いて彼と交わした条件であった為仕方の無い事とは言え、これは歯痒かった・・・

そこで、僕はその時のイニシャルの花以外にも同じ場所で出会った素敵な草花を
紹介しながらこの物語を綴る事にした。そうしてこのElvis Cafeが進むにつれて、
以前に紹介した花のイニシャルの順番がやって来たり、反対に未だ咲き始めの
段階で紹介したイニシャルが花期を迎えたりと、イニシャルと花本来の季節とで
同じ花を二重に紹介出来るといった、考えてみなかった嬉しい誤算も経験した。


実は今回僕が訪れたカフェの花も・・・そして、イニシャルの花も・・・
以前紹介した際には、また再び出会えるとは全く思っていなかった・・・

“嬉しい誤算”?・・・いや、今回は“必然の巡り会い”だと思っているけど・・・


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足利から国道50号線を東に向かってひたすら進み、あのカフェがある結城の街も更に越え、
その隣りの、かつて下館と呼ばれていた街の外れまで唯の一回も曲がる事無くやって来た。
群馬~栃木~茨城と、北関東を結んでいる大きな国道も何時しか車線が1本に減っていた。

市街地から離れ郊外の工場や空き地がチラホラと目に付く頃、この白い建物に辿り着く。
そして、長かった今回の僕のドライブも目的地に到着だ・・・長いのは毎度の事だが・・・


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ネメシア・メロウ


真っ白カフェの入り口で一番最初に出迎えてくれたのは、石の蔵のチョコ屋で紹介した、
淡いピンク色したリボンみたいな可愛らしいキミたち・・・そう、「ネ」のイニシャルだったね!

あの時はふんわりリボンの花弁が葉っぱの型の板チョコを華やかに飾っていたっけ・・・
またキミたちに出会う事が出来るなんて、ビックリしたっていうより何だか懐かしくって・・・

尤も今回のイニシャルに僕が選んだ“再会の花”は、こんな穏やかな雰囲気で語るには・・・


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そして、草花も枯れる真冬の庭先で元気いっぱいに咲いている小さな白い花。
キミたちを眺めていたら・・・うん、何だか僕も元気が出てきたみたいだよ!


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一見物寂しげな冬の庭でも、周りには可愛らしい先客たちが思い思いに寛いでいた。

例えば、白い木の台の隣りではワインの空き瓶が仲睦まじく寄り添っていた。
そう・・・このカフェには是非とも気になる人を誘って二人で一緒に来て欲しい。
きっとこのワインみたいに、二人の距離が更に近くなる筈だから・・・でも僕は・・・


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Cafe RAGBAG


お気に入りのラグのように柔らかくって、長年愛用のバッグのように何でも包み込んでくれる。
はじめて訪れたカフェなのに・・・まだ店の中にも入っていないのに・・・そんな気がするんだ。

なぁ、そうだろう・・・まるでこのカフェみたいな白い椅子の上でまったりしている水差し君!


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吊り下げられているのは錆びて色褪せた小さな缶かも知れないけれど、
きっと中には溢れんばかりの夢と希望で満たされているに違いないんだ!


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ブルーグレーの扉は所々剥げ落ち、ドアノブの周りに至っては完全に地の木肌が現れていた・・・

ワクワクしながらやって来て、そして、名残惜しそうに去ってゆく皆を見守ってきた証しだよね。
そんな僕だって、この素敵な建物の中がどうなっているのか、凄く気になっているんだよ!


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味のある木枠の棚と美しい意匠のアイアンフェンスが設えられたキッチンカウンター。
そのカウンターを埋め尽くすように整然と並べられ、積み上げられたグラスや皿。
エスプレッソマシーンと・・・ミルと・・・コーヒー豆の入った大きなガラスの瓶と・・・

このシーンに収まっている全てが、僕の大好きなカフェのキッチンの風景なんだ!


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直ぐ隣りにはアンティークの雑貨コーナーもあって・・・あっ、コレ、可愛いなぁ~!


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キッチンの向かい側はカウンター席になっていて、一人でふらっとやって来て、
誰に気兼ねをする事無くゆっくりと食事を楽しめるだろう・・・今度は此処で・・・


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ダイニングの長いテーブルは家族や友人と水入らずのひと時を過ごすのに丁度良い。


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店内には様々なランプが吊り下げられていて、各テーブルが其々微妙な色合いで照らされていた。
優しい温もりが感じられる仄かな明かりの中で心も癒されて、更に長居したくなってくるんだ・・・

ランプの明かりで席を決めるなんてのも、何だかいいよね・・・でも、この日の僕は・・・


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店内を見回し、窓に面したこのテーブルに決めた。何故なら僕は窓の側が好きだったのだ。
そして、席に着いて直ぐに窓の外をぼんやり眺めているのも、お気に入りの仕草だった。

唯、このカフェの窓の直ぐ向こう側は大通りという訳ではなかった。店内と通りの間には・・・


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何ともお洒落なテラス席が用意されていた。緩やかな日差しの下でワインを頂く・・・素敵だなぁ・・・


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店内には各テーブルにさり気無く草花が添えられている。僕の席は・・・元気に伸びるミドリたち・・・


さて、何時もの事ではあったが、暫くの間メニューとにらめっこを続けた後、迷いながらも
+ パスタランチ +をオーダーする事にした。旬の食材を使ったパスタが気になったのだ。


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サラダプレート


サラダと銘打ってはいるが、パンに生ハムにキッシュに・・・
何てバラエティー豊かでボリュームたっぷりのプレートなんだ!


パン

焼き立てでパリッとした薄皮から薫る芳ばしい皮の焦げた香り。
可愛らしいまん丸パンを二つに割ると中から薄っすらと湯気が立ち上り、
ふわぁ~っとまろやかな小麦のいい香りが広がってきて、思わずひと口。

ふわふわで、もちもちっとした食感と仄かな甘みと塩味が良い塩梅で、
きっとこの後のメインの付け合わせなのだが・・・全部食べてしまった・・・

マッシュポテト

丁寧に裏漉しされたジャガイモの滑らかな食感が口の中でさらさらと溶けて、
ジャガイモ本来の自然な風味が心地良く広がる。更に、アクセントにチーズが
練り込まれていて、スタンダードであり、同時に新鮮な味わいも楽しめるなんて・・・

ピクルス

あっさりとした甘酸っぱさとカリカリの歯ごたえから広がる瑞々しさが美味しい!
このさっぱりとした爽やかさいっぱいのピクルス、箸休めで片付けるには惜しいよ・・・

生ハム

アンティパストの定番の生ハムはそのままの状態でサーヴされるからこそ、難しい食材。
果たしてこのカフェはと言うと・・・舌先に絡み付くとろりとした舌触りから広がる生ハムの、
脂のコクがたっぷり乗った旨みとジューシーな食感・・・もっと欲しくなる衝動に駆られる。

ラタトゥユ

此方もアンティパストのプレートにはお馴染みの、言わば、イタリアの“お袋の味”。
とろとろに煮込まれた柔らかな野菜から染み出すトマトの甘い濃厚な風味が絶品だよ!

キッシュ

そして、僕が最後に頂いたのが可愛らしくカットされたこのキッシュだった。
しっとりした質感から伝わるシンプルな、そして優しい卵の風味が何とも堪らない・・・


プレートに盛られた一つ一つを取っても、店主の拘りと情熱がたっぷりと詰まっているのだった。
そんなバラエティーに富んだサラダプレートを食べ終わった頃、メインのパスタが運ばれてきた。


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牡蠣の醤油バターソーススパゲッティ


一見するとパスタを素で出しているかのような、非常にシンプルなビジュアルだが、
テーブルに置かれた瞬間、白い湯気と一緒にふわっと広がる食欲をそそる良い香り。
堪らず山盛りのパスタから数本を巻いて口に入れた途端に伝わる豊かなバターの風味と
仄かに漂う醤油の香ばしさが絶妙に絡み合った、シコシコ食感の喉越しの良いスパゲッティ。
その見た目からは全く想像もつかない位の複雑に絡み合って一つのハーモニーを奏でていた。

そして何と言ってもこのスパゲティの主役は、パスタの山の頂上に乗ったぷりっぷりの牡蠣!
その牡蠣を噛むと、ぷるぷるっと弾け出して中からミルキーで程よい酸味と潮の香り、ほろ苦さ、
濃厚なコクでいっぱいの、まさに“美味しい海のミルク”が口中いっぱいにジワァ~っと広がってゆく。

更にキリリと引き締まった胡椒のアクセントも加わり、全てが絶妙なバランスで調和した最高の一皿!
街の外れの、大通りにポツンと一軒建っているカフェでこんなにも素晴らしいパスタに出会えるなんて・・・


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それにしても、此処はまるで自宅のダイニングにいるみたいだよ!
初めて着いた席なのに、こんなにも落ち着いて食事が出来るなんて・・・


そろそろデザートのスイーツが運ばれてくる頃だね・・・


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バナナのシフォンケーキ・ヨーグルトソルベ添え


切り分けようとしたフォークを優しく押し返すふんわりとした感触のスポンジ生地は
その軽いふわふわ感はそのままに、しっとりとした食感も持ち合わせているばかりか、
まろやかな口溶けは、バナナの仄かな甘い香りと一緒に消えていくようにとろけていった。

更にチョコソースと生クリームがシフォンケーキを一層引き立てて・・・本当に美味しかった!


そのシフォンケーキに添えられていたのが、この時期だからこそ却って欲しくなる、
ひんやりとしたスイーツなんだ!乾燥した外の空気と暖かな店内に僕の喉もカラカラ、
こんな爽やかで冷たく喉を潤してくれるソルベに思わずスプーンも止まらなくなるんだよ!

ほんのりとした甘酸っぱさが心地良いまろやかなヨーグルト味に清々しい気持ちになって・・・


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カフェ・アメリカーノ


甘いデザートの〆は、キリリとビターなコーヒーでスッキリと、でもまったりと・・・


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角砂糖を積み上げるのは彼の癖だったよね・・・


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センニチコウ


久しぶりだね、元気だったかい?この前キミに出会ったのは確か未だこの物語を
始めたばかりの、あの夏の日の事だったね・・・緑に囲まれた気持ちの良い場所だった。

実は、今日僕は、キミたちが誰かに見つけてもらうのを、何処か店の片隅で
ひっそり待っているんじゃないかなって気になって、ずっと捜していたんだ。

このカフェの・・・RAGBAGのショップカードでひんやりとしたくすんだ白い壁を背景に、
少し緊張した面持ちを湛えながら凛とした佇まいでポーズをとっていたキミたちを・・・
そして、緊張した撮影も無事に済んで、まったり寛いでいるキミたちをね・・・


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「エリカ・ファイヤーヒース」


センニチコウのほっそりとしたグリーンの身体と恥じらうようにほんのりピンクに染めた頬・・・
久しぶりに再会した可愛らしい姿に魅せられながらの帰り道、僕はある花の事を考えていた。
同じく緑色の細い茎にやや不釣り合いの存在感のあるピンク色の小さな花弁を付けたあの花を・・・

そして、今回のイニシャルの貴方・・・大変ご無沙汰しておりましたが、御変わりはありませんか?

まるでこの世の地獄から這い上がって来たかのような刺々しくも注目してしまうシェイプされた体躯。
先のセンニチコウにも負けない淡いピンクの顔立ちもすっかり痩せ細って、どれも項垂れているなんて。
でも、悲愴感すら漂う可憐な姿からは、心の奥底でメラメラと燃え盛っている情念の炎のようにも見えた。


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そう、久々に再会したこの花は・・・復讐の炎を燃やす彼の名を冠しているではないか!!



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実は当初、僕は今回の「エ」のイニシャルに別の花を紹介する予定でいたんだ。

でも、真っ白なカフェでゆったりと寛ぐセンニチコウと久しぶりの再会を果たした事に加え、
あの人物からの一連の告白・・・いや、悲痛な願いと形容した方が相応しいのかも知れない、
例のメールを受け取った僕は、今回紹介するイニシャルをこの「エリカ」に変える事に決めたのだった。
しかも、品種名は“ファイヤーヒース”・・・これからの僕の・・・いや、彼の心の中にぴったりじゃないか!

それにしても、再会と、そして・・・復讐だなんて・・・
by mary-joanna | 2010-01-15 13:49 | 今日越えて
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