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ヤ.Eight Fingers To Hold You

彼、Cindyの物語への憧憬をこの二つの眼にしっかと焼き付ける僕の密かな試みも、
(元々50回にも満たないのだが)もう既に折り返し点を越えて後半へと差し掛かってきた。
そんな12月も半ば、先日のあのカフェへの二度の訪問に触発されたからという訳でも無いが
僕の心の奥底から今まで禁断にしていたあの店を紹介してみたいという欲求が湧き上がっていた。

それは、もう残り少ない“イロハ計画”の中で紹介したい店が限られてきた事は勿論、
例のリストに記載された店も、未だ浅草の天国の一軒しか訪れておらず、その為だろうか
一時期あれ程頻繁だったグループからのコンタクトもここ最近パタリと途絶えてしまった様で、
“彼の情報を得たい”という本来の目的をも頓挫しかかっている不安も、多少なりに存在していた。


それに何より、今回のイニシャルでもある「ヤ」のイメージに何処かピッタリな感じがして・・・
能書きはこの位にして、早速出発する事にしようか・・・今回訪れる街には可愛らしい・・・


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たった一両のこの電車が僕を連れて来てくれる筈になっていたんだ!

尤も、残念ながら諸事情によりこの真岡鉄道を利用するプランは今回は見送る事となり、
益子の街へと入る手前の踏切で、のんびりと眺めているだけになってしまったけど・・・
可愛らしい電車クン、僕の目の前を過ぎ去るスピードなら新幹線より速かったよ!


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陶芸の販売店が左右に立ち並ぶ益子焼きのメインストリートとも呼べる大通りを抜けて、
更に小高い山の方へと細い路地を入ってゆくと辺りはすっかり里山の景色を見せる。
この秋は様々な場所の紅葉を紹介したけれど、今、僕は山吹色の中に立っていた。

で、果たしてこの先に目的の店はあるのか、と少々不安が過り始める頃なのだ・・・


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この数本の大きなドングリの木に守られている、可愛らしい小さな山小屋を目にするのは・・・


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pain de musha musha and coffee


遂に僕は、この森の中でかくれんぼする小さなカフェ兼パン屋にやって来た。

彼が“兄”と慕っていた隣り街のマエストロが、親交の深いこの店でイベントを行ったのは
今年の1月、もう彼是1年近くが経とうとしているのだが、それまで彼は自身の日記の中で
ほんの2~3の例外を除いてこの種のイベントを紹介するのを極力避けている様に感じられた。
唯一、これ以上は無い程の情熱を傾けて紹介したイベントこそ、この店と“兄”とのコラボだった。

その物語で、決して川のムコウ側には出ようとしなかった少年を引っ張り出したのだから・・・
もう、ジョンとポールの物語の続きに触れる事は出来ないの?・・・なぁ、どうなんだい?


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朝から飲まず食わずでの長いドライブと今年一番とも言える朝方の冷え込みの為に
兎に角温かいものが欲しかった僕は、ドングリの木の横を通り抜けて石段を駆け上がった。


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あの真っ白な木枠の引き戸の側の、直ぐ目の前に大きなドングリの木を眺める事の出来る
四角い卓の場所こそ、彼があの物語でチョイスした席だった・・・外の日差しが気持ち良さそう・・・



とても優しくて物腰の柔らかな店主夫妻と過ごすひと時は、心安らぐ気持ちに誘ってくれる。

その会話の中で偶然出てきた話題が、お気に入りの椅子についてだった。
実は、最近掲載された雑誌の中にデザイン&建築関連のものがあったのだ。

僕は嘗て、イームズやプルーヴェなどのチェアーを追い求めていた時期があった。
今でこそレプリカ製も数多く出回り、カフェの椅子としても定番になったが、あの頃は、
程度の良い中古品に脚や座面のファブリックをカスタムしてもらうのが凄く楽しみだった。

その事を伝えると、ご主人が穏やかな口調で僕に語った。


 貴方に見て頂きたい自慢の椅子があるのです。


果たしてその椅子はカフェの奥の、2畳程の板敷きのスペースに置かれていた。


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写真での印象以上に小さな椅子は、まるで子供用と見紛うばかりであったが・・・


 勿論大人だって座れますよ・・・どうぞ、腰掛けて下さい!


その言葉に恐る恐る腰を下ろすと・・・何てしっかりとした椅子なのだろう!!

その華奢なビジュアルとは裏腹に、座った際に腰に伝わってくる安定感と言ったら、
まるでこの椅子が切り出される前の、まだ大きな樹木に優しく包まれている感じだった。
柔らかな発色が美しい淡い赤色のフレームに、微妙な反り具合が腰に自然とフィットする
桜の古木を使用した座面に映る枯れた色合いの木目からは、木の温もりが直接感じられる。

イベントではあの方が着かれていたのも納得だが、僕はこの椅子がすっかり気に入ってしまった。


このスペースはギャラリーとしても活用され、側のカウンターには陶器がディスプレイされていた。


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そう・・・僕も心の中で誓ったドングリの約束を果たしに、この森の中のカフェに来たんだ。


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クグロフ


可愛らしいクグロフ型で焼きしめられた、伝統的な焼き菓子のクグロフをオーダーした。
先日のシュトーレンでも感じたけれど、クリスマス当日の華やかな食事を迎えるまでの間、
素朴な焼き菓子を少しずつ頂きながら過ごす・・・なんて素敵なクリスマスの過ごし方だろう。

バターをたっぷりと練り込んで焼き上げたブリオッシュ生地と伺っていたのだが、
ふかふかの生地は口の中でふわっと溶けてバターの心地良い風味に包まれてゆく。
ラムレーズンの豊かな香りとねっとりした食感、噛んだ際に広がるフルーティーな風味、
ナッツ香ばしさとカリっとした歯応えがふんわりしたブリオッシュにアクセントを加えていた。

レモンのほろ苦くも爽やかな薫りが微かに漂って、この素朴なパンに奥深さを与えていた。


このクグロフを食べていると、本当にクリスマスが待ち遠しくなってくるよ・・・


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コーヒー (カメルーン・カプラミ・ジャバ・ロングベリー)


3種類の産地(カメルーン、エクアドル、そして中国!)から、中焼きのカメルーンをオススメして頂いた。

先ず注目して欲しいとサーヴされたのが、カフェでのコーヒー用にと特注された此方の専用カップ。
縦長の筒状になっているのはコーヒーの香りをダイレクトに感じて欲しいとの配慮からだったが、
コーヒーの芳醇な香りは勿論の事、店主のコーヒーへの情熱や拘りをも感じ取れるのだった。

早速香りを堪能させて頂くと、柔らかなローストのまったりとした心地良い香り・・・
この中焼きのロースト感から、てっきりマイルドな味わいを連想していたのに・・・

パンチのある苦味の中から広がる円やかな酸味と微かな甘みが作り出す複雑な味わい!
しかも、冷めてくると内側かすっきりとしたら酸味が段々顔を覗かせてくる感じがした。


唯、豆を焼いただけの飲み物なのに・・・何て奥深い飲み物なのだろう・・・
このコーヒーの魅力にウットリとしながら惹き込まれていると・・・


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・・・この日のメインは大き目のカップに入ってやって来た。


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冬野菜のクリーム煮・ポットパイ


とっても“ホット”な“ポット”パイ!!

大きなカップを覆い尽くすパイの蓋はほんのりとしたこんがり小麦色。
アイボリーのカップからモコモコとはみ出して・・・まるでキノコの傘みたい。

そのカップを覆った何処か愛らしいパイの蓋を暫く眺めていた僕だったけれど、
冷めてしまわないうちにと、名残惜しくもスプーンを刺すとパイ生地はサックリと
崩れて熱々の湯気がいっぱい立ち上り、僕の食欲も一気にヒートアップするんだ!


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サックリと焼かれた表面は、仄かに粉の香ばしさが感じられクリスピーな美味しさ。
それでいて内側の方はむにゅっとして柔らかな食感と素朴な味わいが何処か懐かしい。

大きなカップを更に大きく覆ったボリューム満点の、二つの美味しさのパイ生地の中には
キノコの豊かな香りとほんのりとクリーミーな風味が抜群にマッチしたシチューがたっぷり!

クリーミーなシチューには、とろとろに煮込まれた甘いネギにシャキシャキでほっこりした蓮根、
そして何と言っても、ムニュっとした食感から広がる旨みたっぷりのキノコがたっぷりと入っていた。
スプーンで崩し入れたパイ生地はシチューを吸い込んで絡み合い、更に一層美味しさを増していく。


全て具材を包み込む優しいシチューは素朴で優しい味付けとたっぷりのミルクの、
小さい頃、寒い夜に作ってもらった、あのママの優しい温もりがいっぱい感じられて・・・

森の中の小さな小屋のカフェで頂く野菜とキノコがたっぷり入ったあつあつパイシチューは
それまでの僕の、冷え切った身体と心をゆっくりと優しく、そして、暖かく包み込んでくれていた。


身体も心もすっかり温まった僕はこのカフェを後にして、“もう一つの”入り口に向かった。


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カフェだけじゃない・・・ずっとこの“ムシャムシャパン”の小屋に憧れていたんだよ!

まるで何処かの惑星の生き物みたいな何とも名状し難いオブジェにも遂に出会えた。
真っ白な扉のノブに手を掛ける前、僕はこの小屋の屋根を暫くの間眺めていた。
この時期に訪れる機会があったら、是非ともその目で確認して欲しいのです・・・

この“ムシャムシャパン”の小さなお店の屋根の色は何色かって・・・


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クリスマスのカラフルなイルミネーションも良いけれど、このパン屋さんにぴったりだよね?


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クリスマスって言えば・・・サンタさん、この前は綺麗な花と懐かしい思い出をありがとう・・・


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中に入ってみると、丁度パンが焼き上がったところだった。


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ちっちゃなまん丸パンに、しっかりしたハードパンに・・・季節の野菜のキッシュもあったよ!!
棚の向こう側にいる店主と相談しながらお気に入りのパンを選ぶって、ちょっと嬉しいよね。


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やっぱりキミたちは此処にも遊びに来ていたんだね・・・

あれっ、キミたちが向かっているは、上の方にあるちっちゃな丸いぼんぼりを付けた・・・
そう、その白くてまん丸が寄り添った花・・・その周りには優しい“おてて”が守ってくれて・・・



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金山城跡 (群馬県太田市)


数日が過ぎたある日、森の小さなパン屋さんで再会した小鳥クンに教えてもらった僕は、
彼が慕っていたマエストロがそうした様に、隣り街のとある場所までやって来たのだ。

街の中心から北に向かっていくと、“呑龍様”で名高い大光院という浄土宗の寺院に辿り着く。
更に車を走らせる事数分、辺りは直ぐに山道へと変わり、くねくねした細いを登ってゆく。
そして、展望台付近の駐車場に車を停めてからは、この石段を徒歩で登る事になる。


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全く舗装のされていない山道の左右からは壮観な太田の街並みを見下ろす事が出来る。
それまで息を切らしながら重い足取りで進んでいたが、この景色に爽快な気持ちになるのだ。

そして、道中ではこんな美しい偶然の出会いもあったりするから嬉しい。


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ヤマツツジ


何と、返り咲きのヤマツツジの群生が枯れた木々の間で華やかさを添えていた。
この可憐な薄紅色の花弁にすっかり心も癒されて、更に先へと進む意欲も出てきた。


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歩き始めて20分は経っただろうか・・・目の前には重厚な石垣が圧倒的な存在感で迫ってきた。
金山城跡・・・そうか、此処は嘗て難攻不落の堅固な山城として近隣に名を馳せていた様だ。

この聳え立つ石垣の間を通り抜けると、一番奥には元本丸が置かれていた神社がある。


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だが、僕が目指していたモノは、神社の境内に向かう緩やかな石段の脇にあった。


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「ヤツデ」


寒い北風に吹かれながら真っ赤に腫らしたちっちゃな紅葉の“おてて”の前で、
緑色した大きな“おてて”が優しく包み込むようにその“手のひら”を広げていた。

僕の手よりも大きさのあるくっきりとした輪郭の濃いグリーンの葉は、
まるでお父さんのような力強さとお母さんのような優しさの両方の手で、
向こうの木で寄り添っている沢山の小さな手を温かく見守っているみたい・・・


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真っ白でちっちゃな丸いぼんぼりを付けたヤツデの花・・・

小鳥クン、やっと僕も見つける事が出来たよ!!



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くるみパンとアン・ノア


素朴な粉がしっかりと焼きしめられて、香ばしくてパリッとしてそれだけでも美味しい。
中を割ると胡桃の風味が皮からは想像もつかないくらいふんわりしっとりの生地と
一緒に口の中でふわっと広がって、本当に自然で優しい気持ちになれるんだ。

ちっちゃな丸パンの中には優しい甘さの粒あんがたっぷり入っていて、
思わずちっちゃな子どもに戻った様に無邪気な笑みが零れそうだ。


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季節の野菜のキッシュ


マットな印象でサクサク感いっぱいのパイ生地の中いっぱいに詰まったアパタイユ。

ふんわりとしてミルキーな風味と卵の優しい風合いが何ともマッチして美味しいけど、
何と言ってもたっぷり入った野菜の食感や旨みがキッシュを更に美味しくしていた。

次回は是非とも、ホールで購入したくなるキッシュだった。


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マフィン


スイーツかと勘違いしそうな可愛らしいマフィンだけれど・・・

トッピングのリングは何とオリーブの輪切りで、赤色はトマトだと言うのだから・・・
そう言えば、このパン屋さんの工房の壁の色はショッキングピンクに染められていて、
森の中の可愛らしいパン屋さんは、時にアバンギャルドなブーランジェリーになるのだった。


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彼が“森の中の幻のパン屋さん”と言って紹介してからもう3年近くが過ぎて、
この店自体はパン屋のみの頃から含めて何と5th Aniversaryを迎えたとの事・・・

でも、何時までもおとぎ話に出てくる森の中の可愛いちっちゃな小屋であって欲しい・・・
そんな事を願いながら、可愛らしいまん丸パンをムシャムシャと頬張っていた。


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遂にジョンとポールの物語に登場する店まで紹介してしまったけれど、
その為もあってか、UPした夜、久しぶりに鍵コメントを貰ったのだ・・・彼等から・・・
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by mary-joanna | 2009-12-18 13:52 | 有為の奥山
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