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ク.花に囲まれて

彼が綴った“三兄弟のカフェ”を遂に訪れてからもう彼是2週間が過ぎようとしていた。
その間僕はカフェやパン屋への訪問はおろか、肝心の花を観賞する事すら怠っていた。
11月末から12月初めにかけては学習塾の講師という仕事柄大変忙しい時期に当たる為
元々週に1日だけの休日も返上して職場に通い詰めていたのは確かに事実ではあるが・・・

実を言うと、例の病気による数週間の中断はあったにせよ、此処までの数ヵ月間で
Elvis Cafeを綴り始めてからこの何日間くらい、迷い、悩み、躊躇した事は無かった。
その理由は勿論、あの夜のテラスで体験した“ほんの”数十分に起因してはいるのだが、
その詳細を語る機会は“必ず”やって来る事になっているので此処は一先ず伏せておこう。


暫くの間、憂鬱な日々を過ごしていた僕に必要だったのは・・・やっぱり花なんだ!
僕は今までそうしてきた様に、のんびりゆったり・・・花に囲まれていたかったんだ!

それに、もう12月も中旬に差し掛かろうとしている今日、自分自身へのご褒美として、
そう、クリスマスプレゼントとして、そんな僕のささやかな願いにぴったりのあの場所で、
しかもプレゼントにぴったりのあの花に会う事が出来るなら・・・そして、何と言っても・・・
僕からサンタさんへの小さな願いを叶えてくれる場所は、直ぐ近所にあるじゃないか!!


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駐車場に車を停めて一番初めに出迎えてくれるのは・・・この可愛らしい小屋の看板。
そして、目の前の駐車場の一角に設置されたテントでは、自家製のパンが売られていた。
店主自らテントで販売する焼きたてパンの芳ばしい香りに誘われて人だかりが出来ていた。

後ろ髪を引かれる思いでカフェに向かうべく傍の坂を上ろうと・・・いや、直ぐに止まってしまった。


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何故なら、この坂の脇にはとても綺麗な・・・



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アークトーチス


細長く伸びたスマートな容姿、コバルトブルーの空との爽快なコントラスト、そして
スノーホワイトの細長い花弁が印象的なアークトーチスだが、キク科の園芸品種は
これまで此処でも幾つか紹介してきたものの、このクールな花弁は黄色く縁取られた
シルバーグレーの中心と相まって、嘗て無いスタイリッシュな雰囲気を醸し出していた。

カフェの駐車場から坂へと向かう途中のお宅の庭先にとても見事に咲き誇っていた為、運良く
庭に出ていた家の方にお願いして撮らせて頂いたが・・・“素晴らしい”の一言に尽きるのだった。


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更に、短いながらお世辞にも緩やかとは言い難いこの坂道を程無く上っていくと
直ぐ目の前に現れる緑に囲まれた真っ白なサイディングの三角屋根の山小屋こそ・・・


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Garden Cafe 南の麦


この素敵な“空中庭園”を彼も勿論放ってはおかなかったが、Cindy's WALKに
最後にこのガーデン・カフェが登場したのはもう1年以上前の10月の事だった。

尤も、彼の日記自体が途絶えてからも、既に数ヵ月が過ぎているのだが・・・


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何とカフェの庭園にはこの蔓に覆われた緑の門を潜り抜けるようになっていて、
まさに此処から先は“花と緑の楽園”になっているのだったが、この緑の門には・・・


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大きく熟れた赤紫の果実が所々に生っており、思わず手を伸ばしたくなる程だった。
後で店主からあけびの一種であると教えて頂いたけれど、これがあけびの一種か・・・

坂からこの入り口まで既に驚きの連続であったが、この先にはそれまでの驚きですら
霞んでしまう様な、素晴らしい光景が広がっていた・・・そして、幾つかの“再会”もあった!


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カフェは庭に面した壁一面が大きく開いていてカフェ全体がまさにテラスとなっていた。
今日の様な良く晴れた日には、太陽の日差しもいっぱい入って何とも気持ちが良さそうだ。

このテラスルームとも呼ぶべき空間からも、庭の草花を存分に楽しむ事が出来るだろう・・・ほら!


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ラベンダー


暫しの間、僕を何処か懐かしい世界へと誘ってくれた藤色のふさふさで着飾ったキミたち・・・
また、あの甘いフローラルの香りと共にタイムスリープの旅に連れて行ってくれないかい?


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カフェのテーブルはアンティークのミシンに古木の天版をつけたカスタム製のものだった。
そう言えば、彼の日記にも度々この様なリフォームされたテーブルが登場していたが、
此方のテーブル&チェアーは坂の途中にあった工房で作られたオリジナルとの事・・・

だから、チェアーは庭にマッチする様にグリーンのグラデーションになっているんだね!


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大きく開いた店内から、この煉瓦畳の小路へと下りて、再び庭の方に向かうと・・・


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庭の木もすっかり紅葉していた。

花は枯れ・・・実が生り・・・種となり・・・そして、また今年も長い冬に備える・・・


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庭の物陰でひっそりと佇む真っ赤なキミみたいにね・・・

暫くジッと見つめていたが、視線を表の庭全体に向けてみる事にしよう。


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見晴らしの良い高台には緑に囲まれたゆったりした庭が広がっており、敷地に沿って
並んだグラストップのガーデニング・テーブルが、何とも優雅な雰囲気を作り出していた。

座った際に視線の高さにぴったりと収まる様に考慮して配置された非常に大きな鉢植えには
それぞれ異なった草花が植えられていて、まさにお花畑の中で寛いでいる気分に誘われる。
また、低木や鉢植えは各テーブル間を絶妙のバランスで隔てている役目もしているので、
周りを気にせずのんびりと出来る自然に囲まれたプライベートな空間を演出していた。

そんなウットリとした中でふと目に留まった可愛らしいレモン色の花々・・・キミたちは・・・


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ウインターコスモス


やぁ、またキミたちに会ったね・・・此処ではみんな寄り添って楽しそうだけど・・・
この前の、青空に向かって頑張っていた彼らは“天国”に近づいたかな?


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ケイトウ


紅色のツンツン頭のキミたちには、え~っと・・・そうだ、あの“友達の家”で会ったね!
もうあれから3カ月近くも経つけど、明るい笑顔が可愛いかった彼女は相変わらず元気かい?

そして、この花の庭園には未だ紹介していない新しい仲間たちも華やかな姿で出迎えてくれた。


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ブルーデージー


シュンと伸びたシャープな花弁だなんて、何てスマートでお洒落なんだろう!!
しかもほんのりとした淡い水色が中心の鮮やかな黄色と似合ってとても綺麗だよ。


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ノースポール


この前「ノ」のイニシャルで紹介しようと思っていたキミたちと此処で出会えるなんて・・・
ブルーデージーがカッコいいイケメンお兄さんなら、キミたちは可愛らしいボクちゃんだね・・・


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アークトーチス


坂の途中で見たのとは全く印象の異なる、鮮やかなオレンジ色のアークトーチス。
先程の、まるで氷雪の様なクールな印象のキミにも惹かれたけれど、太陽の様に
僕の冷えた心を明るく、そして暖かくしてくれるアナタもとても素敵ですよ!


紫色に始まり、イエロー・・・ブルー・・・紅色・・・ホワイト・・・そして、この蜜柑色と、
師走も半分に差し掛かったこの年の瀬に、まるで早春の情景を見ている様だ!!
あの坂を上るまでは全く想像もしなかった麗らかな花の園は、少し寂れかけた
冷たくて薄暗い僕の心をゆっくりと穏やかに照らしていってくれたのだった。

そんな、ささやかながら今の僕にとってこの上ない(多分)サンタさんからのプレゼントを
感じながらも何時までも眺めていたかった庭園の散策にひと区切りをつける事にした。


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ブランケットも用意されていたが、風も無く穏やかな日差しが心地良く降り注いでいた。
花と緑に囲まれた麗らかな庭園でのまったりしたランチのひと時に僕がオーダーしたのは・・・


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タルティーヌ


大きなバゲットを半分に割ってハムやチーズがこぼれんばかりに乗ったオープンサンド。

パリからやって来たブーランジェリーの、東京は四谷の店舗でパンを作っておられた
店主が焼くバゲットは、パリッとした皮の香ばしい歯応えともっちりとした食感から
広がるシンプルな粉の風味と微かな塩味、生地の瑞々しさが何とも言えない!

そんな本場フランスの薫りがいっぱいに詰まったバゲットを一層美味しくしてくれるのは、
ハムやチーズ、新鮮な野菜などのシンプルながらパンとの相性が抜群なこれらの食材たち。


ツナの旨みとシャキッとしたオニオンがオリーブオイルの風味とマッチして食欲をそそる。
生ハムのとろける食感と独特の塩味が、まったりとしたチーズに良く絡んでリッチな味わい。
更にオープンサンドの定番と言えば、フレッシュトマトにたっぷり溶けた熱々のとろ~りチーズ!

3種の美味しさが一度に味わえるオープンサンドだけど・・・やっぱり青空の下で頂くとまた格別だよね!!


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ベリーのタルト


緑の門の脇に立て掛けてあったデザートメニューの中で僕がとりわけ気になったのが、
ラズベリーにブルーベリーに、それにブラックベリーまで入ったゴージャスなタルトだった。

サックリと焼かれた表面のタルト台の中はアーモンドクリームの甘く芳ばしい香りが仄かに漂う
非常にしっとりとした生地がたっぷりと詰まっていた。ひと口頬張る毎に甘い風味と一緒にふんわり
溶けていって・・・後からベリーのキュンっとした華やかな甘酸っぱさが瑞々しさと共に薫り立ってくる!


そして、優しくも何処か切なさを感じさせながら口中に広がって・・・仄かに消えてゆく・・・
まるで、華麗な花畑の花たちが日々段々と儚く散ってしまうかの様に・・・


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シュトーレン


坂の下の駐車場に設けられたテントでのパン販売は既にに完売してしまい、
その代わりに日持ちのするシュトーレンがレジの向かい側の台に置かれていた。

ここ数年、この季節になると洋菓子店だけでなくパン屋等でも見かけるようになった
このシュトーレンであるが、すっかりクリスマスの定番菓子として市民権を得たようだ。
よく考えてみるまでもなく、およそ一晩限りで終わってしまう生クリームのケーキと異なり、
何日間もの間少しずつ切り分けゆっくりと楽しめるのもこの伝統菓子の魅力の一つだろう。


そう言えば、彼はこの時期、毎年シュトーレンを紹介していたっけなぁ・・・
そんな事を思いながらも、リーズナブルなカットサイズを購入する事にした。


花に囲まれたガーデンカフェに別れを告げるも、坂の途中で足を止める。
その訳はと言うと、勿論、其処に今日僕が紹介すべき花があったからなのだ。


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「クリスマスローズ」


ここ数年、クリスマスを特別に祝った事なんて無かったよなぁ・・・

第一、毎年クリスマス前後には2学期も終わり、いよいよ冬期講習に入る時期だったのだ。
特に、最近は受験生も担当する様になったので、僕にとっては尚更縁の無いイベントだった。
通常より早い時間から夜遅くまでずっと教室で過ごし、帰宅して真っ暗な台所の電気を点けると
テーブルの上に皿が置かれてあり、ラップを取ると僕の分のチキンやサラダが寄せ集められていた。

で、冷蔵庫の中から白いケーキの箱を取り出してみると、中から出てきたのは所々に生クリームが
はみ出した、雑に切り分けられた断面のスポンジがボロボロに乾いた一人分のショートケーキだった。
ケーキの表面には蝋燭や飾り、苺が乗っていた筈の形跡だけが残っていて、本体は取り去られていた。
つまり、深夜に一人台所のテーブル(と言うより冷蔵庫の前)で口にする、スポンジが剥き出しになった
生クリームのケーキこそ、年によって程度の差こそあれ僕にとっての“クリスマスケーキ”の味なのだった。

それからすると、この半年間の間に見た目も味も、とんでもなく素晴らしいケーキを食べ続けててきたと
半分呆れてしまう位、我ながら感心してしまうのだが・・・でも、今年のクリスマスケーキはと言えば・・・

・・・今語った、スーパーか近所のケーキ屋で購入したボロボロのスポンジでも・・・悪くはないよ!!


こんなに良い天気なのに・・・とっても綺麗なコバルトブルーの青空なのに・・・

何処か物寂しそうに俯いて下を見ているぼんぼり型したキミを眺めていると、ロマンチックとは程遠い、
パッとしない僕のクリスマスの夜が何故か懐かしい思い出になって瞼の裏に映し出されるんだよ・・・
でも、そんな感傷的な気持ちにさせてくれるのも、サンタさんの想定の内だったりするのかな?


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シュトーレン


たっぷりと塗した甘い粉糖で固められた表面の中には、ホロホロの甘い生地。
その生地に漂う何ともリッチで濃厚な薫りと言ったら・・・まったりした気分に誘われる。
しかも、中には香ばしいナッツやねっとりとしたジューシーなドライフルーツ、しっとりとした
マジパンの塊りが所々に入っていて素朴なのに何処を食べても楽しい発見に出会えるのだ。

見た目の華やかさはクリスマスケーキに譲るものの、思い出作りにはぴったりの焼き菓子だね。


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僕の願いが通じた訳では無いだろうが、本来は年明けの2月頃からが花期となる
この「クリスマスローズ」の早咲きの株に出会えたばかりか、12月とは思えない位の
様々な種類の美しい花たちをゆっくりと観賞しながら美味しいランチを楽しむ事も出来た。

また、当初の目的でもある“例の旅”に戻れそうかな・・・たとえサンタさんでもこのお願いは・・・
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by mary-joanna | 2009-12-14 03:01 | 有為の奥山
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