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オ.シークレット・ラヴァーズ Ⅱ

11月も後半に差し掛かると昼間でもコートが手放せなくなってくる。
この日みたいな薄雲に覆われた空の下では尚更その様に感じてしまう。
今年も手足の先が凍る様に冷たくカチカチにひび割れる季節がやって来きて
この先数ヶ月も続くのかと想像しただけでも憂鬱な気分になってしまうのだが、
3年連れ添ってきたあのダッフルコートは袖先の解れが如何しようも無くなって
先日泣く泣く処分したばかりで、次の休みに新調しようと思っていた矢先だった。

時折り明るい太陽の光が差し込むものの何処かスッキリとしないこの日みたいに、
僕の心の中も薄靄色したフィルターを通して覗いている様な煩わしさが感じられた。
別に今日この場所で全てにケリを付けようなんて、これっぽっちも思っちゃいないさ。
その舞台はちゃんと用意してあるじゃないか・・・しかもElvis Cafeを始めた時から!
唯その為に、イロハのイから季節を跨いで漸く半分過ぎまでやって来た訳なのだし。


だけど、今日、このカフェを訪れたのには勿論理由があった。
そう、如何してもこのカフェでなければならない理由が・・・

この前、「ノスタルジー」を紹介したから?それとも追憶の女性に願いを込めたから?
兎に角、“その時”に備える意味でも、僕は遂にこのカフェを訪れる事にしたのだ。
半ば、自分自身に言い聞かせる様に封印していた、“あの三兄弟”のカフェに・・・



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café la famille


どの雑誌にも同じ様に書いてある・・・誰のブログを見ても変わらない・・・
街の外れの住宅街の只中に突然姿を現す、外国に迷い込んだ様な風景・・・

でも大袈裟ではあるが、それこそ此処で体験するべき事の全ての始まりな訳だし、
僕はこの風景を見る為に1時間半もの時間をかけて足利からやって来たのだ。


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(後から気付いた事だが)建物の奥へと入った場所にも駐車する場所があった様だったが、
まだオープンする前だった為か、ランチの時間帯は曜日を問わず連日満席となるこのカフェも
今のところ僕以外に人の気配は見られなかったので、この建物の前に車を停めて待つ事にした。

路地に面した所々煤けた真っ白な壁の大きな切妻屋根の家屋の側面には、大小の窓枠が
不規則に開けられており、左右に付いた空色の飾り雨戸が可愛らしい雰囲気を醸し出していた。
更に建物を取り囲む不揃いの高さの板張りのフェンスまで含め、彼が紹介した世界そのものだった。

思わずフロントガラス越しに身を乗り出して魅入ってしまったが、降りて辺りを散策する衝動に駆られた。


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フェンスの脇にポツンと立っている背高のっぽの外灯クンが訪れる人々を最初に出迎えてくれる。
ぐるぐる迷って漸く着いてちょっぴり心細くなった僕たちの心を、キミの明かりがそっと癒してくれる。
だから、たとえ辺りが真っ暗でも、僕たちはキミの優しい明かりの下に安心して車が停められるんだ。

そう言えば、このカフェには辺りをそっと照らしてくれる個性豊かなランプが随所に配されていた。
そして、何時だったか彼も日記でその事に触れ、“ランプ・コレクション”なる紹介をしていたっけ・・・


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敷地内に植えられた樹木も既に黄や山吹に色付いており、すっかり晩秋の装いを見せていた。
街中にいながら四季折々の自然の移り変わりを感じながら過ごす事が出来るのも此処の魅力だ。

その事を知ってか知らずか、彼は5月、8月、1月と、季節を変えてこのカフェを紹介していた。
そして、あと足りなかったのが、僕がこうして訪れている秋のfamilleという事になる訳だけれど・・・


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強風の日に外れかけた鉄柵の門を弟二人だけで修理して、
異国の地で独りで暮らす兄に家の事は大丈夫だと安心させる・・・

・・・もしや彼には離れて暮らす兄弟でもいるのかしら・・・


オープンの時間となり、スタッフがこの鉄柵の門を開けにやって来た。
それにしても、東方にある国のパン好きな住人って・・・君自身の事かい?


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左右の建物に伸びる枕木の小路をさり気無く彩る小さな花の可愛らしいピンクに、
長いドライブの疲れや待っていた時間もすっかり忘れてウットリとしてくるんだ。


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庭に入ると恐らく動く事は無いであろう錆付いた自転車が芝生の中に置かれていた。
その姿はまるでもう戻ってこない主人を何時までも待っているみたいにも思えた。

折角手放しで乗れる様になったというのに・・・


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 父さんと母さんがここに座って・・・
 僕らが目の前の庭を駆け回って・・・



家族みんなが揃ってこの家で新しい朝を迎える・・・何て素敵な事じゃないか!
この光景を前にして暫く感慨に耽っていたが、おもむろに隣りの扉に手をかけた。


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店内に入った僕は、迷わずに一番奥の部屋へと向かった・・・例の場所は・・・


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一番奥の開放的なダイニングの突き当りの、壁一面に大きく開いた窓からは、
薄曇りの昼時ではあったが外の日差しが降り注ぎ白い店内を更に引き立てていた。

まるでこのカフェを訪れたゲストに爽やかな自然の明かり出迎えてくれている様に思えた。


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ダイニングの広い空間を見回した僕は、直ぐに探し物の一つに気付いた。

だって、あの時のUFOは余程この場所の居心地が気に入ってしまったのか、
飛び去る気配も見せずに今もこうして同じ場所をゆらゆらと漂っているのだから。

そして、もう一つこのカフェで忘れてはならない大事なオブジェが・・・


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壁に掛けられた調理器具の数々は、彼がどうしてもUPしたかったと言って紹介し、
また、ブライアンの物語では、兄に対するささやかな優越感のアイコンとして登場した。


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更に、ブライアンの物語と言えば・・・あぁ、あんなところに・・・


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離れ離れの兄との再会を夢見て作り上げたヨットの模型・・・

このヨットで早く家に、家族の元に帰りたいんだ・・・難破してしまう前に・・・


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この空間は本当に船のデッキにいるみたいで・・・

店内からテラスへと下りた直ぐのところの、以前は4人掛けの丸テーブルが
置かれていた場所には、現在2人掛けのデスクが代わりに置かれていた。

彼の描いたあの家族の間にあれから何らかの変化があったのでは?
でも僕は待っているよ・・・また君が愛してくれる日を・・・何時までも・・・

そんな妄想を膨らませつつも、そのデスクに着く事にした僕だった。


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こんなところに“カール”の椅子が・・・本物の“カール”はもうこの世にいない・・・

そして、貴方までがいなくなってしまったら、もう僕は・・・
いや、それは神様にしか分らない・・・だったよね?


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10食限定キッシュプレート


非常に人気のランチプレートで直ぐにオーダーストップがかかると言う
此方の限定キッシュプレートを偶然にも頂く機会に恵まれたのだが・・・

大皿に沿ってぐるりと並んだバラエティー豊かな料理の数々を
目の前にして、オープンと同時に完売との噂にも納得だった。


カリフラワーのスープ

香草の薫りとほろ苦さが淡白なスープにアクセントを加えていた。
主役のカリフラワーはサラりとした食感でスープに溶け込んでいたが、
そのカリフラワー本来の自然な美味しさや瑞々しを存分に堪能出来るのだ。
温かなスープはカリフラワーの持ち味を生かす為にシンプルな味付けながらも
全てを優しく包み込んでいて、そのまろやかさとクリーミーさがまた秀逸だった。

鶏肉と豆腐のハンバーグ

メインには可愛らしいサイズの豆腐のハンバーグとの事であったが
ミニサイズのココット鍋に収まったハンバーグのこんがりとした表面は
ビジュアル的に食欲をそそるばかりか、食べた際の香ばしさに笑みが零れる。
ふわふわとした食感のやわらかな豆腐のつなぎから溢れ出さんばかりの鶏肉の
ジューシーな旨みとコクは味のみならずボリューム的にも十分満足出来るのだった。

温野菜&ディップ

サラダとしてだろうか、シンプルな温野菜が添えられていて、この季節には嬉しい。
目移りしそうなプレートの中では単なる脇役的な扱いと、何気無く手を伸ばしてみる。
ふっくら炊かれたブロッコリーと蕪は野菜の持つ食感も絶妙に感じられて・・・何より甘い!
そして、何と言ってもカップに盛られたほんのり卵色のディップの美味しさは、衝撃的だ!!

ジャガイモのホクホクした感触と卵のまろやかなコクが一つとなったディップは
今が旬の冬野菜を更に美味しくしてくれるだけで無く、パンとの相性も抜群だった。


全7品、スペシャルなカフェのスペシャルな料理を少しずつ頂けるなんて・・・
みんなのワクワクした笑顔が瞼に浮かんでくる様で・・・僕も笑みが零れていた。

そして、そんなプレートに名を冠している料理がこの・・・


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キッシュ


プレートのどの料理もメインに成り得る完成度と美味しさを誇る中で、
フランスの伝統的郷土料理であるこのキッシュを中心に据えたのは、
このカフェが本格的なフレンチのメニューに拘っているからだろう!!

ザックリ焼かれたパイ生地の芳ばしい香りとサクサクの食感が堪らない。
その中にはたっぷりと流し込まれた卵は、ふわふわで非常にクリーミー!

しかもジューシーで噛み応え十分の旨みと塩味がたっぷり乗ったベーコンに
熱々でホクホクしたジャガイモの自然な美味しさが卵と一体になっているのだ。

全てが一つの中に閉じ込められていて、素朴だけれど非常に複雑な味わいが
身体全体に伝わって・・・とても幸せな気持ちになれる伝統的な卵料理だった。


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カプチーノ


更にこのカフェに無くてはならないのが、此方のカプチーノだろう。
サーヴされた瞬間、僕は思わず“わぁ”って小さな声を漏らしてしまった。

だって本当にずっと憧れていたんだ・・・彼のブログに登場するハートのラテアートを・・・
でも今日此処にあるこの愛に満ちたハートも直ぐに消えて無くなってしまうなんて・・・


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クリームブリュレ


このフランスの伝統的スイーツは彼の日記で何度となく紹介されてきたし、
まだ20数回足らずのの僕の日記でも全く始めての登場という訳でもなかった。
更に、とろりとした濃厚な甘さと卵の風味がマッチしたデザートが大好きなのだ。

でも、このカフェのクリームブリュレと言ったら・・・


ヨーグルトアイスのひんやりした舌触りと、その直後に薫り立つ仄かな甘酸っぱさ。
控え目ながらふんわりと薫る柚子の清々しさは冷たいアイスの感触と相まって、
まるで伝統的な和菓子の様に落ち着きの中にも凛とした気分に誘ってくれる。

これだけでも十分スペシャルなデザートとなり得るのに・・・脇役だなんて・・・

クリームブリュレの要とも称される表面のカラメルをスプーンで突く瞬間の、
彼も幾度と無く綴ってきた、“このデザート最大の贅沢な瞬間”・・・僕も同感だ。

パリッとした小気味良い音を立てて割れたカラメルの硬い感触と中のブリュレの
口の中でとろけて消えてしまう食感を同時に味わう際の、あの瞬間と言ったら!
更にカラメルのパンチのあるほろ苦さと濃厚な甘さをコーティングしていく様に
ふんわり広がってゆく仄かな卵の薫りいっぱいのクリーミーで優しい風合い。


まさにこの類い稀なカフェだからこそ成し得る伝統と革新の融合を堪能出来るのだ。


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僕がいたテーブルは建物と庭とを隔てているテラスの一番端に位置していたので、
デッキを取り囲む古木のフェンスを越えると直ぐ向こう側は庭と畑に通じていた。

デザートを終えた僕は、あるモノを探す為にデッキを下りて庭に行ってみる事にした。
このカフェを訪れる大半の人々が、こうして庭の散策を楽しんでいる様子だった。

そして、そのモノは直ぐ隣りにひっそりと佇む様に取り付けられていた。


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あぁ、これか・・・

本当だったらまんまるランプとまんまる雲のツーショットを撮りたかったけど、
彼みたいな気まぐれクンだから、直ぐに形を変えて何処かに行ってしまうんだ。

この家で過ごしたあの甘い日々が無くなるのを目の当たりにするのは辛いんだよ・・・


真っ白のパレットに溶かした淡いブルーみたいな空と土の匂いが微かに漂う剥き出しの畑、
晩秋の今でも様々な彩りを添えてくれる庭の草木に別れを告げて、僕はこのカフェを後にした。



そして、数日が過ぎたある日の晩、すっかり日が暮れ辺りは漆黒の闇夜に包まれて・・・


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真っ暗な路地を進んでこの外灯に照らされた瞬間の安堵の気持ちと言ったら・・・
つい先日の昼間に訪れた時は、さも客観的に語っていた筈だったのに・・・


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そして僕は再びこの水色のドアに手をかけた・・・


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勿論向かった先もこのデッキだったが、晴れた午後でも肌寒い11月も下旬の、
しかも夜の帳もすっかり落ちて、風は無かったとはいえ寒さも昼の比では無かった。

それでもこのデッキを希望する我が儘な訪問者にも、このカフェのスタッフは皆、
まるで家族の一員の様に温かく接してくれた・・・ブランケットの温もりが心地良い・・・


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ショコラ・ショー


こんな寒い夜は、熱々の甘くて濃厚なショコラ・ショーが恋しくなるんだ。
それはまるで優しさに満ち溢れた貴女の温もりにも似ている様で・・・


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あんざい果樹園の洋なしタルト ヨーグルトアイスと


まるで白いきのこみたいな可愛らしいヨーグルトアイスとツーショットで
仲良く出てきたのは、かの有名なあんざい果樹園の洋なしで作ったタルト。

洋なしの爽やかな薫りが仄かに広がっていく様で・・・ウットリと眺めていた・・・


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ガレット&フロランタン


お土産として持ち帰ったのはfamilleの焼き菓子・・・彼の定番のお土産でもあった。


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「オステオスペルマム(イエロー)」


近所の園芸店の軒先をパステルトーンの淡い黄色やピンクに染め上げる、
やや小さ目のポットに入った何とも可愛らしい宿根草に心を奪われてしまった。

まるでマーガレットみたいに沢山付いた細長い花弁は花占いにぴったりかも知れないね。
そんなロマンチックな願い事は柄じゃ無いけれど・・・でも如何しても君に占って欲しいんだよ。


それは勿論、例の事についてなんだけれど・・・もし僕の考えが間違ってなければ・・・


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“家族の食卓”の古びたテーブルに木の椅子が二つ・・・仲良く寄り添って・・・



今回は、約2年前に此方のカフェを紹介した際の物語をイメージして作りましたので、
もし宜しければ是非ともその日記の方もご覧になって頂ければと思っております。

http://navy.ap.teacup.com/spookycindy/248.html
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by mary-joanna | 2009-12-08 02:55 | 有為の奥山
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