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ウ.天国に向かって

 Littleさん、あの夜以来、ご無沙汰しております。
 最近の宇都宮でのご活躍、楽しく拝見させて貰いましたわ。

 でもね・・・

 ハニーのリクエストには三度も応えていらっしゃるというのに、
 先に“予約”した私のリストの方は一向に紹介してくれないとは・・・

 何て連れないお方なのかしら・・・



やはりと言うか、当然と言えばそれまでの事なのだが、
パピヨンとハニー・・・2つの点は一本の線で結ばれていた・・・
それに、蝶々と蜜・・・そうだね、考えてみれば花のブログだものね。

このパピヨンからの(今回は)鍵コメントがElvis Cafeに送られたのは、
“みはし”の通りと橋と、僕を一瞬で虜にしたフレンチの薫りでいっぱいの
あのカフェの、三つの“みはし”を紹介してまだ一日と経たない夜の事だった。

ハニーの沈黙は気になるが、(えこ贔屓する?)僕の作戦は一応成功した様だ。


パピヨンが僕に渡した、一枚の紙に無機質な箇条書きで記載された店の名前。
そう、僕自身が時間も忘れて幾度となくパソコンのモニターを食い入る様に凝視し、
その街や自然の風景に空気の様に溶け込みながらも全く個性的で他には見られない
類い稀なるセンスに圧倒されこの上ない衝撃を受けた、十数軒の素晴らしい店の名前。

・・・残念ながら既に閉じてしまった店も含まれているのだが・・・

その夢の店を僕はこのブログを通じて制覇し尽くすつもりは、さらさら無かった。
更に、例のグループとの約束(少なくとも、あのパピヨンが僕に語った言葉)では、
リストの中からElvis Cafeに紹介する店の数や順序等は僕に委ねられているのだ。


このリストを手にするずっと前から、僕は既に決めていたんだ。
最初からこんなリストが無くたって・・・お前等なんかに会わなくたって・・・

最初から・・・そう、最初から決めていたんだよ。
僕が貴方に伝えたいメッセージとして、あの物語の舞台に登場する店を
もしElvis Cafeで紹介するなら、僕が一番初めに訪れようと思っている店は・・・



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足利市内の外れに位置する小さな駅からの出発となったが、今回の目的地はこの駅から
出発する東武伊勢崎線を、(途中の久喜駅で乗り換えるが)唯ひたすら終点まで目指すのだ。

この日は抜ける様な青空が気持ち良く、高架式のホームからは付近の街並みや収穫を終えて
剥き出しになった田畑の風景、更に北側に広がる小高い山々の木々の様子まで見る事が出来た。


時刻は丁度午前9時、普段は通過するこの寂れた駅にも朝の時間帯の準急列車は
上りに限って言えば、通勤や通学用に比較的頻繁に電車が停車してくれるのだった。
そして、東武伊勢崎線の終点の駅までの約2時間、電車の中で揺られ続ける事となる。

この2時間もの缶詰状態の中、持ってきた本を読みながら過ごそうと思っていたのだが、
今回訪れる予定の店と、もう一ヶ所、如何しても立ち寄っておきたい場所の事を考えると
如何にもページが進まず、一旦捲ったのに全く内容が頭に入っていない事も多々見られた。
結局途中で本を読むのを止めてしまった僕は代わりにバッグの中から数枚の紙を取り出した。


数枚のA4のコピー用紙にはびっしりと文章が書き込まれていたのだが、これは昨夜僕が
あるブログの文章部分をコピーしワードに移し替えた後、改めてプリントアウトしたものだった。

その文章の1行目には、その記事のタイトルとして“04 Come In Alone”と書かれていた。
そう、これから僕が訪れる予定にしている浅草のカフェを紹介した、Arnold日記の写しなのだ。
2時間もの移動時間の大部分、僕はたった数枚の記事を何遍も繰り返し読む事に費やしていた。

・・・今日、これから経験するであろう未知の領域に備えて・・・


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駅前の交差点を何の違和感も無く人力車が闊歩する街、浅草。

東武伊勢崎線の終着点でもあるこの街は、足利からやって来た僕にとって
純粋に交通面に於ける東京への玄関口となっているのは勿論の事なのだが、
それ以上に東京の店が大半を占めている彼の日記への入口に感じてしまうのだ。

駅を出て目の前の交差点を渡れば江戸の街へとタイムスリップする有名なあの風景が
待っているのだが、180度振り返って橋の方に視線を向けるとこの街のもう一つの顔である・・・


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電車の中からこの2つのモニュメントが視界に入る度に目で追ってしまうんだ。
それと同時に、あぁ・・・また浅草にやって来たんだなぁ・・・って思ったりもして・・・

そんな浅草の“今”と“これから”に、もう一つ新たな仲間が加わる事になった様だが、
その前に如何しても行っておかなければならない場所がある・・・それこそ今回の・・・


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雷門


どうだと言わんばかりの圧倒的な存在感で参道の入り口に仁王立ちしているキミこそ、
まさに“浅草の顔”・・・まだまだ彼等新参者たちがこの役を引き継ぐのは早いかな?

記念撮影をしている人たちの間を何とか掻い潜り雷門を通り抜けると先の混雑は
治まるどころか、前方を確認する事すら難しい程の人の波が待ち受けていた。


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仲見世通り


雷門から浅草寺の境内入口の宝蔵門までの、僅か数百メートルの細い路地に、
一体幾つの店が軒を連ね、どれ程の人間がこの通りを練り歩いているのだろう。

そんな仲見世通りに犇めく観光客の波を掻き分けながら、左右の店に目もくれず、
僕はやや小走りにも近い足取りで前方の視界を段々占拠する二重の赤い門を目指した。


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仲見世通りの付け根とも呼ぶべきこの荘厳な入母屋造の門の内部こそ、
いよいよ浅草寺の境内となるのだが、参拝をしに来た訳ではなかったので、
これまでのスピードが嘘の様に落ち、境内の中をぶらぶらと散策する事にした。

目的の店の開店時刻には十分に時間があったのだから仲見世をのんびりと
見て回れば良かったのだが、如何いう訳か人込みの中だと忙しなくなるらしい。


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宝蔵門と五重塔と・・・浅草ビューホテルの新旧スリーショットなんて、どう?

何度か再建や修復を繰り返しているとは言え、東京都内最古の仏教寺院であると共に
下町情緒溢れる浅草の中心的スポットとして国内外から観光・参拝に訪れる人の絶えない
浅草寺のイメージと言えばやはりこの朱塗りで統一された境内の各建物ではあるけれど・・・

その浅草寺の直ぐ目の前に聳える高層ホテルとの風景も、もうすっかり様になってきたかな?
でも、隅田川の反対側には更に度肝を抜くインパクトのスタルク建築と、これから僕が訪れる・・・


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先日宇都宮の二荒山神社で見る事の出来た菊の展覧会は此処でも行われていた。
この時期は全国の寺社で開催されるイベントなのだろうが、大小様々な種類の
色鮮やかな菊が境内の特設さ会場に展示され、参拝客の目を惹いていた。


境内の裏手に回った僕は、もう一つ、先日の宇都宮訪問に欠かせないあの花に出会った。
その際は足利から小さな鉢植えを持参したのだけれど、今回はこんなにも立派な・・・


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ムラサキシキブ


また貴女にお会いしましたね・・・この前よりも更に一層華麗に着飾って・・・
貴女の鮮やかな紫に輝く肌は厳粛な雰囲気漂う歴史的な空間に良く似合いますよ。



予定の時刻が迫ってきた事もあり、浅草寺を後にして第一の目的地でもある・・・
例の場所へ向かって歩み出した・・・彼が未だWに知られる前にひっそり訪れていた・・・


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伝法院通り


先ほどの仲見世とはまた異なった、江戸下町の歴史情緒を感じさせる趣きのある通りだ。
華やいだ仲見世の風情も良いが、この落ち着いた印象の下町の雰囲気も捨て難い。

そのまま伝法院通りを進み、浅草公会堂を少し過ぎると数本の分かれ道に出る。


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六区通り


伝法院通りから浅草演芸ホールまでの、ほんの100メートル弱の僅かな通り。
でもその僅かな距離の左右で出迎えてくれるのは・・・何ともゴージャスな芸人たち!

ほら、僕の目の前には欽ちゃんが待ってるじゃないか!!
そんな欽ちゃんの直ぐ傍にひっそりと立つ小豆色ののぼりには・・・

コーヒーとホットケーキの文字!!


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天国


古びた煉瓦造りの建物に掛けられた、“天国”と書かれた大きなコーヒーカップの看板・・・
まさにArnold日記の、“04 Come In Alone”の回で紹介されたあの看板なのだが、
彼が載せていた写真の姿とは何かが違う・・・何か、こう・・・あっ、看板の色だ!

確か例の写真の看板は脇に立っているのぼりと同じ淡い小豆色をしていた筈だ。
このくすんだモスグリーンは・・・酸性雨で此処だけ色が落ちたとでも言うのか?

尤も、この自然な色落ち具合と何処か哀愁をも感じさせる微妙な鶯色は、
この煉瓦造りの外観は勿論の事、浅草の裏通りに良くマッチしていた。


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正面から見る店の外観は、浅草の商店街の中だけあって間口は狭いものの、
古びた赤レンガ造りが印象的で二つのアーチは碓氷峠に掛る陸橋を連想させた。

右側のアーチはテイクアウトのスタンドになっていて、この店の定番のホットケーキは
勿論の事、ホットドックなどお持ち帰りだけで無く散策のお供にも丁度良いと思った。


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スタンドの隣りの僅かに奥まったチョコレート色の古い木枠のドアを押ス。

ドアの手前の額縁は彼の写真には無く、店主の話だとその後設置したそうだが、
赤色エレジーの、幸子と一郎の悲しい物語は今の僕にとっては彼と彼女の・・・
いや、僕には未だその全容は全く掴めていないんだ・・・だからこうして・・・


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店の中に入ると壁に沿って小さな4人掛けのテーブルが2つ置かれていた。
その向こうには厨房があって、ケーキを焼く様子が硝子越しに見る事が出来る。

最近の洒落たカフェには見られない昭和の喫茶店の風景が僕には新鮮に映った。


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向かい側にはやや小さ目のテーブルが並び、此方は一人客用の席になっている。
更に壁に沿ってオレンジ色のソファーが続いており、窓際にまで伸びていた。


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そして、その窓際の席に着く事にした・・・嘗て彼がそうした様に・・・


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ひと段落ついてソファーに腰掛けると大きな窓からは表の六区通りの様子が窺えた。
のんびりと窓の外を眺めていると、人力車がやって来て僕の目の前で停まった。
其処に乗り込んだのは、外国人の観光客・・・まぁ、当然と言えば当然だが・・・

外国人を乗せた人力車は再び走り去って行ったが、如何やら此処が発着所になっていた様だ。
まぁ、これもこの浅草ならではの光景という事なのだろう・・・とても長閑な時間が過ぎてゆく・・・


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そう、此処は喫茶店だもの、心地良いひと時はお手のものだったよね・・・


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そんなまったりとした空気を感じていると、先ずはじめにコーヒーが運ばれてきた。
シンプルなドリップコーヒーをオーダーしたが、この空間に良く似合っていた。

そして、真っ白なカップには外の看板で目にしたあの“天国”の文字が・・・
このカップをずっと憧れていたんだよ・・・あの写真を初めて見たその日から、ずっと・・・


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ホットケーキ


可愛らしいサイズの真ん丸ホットケーキが2枚、大きさに比べて厚みは十分だ。
仄かに色付いた綺麗な焼き色の表面には“天国”の二文字が刻印されている。

サックリと焼かれた表面の、微かに感じる香ばしさの中は勿論、ふっかふか!
ほんのり優しい甘い香りにしっとりとした口当たりの生地は、懐かしいあの感じだ。

備えられたバターが生地の熱で溶けて、ミルキーな塩味がとろりとした濃厚な
シロップの甘さと混ざり合って気泡でいっぱいのふかふかな生地に染み込んでいく。


遂に・・・遂に此処までやって来たんだね・・・


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店を出た僕は六区通りから伝法院通り、そして仲見世通りと、
来た道をそのまま引き返す様に駅の方に向かって歩いた。

碁盤の目の様に縦横に路地が広がる浅草故に、他にも近道はあったのだが、
この雰囲気を一秒でも長く感じていたかったので、敢えて同じ路を通りたかったのだ。


駅前を過ぎて隅田川に架かる橋を渡ると、最初に見た金色に輝くビルが一層大きな姿を現した。

橋の真ん中辺りから川の方を眺めてみると、直ぐ手前には屋形船も停泊しており、
此処でも尽きる事の無い魅力的な浅草の風景を満喫する事が出来るのだった。


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こんなに近付いたのは初めてだけど・・・何という圧倒的な光景だろう。

ビール会社の建物との事で左のビルの方は容易に想像がつくのだが、
この美術作品さながらのモニュメントの意匠は何をイメージしてのものか、
暫くの間考えていたが、見上げ続けて疲れた為に別れを告げて歩き始めた。


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下町の裏道を歩き続けひと駅分の散歩の末に辿り着いたのは、この運河の畔・・・


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スカイツリー


運河から更に近付くと、周りにはデジタルカメラや携帯電話を手にした沢山の人が
まるで撮影会を行っているかの様に青空に突き出た一本の塔を撮影していた。


まだまだ完成までには1/3にも満たない建設途中の段階ではあったが、
直ぐ傍まで近寄った際の(それでも大分手前で規制されていたが・・・)、
まるで天にまで届くのではないかとも思える圧倒的な迫力と言ったら
とても言葉で表現し切れるものでは無く、唯茫然と見上げていた。




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「ウインターコスモス」


10月の後半までは頻繁に訪れる園芸店の軒先で白と黄色が混ざった可愛い花弁を
ひょろっと細長く伸びた茎の先っちょでゆらゆらと揺らめかせていた筈だったのに、
少し見ない間に枯れ始めて半額の値札と共に店の端っこに追いやられていた。

冬の名を冠しながら、冬の訪れと共に枯れていくなんて・・・
まるで彼の名を冠しながら、彼に会う事も出来ずにいる僕みたいで・・・


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このまま彼に会えずに終わってしまうのかい?
このまま花を見せずに枯れてしまうのかい?

いや、まだ枯れないよ・・・まだまだ伸び続けるんだよ!
あの青空の向こうまで・・・天国に辿り着くまでは・・・

そうだろう?・・・僕も・・・そして、貴方も・・・


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by mary-joanna | 2009-11-21 13:04 | 有為の奥山
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