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ム.点と点を結ぶ架け橋

先ず、闇夜の宇都宮二荒山神社・・・
次に、曇り空の宇都宮城址公園・・・

ハニーから送られたコメントの提案によって宇都宮市を訪れた僕は、
この街の歴史を語るのに不可欠な2ヶ所のモニュメントを紹介してきた。


宇都宮市内の季節の移ろいを紹介して欲しいという彼女の申し出に際して
市内に数多くある公園や施設等の中から敢えてこの2ヶ所を選択したのには
勿論、今回僕が訪れたイベントやカフェがその周辺に位置していたというのが
大きな理由の一つになっている訳だけれど、実際にその近くに行ってみるまで・・・
というよりもむしろ、今回紹介するにあたり宇都宮市中心の地図を確認するまで・・・

この街の歴史と共に歩み続けた二つの重要な要が、実は一直線で繋がっていたなんて・・・
この街で暮らしている方なら、何を今更・・・と鼻で笑われてしまいそうではあるのだが、
神の領域である神社と世俗社会の頂点の城郭が一本で結ばれているなんて・・・

そして、そんなこの街における二つの大きな点と点とを結ぶ一本の線の真ん中に、
まるで相反する二つの世界の境界線とも呼べる小さな橋が架けられていた。
その橋の名前を・・・更にその直ぐ傍に位置する店の名前を知った僕は・・・


躊躇する事無く、宇都宮への三度目の訪問を決めたのだった。



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宇都宮城址公園


闇夜でも無く曇り空でも無い快晴の秋空の下、この日の出発点に決めたのは
先日訪れたばかりの宇都宮城址公園・・・そう、世俗の世界からのスタートであった。

前回と同様に土塁の周りに張り巡らされた堀を渡って早速中へと・・・
いや、実はこの前、気にはなったものの素通りしてしまった場所があった。


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この堀に架かる橋に沿って置かれたプランターや鉢植えの花々は、
公園にやって来た方たちの目を楽しませてくれ、優しく出迎えてくれた。

尤もこの橋を通る人たちの多くは、周りに聳える圧倒的な存在感の2基の櫓や土塁、
堀などに目を奪われ、控え目に添えられた花に気付かず通り過ぎてしまうかも知れない。
とりわけ物珍しい訳でも無いよく目にする園芸品種の鉢植えなのだから、この壮麗な城壁の
脇役としてまさに花を添える様に並んでいたのだが、僕はこの“普通の”花々に会いに来たのだ。


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アメジストセージ


最近、園芸店や公園だけでなく街角でもよく目にする紫色の細長い花。

近寄ってみると、その一つ一つがまるで帽子の飾りについている様な、
鮮やかな紫色のふんわりとした小さなぼんぼんが寄り添って出来ていた。

思わず頬擦りしたくなる様なビロード状の質感と非常に綺麗な発色の紫色に加え、
ちっちゃくて可愛らしい花が鈴生りに連なった株が何本も集まって咲いている光景は、
何処か寂しさの感じる秋の風景に華やかさを演出してくれて、人気があるのも納得できた。


その他にも、この季節に彩りを添えてくれる花々が飾ってあった。


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エリカ


小さな筒状の花が密集して表情豊かな一つの花を作り上げるこのエリカは、
700とも言われる種には僕が目にした筒型以外にも鈴形など多彩にあるらしい。

その愛らしい花のフォルムと純白からピンクへと淡くグラデーションしていく様から、
てっきり女性の名前をイメージして付けられた和名だろうと思っていたのだが、違った。

あの「嵐が丘」の舞台にも登場し、英語名は“荒れ地”と呼ばれるほど
自然界では枯れた土地に咲くとされているこのエリカだけれど・・・


やっぱり疲れた大地を癒してくれる優しい女性の様に感じて・・・


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この日はこの前とは打って変わって、本当にすっきりした心地良い一日だった。
晴れ渡った青空を背景に、プランターの花たちも生き生きとした顔を見せてくれた。


さぁ、花たちにいっぱい元気を貰った事だし、僕もそろそろ元気に出発しよう!


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みはし(御橋)通り


城址公園を後にした僕は、この櫓を背に真っ直ぐ伸びる通りを北に進む事にした。
此処を起点とした道路は石畳に舗装され、場所によっては街路樹が植えられていた。

通りの左右には市の中心部に向かうに従って飲食店や若者向けの店などが増える一方で、
その名の通り、嘗ては神社の表参道として栄えた由緒ある通りだけあり、所々に昔ながらの
趣きを感じさせる店も多分に見受けられ、全体として非常に落ち着いた印象を醸し出していた。

郵便局のある大通りを横切ると、情緒溢れる通りの魅力が一層深まる様な気がした。
そして、先日訪れた神社の境内へと上るあの階段が通りの前方に見え始めた頃・・・


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みはし(御橋)


市街地を横断する様に走る、釜川と呼ばれる小さな川に架かる橋に辿り着くのだ。

先端に擬宝珠が付いた、緩やかに弧を描く鮮やかな朱色の欄干が無ければ
恐らく此処が橋の上だとは気付かない程、通りと一体化した小さな橋であったが、
この小さな橋こそ僕が歩いてきた通りの名前の由来であり、目指していた場所だった。


このまま神社へと進む予定ではあったが、この橋には大事な用事があったので、
一旦歩くのを止めて先日の訪問と同様に携えてきた紙袋の中身を取り出した。
それは勿論、今回のイニシャルの花に他ならないのだが、この橋を背景に・・・


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「ムラサキシキブ」


嘗てはムラサキシキミ(紫重実)と名付けられていたそうであるが、
この小さな株ですら十分頷ける程に、粒状の実が鈴生りに付いていた。

平安の世の、国風文化の完成によって、中国をはじめとして西域から
もたらされた宝飾の類いはすっかり鳴りを潜めてしまったみたいだけれど、
この小さくも艶やかな紫色の輝きはそれらの宝物にも決して見劣りのしない
自然が生み出したまさに宝石・・・これでも残念ながら少々落ちてしまったが・・・


先日のラベンダーが昭和の路地裏へのSF的なタイムスリップであるのなら、
今日のムラサキシキブはまるで千年の時を経て平安の都に迷い込んだ様だね。


直衣を身を纏った彼の君がこの御橋で小袿姿の貴女と待ち合わせて・・・


この古の情緒を湛えた紅の欄干を背景に紫に輝く小さな実を眺めながら、
そんなロマンチックな場面を目の前に映る脂燭色の情景に重ね合わせていた。


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朱塗りの橋を一旦後にした僕は、もう一つの点に向かって再び歩き始めた。
市の繁華街へと進むにつれ、このみはし通りに交差する様に商店街が続いていた。


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父のアイドルだった草刈正雄がこのアーケードをジャズのリズムに乗って疾走していく・・・

最高にカッコいいシーンじゃないか!!


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そしてこの大鳥居を目の前にした時、今回の散策の終着点を迎える。
そう、此処がこの通りの終点であり、僕が目指していたもう一つの点なのだ。

此処に来れば何かヒントが得られる筈・・・きっと何かが・・・


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 やい、真似しんぼ!!
 俺と同じ格好をしなくたっていいじゃないか!



いや・・・もう僕は貴方の真似なんかしていないよ・・・
もう僕は・・・僕は貴方のフォロワーではないんだ・・・

でも・・・貴方の後を追いかけて、何時か貴方に・・・


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平日昼間の境内はひっそりとして、何処か凛とした空気に包まれていた。

スーツ姿のパパやママに手を引かれた可愛らしい晴れ着姿の子どもたちが、
ひんやりした影と木漏れ日の厳かな神社の雰囲気を和らげてくれている様だった。


そして、もう一つこの時期に僕の目を楽しませてくれたのが・・・


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この大輪の菊の花だった。

この時期は寺社仏閣をはじめ様々な場所で菊の展覧会が開催されており、
此方の境内の左右にも白や黄色、淡い紫の非常に綺麗な菊を見る事が出来た。


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僕は願い事なんてしない人間だった・・・いや、違う・・・
僕は願う事が見つからない人間だったのかも知れない・・・

でも、キミに・・・
翼を持ったキミたちに、願いを込めて彼の下へと飛んでくれないか?


階段まで戻った僕を待っていたのは千羽の鶴では無かった。


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鶏は羽に はつねをうつの 宮柱


如何やら僕はキミたちにつくづく縁があるらしいね・・・
僕の新しい門出を導いてくれるのは、やはりキミみたいに・・・

やぁ・・・キミ、此処でひと休みしていたのかい?
で、これから何処に連れて行ってくれるんだい?
この街の・・・宇都宮の大事な点と点とを結ぶ架け橋は
何処で繋がっているのか、お願いだから僕にも教えてくれよ!


 見失わない様に、俺の後についてこい!!


えっ、今何て言ったの!?

一瞬僕の方を振り向いたかと思うと、鳩は大鳥居の方に飛び去ってしまった・・・
その光景を呆然と見ていた僕は我に返り慌ててこの階段を駆け下りて、
そして、先程やって来た通りをあの赤い橋に向かって急いで戻った。


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そう、この橋の直ぐ傍にあったんだ・・・
それに、黄色はこの街にとって大事なカラーだよね?

でも、これから僕が訪れる店は時を越えて古の都からやって来た和の店では無かった。
この、点と点とを結ぶ歴史の架け橋に新しい風を吹き込んでくれるのは・・・フレンチの息吹!!


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近隣の建物とは明らかに一線を画するベージュの外壁の、何てお洒落な事!

気持ちの良さそうな2階の大きな窓に付いた手摺りは生き生きとした
植物の様に優雅な曲線を描いて、ギマールの作品を連想させるのだった。
1階と2階を隔てる大理石のタイルには流れる金の文字で店名がサインされ、
更には、大きく張り出した黄色い庇と重厚感溢れる無垢材の扉が僕を出迎える・・・

そう、全てがパリから切り取った様な存在感のカフェ・・・


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Mihashi Cafe ミハシカフェ


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ジビエ・・・ポルチーニ茸・・・牡蠣・・・

フレンチの薫りは勿論、外観だけでは無いのだ。
それに、この前食べたあのメンチカツサンドだって!!


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扉をゆっくりと開け、店内に一歩足を踏み入れると・・・
其処には僕がずっと憧れていたパリのカフェの風景があった!

Cindyが“大好きだ”と常々語る、キラキラと輝くグラスや様々なラベルが
描かれた洋酒の瓶がずらりと並んだ、あの華麗なカウンターのある風景だ。


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 待ちくたびれたが、如何やら辿り着いたようだな!


あぁ・・・やっぱりキミたちはこのカフェに来ていたんだね・・・


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窓際の席に案内された僕は、上着を脱ぐと壁際の椅子に腰を下ろした。

良く晴れた日差しの強い昼時であったが、表に大きく張り出した庇に弱められ、
店内に差し込む頃にはぼんやりと黄色い微光をテーブルに照らし出していた。


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可愛らしい花柄のレースもこの淡い光に仄かに染まり・・・


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自分の役割を待つハンガーは、何処か物寂しそうに項垂れていた。

尤も、直ぐに次々と目の前の扉が開いては閉じて、最初の皿がサーヴされる頃には
全てのテーブルがランチを待つ嬉しそうな表情の人たちで埋め尽くされてしまった。


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先ず運ばれたのはバゲットと・・・付け合わせのオリーブオイル。

ふんわりとした生地は同時にたっぷり含んだ水分でしっとりとした滑らかな口当たり。
シンプルな粉の風味はこの後の料理との相性も抜群に違いない筈であるが・・・

次の皿を待たずして食べ切ってしまった・・・
(バゲットはおかわりをする事が出来る!)


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温野菜


大き目の皿いっぱいに盛られた温野菜がテーブルに置かれると、
真っ白な湯気がふわっと立ち上って、もうそれだけでニッコリとなるのだ。

人参、蕪、白菜、薩摩芋に・・・何と素揚げした大根まで入っているなんて・・・
たっぷりの野菜でもうお腹いっぱいになったかって?・・・いやいや・・・

更に僕の食欲にエンジンがかかってきた気分だよ!


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ステーキ・フリッツ


カフェでステーキ・・・何ともお洒落でスマートな響きではないか!

カリッと焼かれた表面はサックリとした歯触りに笑みがこぼれる。
香ばしい肉の端から滴り落ちる肉汁に思わず唾を飲み込む音が鳴る。

此処までの散策で腹が減っていた?・・・勿論だよ、でもね・・・

表面の香ばしさからは想像もつかない肉の柔らかさに驚く日間も無く
ジューシーな肉の旨みが口の中いっぱいに溢れ出していって・・・


フライドポテト


そして皿の上にはステーキに負けじとたっぷり盛られたフライドポテト!
そう、フレンチ・ブラッスリーでステーキと言えば付け合わせはこれだよね。

熱々のフライドポテトはサクサクの表面とホクホクとした食感のポテト。
丁度良い揚げ具合と塩加減がポテトを更に引き立て堪らなく美味しい。


バゲットと温野菜とステーキとフライドポテト・・・
全てが素材そのままのシンプルな料理なのに・・・

でも、何処を取っても洗練されていて・・・飛び切り美味しいんだ!!


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ティラミス


ティラミスが盛られたマスタードのプレートにさらりと描かれたチョコレートのラインは
一見シンプルな意匠でありながら絶妙のバランスで、抽象絵画を鑑賞している様だった。

でも、デザートの魅力は何と言っても・・・僕は耐えられずにスプーンを手にした。

ひと口掬うと表面を覆っているカカオパウダーのな香りがふんわり広がり、
チョコレートの濃厚な風味が心地良い刺激となって優しく鼻孔を擽ってきた。

思わず口に入れると、マスカルポーネのクリーミーでまったりとした舌触りが
甘くほろ苦い濃厚なエスプレッソのビスキュイとまろやかに溶け合っていき、
カカオパウダーと三位一体の絶妙のハーモニーを奏でていたのだった。


まさに大人のデザート・・・絵画や音楽を鑑賞した余韻に包まれる、あの感じに・・・


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カプチーノ


パリのカフェに訪れている様な空気が流れる此処でのひと時なのだから、
やっぱり最後はクリーミーなカプチーノで、のんびりまったりと寛ぎたかった。

カップを口に付けた瞬間の、唇に伝わる熱さとふわっと広がるコーヒーの薫り、
ふわふわでクリーミーな温かいミルクのまろやかさと仄かな甘い感じ・・・
更に、窓から差し込むイエローに色付いたやわらかな光に・・・

僕はこの席でずっとウットリと微睡んでいたかった・・・


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何時もそうだったんだ・・・
何時の間にか忘れていたんだ・・・

不安でいっぱいの迷える僕を導いてくれるのは・・・
何も遮る物の無い大空へと解き放してくれるのは・・・
その身体に付いた二つの翼で自由に、そして優雅に舞っているキミじゃないか!
キミは何時だってコチラ側とムコウ側とを結ぶ架け橋になってくれたじゃないか!

彼の待っているあの場所まで、僕も一緒に連れて行ってくれないか?
キミが羽を休めているうちに・・・手の届かない彼方に飛び去ってしまう前に・・・
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by mary-joanna | 2009-11-16 23:52 | 常ならん
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