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ラ.月曜日の食卓

あの秋の夜の祭典から2週間が過ぎ、また栃木県中央公園の中秋の風景や
宇都宮市内の路地裏散策を併せたElvis Cafeでの紹介からも数日が経ったが、
ハニーからのコメントは全く音沙汰が無かった・・・勿論、他の2人からもであるが・・・

コメントと言えば、僕への接触の仕方も先の2人とは異なっていたのだ。
Brit Boyは鍵コメントに自身のメールアドレスを書いてコンタクトを取ってきたし、
先日のパピヨンは、そのBrit Boyのアドレスを用いて直接僕にメールを送ってきた。
まぁ、当然の事ながら世間には殆んど知られていない一個人の趣味のブログであるが、
それでも先の二人は秘密裏に僕に接触を図ってきたのだ・・・それなのに、ハニーといえば・・・

大胆というか、奔放というか、何も包み隠す事無く、大っぴらにコメントしてきたのだ。
自身のハンドルネームは勿論、ご丁寧に僕と同じ足利在住という事まで添えて・・・
でも、よく考えてみれば、あの物語でも彼女はそういうキャラクターであった。
そうすると、今回の彼女の登場の仕方も彼等の想定内なのだろうか?
何だか様々な思惑が僕の頭の中をぐるぐると回っていて、更に・・・


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「ラベンダー」


隣町にある実家に立ち寄った僕は、庭のラベンダーが未だ枯れていないのに気付いた。
何でも、夏の終わりに一度花を落とし切ったのだが、この時期に再び花を咲かせたそうだ。

細長く伸びた大小の茎の先に付いたほんのりと淡い藤色の穂は、微風に揺れながら
得も言えぬ華やかなフローラルの薫りを仄かに放ち、辺り一面を包み込んでいた。
そんな優雅なラベンダーたちも、秋の午後の蜂蜜色に輝く西日に照らされて、
綺麗な紫の穂先を鮮やかな山吹色とのグラデーションに染めあげていた。


このラベンダーを一株譲って貰った僕は、この前の祭典の夜からずっと気になっていた
宇都宮市内に新しくオープンした例のカフェ(?)に、予約のTelを入れる事にした。

もう一度宇都宮を訪れようと決心したのには、3つの理由があった。

第一に、(本当に存在するなら・・・)ハニーの提案の真相を確かめたかったから。
第二に、予約を入れた店に純粋に行ってみたかったから・・・だってその店は・・・
そして三番目の理由は、こんなにも素敵なラベンダーの鉢を頂き、しかも、
今回のイニシャルが「ラ」であるならば、その店の雰囲気は・・・あの・・・

そう、あのSF小説(映画?)のイメージにぴったりだと僕は思った!



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予約した当日、指定した時刻よりも幾分早めに到着する様に足利を出発した。
宇都宮市役所の直ぐ側に位置するという事で、寄り道をしようと思っていたのだ。

市役所からは通りを一つ隔てただけの場所に、公園と呼ぶには壮観な眺めの堀と、
流石に秋も深まった今日、所々枯れかけた芝生に覆われた小高い丘があって、
その丘から突き出したかの様に聳える純和風の歴史建造物は見ての通り・・・

 
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宇都宮城址公園


城郭はCindyの日記でも何回か登場している建築物ではあったが、
この栃木県宇都宮市の、しかも市の中心に存在しているなんて・・・

先日の宇都宮二荒山神社といい、この街を見守り続けた歴史の象徴が
まるで何世紀もの時空を越えてこの21世紀の世の中にタイムスリップして
僕の目の前に忽然とその姿を現した様な、とても不思議な錯覚に陥るのだった。

まさか、今日僕がこれを持ってきたからそんな風に感じるのかな?
この日の僕は、愛用のトートバッグの他にもう一つ紙袋を提げていた・・・


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堀に架かった橋をくぐって芝生の土塁の向こう側へと入ってゆくと、
外から想像していたよりもずっと開けた、広々とした空間になっていた。
如何やら此処にはこの城の本丸が築かれていた事が容易に想像できた。

先日の中央公園もそうであったが、此方の公園の木々もすっかり紅葉しており、
その微妙な褐色の色合いに、勿論僕を含め訪れた人たちの目を楽しませてくれた。
更に視線を地面に落とした際の、落ち葉の茶と芝生の黄緑のコントラストと言ったら・・・


城址公園を後にした僕は、公園とは市役所を挟んで反対側に伸びる路地へと歩いた。
思えばこの路地に入った瞬間から始まっていたのかも知れなかった・・・だってこの香りが・・・


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市役所から程無くして、この細い路地を遮る様に頭上に線路が走っている。
左右を直方体の石垣で組み上げられた、何処かレトロな印象のこの跨道橋は、
空間と空間を繋ぐ“橋”というより空間と空間を区切る“門”の様に思えてならなかった。

跨道橋をくぐった瞬間、そう、一瞬だけ感じた、これまでとは異なった空気の感覚は・・・
僕は何処か別の場所に・・・いや、別の時代へと迷い込んでしまったのだろうか?

僕の背後には、変わる事無く市役所のビルが聳え立っているというのに・・・


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午前中は何とか保っていた曇り空も昼近くになってポツリポツリとし始めた。

念の為に持ってきた傘を広げると、何処からか湿った土の匂いが微かに漂ってきた。
忘れかけていたあの素朴で懐かしい感じの匂いは、小さかった頃の思い出を呼び起こす。
おばあちゃんの家に遊びに行った時の、あの変な匂い・・・でも、何故か凄く落ち着く匂いを・・・


所々朽ち果てびっしりと苔生した石垣の坂道を上ると、電柱の脇に何やら標識らしきモノが・・・


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木の枝にぶら下がっていたのは、シンプルなrecluの文字と・・・可愛らしいパンのイラスト!

そう、この坂の途中の石垣の中こそ、地図が示した場所なのだ。



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石垣の中は築数十年は経とうかといった平屋建ての木造家屋が数軒軒を連ね、
まるで昭和を舞台にした映画に出てきそうな下町の雰囲気に満たされていた。

一番手前の建物の軒先で、小さな赤い実を沢山付けた木が出迎えてくれた。


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recluの食卓


この煤けた焦げ茶色の平屋建てこそ、この秋にオープンしたばかりの・・・

いや、これまで僅か2軒の店で、しかも限られた日時でしか購入する事が出来なかった、
宇都宮周辺のパン好きな人たちから絶賛されてきた店主が満を持して手掛けた店。

しかも、この店は単なるパン屋ではなく、何と・・・“食卓”となっているではないか!
そして、この懐かしさ漂う光景にうっとりと魅入っていた頃、時刻は正午を回り、
建物の中から店主らしき人物が暖簾と看板を脇に抱えてやって来たのだ。


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淡いベージュの無地の暖簾は褐色に覆われた木造家屋の雰囲気を和らげてくれた。
それに何と言ってもあの真っ白な看板は・・・彼の日記で見た事のある、あの看板だった。
懐かしさを感じながらも生まれて初めて訪れたこの場所で、唯一馴染みのある白い看板に、
何処かほっとした様な、親近感の様な感覚がして・・・尤も彼の日記で見ただけなんだけどね・・・

店主に促されるままに僕は暖簾をくぐり、店主に続いてこの引き戸の中に入った。


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恐らく以前からの状態の、すっかり古びて味がある褐色になった玄関の上がり框で
靴を脱いで中の様子を窺うと、先程魅入っていた外観そのままの空間が広がっていた。

上がり框から続く板敷きの床に、柱や梁、備え付けられたであろう台所を隔てるカウンター、
更には箪笥や棚、テーブル、椅子など、建物内に置かれた調度品の数々に至るまで
アンティークというよりは丁寧にずっと使い込んできた自然の風合いで満たされた。

そう、この建物を初めて見た際に感じた印象、心の中に自然に湧き上がってくる感覚・・・
懐かしくて・・・穏やかで・・・心温まる古き良き情景を覚えずにはいられなかった。


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あぁ、確か僕もこんな椅子に腰掛けて教科書を広げた頃があったなぁ・・・

大きな平仮名と大きな挿絵でいっぱいの、まるで絵本の様な教科書。
あれから年を経る毎に文字は小さくなって、絵も無くなっていって、
本当は簡単な筈なのに小難しい言葉で埋め尽くされた教科書。

何時でも思い出すのは、平仮名と挿絵の絵本みたいな方なんだよ・・・


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まるで卓袱台に脚を付けた様なテーブルと、踏み台みたいなスツール。
畏まったりせず気軽に腰掛ける事が出来そうで、この空間にぴったりなんだ。


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そうそう、こんな傘付きのランプだってこの空間に必要不可欠だったよね。

ちょこんと顔を覗かせる裸電球に灯が点されて、真ん中のフィラメントから
オレンジ色の優しい明かりが淡く滲みながら部屋いっぱいに広がって・・・
隙間風が入ってきそうな古びた部屋なのに何だかとても暖かいんだ!


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カウンターでものんびりと寛げそうだけど、僕には無理かも知れなかった。
でも如何してなのかって?・・・それは勿論、直ぐ隣りに置かれている・・・


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美味しそうなパンに目がいってしまうから・・・

使い込まれていい感じにくすんできたステンレスと硝子のケースは、
まるで量り売りのお菓子か何かを入れていた様な印象だけど・・・


居心地が良さそうで、ぴったり似合っているじゃないか!!
どのパンも非常に美味しそうで、迷ってしまうけれど・・・


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今日のキッシュ


こんがりと焼かれた狐色の器の中にはふんわり黄色い玉子がたっぷり。
所々顔を出しているのは・・・ソーセージとほうれん草のコンビ!!

このキッシュをプレートにしてもらい、更に隣りのパンに目を向けた。


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パンに・・・パウンドケーキに・・・スコーンに・・・どれも非常に可愛らしくて、
穏やかで優しそうな店主そのものが、パンや菓子から滲み出ている様だった。

そんなカウンターの向こうでは、やかんの先からポコポコと白い湯気が立ち上り、
店主もランチの準備に忙しそうだ・・・でも、思わず笑顔になるこんな光景から
出来上がる料理って、とても安心の出来る・・・まるで母が作る料理だよね。


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待っている間、僕は何も考えずにぼんやりと縁側の方を眺めてみた。
部屋の向こうは廊下を隔てて中庭どでも呼びたくなる空間も設えてあった。

外の緑を背景に、シュッと伸びた鉢植えの、枝と葉のバランスの妙と言ったら!


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そんな庭を一望する事の出来る、何とも贅沢なテーブルに着く事にした。

それに、この廊下に置かれたテーブルとラタンで編まれたチェアーは、
先日のイベントの為に叶う事の出来なかったとても大好きな店の、
僕も・・・そして彼もお気に入りのあの席を連想させるんだ・・・


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まるで上品な和装のご婦人が、午後の天気を心配して濡れ縁に腰掛けている様な、
何とも風情のある、淡く可憐なピンク色の花弁をゆったりと広げた鉢に魅せられていた。

緑の中にひと際映えるのに全く以って自然に溶け込んでいる様は、
これが和の庭園の魅力なのかな?・・・そんな事が頭を巡っていると・・・


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オーダーした今日のキッシュが、こんなにも素敵なプレートで運ばれてきた。


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今日のキッシュ


狐色に焼かれたキッシュの器はザックリとしたクリスピーな歯応えに
香ばしく焼きしめられた粉の風味が味わい深く、それだけでも楽しめるのだ。

でも、やっぱり中の玉子が気になって、キッシュ生地と一緒にひと口。
甘い玉ねぎが染み込んだふわふわの玉子の何とまろやかな事!

更に香ばしい表面のソーセージをギュッと噛みしめた瞬間、
旨みでいっぱいの肉汁が口中にじわぁ~っと広がって・・・
ほうれん草との相性も抜群にマッチしていて・・・


でも、やっぱり全てを包み込む玉子のふんわり感に夢中で頬張っていた。


サラダ


爽やかな彩りは見ているだけで落ち着いた気持ちにさせられるのだ。

瑞々しい葉野菜のシャキシャキ感は勿論だが、一見ミスマッチとも思える
エビのさっぱりとした旨みと仄かな甘みとホクホク感が美味しいサツマイモに、
更には程よい酸味が癖になりそうな蕪のピクルスとも完全にマッチした美味しさで
全てがまるで、爽やかなハーモニーを奏でているみたいだった・・・

店内で心地良く流れていたガーシュインの楽曲の様に・・・


更にもう一品、サイドメニューも付け加える事にした。

ひたひたに浸かった真っ赤なトマトのスープが食欲を誘う!
芯までじっくり炊かれた豆はホクホクした食感で非常に柔らかく、
濃縮されたトマトの濃厚なコクと酸味がしっかりと豆に染み込んでいて
一見淡白な風味とパサついた感じの豆をより一層味わい深いものにしていた。


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そしてプレートには・・・このブラウニーも付いていた!


ホロホロと口の中で崩れるブラウニーの仄かな甘さとほろ苦さと、
その中から広がる香り深い濃厚チョコレートの何て美味しい事だろう。

更に、散りばめられたナッツの香ばしさと歯応えがチョコレートと絶妙の
バランスで絡み合ってその豊かな風味が心地良い余韻となって残っていた。


チョコレートは子どもの頃から大好きだったけど、良く好んで食べていたのは
甘くてとろける様なミルクチョコレートだった・・・今でもそれは全く変わらないけど・・・

でも、このブラウニーをひと口噛み締める度に、このビターな刺激を感じる度に・・・
何だか少年がちょっぴり大人になった様な、恍惚とした優越感に浸れる気がするんだ・・・


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ドリンクは温かいソイラテに決めた。


ふんわりとした泡がまろやかに広がってカップ全体を包み込んでいく。
仄かに自然でミルキーな口当たりとにさっぱりとした味わいに・・・

ほんのりとした優しい甘さと、キリリとしたエスプレッソのほろ苦さが、
まろやかに溶け合いカップを近付ける度にまったりした気分に誘われる。



まったりとした食後の時間が流れてゆく中で・・・そう、時間の流れが・・・
この日、店主にプレゼントする為にずっと大事に持っていた紙袋を取りだした。

勿論、中に入っているのは・・・


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「ラベンダー」


確かあの映画の結末は、主人公の同級生の少年が実はラベンダーを採集する目的で
未来からやって来た人物であり、主人公を含めた自分に関わる全ての人の記憶を
消し去って元の世界へと帰っていくという、少々切なさの残るものであったが・・・

まさか此処を離れた瞬間、僕もこの場所で体験した一連の出来事の記憶を
すっかり失ってしまうなんて事は無いだろうが・・・まさか、ね・・・


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僕もあの主人公の少女の様にタイムリープをする事が出来るのだろうか?
このElvis Cafeをスタートさせる、その前に・・・いや、Cindyの日記を・・・
そして、決して忘れる事の無いあの物語を見つけるその前に・・・

そうすれば・・・きっと彼等にも会う事は無かったのだろう・・・
そう、現在の僕の大部分を占めている何かも存在しなかった筈だ。

でも・・・でも・・・僕はもう戻りたくないんだよ!!
それに、過去に戻りたがっているのは、きっと彼の方だよ・・・
あの、全ての物語が終わってしまう、その前に・・・

このラベンダーの甘い香りと共に・・・



  あなた、私のもとから
  突然消えたりしないでね
  二度とは会えない場所へ
  ひとりで行かないと誓って
  私は、私は、さまよい人になる
  時をかける少女、愛は輝く舟
  過去も未来も星座も越えるから・・・抱きとめて

  ~時をかける少女~

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by mary-joanna | 2009-11-12 03:37 | 常ならん
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