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レ.生成り色の昼下がり

群馬県のある街の郊外に位置する、とある公園に着いたのは朝の10時半を少し回った頃だった。
地元の足利から数十キロも離れた、この公園まではるばるやって来たのには勿論訳がある。
この公園から数分進んだ場所にあるカフェにランチの予約を入れていたからだった。
11時半のオープンにはまだ多少の時間があったので、寄り道をする事にした。
ゆったりとまではいかないが、多少でもゆとりがあるのは良い事だと思う。
何時も、そんな風にして、結局遅刻しそうになるのだけれど・・・


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此処には見渡す限りの広々とした芝生があり、大きな池もあり、小高い丘もあり・・・
ゆったりとしたひと時を過ごすのには全く申し分の無いロケーションだった。

しかも、池の周りに沿って可憐な秋の風物詩が見ごろを迎えていた。


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秋桜畑


秋晴れの緩やかな日差しに優しく照らされた一面に広がる赤やピンクの秋桜が、
さわさわと微風に揺られながらゆっくり僕に手招きをしているみたいに感じた。

こんな綺麗なお出迎えにすっかり魅了された僕は、一瞬時間の事を忘れてしまい、
先ほど告白した通り、予約の時間に追われ急いで車を走らせる羽目になった。
でも、こんな寄り道だったら何時でも大歓迎なのだけれど・・・ね・・・


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公園から市街地方面に向かって数キロ、まだ市の中心部には距離があるけれど、
個性豊かな真新しい住宅が整然と並ぶ新興住宅街の入り口にやって来た。

紅葉にはまだ早いかな?と思っていたけれど、此方の街路樹はすっかり色付いていた。
山吹色や茶色に染まった街並みが、秋桜とは違った秋の香りを届けてくれていた。
これから段々と山を下って僕の住む街でも秋の情景を楽しませてくれるだろう。

そして、この通りを進んで住宅街の中に入ってゆくのだが・・・


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蒲公英


紅葉に見とれて上ばかり見ていた僕に気付いてほしいとばかりに、
ちょっと季節外れの可愛らしい黄色いキミが地面でそっと出迎えてくれた。


そう言えば、彼の日記に於いて蒲公英は大事な物語における
印象的なキャラクターとして何度か登場していたのを思い出したよ。

それにしても、此処で蒲公英に偶然出会ったからという訳でもなかろうが、
まさかこのお出迎えに誘発されてあんな展開が待っていたなんて・・・



先の通りのほぼ突き当たりを左折して、更に奥の方に入ってゆくと、
淡いベージュの外壁とオレンジブラウンの瓦屋根の一軒家に辿り着く。


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Cafe de ECRU


彼の日記では比較的早い段階で登場したカフェが此処だった。

その日記でも目にしていたけれど、住宅街の家屋とは思えないその外観は、
この一角だけ、まるで南仏辺りの田舎町にでも迷い込んでしまったかの様だった。

それにしても・・・あぁ、本当に素敵な建物だね。


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庭に何気無く置かれている一つ一つの物が更に雰囲気を盛り上げてくれる。

一刻でも早く店の中に入りたいという衝動に駆られた僕だったが、
何だかんだ言いながらも結局少し早めに着いてしまったので、
この魅力的な庭を散策しながらオープンを待つ事にした。


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こんな気持ちの良い日なら、木漏れ日を浴びながらテラスのテーブルで
ゆっくりとランチを頂いて、のんびりまったりと過ごすのも最高だね。


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庭の周りには色鮮やかな草花や芳しいハーブが植えられており、
地面にもまるで緑の絨毯を敷き詰めた様に沢山の植物で溢れていた。

爽やかで生き生きとしたグリーンに囲まれていると、何だか清々しい気持ちになって・・・
定刻の11時半になり、店員さんがOpenと書かれた看板を携えてやって来た。


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後から調べたのだが、ECRU(エクリュ)とは生成りの麻の色・・・
ベージュよりもアイボリーに近い、そして純白より自然な淡い色・・・


店内の壁をはじめとして、その面影は十分に感じられるけれど、
何故この店が昼時の時間帯のみのオープンだか分かる気がするよ。

だって、昼下がりの柔らかな日差しが窓から仄かに差し込んでくると、
ウットリとしてまどろんでしまいそうな緩やかな自然の明かりは
まるで生成りのままの生地のそれを連想させるのだから・・・


さて、僕が座りたい椅子は・・・あっ、あった!!


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この可愛らしい水色の椅子が、彼が惹かれたあの水色の椅子か・・・

如何してだろう・・・初めて目にするのに何だかとっても懐かしくって、
こうして腰掛けていると、まるで子供の頃に戻っていくみたいだ・・・


それに、この椅子に座って視線を上げると・・・


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白とべっ甲のちっちゃな木の実の飴粒が、ランプの熱に溶け出していって、
ほんのりオレンジ色の光になってキラキラとこぼれ落ちてくるみたい・・・

ポップで可愛い水色の椅子と、飴粒みたいなランプの明り・・・
何時の間にか絵本の世界に迷い込んでしまったのかな?


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ランチをオーダーした僕は、そんな事をぼんやりと考えていた。
各テーブルの上には、さり気無く花や緑が添えられていた。

Elvis Cafeを始める前の僕だったら、決して気付かなかっただろう。
ささやかだけど新たな発見に、ちょっぴり嬉しい気持ちになった。
こんなに穏やかな、自然な気持ちで食事を待つ事なんて、
このブログを始めるまで経験した事無かったなぁ・・・

なんて思っているうちに、第一の皿が運ばれてきた。


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エクリュ・セット


メインの前に先ずやって来たのが、スープとパンとサラダから成るワンプレート。
ランチのセットには、このプレートとメイン、更にはドリンクとデザートが付く。


ランチの先頭を飾るのは野菜のたっぷり入ったスープ。
そう言えばあの店でもメインのために胃の調子を整える目的で、
一番最初に質量共に丁度良いボリュームのスープが供されていた。

温かな舌触りは一杯啜る度に心身の緊張が解き解されてゆく様だった。

絶妙なバランスの塩とバターとコンソメの非常に繊細な優しい味付けに加えて
とろける様な柔らかさの野菜は、それでいてほど良い食感も感じられて、
更にスープの旨味が野菜にギュッと詰まっていて美味しく頂けた。


そして、スープに欠かせないのがシャキシャキの葉野菜と・・・パン!!

そう、何と言っても、この手作りの白パンが最高に美味しい!!
手に持った瞬間に伝わってくるふんわりとした感触は、
勿論口の中でもひと口頬張る毎にもっちりもちもち・・・
しかも、仄かな粉の香りとふわっと広がる甘さ・・・


全てが優しさに満ち溢れているワンプレートだったけれど、
これだけでも十分に満足の出来るプレートが“前菜”だなんて・・・


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ベーコンと小松菜とフレッシュトマトの塩味のスパゲティ


スパゲティ2種とピザ、更にはハンバーグから選べるメインの皿は、
その時々でメニューが更新され、季節の味覚を味わう事が出来るのだった。

今回は、さっぱりとした塩味のスパゲティをチョイスする事に決めた。

先ず最初に目を引くのが鮮やかなルビーレッドの粒々フレッシュトマト。
そのビジュアルに負けじと、フルーティーでジューシーなテイスト。
口の中でプチっと弾けると濃厚なトマトの酸味が広がって・・・

そんなトマトに深みとコクをプラスしているのがムギュっとした食感のベーコン。
そのコクと旨味がトマトと一緒にスパゲティに染み込んで更に美味しさを増していた。

小松菜は彩りのバランスばかりか、そのシャキっとした食感も楽しめ、
極めつけは、程よい辛さのピリッとした唐辛子のアクセント・・・


全体としてさっぱりとしたスパゲティでありながら心地良い満足感も感じられ、
身も心も納得のメインを十二分に堪能出来た、幸福感に満ちたランチタイムだった。

この後に秋の雰囲気いっぱいのデザートとドリンクが運ばれてきた。


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さつまいものモンブランタルト


本来のモンブランよりも更に淡いほんのり黄みがかったベージュのクリームは、
まさに自然のさつまいもの色合いで、そのほっこりとした風合いに待ち切れなくなって・・・

フォークですくってひと口・・・

表面にデコレーションされたなめらかで甘いスイートポテトのクリームと、
その中のたっぷり詰まったぷるぷるっとした食感のさつまいものムースのコンビ。
まったりとしたさつまいもの風味がふわぁ~っと優しく広がって頬っぺたが落っこちそう・・・

ふんわりスイートなさつまいもをしっとりのタルト生地とサクサクの台が受け止めて、
今日の日にぴったりの、秋の恵みに満たされたモンブランタルトが完成していた。



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パリっとした新品のそれともちょっと違う・・・洗いざらしのリフレッシュな感じ・・・
染みひとつ無い純白とも何処か異なる・・・生成りのナチュラルな白さ・・・

彼の紹介は彼是2年前、オープンしたばかりのカフェではないけれど、
何だか生まれ変わった様な新鮮な・・・そう、ピュアな気持ちになれるカフェ。
店名にはそんな想いがこめられているのかな・・・なんて思いながら戻る道すがら・・・


自宅近くの駐車場を仕切るフェンスの片隅に控えめに咲いている白い花。
これまでこのフェンスの側を幾度となく通り過ぎていた僕は、ふと車を停めた。


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「レインリリー」


梅雨明け頃から秋にかけ、比較的長く楽しめるこのヒガンバナ科の花は、
園芸品種としてはありふれた存在で、少し注意すれば街中でも頻繁に目にする。

すらっと伸びた6枚の花弁は白の他にもピンクや黄色とカラフルだ。
更にシャープな細い葉は、例の玉すだれに見立てられるのも十分頷ける。

そんな白い花弁が、すっかり日が傾いた秋の午後の陽光に照らされて、
ほんのりとアイボリーがかって・・・僕にはまるで生成りの麻地みたいに映った。


普段は全然気にも留めていなかったのに・・・
ずっとずっとこの場所で静かに咲いていたのに・・・

やっぱりあのカフェの帰りだから気付く事が出来たのかな?


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柔らかな日差しが肌に心地良い、秋の日の昼下がり。
ふんわりと淡く色付いた景色はまるで生成りのシャツの色。

そんな、穏やかで心休まるひと時を一瞬で凍て付く緊張した世界へと・・・
そう、僕にとって漆黒の闇の様に何も見えないあのダークな世界へと・・・
そんなメールを貰ったのは、のんびりと帰宅した午後の事だった・・・
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by mary-joanna | 2009-10-21 11:17 | 我が世誰ぞ
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