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カ.暮らしのリズム

 リズムって変化の事?
 それともバランス?メリハリ?



僕は何かを変えたくて・・・そう、これまで経験した事の無い新しい何かを
手に入れたくて、(少々大袈裟かも知れないけれど)この世界に飛び込んだ筈だ。

今までずっとそうだった、大きな夢も無く、これといった希望も無い、
ただ何となく日々が過ぎて往く・・・そんな毎日にサヨナラを告げたくて・・・


そんな僕の背中を押してくれたのは、思いもよらないところからだった。

確かに、この世界との出会いは“偶然”以外の何物でも無かったのかも知れないね。
そして、そんな僕にとって彼の存在は『憧れ』に過ぎなかったのかも知れないね。

でも、僕はその出会いに“必然”と書かれた切手を貼って真っ赤なポストに投げ入れたんだ。
更に、僕なりのやり方で彼からの返事の手紙を受け取るのが今の『目標』になったんだ。

・・・イロハニホヘト・・・と書かれた宛名の先に何が待っているのか、僕は知らない。


・・・けど分かるんだ・・・僕のリズムは、確かに変わった。


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そんなリズムを肌で感じたかったから、僕はこの橋を渡る事にした。

この橋の向こう側の、坂を上った先でひっそり佇むあの場所に流れる、
ゆったりとしたメロディー・・・躍動するヴァイブ・・・揺らめくグルーヴ・・・

全てはパソコンの画面から想像した二次元的なものでしか無かったけれど、
僕の中では、この店の端々から最高のリズムが響き渡っていたんだ!
僕の心身は、この店が奏でる心地良いリズムに共感していたいんだ!

ゴウゴウと音を立て橋を渡ってゆく忙しない車の流れに僕も乗り、
まるで吸い込まれる様に橋の向こう側の世界へと走り去る。

僕にとって、この橋を越えるのは二回目だった。
勿論、一回目は・・・今から3ヶ月前の、あの“ムコウ側”へと・・・


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爽やかな空気がゆっくりと流れる、秋晴れの気持ちの良い一日だった。

橋を過ぎて暫く続いていた2車線の大きな国道も、東に進むにつれて
徐々に狭まっていき、いつの間にか“普通の道路”になっていた。

市街地を離れ緑や田畑の中を進むこと数キロ、隣町との境目の辺りの、
車と車がすれ違うのがやっとな程のこの路地へと折れて更に進むと・・・


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コスモス(秋桜)


秋きぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる


・・・とは言うものの、細い路地の道端で僕を出迎えてくれたのは、
華奢な身体のてっぺんにピンクや白の帽子を被った可憐な淑女たち。

この秋の訪れを告げる花が、のどかな田園風景に季節の彩りを添えていた。


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 また帰りに会おうね!


心の中でそう呟いて更に進むと、直ぐにこの坂道に直面する。
見た目以上に急なこの坂を上った先で待っているのは、
これから僕が訪れようとしているあの場所だが・・・

坂の入口では小さい秋の案内人がそっと手招きしてくれた。


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ヒガンバナ(彼岸花)


Arnoldが消え、そしてCindyも消え去った“ムコウ側”との分岐点が
あの小川に架かる例の橋だとするならば、この坂道の入り口こそ、
この先で響き渡る“暮らしのリズム”の地との分岐点なのだ!


今しか見えない真っ赤な君が、こっそり僕に教えてくれる。
こっちの道だよ早く行きなと、ゆったり身体を揺らしてる。


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僕が向かおうとしているのは、彼が絶賛し、感嘆していた食の店。
地元の食材を、季節の食材を、店主の魔法が最高の料理に仕上げてゆく。

そんな空間を祝福しているかの様に、この地の自然が季節の看板を掲げる。
栗に・・・柿に・・・秋ならではのお出迎えに僕の期待は更に膨らむ。


そして、坂を上り切り密集した住宅地をくねくねと曲がってゆく。
傍らの地図も車のナビも機能しないこの地は、先程出会った彼岸花が
まるで“コチラ側”の世界にようこそ、と示唆していた様にすら思えてくるのだ。

そんな妄想が頭の中を巡り初めてきた、まさにその時だった。
それまでの変哲無い住宅が開け、目の前に趣きを異にする建物が現れた。


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 はじめまして、年配の先客さん。

 あの彼より早いなんて流石!!って思っていたけど・・・
 相変わらず一番乗りで指定席に座っていらっしゃるのですね。

 今度は反対側にもこんなに魅力的な建物が出来たから、
 どちらを眺めていようか迷ってしまうのではないですか?

 

そうなのだ・・・実は駐車場を挟んだ直ぐ向かい側には、彼の日記にも
紹介されていなかった開放感溢れる素敵な小屋が建てられていたのだ。


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控えめな文字でINSIDE GARAGEと書かれた木の看板。
味のある古木の柱に水色のトタン屋根とガラス張りの外観、
加えて大きな扉(かな?)や沢山の窓は全て開け放たれていた。

建材だけを考えれば古き良き昭和の建物と言えなくも無いが、
明らかに古材や廃材を使用して建てられたと思われるのに、
古びた印象が全くしないのは逆に新鮮な感じがした。


新しいリズムがまた一つ、軽やかに鳴り渡っていく・・・


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回り続けるのが疲れたら、此処でひと休みしていけばいいじゃないか。
でも、居心地が良すぎてちょっとのつもりがいつの間にやら・・・


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このベンチにだらりと深く腰掛けて、一日中何をするでも無く
ただ屋根から差し込む緩やかな日差しをぼんやりと浴びていたい・・・

此処だったらそれも許されるのかも知れないね。
だって、この空間には特別な時が流れているのだから・・・


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ほら、その証拠に君だって思い思いの時を刻んでいるじゃないか!


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棚にはホワイトとアイボリーの食器が並んでいた。
確か、以前は1階のカフェに置かれていたっけ・・・

ひんやりとした肌触りなのに、何だかとっても温かい。
シンプルなデザインなのに、どういう訳か忘れられない。

君たちを見ていると、このお店そのものがギュッと凝縮されているみたい。
此処で食器を購入される方たちは、きっとそんな想いで連れて帰るんだろうね。


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雨風に晒されて所々剥げ落ちた木の板が張り巡らされた外観。
入り口の傍に掛けられている、錆びて赤茶けた丸いランプ。
そこには5年間の歳月が作る風合いや重みが感じられた。

そんな、まるで細長いチョコレートのバーを壁一面に貼り付けた様な
どこか可愛らしい焦げ茶色の建物を眺めていて、ふと僕は思った・・・

きっとこの店の店主は甘い物が大好きなんだって・・・

だから彼も足繁くこの場所にやって来たのかな?


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 どう?、イカシテルでしょう?

 彼女、キャロルって言う名前なんだ!!



うん、とてもキュートな貴女にお会いできるなんて・・・


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そうそう・・・僕はカフェに来たんだ。
でも、もうちょっとだけ待っていてくれないか?


だって・・・


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彼が教えてくれたこの店のオススメのコースは、先ずは2階だったよね。


カフェ入り口の脇にある、茶色くなった階段を、
カンカンカンと音立てて、ドキドキしながら上ってく。

2階のお店で待っている、飛び切り美味しいお料理を、
ムシャムシャムシャと音立てて、ワクワクしながら頂きます。


そんな想像をしながら階段を駆け上がろうとした、
まさにその途中で、僕を出迎えてくれたのが・・・


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 そうそう小鳥さん、是非ともキミに会ってみたかったんだ。

 彼の日記ではポストの上でひと休みしていたけれど・・・
 やっぱり電線(?)の上がよく似合っているよ!!



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ドアの右手のカウンターには大小様々な皿が整然と積み重ねられ、
目の前にはカップやグラスが丁寧に掛けられ、ワインなど酒瓶が並ぶ。

こんな、全く気取る事の無い、でも本当に絵になるカウンター。
その奥では店主が無駄の無い手捌きでフライパンを振っている。


そう・・・僕はこんなクッチーナの光景に憧れていたんだよ!!


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反対側に視線を向けてみると、そこにはランチの時間を前にして
綺麗にセッティングされたダイニングが、静かにその時を待っている。

これから始まる賑やかなひと時とは裏腹に、ひっそりと静まり返った空間は、
2階の窓から差し込む淡い日差しとテーブルランプのやわらかい光だけが、
ゆったりとしたアコーステッィクな響きを奏でているみたいだった。


窓際の席に座った僕は、ふとベランダの方に視線を向けてみた。


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可愛らしい菜園を見つけたよ。

こんなに大事に育てられた野菜を頂けるのだから・・・
うん、モリモリと豪快に食べようじゃあないか!!


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マリネしたパプリカのサラダ


存在感のあるサラダだ。

シャキシャキっとした葉野菜とザクザクのシリアルの、音まで楽しい食感や、
アクセントと片付けるには勿体無い、シャクシャクと甘酸っぱい梨のトッピング。

そして、サラダのメインにもなっている赤やオレンジ、グリーンの
色鮮やかなパプリカのマリネの、ひんやりねっとりした舌触り。
丁寧にソテー&マリネしたパプリカは柔らかさを通り越して、
トロトロとした感触からジューシーな甘みが広がってゆく。

これだけの個性を一皿にまとめてしまうなんて・・・
このお店の店主は何という実力のコンダクターなんだ!!

・・・なんて思いながらいつの間にか皿は空っぽになっていた・・・


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ミネストローネ


温かい気持ちになれるスープ。

複雑さと一体感の奇跡の融合・・・大袈裟な言葉が大袈裟でなくなる瞬間。
しかも、それはたった一杯の・・・こんなに小さなカップの中の話。

あのホーローのカップは先程のひんやり冷たい感触とは打って変わって、
そっと抱いた手のひらいっぱいにじんわりと温もりが心地良く伝わって・・・
フーフーしながらひと口すすると、トマトの優しさがふわっと広がって・・・

とても不思議な感じと何故か懐かしい感じが身体全体に染み込んでいくみたい。


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カボチャのミルクカレー


感動的なカレー!!

彼、Cindyがこのお店で初めて食べた料理がこのミルクカレーだった。
この地にやって来るまでに、色々な秋が僕を出迎えてくれたね。

そして、そのメインを飾るこっくりとした甘いカボチャの優しい風味が、
ミルキーなまろやかさと共にスパイシーなカレーをマイルドに仕上げてくれる。

しかも、トロトロに焼かれたトマトから弾けるキュンとした強い酸味と
焦げた表面の皮の香ばしさと一緒に、更に味わい深いカレーへと昇華して・・・


カレーが好きなんだ。

母さんが作ったカレー・・・
学校で食べたカレー・・・
あのカフェのカレー・・・

カレーが僕を、満たしてくれる。
身体も心も、満たしてくれる。

そう、カレーが大好きなんだ。


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スイーツは1階のカフェで頂く・・・
これが、このお店の流儀だったよね・・・

あれっ、さっきまで階段のところにとまっていた小鳥さんも
遊び疲れたのか、可愛らしい巣に戻って羽を休めていた。


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そして、1階のカフェでどうしても僕が会いたかったのが、
このキッコーパンと書かれた、赤と白のパンの棚。

彼が紹介してきた、あのふっくらと焼けた美味しそうなパンに・・・
いつも指をくわえながらパソコンの画面に釘付けになっていたんだ。


それから、もう一つ・・・


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ロケットランチャーだなんて言っていたけれど・・・

このコーヒー豆の瓶を見る事が出来るなんて、ちょっと感激したよ。


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 おや、また貴女にお会いしましたね。
 しかも、“お友達”とご一緒だなんて。

 僕は・・・また一人でやって来たけど・・・



この空間には四季のリズムもあるみたい。

今は秋、ちょっと切ないセピアな調べが物静かに囁いて・・・
何処かもの悲しいのに、何時までも身を委ねていたい旋律・・・


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 小鳥さん、アナタもこのリズムに誘われて来たんだね。


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エスプレッソとくりのシフォン


切ない秋の大人のケーキ。

フォークを刺そうとした瞬間に感じる、スポンジの様に押し返す弾力。
ひと口頬張った際の、しっとりした口当たりなのにふわっふわの食感。
ほんのりとした甘さの中から段々と広がっていくまろやかな栗の香り。
栗の風味にとても良くマッチした、仄かにビターなコーヒーの風味。


甘い物好きの店主だから・・・季節を大事にするお店だから・・・
スイートな秋の味覚に満たされて、まったりのんびり出来るんだよね。


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心地の良いランチのひと時を終えた僕は、気さくな店主に感謝の言葉と
近いうちの再訪の約束を告げ、名残惜しくもこのハートフルな空間を後にした。

こんなにも気持ちの良い時間と空間を体験出来るなんて、彼が入れ込んで
何度と無く足を運ぶのも納得できるのだが・・・たった一つだけ、気掛かりが・・・


そう、それは勿論、肝心のイニシャル「カ」の花について・・・


 折角素敵なカフェに巡り合えたのに・・・
 最高のひと時が送れたのに・・・

 なんかリズムが狂うんだよなぁ・・・



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結局「カ」の花を見つける事が出来なかった僕は、少し落ち込み気味に帰路についていた。
来た時に通った国道のこの大きな橋を渡り切ると何だか本当にお別れするみたいで、
花が見つからなかったのとも相俟って寂しい気持ちが込み上げて来たのだ。

もう少し橋の写真を撮ろうと車を停めて土手の方を覗き込んだ時だった。
土手の中央には、非常に鮮やかな真っ赤な絨毯が一面に敷き詰められていた。

その鮮やかな赤色にすっかり気を取られた僕は、引き寄せられる様に近づいてみた。


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「カンナ」


そう・・・こんな所で待っていてくれたのか・・・

まるで貴婦人のドレスの様に優美な曲線を描く赤や黄の花弁。
幅広でつるつるした表面の葉は鮮やかな色彩の花弁とも相まって
南国の花を連想させるが、何と江戸の初期には栽培されていたそうだ。


華麗な舞踏会のワンシーン・・・

赤い刺繍の入った黄金色の柔らかなドレスは午後の日差しを浴びながら、
時折の微風に吹かれてまるでワルツを踊っているかの様に優雅に舞っている。

でも、もう既に綺麗なドレスを脱ぎ去ってしまう者も・・・


初秋に咲いた赤と黄色の、ほんのひと時の夢の饗宴。
儚い夢は、また元の砂利と雑草の土手に戻ってゆく。


そして僕も“アチラ側”に別れを告げて、橋から離れる事にした。


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ゆっくりだったり速かったり、前に進んで後ろに戻って、
リズムにのって躍動してて、ちょっと止まってまた進み出す。

新しく出来たところに、古い物を置いたりなんかして・・・
聞いた事の無い料理なのに、懐かしかったりして・・・
とても賑わっているのに、落ち着いた雰囲気で・・・

毎日の単調な繰り返しを、よく分からないモヤモヤした気分を、
ワクワクとした気持ちに変えてくれるひと振りのスパイス。

迷った時はまた来よう!
素敵なリズムに酔いしれよう!


狂ったリズムをチューニングして、新しい旋律も加わって、
僕はまた毎日を歩み続けて行くんだね・・・彼の元へと、また一歩・・・
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by mary-joanna | 2009-09-30 17:47 | 我が世誰ぞ
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