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ワ.僕の友達・後編

~白いネコさんに捧げます~



少年は寂しそうに部屋の窓から外をぼんやり眺めていました。
何を見るでも無く、たまにハァ~っとため息をつくばかりです。
実は今日、ある悩み事をかかえて家に帰って来たのです。


それは・・・

学校の課題でクラス全員の一人一人がそれぞれ異なった花を紹介する事になりました。
草花や自然、季節の風物詩にもっと興味や関心を持とうというのが課題の目的で、
先生は生徒たちに自分が調べてくる花の名前が書かれた白い紙を渡しました。

バラ・・・チューリップ・・・マーガレット・・・

用紙に書かれた花の名前を見て喜んだり、隣りの生徒を羨ましがったり、
一緒に花屋さんに行こうって相談したり、みんなとっても楽しそうです。

だって、どの花も綺麗で可愛くて華やかで・・・思わずワクワクしてきます。


でも、少年は自分が紹介する花がどうしても好きになれませんでした。
パソコンの画面に映し出された花の画像から目をそらし呟きました。


 どうして僕だけこんな変な花なんだろう・・・

 テルくんは菊になって(?)とっても喜んでいたし、
 キヨミちゃんだってカーネーションになって嬉しそうだった。

 それなのに僕が調べる花ときたら、何だよ、この・・・
 
 豆つぶみたいに丸まっていて・・・
 枯れてるみたいに黒ずんでて・・・
 クシュクシュっとして、これって・・・まるで毛虫じゃないか!!

 先生は“秋の花”だからって言ってたけど、こんなの花なんかじゃ無いよ。
 僕、こんな変な花、好きになれない・・・こんな毛虫みたいなの、きらいだよ!!



まだ2学期も始まったばかりの9月始めの頃ではありますが、日中の暑さも朝晩には
和らいで、時折り窓から吹き込む夜風が肌寒く感じる様にさえなってきました。
もう今夜は布団に入ろうと開け放していた窓に手を掛けたその時でした。

何と、一匹の白いネコが部屋の中に飛び込んで来たのです!!


 あっ、コラ!! パソコンに乗っちゃ駄目だよ、ネコさんっ!!


キーボードに乗ったかと思うと、そのネコはまた窓から去っていきました。

真っ白な短い毛並みが綺麗なネコが去り際に少年の方を振り向いた、
気品に満ちた表情と、澄み切った青い瞳が少年には忘れられませんでした。


 いやぁ、いきなりネコさんが入ってくるんだもん、ビックリしたよ・・・


少年が改めてパソコンのスイッチを切ろうとしてモニターを見た時でした。
パソコンの画面にはさっきまで調べていた花の画像とは全く別の、
あるイベントを告知するページが映し出されていました。

暫く眺めていた少年は、パソコンを消すのを止めてメモを取り始めました。


 何だ、コレってもう明後日じゃないか!!

 明後日の日曜日は花屋さんに行こうと思っていたけど、でも、
 ここなら自転車で行けるトコだし、それに、ここに行けばきっと・・・



ちょっぴりワクワクしながらベットに入る少年なのでした。


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森の中に不時着した未確認飛行物体・・・

緑の木々に見え隠れしながら銀色に輝く巨大な円形の物体を
少し離れた歩道橋から見ていた少年はそんな想像をしていました。


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円盤の側面をぐるりと取り巻いている無数のガラス窓。
まるでソーラーパネルみたいな姿に、この建物は実は本当に
大型スペースシップか何かで、中には宇宙人が乗っているのでは・・・

そんな空想を巡らしながら、少年は暫くこのドーム状の建物を見上げていました。


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予定の時間より早く着いたので、直ぐ側の土手を下りて川岸まで行ってみました。
川の中央では釣り人が非常に長い竿を垂らしているのがぼんやりと見えます。

更に少年はこの川岸にそって生い茂っている灌木や草原の方に歩いてみました。


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コンクリートに囲まれた街の中では気付きませんが、
少し視点を変えてみれば、もうすっかり季節は秋なのです。


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クズ(葛)


草むらの中で紫色をした小さな花のかたまりを見つけました。
鮮やかな紫色の蕾は下の方につれ綺麗な赤紫の花を咲かせます。

まるで小さな蝶々が寄り添う様に集まって羽を休めている様な姿に
少年は暫し見惚れ、あまり花屋さんで見かけない事を不思議に思いました。


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センニンソウ(仙人草)


四方にピンと伸びた真っ白で細長い花弁と、同じく真っ白な糸の様な雄しべは、
確かに白髪に白髭、白い着物のほっそりとした風貌の仙人の雰囲気に似ています。

見た目だけで無く、何処かその凛とした佇まいまで仙人らしさを感じさせます。


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さて、イベントの開始が近づいてきました。

土手を上って芝生を抜けて、いよいよドームの中に入ります。


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階段を上り切ると、目の前には大きなビルが建っていました。


 あのビルのてっぺんからの眺め、きっと最高だろうなぁ~♪


昨日までの憂鬱な少年は何処へやら、すっかりウキウキした気持ちで
周りの景色を眺めながらドームの外周に沿って歩いていきます。


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 いよいよ“宇宙船の中”に潜入するぞ~!!


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県内最大級の屋内アリーナとして、大小様々なイベントが連日行われているホールです。

この日は休日という事もあって大人は勿論、少年と同世代の子供たちばかりか、
パパやママと一緒にやって来たちびっ子たちもみんな仲良く遊んでいます。


そして、この1階正面入り口から入ったロビーの直ぐ向かい側の会議室こそ、
今日、少年が訪れようとしていたイベントの会場になっていたのでした。

中には雑貨屋さんやお菓子屋さん、パン屋さんにアクセサリー屋さん・・・
更には洋服屋さんや家具屋さんまであるではありませんか!!


 こんなにも楽しそうなイベントがあったなんて、僕、知らなかったよ!
 ところで、え~っと・・・あっ、あっちの方にあるお店ってきっと・・・



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少年がやって来たのは、イラスト&手拭い屋さんです。

そして、このイラスト&手拭い屋さんのお店番こそ他でも無い・・・


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 やあ、白いネコさん、こんにちは。  

 昨日はこんなに素敵なイベントを紹介してくれてありがとう。
 僕、実はあの時、悩み事があってちょっと落ち込んでいたんだよ。
 でも、ネコさん知らせてくれたおかげでこのイベントに来れたんだよ。

 ところで、ネコさんのお店って楽しそうな友達がいっぱいいるね!!

 

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薄暗い濃紺の水の底でギョギョっとしているおさかなクンに・・・


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でっかいクジラさん&ちっちゃなこいのぼりちゃんのデコボコツーショット・・・


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おさかなクンたちの下にはびよ~んと伸びたワンワンもいました!


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ネコさんの友達は動物たちばかりではありませんでした。

みょ~に困った感じでちょこっとひと休みしようか迷ってる(?)彼・・・


 ねぇ、おじさん(お兄さん!?)、大丈夫?
 僕も困っていたんだけど、ネコさんやみんなを見ていたら
 何だかとっても楽しい気分になって、元気も出てきたんだよ!

 せっかくだから・・・あっ、あれって・・・!!



少年が振り向いた先には可愛らしいイラストの描かれた
ハガキサイズのポストカードがディスプレイされていました。


 ネコさん、今日は本当にありがとう。
 僕、学校の課題、出来そうだよ・・・だって・・・




ネコさんに別れを告げて巨大なUFO(?)ドームを後にした少年は、
直ぐ側を流れている川沿いのサイクリングロードを北に向かって進みます。


 ここから先はまだ自転車では行った事が無いんだけど、
 昨日一緒に調べておいたあのお店がこの先にあるんだよね!
 
 

車だったら15分もあれば到着する位の道のりでしょうか、でも、自転車の、
しかも少年にとってこんなに長い距離のサイクリングは生まれて初めての経験です。

何度も足を止め、(一本道なのに)地図とにらめっこしながらペダルを踏みます。
そして、大きな公園と植物園を越えレストランや綺麗なお店が建ち並ぶ通りまで
辿り着いた少年は、こぐのを止めて少し前にコンビニで買った水を飲み干しました。


 どうやらここが、昨日僕が見つけたパン屋さんみたいだ。


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淡いクリーム色の壁と明るいオレンジ色の瓦屋根、柱にはレンガのタイルも貼ってあります。
とても素敵な雰囲気で、まるで雑誌かテレビで見た外国のパン屋さんにやって来たみたい。

それに、お店の前にだって・・・


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 これって東京タワーかな?・・・ちょっと違うみたいだけど、カッコいいなぁ~!



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 このお店は緑やお花がいっぱいで、何だかとっても気持ちがいいよ。
 僕の花はこんなじゃ無いけど、でももう大丈夫、だってネコさんのトコで・・・

 そう言えば近所のパン屋さん以外で一人で入るのって初めてだっけ?
 ちょっとドキドキするけれど・・・おじゃましま~す!!



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シンプルでスッキリとした印象のパンの棚がとてもオシャレです。
ゆったりと置かれたパンの一つ一つが気持ち良さそうで・・・美味しそう!!

次々と訪れるお客さんたちで見る見るうちに売れていきますが、
その度に焼き立てのパンがまた気持ち良さそうに並んでいきます。


他のお客さんに負けじと、少年もお目当てのパンを探す事にしました。
店内をぐるぐる回って・・・おやっ、何か気になる物を見つけたみたいです。


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 わぁ~、これって外でさっき見たあのタワーだよね!!

 きっとこのタワーがある街にも美味しいパン屋さんがあるんだよね。
 僕の街にはUFOがあって・・・こんなに素敵なパン屋さんもあったんだね。

 あっ、僕も早くパンを決めないと全部売り切れちゃうよ!



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 え~っと、んっ!?・・・ゾウさん、こんにちは♪
 何かオススメのパンはありますか?



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 可愛いぞうさんがいっぱい!!
 ありがとう、ぞうさん・・・今日はとっても楽しかったよ。



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クロワッサン


見ただけで伝わってくるパリパリの表面は軽く触れるだけでもハラハラと崩れ、
ひと口食べるとザクザクっとした気持ちの良い音を立てて消えていきます。

同時に口の中いっぱいに広がるバターの風味と仄かな甘さ。
中の層はふんわりやわらかくて、ふわっと無くなるのです。

あのタワーの街のパン屋さんにも負けないクロワッサン、
どうやら少年の心もクルっと巻き込んだみたいです。


そして、この日少年が大切に持ち帰ったもう一つのパンが・・・


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ぞうさん&ちびぞうさん


そう、お店で出会ったぞうさんの親子です!!

ふんわりやさしい卵の香りの、とってもやわらかぷくぷく親子。
ジャリジャリっとしたお砂糖と、ほんのり甘~いパンの生地。

でも、ほっぺたは勿論、思わず笑顔もこぼれる可愛い親子に
すっかり少年は夢中になってしまったのでした・・・


さてさて、お腹も心も大満足になった少年は、学校の課題に取り掛かりました。
そうそう、少年が調べる事になった花を言っていませんでしたね・・・


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「ワレモコウ(吾亦紅)」


 クラスのみんなの綺麗で可愛い花の話を横で聞きながら、
 ひとりぼっちでさみしい気持ちになった僕だったけど・・・

 思わず“きらい”だなんて叫んでしまった、

 豆つぶみたいな・・・
 枯れてるみたいな・・・
 クシュクシュっとした・・・

 そう、まるで毛虫みたいなキミだけれど・・・

 あの、白いネコさんや愉快なネコさんの仲間たち、そして・・・
 パン屋さんのぞうさんたちのおかげで、僕、キミと友達になれそうだよ!


 だから、もっと僕と一緒にいてくれないかい?



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確か小5だったかな?
クラスみんなで一人一つずつ違った花を調べたのって・・・

あの頃は小学校でインターネットなんて訳にはいかなかったから、
休み時間や放課後にはクラスのみんなが図書室に直行したり、
日曜日には友達と約束して花屋さんに行ったりもしたっけ。

えっ、僕が調べた花は「ワレモコウ」だって?

いやいや、たぶんヒマワリかユリだったかな・・・

華やかで・・・
鮮やかで・・・
美しくて・・・

それに、その頃の僕は「ワレモコウ」の存在すら知らなかったよ。

でも、たった一人で花を撮り続ける僕には、この・・・

クシュクシュで・・・
ボソボソで・・・
ツブツブで・・・

まるで毛虫みたいな奴が友達の様に非常に愛おしくて・・・
そう、遥か彼方のゴールを見つける今の僕には・・・
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by mary-joanna | 2009-09-23 23:21 | 我が世誰ぞ
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