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ヲ(オ).僕の友達・前編

ある時は叱咤激励をしてくれて、
ある時は厳しい活も入れてくれる。

間違っている時はハッキリと指摘してくれるし
時には辛口のコメントで僕に刺激を与えてくれる。

でもね、他の誰よりも早く知らせてくれたり・・・
こっそりと大事なヒントを教えてくれたり・・・
心温まる言葉で元気付けてくれたり・・・

そして・・・

これまでずっと見守ってくれて、密かにずっと足跡を残してくれた、
まだ直接会った事も無ければ、顔はおろか声さえ聞いた事の無い存在。


でも、僕にとってはかけがえの無い・・・先輩・・・仲間・・・

あっ、友達・・・っていうのかな・・・

いや、友達っていうのは僕の一方的な片想いに過ぎないのだけれど・・・


Cindyにとっては、“あの人”がまさにその様な存在なのかも知れないね。
そんな“友達”が彼にあの場所を紹介してくれてから、もう彼是半年以上が経つ。
それは彼に、「ゆったりした時間が過ごせる」と紹介してくれたとっておきの秘密の場所。

1月末の、寒々とした薄鉛色の空の下に広がる庭の剥き出しの地面や
葉の付いていない木の枝は何処か寂しそうな雰囲気を醸し出していたが、
来るべき新しい生命の息吹に備え、みんな土の中で祝福の準備をしている、
そんな気がして僕にとってはこの冬の光景がかえって大きなインパクトを残していた。

でも、お家の中に一歩足を踏み入れると、其処に広がる空間と言ったら・・・



のんびりさんが夏休みの宿題に追われて慌て始める8月も終わり、
僕はその方が紹介してくれたとっておきの場所に出かける事にした。

大きな通りを斜めに入って暫く進むと更に細い路地へと続いてゆく。
まるで迷路の様に入り組んだ細い路地の左右にはグレーのブロック塀と、
地面から突き出たコンクリートの電柱には何本もの電線が張り巡らされている。

辺りは全く以って街中の住宅街といった面持ちだけれど、僕の心はワクワクしていた。
だって、今通っているこの細い路地は、僕にとっての「恋人の小径」なのだから・・・

そしてこの路地を縫う様にゆっくりと車を走らせると視界の先に緑の茂みが現れる。
屋根と屋根の隙間から見え隠れする木々に誘われる様に進むと次第に前方が開けて・・・


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直ぐ前の少し広くなった駐車場に車を停めて門の方に恐る恐る近寄ってみた。
薄水色のアイアンフェンスは塗装も剥げ所々ひどく錆付いて赤茶けていた。
更にそのフェンスを取り囲む様に下草や灌木が茂り、あたかも森の中で
偶然辿り着いた、年季の入った古びた洋館の外観そのものだった。

でも、それ以上に僕の目を釘付けにしたのは、フェンスの端から這い出る様に、
また、奥の建物を遮る様に正面の門の上に伸びる蔓バラで出来たアーチの入り口、
それは此方側の現実の世界と向こう側のおとぎ話の世界とを繋ぐトンネルの様にも思えた。

で、僕はそんなおとぎ話の中から、“あの物語”を想像しながら、既に花が落ちきって
すっかり葉だけになった緑のアーチをくぐってゆく事にした・・・綺麗な蔓バラを思いながら・・・


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カラッとした清々しい空気と目にも鮮やかな緑に満ち溢れた庭は夏の情景だけど、
一面の青空に千切れんばかりに薄く広がる白い雲が秋の訪れを告げていた。

そんな空色と黄緑に囲まれて、二階建ての可愛らしいお家が建っている。
その家のペールグリーンの大きな切妻屋根にはドーマーの真っ白な窓枠が二つ。


屋根裏部屋からあの娘が物思いに耽りながら庭の方を眺めている気がして・・・


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ヒマワリ(向日葵)


あの物語の主人公が初めて家にやって来たのは6月初め頃だろうか?
グリーンゲイブルズ周辺ではバラは勿論、山桜やライラックなど綺麗な花々が
これから始まるファンタジーを祝福するかの様に、彼女の到着を出迎えてくれたよね。

でも今は8月、僕の前には背高のっぽのヒマワリくんが大きな黄色の麦わら帽子を
ゆっくりと揺らしながらその大きな眼でジィ~っと僕を見つめていた・・・ヤァ、コンニチハ!


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ケイトウ(鶏頭)


その直ぐ向かい側ではニワトリくんがご自慢の真っ赤な鶏冠をピンと立てていた。

建物に向かう小路をぐるりと見回してみると他にも鮮やかな紫のサルビアや
オレンジ色のヒャクニチソウなど、とても色鮮やかな光景が広がっていた。

“メイフラワー”じゃあ無いけれど、“サマーフラワー”だって悪くないよね。


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庭の綺麗に刈り込まれた芝生の真ん中にはテーブルとベンチがが置かれていた。
こんな天気の良い午後だったら、ダイアナと一緒にのんびりお茶もいいかもね。


ピョン・・・ピョン・・・

んっ!?・・・そっちに誰かいるのかい?


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やぁ、ウサギさん、コンニチハ!

君もこの清々しい青空に誘われて遊びに来たんだね。
それにしても此処はとても気持ちの良い場所だね。

あの人が寛ぎに訪れる訳が僕にもわかったけど・・・
えっ、お家の中はもっとのんびり出来るって?


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やわらかな午後の日差しが真っ白な壁をほんのりアイボリーに染めていた。

入り口のドアの脇にはドライフラワー束が掛けてあり、初めて入るお店なのに
何処か懐かしさすら感じられる、幼馴染みの友人の家に遊びに来たみたいだった。


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家の中は奥行きがあって、思っていたのより広々としていた。


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ピカピカに磨かれたフローリングには可愛らしいテーブルと木製のダイニングチェアー。

何年もの間、丁寧に使われてきたこれらの家具たちはこの空間にとても良くマッチして、
まるでアメリカかカナダの片田舎の一軒家に食事を御馳走に招かれたみたいだった。


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エアコンの冷たい空気も良いけれど、此処にはやっぱり君が似合うね。
あぁ・・・そう言えば、この前も君みたいな扇風機に会ってきたところなんだ。

あのお店も凄くまったりと寛ぐ事が出来てね・・・


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ジャムとケーキの店番は君が担当なんだね。

いつもは優しいけれど時には鋭い眼差しでこの家を守ってくれる、
とても頼もしい君だったらみんなが安心してのんびりと過ごせるよ!


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そうそう、確か此処は自家製ハーブのお店だって、あの人が教えてくれたっけ。

ポプリに・・・ドライフラワーに・・・ハーブに・・・

そう言えば、あの娘が初めて日曜学校に行く時、道端に咲く花を摘んで
帽子の花飾りを作っていたけど、花って色々と素敵な楽しみ方があるんだね・・・


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実は何処に座るかは最初から決めていたんだ。

窓と壁に挟まれた小さな白いテーブルは、決して広くは無かったけれど、
外の庭を眺める事が出来たし、それにゆったり一人の世界に浸る事が出来た。

でも、一番の理由は何と言ってもあの人が座った席だから・・・
そして、“彼との”ツーショットまで見せられたのだから、もう・・・


ライムグリーンの窓枠を開けると、そのスッキリとした色合いにも負けない位の
清々しい爽やかな微風が、時折り僕の肌を心地良くさすってくれる気がした。


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ハーブティー


店長さんに相談して決めた、リフレッシュ出来るブレンドのアイスティー。

スゥ~っとしたミントの爽やかな薫りのスッキリとした味わいが、
ひんやりと喉を潤してくれると同時に、不思議と気分もリラックスして・・・


これまでの僕の旅っていつも何処か張り詰めた感じがあるのだけれど、
この瞬間、全てを忘れて心からまったりと出来るのだから・・・

もうこの感触はやめられないんだよね、きっと・・・


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ひみつの森のケーキ


スパイシーなシナモンのやわらかな香りがふんわりと広がってゆき、
その心地良い香りに誘われるままにフォークで分けたひと口を頬張ると、
非常にしっとりとした食感なのにとてもやわらかで口の中でフワッと溶けていく。

生地の優しい甘さにレーズンの凝縮された濃厚でねっとりとした甘酸っぱさや
シナモンの爽やかな甘さが複雑に絡み合って、更にはコリコリとした胡桃の歯応え。


「お化けの森」がそのモデルなら、きっと可愛くって優しくって楽しいお化けに違いない。

全ての魅力がが一つの森の中に・・・
アンが遊んだ秘密の森の中に・・・


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ゆっくりとケーキとお茶を頂きながら、この窓枠の向こうに広がる庭の眩しい緑を
眺めながら僕は、今回のイニシャル「ヲ(オ)」についてぼんやりと思案を巡らせていた。


 やっぱりこの物語の舞台に相応しい“あの花”がいいんだけれどなぁ・・・
 でも、今は8月、季節外れと言ってしまえばそれまでなのだけれど・・・



手作りのケーキとお茶と、そしてこの非常に素敵なお家と庭に囲まれながら、
まるであの物語の主人公みたいな優しくて明るい店長さんの笑顔に触れながら、

 ほんのひと時迷い込んだファンタジーの世界が永遠に続いて欲しい・・・


僕は、コンクリートとブロック塀に挟まれた細い路地に戻る際、そう呟いていたのだった。


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のんびりさんも何とか夏休みの宿題を終えて元気に出掛ける9月の初め、
僕は今回のイニシャルを見つけるべく、ある場所へと車を走らせる事にした。

そしてやって来たのは、そう・・・


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現在は秋バラに向けての剪定作業が行われて殆んどバラは咲いていないよ、との事だったが、
全く如何して、数は少ないものの、初秋の強い日差しの下でも綺麗な花を見せてくれた。

そんな中、僕は“ある種類”のバラに絞って広大な敷地を歩き回っていた。


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シャトー・クロ・ヴージョ


1908年にフランスで作出されたこの華麗なバラは、その名が示す通り、
まるでブルゴーニュの特級ワインの様な濃厚なルージュの花弁が魅力的だった。


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ピンク・グルス・アン・アーヘン


こちらは打って変わって愛らしい仄かなピンク色が可愛い印象を与えてくれる、
1929年に同じくフランスで作られたとされるオールト・モダン・ローズだった。


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パスカリ


真っ白なバラもあり、その神秘的な姿に僕は様々な事を連想していたのだ。

ベルギーで1963年に作出された品種だそうだが、歴史の長いバラにとっては、
40~50年前のバラでは、まだまだ“新入り”の部類にはいってしまうのだろう・・・


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バラ(アレンジ)


更に、敷地内にあるドーム型の温室にはこんなにも華麗なバラのアレンジも
展示されており、思わず足を止めて暫くの間、僕は魅入ってしまっていたのだった。


でもね・・・やっぱり何かが違うんだよね・・・

この場所にやって来た目的は今回のイニシャル「ヲ(オ)」の花として、
当初、「オールドローズ」を考えていたからだったのだけれど・・・
(1867年以前の品種を“オールドローズ”と呼ぶそうです)


アンの物語に出てくるウットリする甘い香気を漂わせながら輝くバラたちは、
新緑が一斉に芽吹き気持ち良く茂る6月の緑の中で咲き誇るからこそ、
そう・・・最も美しくなる季節だからこそ最高に僕の心を揺さぶるのだ!

夏の間、直射日光に晒され続け、梅雨や台風に震え、疲労し衰弱しきって、
それでも最後の力を振り絞るように気品に満ちた振る舞いで出迎える貴女の、
その痛ましい姿に僕は悲しい気分になってカメラを向け続けるのをやめる事にした。

僕があの“友達のお家”を訪れたのは8月終わり、秋の薫りが漂い始める頃だった。
だから、もし物語のあの娘がこの季節にプリンスエドワード島にやって来たら、
きっとまた違った素晴らしい草花が彼女を出迎え、虜にしてくれた事だろう。

そして僕が探している花だって、あの娘が感激した“メイフラワー”の様に、
この季節に最も美しい姿を見せてくれる花になって欲しいのだった。


そんな事を考えながら僕はばら園の周りをとぼとぼと歩いていた。
すると、端の方の花壇を埋める様に淡く黄色い小さな花が咲いていた。


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「オミナエシ(女郎花)」


秋の七草にも数えられる、古来から日本の秋を象徴するこの花を、
日本に生まれ育った僕は、今の今まで注目する事は無かったのだった。


こんなのあるのか分からないけど、まるでレモン味の綿菓子を
みんなで千切ってちっちゃなひと口サイズに分けたみたら、
ふんわりふわふわ、甘酸っぱい香りと一緒に浮いている・・・

淡く滲んだ黄色いつぶつぶ、ちっちゃくって可愛くって、
でも、みんな一人じゃ心細いから肩寄せ合って、くっついて・・・

そしたら可愛いお花になって、秋晴れの空でお休みしている
もくもくっとした、ちょっと変わった黄色い雲になっちゃった・・・


こんな花だったらあの娘だってきっと飛び上がって喜ぶんじゃあ無いかな?
そして、飛び切り素敵な情景を想像するに違いないよ、あの娘だったら、ね!


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 ばらが話せたら、すてきじゃないかしら。


季節外れのピンクのバラを眺めながら、あの娘が呟いた言葉だったね。


 君のバラは世界に一つしかないって事がわかるはずだ。


別の友達からは大事な言葉ももらっていたっけ・・・


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ひみつの森のケーキ(おみやげ)


しっとりとした濃厚な甘さを噛みしめながら・・・
爽やかなシナモンの薫りにウットリしながら・・・

僕は、あの夏の終わりの、“友達のお家”で過ごした素敵なひと時を、
秘密の小路と小さな森の先にある、“可愛いお家”のひと時を思い出していた。


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冒頭に綴ったのは、僕の、例の“友達”へのオマージュである事は言うまでも無い。

そして、え~っと、そう、何と表現したら良いのか上手く言葉に出来ないのだが、
そんな僕の憧れの友達が更に憧れていたあの方に、その友達、Cindyを
差し置いて何と僕の方が直接お会いする機会が巡って来たのだ!!

先日の、あの“お手伝い”を神様が見ていてくれたのかな?


月夜に輝く野を舞うあの水の様に澄んだ眼をしたネコさんが、
今度山を下りて来るなんて言ったら、僕の鼓動はもう・・・
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by mary-joanna | 2009-09-18 01:36 | 散りぬるを
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