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ヌ.Take The Long Road and Walk It

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東京駅に戻り、次の目的地への乗り継ぎのホームを探し、電車に揺られている間、僕はこの1ヶ月の・・・
そう、Elvis Cafeを始めてからの僕自身を取り巻く状況の変化についてぼんやりと考えていた。

Elvis Cafeの事は会社の同僚や学生時代からの親友のみならず、家族・・・実は彼女にさえ一切話していなかった。
当初、計画の話を仄めかした時期もあったが相手にされなかったので、どうして急にそんな事を言い出すのかと
聞かれた時には反対に適当な返事をして誤魔化す様になっていた。そして先日の霧降高原への旅行の際、
あまりにも熱心に花を撮っている僕に対して家族も少々不審に思ったらしいが、特に深い意味は無く、
日常や旅先で見つけた綺麗な風景を載せるブログを始めたんだ、とだけ伝えておいた。


これまでブログは元より、ネット上でのコミュニケーションなんて殆ど経験が無かった事は既に述べた。
そんな僕だったが、偶然にもCindy's WALKの世界に触れ、そのCindy本人との交流が実現し、
更にElvis Cafeを始めてからの僅かな期間で何かが劇的に変わったのは疑う余地も無い。


そして今日、これまでパソコンのモニターを通じたバーチャルなものでしか無かった
Elvis Cafeの世界が、あの青年との出会いというリアルなコミュニケーションを実現させた。

ほんの1ヶ月前まではこんな事になるとは全く考えてもってみなかった・・・
と言うか、ネットを通じて見ず知らずの人と会うなんて自分には無縁の事だと思っていた。

しかもこの出会いは、何か非常に大きな氷山のほんの一角の様な雰囲気を孕んでいる気がした。


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どうやら池袋駅に隣接する本屋(リブロだろうか?)に長居し過ぎたらしく、
東武東上線に乗り換えて北池袋駅に到着した時にはもう3時になろうとしていた。

池袋から僅かひと駅の場所に位置しているが故に電車の半分は通過してしまう、
改札口とホームしかないこじんまりとした駅には何処か落ち着ける雰囲気があった。

北千住~上野~東京、そして池袋といったキーステーションばかりを移動してきた
田舎者の僕にとって、この日一番愛着が感じられる駅舎だったのかも知れない。

そして駅前には、他の都内の沿線同様に自動車が通り抜けるのも
容易では無い商店と住宅が混在した一見下町風の細い通りが伸びていた。


改札を出て直ぐの自動販売機と空き缶用ダストボックスの脇で立ち止まった僕は、
無印の白いスケジュール帳に挟んでいたYahoo!からプリントアウトした地図を広げた。

目的の店の大体の位置を確認すると、直ぐにまたその地図を折り畳み、
スケジュール帳に挟んでバッグの奥の方に突っ込んでしまった。
こんな所で地図を広げるのが少し気恥ずかしかったのだ。


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駅の直ぐ横の踏切を渡るとなだらかな坂道が真っ直ぐに伸びていた。

踏切付近は車のすれ違いすら出来ない位の道幅しか無く、かなり端の方を
歩いていたにもかかわらず、車は勿論、自転車に追い抜かれる時でさえ
その都度振り返って更に脇へとそれなければならない程だった。


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やがて道幅も広くなり、歩道と街路樹による格好の付いた街路と呼べる程度になっていた。

もっとも目的の場所を目指してただひたすら歩き続ける僕にとっては、優雅な散歩と称するには
程遠いものであり、駅に着くまでの間中考えていた彼や青年(たち?)の事をこのひと時位は
すっかり忘れて気分転換に歩こうと思っていたのに、昼過ぎから丸の内や各駅の構内
(意外と辛かった!)など歩き通しての移動には苦痛すら感じ始めていたのだった・・・


そんな気が滅入ってきそうな道中に於いて道路の左右に植えられた街路樹、
プラタナスの爽やかな緑は少なからず僕の気分を和ませてくれたのだ。


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モミジスズカケノキ(紅葉鈴掛の木)


先程丸の内でも見掛けた存在感のある此方の樹木は、プラタナスという名称の、
街路樹や公園では古くから植栽されてきた非常にポピュラーな木だそうだ。
その外観だけでなく丈夫で成長が早いのも人気の理由と言われている。

“鈴掛け”はこの前のつくばで出会ったイニシャル「ト」の「トラノオスズカケ」と同様に、
この樹木がつける実の形から命名されたそうだが、「トラノオ~」が“アポロチョコ”の
可愛らしさを連想させてくれたのに対して、大きな葉と迷彩模様の樹皮からなる
このプラタナスの雑種からは本来の語源である山伏の武骨で猛々しい姿が
思い浮かんでくるのだが・・・修行僧の様に黙々と歩き続けていたのも、
そんな風に考えてしまう一因だったのかもしれなかった。


更に、一見すると何の変哲も無い下町の歩道に過ぎないのだが、
実は街路樹以外にも様々な草花がひっそりと僕に微笑みかけてくれた。


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この花は牡丹だろうか・・・それにしてはやや花期が遅いとも思うのだが・・・

幾重にも揺らめくピンク色の華麗な花弁が見事なこの大輪の花に、
何時の間にか僕は足を止めて暫くウットリと眺めていた。


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ノボタン


更に脇道へと入る曲がり角に植えられていた低木には紫の花が満開を迎えていた。

今まで殆んど気にも留めていなかったが、こうして周りを少し注意しただけでも
街中にもかかわらず綺麗な草花を目にする事が出来たし、この先どんな花に
出会えるのかと逆にワクワクした気持ちにすらなってくるのだった。


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これはクレマチスの一種だろうか・・・葉の形状が異なる様な気もするのだが・・・


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少し先の金網のフェンスには、渡良瀬遊水地でも見つけたヤブガラシが
豆粒ほども無いオレンジ色の小さな花に今にも溢れんばかりの蜜を付けていた。

先客のヒメスズメバチは此方の事など全く気にも掛けていないとばかりに、
ヤブガラシの透き通った水飴の様な蜜をさも美味しそうに舐めていたが・・・


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レンズを向け続ける僕が鬱陶しくなったのか、キッと此方を睨み付けた。


 お前が向かっているのはこっちじゃ無いだろう!


蜂がそんな事を言う筈は無いのだけれど、まるで何かを訴える様な
ヒメスズメバチの視線に僕は慌ててスケジュール帳の地図を取り出した。

何て事だ・・・てっきりこの方角で間違い無いと思って此処まで来たのに・・・

生まれて初めて訪れる街、方角が掴み切れない混み合った建物、
此処までの身体の疲れ及び精神的な緊張、そして変な見栄まで含め、
如何言う訳か、この期に及んで僕は道を間違えた原因を一々分析していた。

そして、とぼとぼと今まで歩いてきた道を引き返す事にした。


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漸く踏切の手前まで戻ってきた時には、駅を出てから既に30分は経っていた。
足利まで帰るのにかかる時間等を考えると、もっと急ごうと言うよりは
何とも憂鬱で、少々投げやりな気持ちにすらなりかけていた・・・

踏切を渡ろうとした瞬間、カンカンという警報機の音が響き遮断機が降りた。
何処までついていないのだろうかと如何してもマイナスに考えてしまう自分がいた。


踏切の脇の苔生した石垣には雑草が伸びていたが、ピンクの小さな花が咲いているのも
所々に確認する事が出来たので遮断機が上がるまで眺めていようと近づいてみた。

今回の東京訪問では2つのイニシャルを見つけるつもりでいた僕だったが、
この一日に起こった様々な出来事のせいですっかり忘れていたのだ。


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ヘクソカズラ


可愛らしいピンク色の花の周りには絡み付く様に細い蔓が巻き付いており、
その蔓の先端には、何処か見覚えのある筒状の小さな白い花が付いていた。
先程見掛けたヤブガラシと同様に渡良瀬遊水地を訪れた際に紹介した花だった。

“藪まで枯らす”事からその名が付いたというヤブガラシに加えて、
此方のヘクソカズラは“屁や糞”の様な臭気が語源になったと聞いている。

そう言えば、Elvis Cafeの最初のイニシャルでもあった「イヌタデ」だって、
“役に立たない(食用にすらならない)”事からその名が付いたのだそうだけど、
僕はこの3つの“雑草”を、大事な大事な第1話に抜擢していたのを思い出した。


そんな、少々感慨に耽りながらこの何処かコミカルな白い花を眺めていた時、
少し前に別の場所でもヘクソカズラに出会った事を思い出し、思わず呟いてしまった。


 そうだ、確かこの花の直ぐ近くに「ヌ」で始まるあの花が・・・!!


結局のところ、僕が踏切を待っていたのは精々1~2分位だっただろうか?

でも、遮断機が上がった後の僕の表情は先程までの眉間にしわ寄せ疲れ果てていたのが
嘘の様に晴れやかになり、やるべき事が見つかった希望に満ちた顔に変わっていた。


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 キミ、やっと此処まで辿り着いたのかい?
 あんまり遅いので眠ってしまうトコだったにゃ~!!



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かなり歩いた筈だったが、今度は思ったほど時間の経過も身体の疲れも感じなかった。
そして、目の前にはまるで世間から忘れ去られたかの様な路地裏の光景が現れた。
古びた商店と昭和の頃から変わらないであろう下町の家屋が軒を連ねていた。

周りの情景に全く溶け込んだ、淡いベージュに塗られたモルタル建築。
良く目を凝らさないと見逃してしまいそうなオレンジ色の看板には、
控えめな文字で“手造りパン工房”とだけ書かれていた。


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だが、この淡い外壁とは対照的にどっしりとした存在感のある木枠が印象的な、
恐らくは1坪足らずの小さな店こそ彼の日記にも遂に紹介されなかった・・・

東京に行った際は是非とも立ち寄ってみたいと常々思っていたパン屋だった。


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1坪とは決して誇張した表現ではなく、パンやお菓子を彼是と選ぶ事を考えるなら、
僕一人しか入っていない店内でもいっぱいいっぱいの広さと言える程だった。

入って左側のガラス棚には美味しそうなパンが丁寧にディスプレイされていた。


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右側の棚はクッキーやラスクなどの様々な焼き菓子で統一されており、
どちらの棚もまるで雑貨やオブジェを陳列している様なセンスの良さを感じた。


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クロワッサン・オ・ザマンドというクロワッサンにアーモンドクリームを詰めて(かけて)
焼き上げる菓子パンがあるが、確かCindyはこのパンが大好物でよく紹介していたっけ。

でも、そのクロワッサン・オ・ザマンドのラスクだなんて今まで見た事が無かった。


奥の工房で忙しそうにパンを焼き上げる若い店主に特別の許可を頂いた僕は、
この寂れた路地裏でひっそりと佇む秘密の小さなパン屋さんをカメラに収める事にした。


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東京で青年と会い、池袋の住宅街を歩き回ったどんよりとした空模様の
あの日から数日が過ぎた、良く晴れ渡った気持ちの良い夏空の昼時・・・

僕はこの前の、「ハンゲショウ」で世話になった足利市内の自然公園に来ていた。


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前回の紹介から1ヶ月弱が経過していたが、湿地帯にいる様な鬱蒼とした深い緑は
既に枯れていて、この木道も地面が見える程度にまで下草が刈り取られていた。

木道を渡り、更に公園を隔てる小川を過ぎて奥の方に向かうと、来る時に見た小高い山が現れる。
そして手前に位置する、夏の時期特有の背が高い雑草や灌木が周りを覆う林道に辿り着く。


 確か、この辺りだったんだけどな・・・あっ!!


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ヘクソカズラ


 やぁ、この前来た時は気にも留めていなかったね・・・

 でも、今回こうしてまたこの場所にやって来る事が出来たのも、
 キミがそのコミカルで伸び伸びとした姿を見せてくれたからなんだよ!!

 相変わらず元気にその細長い蔓をいっぱいに絡ませているね。



そして、その林道の直ぐ向かい側に生い茂った灌木の付け根に視線を下ろすと・・・


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「ヌマトラノオ」


穏やかな名前でないヌスビトハギ・・・
漆の一種で紅葉の美しいヌルデ・・・
その姿が愛らしいヌマガヤツリ・・・

この時期の(と言うより全ての時期に於いて)決して多いとは言えない
イニシャル「ヌ」の草花の中で今回僕が選んだのはこの「ヌマトラノオ」だった。


確かに上記の草花も含め簡単には見つからず、ずっと探していたのは事実だったが、
空に向かってシュンと伸びた尖塔状のフォルムに可愛らしい小さな花が房状に
ポツポツと咲いているその姿に、僕はすっかり魅了されてしまったのだった。

それに、先日は花屋さんからの紹介だったので、今度は野に咲くトラノオが見たかった。

そして何と言っても、あの日、挫けそうになっていた僕に力を貸してくれた、
日頃見向きもされず、雑草扱いを受けていたヘクソカズラがそっと教えてくれた花・・・


僕はまた一つ、このブログを通じて草花から大切な事を教えてもらったのかな・・・
遂に念願が叶った憧れのパン屋さんの美味しいパンを頬張りながらぼんやりと考えていた。


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ベリーベリークリームチーズ・ベーグル


パリパリの薄皮ともちもちっとした生地からなるベーグルはそれだけでも最高だ。

でも、苺&ブルーベリー&クランベリーの3種のベリーの微妙に異なる甘酸っぱさに
爽やかなクリームチーズがまろやかに絡み付いて、より一層美味しさが引き立っていた。


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ミルクコッペ


小さな子供たちからお年寄りにまで愛されそうなこの定番お菓子パンは、
あの路地裏の情景に非常にマッチしている気がして、その場で購入を決めた。

ふんわりとした舌触りの口溶けの良いミルクパンの中からは、
ミルキーな優しい甘さの練乳クリームがほど良いバランスで塗られて、
ひと口頬張る度に思わずニッコリと笑みがこぼれる様な美味しさだった。

子供の頃のおやつを思い出す、懐かしさでいっぱいのお菓子パン。


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クリームレザン


ミルクコッペから一転して、大人の為のスイーツなパンと呼びたくなるクリームレザン。

ラムレーズンの濃厚な香りがふわっと広がり、ギュッと詰まったレーズンの
ジューシーな甘酸っぱい果肉がとろりとしたなめらかさのカスタードにマッチする。

更には、ふんわりとして仄かに卵の風味と甘さも感じさせるブリオッシュと、
トッピングの香ばしいアーモンド&ジャリッとした甘さのあられ糖のトッピング。

全てが絶妙に計算された大人のお菓子パン・・・


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クロワッサン・オ・ザマンド・アラ・ラスク


パンの事には全く以って疎い僕だったけれど、彼の日記を見て、
何時か絶対に食べてみたいと思うお菓子系のパンがあった。

その想いは僕がこのブログを始めるにあたって、“食べてみたい”から
Elvis Cafeで“紹介してみたい”という気持ちに変わったのかも知れない。

クロワッサン・オ・ザマンド

彼、Cindyは自身の日記の中でそれはそれは美味しそうに紹介していたっけ・・・
そして、今僕は、そのクロワッサン・オ・ザマンドの、しかも“ラスク”を食べていた。

カリカリに焼かれた香ばしいラスクは、唯でさえサクサクのクロワッサンを、
更に一層・・・軽く、香ばしく、そしてサクサクの食感に仕上げていたのだ。

しかも、ふんわりとしたクリームの甘く、仄かにほろ苦い風味と言ったら!!

止まらぬ速さで、何時の間にか無くなってしまった事は言うまでも無かった。



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夏も終わりを告げようとし、朝晩は肌寒ささえ感じる様になった今日この頃。

陽気で鮮やかに咲き誇る夏の草花に変わって、落ち着いた印象の風情ある
植物の季節がやって来ようとしているが、僕の計画はまだ10話そこそこに過ぎない。

この先、冬に進むにつれて僕はこの計画を続ける事が果たして可能なのか?
そして、それ以上に僕の頭の中を支配しつつある、彼らの事が・・・
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by mary-joanna | 2009-09-03 15:34 | 散りぬるを
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