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チ.Wake up. Don't fear.

  眩いばかりの陽射しが辺り一面に燦々と降り注いでいる・・・


まるで物語でも見ている様な彼の“あのお店”の日記から丁度1年が過ぎた8月某日。
冷夏だの台風だのと鬱陶しい天気が続く今日この頃なので、肝心のこの日も上記の様な
美辞麗句はお世辞にも言えない一日であったが、何とかこの日に都合をつける事が出来た。

どうして休みを調整してでもこの日でなければならないのかって?

それは、あの少年にとって“特別の日”だったから・・・


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もうこんなに登ってきたのか・・・

深い緑の木々に囲まれた山間の麓に点在する小さな集落の屋根を見下ろしながら、
僕はこの夏休みに毎朝畑に出て父親を手伝うあの少年の姿をぼんやりと想像していた。


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そして少年が強い意志と情熱で黙々と歩いたこの道を、
普段の山道よりも幾分ゆっくりとしたスピードで運転していた。

うっすらと濡れ、ひび割れ波打つアスファルト・・・
所々苔生した、急角度に切られたコンクリートの壁面・・・
そして、左右、更には前方から伸びて迫り来る木々の鮮やかな緑・・・

壮大な山の自然は、一人の少年にとって時として脅威に映るかもしれない。
そんな風にして彼の日記の情景を頭の中で膨らませながら、僕は車を走らせた。


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やがて湖と、其処を横切る背の高い橋の傍までやってきた。
地図によればこの湖を越えると例のトンネルあり、目的の場所にも・・・

この足のすくみそうな絶景の橋を筆頭に、この先の湖へと注ぐ川の急流には
大小幾つもの橋が架かっていて、確かあの少年も赤い橋を渡るシーンが載っていた。


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例の場所までもう直ぐの所までやって来た僕は、車から降りて少し歩く事にした。

この辺りまで登ってくると川の様子も渓流と呼ぶに相応しい感じになって、
上流からザアザアと激しく音を立てながら白い飛沫が翡翠色の淵へと
止め処無く流れ込むのを眺めながらあの人の事を思い描いていた。

それは少年の憧れであり、目標でもある兄の様な存在。
そして、僕の憧れであり、目標でもある彼の様な存在。

でも、恐らくその彼にとっても、あの人は憧れであり目標でもあったのだ。
それは彼、Cindyが作る物語の中での架空の人物なのだろうか、それとも実際に・・・


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なぁ少年、お前はよく頑張ったよなぁ~。
だってたった一人で此処まで登ってきたんだろう。
しかもトンネルを越えて未だ見ぬ領域に足を踏み入れるなんて・・・

だって、このトンネルの先は僕にとっても未知の領域なのだから・・・


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そして、トンネルを抜けて程無く進むと見えてくる木の板の看板・・・
そう、少年が焦り、迷い、躓き、それでも己の意思と兄への強い想いで
遂に辿り着いた、細い山道に沿って流れる支流を越えた脇道に置かれた看板。

此処に看板があるという事は、直ぐ側にはもしやあの花も咲いているのでは!?
暫くの間辺りを見回した僕だったが、それらしい花を見つける事は出来なかった。


彼の日記にあった“さらさらと流れる川のせせらぎ”は、
ここ数日の天候で耳に突き刺す激しい響きへと変わっていた。

夏の陽射しも届かない深緑の林が作り出す薄暗い陰の世界に逆らう様に
剥き出しの地面は白く輝いていたが、小鳥のさえずりさえも掻き消してしまう
川底から湧き上がる水の音、更には望んでいた探し物に出会う事も出来なかった
焦りから、僕はマガーリ少年で無くても不安で躊躇するのも無理はないと思い始めていた。


そんな僕を見兼ねてだろうか、支流の側の灌木からひょっこりと顔を出すモノが・・・


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ひゅ~~~ん・・・


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パァ~~~ン!!


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1年前にマガーリ少年が、そのまた1年前に彼の兄が出会った思い出の白い花の
直ぐ側で僕に笑顔と勇気をくれた小さな小さな昼の花火にお礼と別れを告げた僕は、
自動車すら入る事の出来ない泥と砂利の道を一歩一歩踏みしめる様に進んだ。

だって僕は未だあの場所に辿り着いていないじゃないか!!
それに、あの場所でこの花を彼に捧げるんじゃなかったのかい?


そう、僕は手に花を抱えて此処まで来たのだ。
それは、数本ではあったが漸く手に入れた茶色の花・・・

もう往ってしまった貴方とそして・・・その後を追う貴女に捧げる褐色の花・・・


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草木に囲まれた緩やかに傾斜する小道を進むと程無くして3つの小屋に辿り着く。

一番手前の煙突の突き出た小屋とその隣りにある風変りな印象の真っ黒の小屋、
そして一番奥に位置するのが、最も大きく堂々とした佇まいのログハウスだった。


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奥のログハウスが目的の場所であるのだが、其処へと続く石畳の小路の左右には
この時期の綺麗な花が咲き誇り、さながら秘密の花園を抜けていくといった感じだった。

どの花もこのロケーションによくマッチした穏やかな印象を僕に与えてくれた。


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シュウカイドウ(秋海棠)


秋海棠、以前はほんのりピンクだったのに透き通る様な白い肌の君は、
何処か物憂げでその黄色い眼で寂しそうに遠くの方を見つめているんだね・・・

まるで誰かに怯え、でもその人の帰りを待っているかの様に・・・
誰にも打ち明ける事の出来ない耐え難い悲しみを内に秘める様に・・・


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ギボウシ(擬宝珠)


次に出迎えてくれたこの小さくも存在感のある花の控えめな淡い薄紫色は、
雨露に濡れて滲んでしまったのでは?とも感じさせる微妙な色合いを見せていた。

非常に清らかで凛とした佇まいに、僕はまるで仏閣の貴重な宝物を
拝見しているかの様に、暫くの間この可憐な花に見入っていた。


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フロックス(花魁草)


花魁が塗っていた白粉の香りがこの花の語源との記述を目にしたけど・・・

純白から桃色へとキリリと変化していく様が江戸の街を彩る遊女の肌を思わせ、
また、一つ一つの小さな花が集まり絢爛華麗な花の束を作り上げる点も
何処か華やいだ遊郭に集まる遊女たちの様子を連想させてくれて、
バラやユリとはまた違った華やかさを感じる事が出来た。


そして、趣きのある愛おしい花たちに出迎えられて僕がやって来たのが・・・


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これまで目にしてきた花にも負けない、淡い水色の扉。
僕も遂にマガーリ少年と同じ場所にまで辿り着いたのだ!!

この扉で待っていてくれるのは、勿論・・・


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  ようこそいらっしゃいました。

  美味しいお菓子が待ってます。
  緩やかなひと時が待ってます。


優しく僕に語りかけてくれる気がした・・・


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僕は本当に建物の中にいるのかな?

表には可愛い花々、
優しい木の香りに包まれ、
その周りを爽やかな緑が取り囲み、
やわらかなオレンジ色の空気に満たされる・・・


まるで花咲く森の道に遊びに来たみたいな・・・

そして僕は此処で誰と出会うのだろうか?
どんな大切な物を落としてしまうのだろうか?


この中にいると身体の疲れはもとより、此処まで付いて来た
不安や焦りまでもが何時の間にか何処かに消え去っていく気がした。


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「チョコレートヒマワリ」


僕も花を探しに来たんだ。
君が僕に笑顔をくれたあの白い花を・・・

確かに僕は、此処に来るまでずっと焦っていたのかも知れないね。
花の事に気を取られて、肝心な事を忘れていたのかも知れないね。
だから結局少年が見つける事の出来たあの白い花には出会えなかった。


でも、君のお陰でこんな素敵な場所に来る事が出来たんだ!
だから、そのお礼にこの場所で君に見て欲しかったんだ!

もう1年も前に姿を消してしまった、君が憧れるあの人物と・・・
そして、その彼の秘密を知っているあの女性をイメージしたこの花を・・・


彼の物語のイメージ通り、そしてこのお店のイメージ通り、
店主はチャーミングな笑顔が印象的な、穏やかで清楚な方だった。

そんな店主が心を込めた、まるで子どもの為にお母さんが作るスイーツ・・・


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スコーン


手に取るとごつごつとした質感から想像もつかない優しい温もりが伝わってきた。

そのサックリとした香ばしい表面と、中の生地のふんわりしっとりの感触、
更には全粒粉の風味豊かな粉の香りが口の中いっぱいに心地良く広がってくる。

更に生地の食感にマッチする仄かな甘さとまろやかさは、そのまま頂いても
付け合わせのブルーベリーや生クリームと合わせても最高の美味しさだった。


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レモングラスティー


8月に入っていたが、ここ最近の肌寒さすら感じる真夏とは思えない気候に加えて
山間の深い緑の中で頂くスイーツやドリンクは、このような温かいものが丁度良かった。

スッキリと爽やかなレモングラスの香りとほろ苦さが口の中は勿論、
テーブルいっぱいに広がって、まったりとした空気に包まれている様だった。
このひと時が何時までも続いてくれれば、と僕は思いながら少しづつ飲んでいた。


そう・・・
マガーリ少年の心の悩みを解きほぐしてくれた店主の優しさと
マガーリ少年のお腹を満たしてくれたスイーツに僕も酔いしれてた。


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まるでトトロみたいな形をした、ちょっと不思議で可愛らしいサボテンと目が合った。

  サボテンくん、何だかとっても寛いでいるじゃないか!!
  それに、素敵な場所と優しいご主人さまに囲まれて・・・
  
  俺はオマエが本当に羨ましいよ!!



店主にお礼を言い、名残惜しそうに庭の花を眺めていた僕だったが、
この店を出る際の僕の表情にもちょっとだけ希望の笑みがこぼれていた。


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今回の僕の小さな夏の旅は、そう、丁度1年前の夏に彼が作り出した二つの物語に
触れる旅であり、また、その登場人物たちにささやかながらプレゼントを送る旅でもあった。

花を通じて彼の物語に繋がっていきたい、そして新たな物語を綴っていきたい・・・
僕の中で想像とも妄想ともつかない強い想いがどんどんと膨らんでいって・・・


そんな想いでこの物語を紹介した時だった。
僕の下に彼では無いある鍵コメントが届いたのは・・・

しかも、僕に会って話がしたいだなんて・・・


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by mary-joanna | 2009-08-21 11:06 | 散りぬるを
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